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米国(NY)におけるスモールビジネス緊急支援策

東京でも、いよいよ一部事業者への使用制限が伴う緊急事態宣言が出るようですね。事業者への強制力を伴う措置が取られる以上、当然休業中の補償がセットになっているべきでしょう。また、使用制限の対象にならなくとも、外出自粛要請により飲食店や小売店などのB2C事業者には既に大きな影響が出ているので、こうした事業者に対する支援は一刻を争うものだと思います。特に、資金的に余裕のない中小企業や個人事業主、フリーランスなどスモールビジネス従事者への支援が重要になってくると思います。

 

マッキンゼーの消費者調査によれば、コロナウイルスの感染拡大により飲食品への需要が増える一方、外食や衣料品、家具・電化製品、装飾品などへの需要が激減していることが明らかになっています。

 

私がビジネスの拠点を置いているNY(マンハッタン)は、良くも悪くもコロナ対応では日本の少し先を行っているため、スモールビジネス従事者への支援はかなり早い段階から用意されていました。参考までに、米国での取り組みをご紹介しようと思います。私のようにNY市に本社を置くスモールビジネス事業者は、概ね3か月程度の運転資金を補助金(返済の必要なし)という形で取得できる見込みです。それ以外にも、低利ローンなどの支援があります。

 

スモールビジネスへの支援はNY市と連邦政府の2つのレベルから提供されています。

 

1)NY市によるスモールビジネス支援

感染者が拡大することは目に見えていたので、NY市は既に3月8日時点でスモールビジネスへの支援を具体的に約束しています(この時点でNY市内の感染者20名、死者ゼロ)。ちなみに、NY州が外出禁止令を出したのは、3月22日(日)の午後8時からでしたから、NY市による支援は州が外出禁止令を出す2週間も前のタイミングで発表されていたことになりますね。

 

NY市による支援策として、以下の2つのプログラムが用意されています。

 

1−1)Employee Retention Grant Program

従業員5名以下の零細企業を対象としたもので、昨年同時期比で売り上げが25%以上減っている事業者は、2か月分の給与総額の40%相当の補助金を受けることができるというものです(返済不要)。金額的には、ざっくり1か月分の運転資金が支援されることになります。

 

これ、素晴らしいのは補助金申請が全部オンラインで出来ちゃうところです(申請先はNY市)。確認メールが届かなかったり、書類のアップロードができない時があるなど小さなバグはあるのですが、スピード重視で対応してくれる方が事業者は嬉しいですよね。

 

ちなみに、この補助金は4月3日17時が締め切りだったのですが、応募者多数で締め切り前に申請の受付を止めてしまってました。日本だと文句が出てくるところかもしれませんが、自己責任の国アメリカでは、「チャンスを逃すのは自己責任」というのがサバイバルの掟ですから、あまり文句を言う人もいないようです。

 

1−2)Small Business Continuity Loan Fund

従業員100名以下の中小企業を対象としたもので、昨年同時期比で売り上げが25%以上減っている事業者は、7万5000ドルを上限に無利息でローンを受けることができるというものです。

 

2)連邦政府によるスモールビジネス支援

これは連邦政府内の中小企業庁(SBA)が提供しているもので、補助金・ローン関連では以下の2つのプログラムが用意されています。

 

2−1)Paycheck Protection Program(PPP)

従業員500名以下の中小企業を対象としたもので、無条件で月額給与総額の2.5倍を上限に融資を行うというもので、給与や家賃の支払いに充てられる限り、返済免除になります(後からちゃんとチェックされるみたい)。従業員1名あたり10万ドルが上限になるという条件はありますが(年収10万ドル以上の従業員は、金額に関わらず計算上は全員10万ドルとなる)、悪くない金額です。

 

これは4月3日から申請受付が始まりましたが(申請先は金融機関)、まだ金融機関での対応が追い付いていないようで、申請を受け付けているところは少数のようです。こちらの申請期日は6月30日なので、まだ余裕はあります。

 

2−2)(Economic Injury Disaster Loan=EIDL、「アイドル」と読みます)

従業員500名以下の中小企業を対象としたもので、上限1万ドルの補助金です(返済不要)。PPPとの併用はできないみたいで、どちらか補助金額が多い方に吸収されるようです。

 

以上、NY市と連邦政府による主な支援策をご紹介しました。支援内容は細かい部分が日に日に変わるので、これからもどうなるか分かりませんが、「早いタイミング」で「補助金(ローンではない)」を提供できる形にどんどん変わっているように見えますね。支援の公平性を考えているときりがないですし、とにかく今はざっくりしたものを早くローンチするのが先決です。こういう荒業はアメリカは得意なので、スモールビジネス経営者としては頼もしい感じがします。

 

最後に、最近(ここ1週間くらいで)、日本の知り合いから「NYは大変みたいですけど大丈夫ですか?」という心配のご連絡を結構頂いたのですが(ご連絡を下さった方、ありがとうございます)、どうも話しているとアメリカの都市も武漢やイタリアのようにロックダウン(都市封鎖)されているというイメージを抱いている方が少なくないような気がします。  

 

少なくとも僕の住んでいるNY州ではロックダウン(都市封鎖)はされていません(他州も同様だと思います)。電車もバスも普通に動いています。州からの行政命令(通称PAUSE)により、日常生活に欠かせない事業を除くビジネス(non-essential business)が閉鎖され、個人の外出が条件付きで禁止されているだけです。食料品の買い物はもちろん、一人での散歩やジョギング、犬の散歩なども、ソーシャルディスタンスが保てる範囲で認められています。個人に対する罰則もないので、基本的には自粛要請と同じです。警察が道を封鎖しているなんてこともありません。

 

むしろ、こんな状況にも関わらず自宅待機令を出していない州がまだ7つもあり、それに対してトランプ政権が米国全土での外出禁止令を出さないことが逆に問題視されています(票田である保守的な州が多いため、トランプは無理に要請したくない)。  

 

要は何が言いたいかというと、今この危機で問われているのは、法律の整備状況とか権限云々ではなく、国民一人一人の「常識」だということです。国や会社ではなく、個人の強さが求められています。感染爆発の瀬戸際にある日本の皆さんには、是非常識的な判断をして頂きたいと思います。  

 

ちなみに、私はいたって元気です。田舎暮らしですから、ソーシャルディスタンスが言われる前から、そもそも日常生活の中で他人と至近距離で交わる機会はほとんどありませんのでw。さすがにマンハッタンへの出勤は控えていますが。

スポーツのプロ化構想(その2)〜私ならこうするかも編〜

ちょっと東京オリンピックの延期問題が急展開したため、間が空いてしまいました。前のブログで、日本の競技団体がプロ化する際に往々にして直面する「実業団とプロの混在問題」について書きましたが、その続編です。

 

プロ化というと、鮮烈だったJリーグの成功に倣って「チームの株式会社化」「地域密着」「企業名排除」などが方法論として強調されることが今でも多いです。しかし、果たして1990年代に有効だった手法が30年経った今でも本当に効果的なのでしょうか?  

 

当時の状況を端的に表すエピソードとして、Jリーグチェアマンだった川淵さんが、企業名をチーム名に入れられないことなどに反発していたヴェルディ川崎(現・東京ヴェルディ )の親会社だった読売新聞のナベツネ氏に「Jリーグに巨人は要らない」と言い放った事件がありました。これは当時は全く正しい発言で、企業保有に胡坐をかいていたプロ野球経営をアンチテーゼに「企業スポーツから脱皮し、地域に密着したJリーグの健全経営」というポジショニングを際立たせる発言だったと思います。  

 

しかし、プロ野球界は2004年の球界再編騒動を経て、企業保有の良い所を残しながら地域密着も進め、経営規模を順調に拡大し、今や平均観客動員数でもMLBを凌ぐまでになりました。一方、Jリーグは地域密着がある意味ドグマ化し、企業の支援を十分に得られないまま成長の踊り場に直面することになりました。 

 

この話はSBAの理事をお願いしている杉原海太さんともよくするのですが、杉原さんも日経新聞に寄稿した「Jリーグ四半世紀、企業を本気にさせ新たな段階へ」でも書いていますが、日本では企業とスポーツの親和性が高く、企業の支援を得やすい土台があります。スポーツがこれを使わない手はないと思います。念のために言っておくと、僕はJリーグを批判しようとしているのではありません。むしろ、Jリーグは経営環境や成長ステージに応じて正しい経営を、形を変えて適切に行ってきていると思います。実際、今ではJリーグはビッククラブ政策に舵を切り、かつて否定していた「Jリーグ版ジャイアンツ」を作ろうとしています。また、コロナウイルス感染拡大によるリーグ開幕延期に伴い、「競争から共存」というメッセージを出したりしています。こうした柔軟性やスピード感あるリーグ経営はプロ野球にはない素晴らしいものです。

 

僕が言いたいのは、Jリーグも今ではリーグ設立時点とは違う方向性を目指していたり、Jリーグに“倣って”プロ化したと思われがちなBリーグも、実情を見るとプロ野球を参考にしていたりと、プロ化の成功モデルは単一でなく、しかも刻一刻と変化し、簡単に公式化することができない実情があまり共有されていないということです。プロ化にも、もっといくつもの形(バリエーション)があってもいいのかなと思います。  

 

「プロ化=チームの株式会社化(事業会社化)」が暗黙の前提になっているように見えますが、株式会社化しない選択肢はないでしょうか? 特にラグビーなど、実業団スポーツとして上手く回っている競技ほど、(福利厚生モデルの共存が認められない)株式会社化への抵抗は強いでしょう。強硬な事業会社化は、有力な実業団チームの離反を招くため、悩ましいところです。

 

前置きが長くなりましたが、私が今日本でこんな形でプロ化を進めたら面白いんじゃないかと思う私案の概要を簡単にご紹介しますね。リーグガバナンスにおける主な骨子は以下の様な感じです。

 

1)事業と強化を分離して別法人化

球団の中には「儲かるチームを作る機能」(事業)と「強いチームを作る機能」(強化)の2つがあります。通常はこれが1つの法人の中に併存するのですが、まずこれを分離します。

 

実は、事業と強化を分けるのはそれほど珍しい話ではありません。例えば、読売ジャイアンツ(球団)は基本的にはベースボールオペレーション(強化)に特化していて、ビジネスオペレーション(事業)は親会社である読売新聞の事業部が行っています。また、新球場の建設計画を進めている北海道日本ハムファイターズも、今年1月に新球場の運営業務を担う「株式会社ファイターズスポーツ&エンターテイメント」を設立して、球団の事業機能もそちらに全部移管しています。

 

事業と強化を分ける理由は、次の2)を行うことにより実業団の新リーグ参加を容易にするためです。

 

2)分離した事業機能を統合してSingle Entityリーグを組成

各チームから分離した事業機能を統合して、Single Entity(シングル・エンティティ)のリーグを組成します。ただ、「統合」といっても、これは組織上の見え方(所属)であって、実際の事業スタッフが働く場所などを必ずしも変える必要はありません。

 

Single Entityとは、米国において人員やリソースが限られるプロリーグの立ち上げ期やマイナーレベルのスポーツが主に採用する組織形態で、球団をリーグの中に統合してしまう(球団はリーグの一部署という見え方)という手法です。球団オーナーは、リーグの共同投資家という立ち位置になり、全球団を共同保有する形になります。まあ、誤解を恐れずに言えば「合法的談合」ですw。MLSやWNBA(今はSEを離脱)、今はなきWUSA(女子サッカー)などが老舗でしょうか。最近だと、2018年にできたMajor League Rugbyや今年再始動したXFLなどがSEを採用しています。

 

リソースをリーグに集約管理することで、限られた人員でリーグの全体最適を目指してスピーディーに意思決定していくことができるのがSEの最大の強みです。また、戦力均衡型を志向する米国型リーグ経営モデルでは、反トラスト法(日本の独禁法に相当)による訴訟リスクをどう排除するかが非常に重要になるのですが、SEにすればそもそも「異なる組織が共謀する」という構図にならないので、訴訟リスクを大きく下げられるという利点もあります。

 

その反面、球団間の競争意識が芽生えにくくスタッフの成長意欲が阻害されがちだったり、選手待遇が悪くなる(選手はリーグと契約を結ぶため、球団間の選手獲得競争が起こりにくい)などのデメリットもあります。実際、MLSは過去に選手から訴えられたりしてますし。

 

話を戻すと、チームの事業サイドにいたスタッフは、組織的には「リーグの人」になるわけです。そして、各チームに対応する事業部署(各チームの事業スタッフはそこにアサインされる)がリーグ内にチームの数だけ作られるイメージです。また、チーム内に事業機能をもたない実業団チームは、リーグには人を出しません。

 

リーグにリソースが集中されるので、チケット販売や協賛営業などの事業のノウハウはもちろん全て共有します。NBAが始めたTMBOのような感じです。

 

3)チームは強化に特化して非営利組織化

事業機能をリーグに統合することで、組織上チームには強化機能だけが残ることになります。チームは、強化に特化した非営利組織(NPO)として組織しなおし、基本的には選手育成と地域密着活動を行うことを活動の柱にします。チームに収入を拡大する責任はなく、予算内でどれだけレベルの高い選手育成ができるかが求められることになります。

 

チームから事業機能を分離することで、福利厚生の範囲内でしか活動できない実業団チームの参画も容易になるはずです。チーム名に地域名を入れるのはMUST、企業名を併せて入れるのは自由です。

 

4)リーグとチームで選手育成契約(PDC)を締結

SEとして組織されたリーグと各チームの間に選手育成契約(Player Development Contract)を結びます。これは、メジャー球団がマイナー球団と結んでいるPDCと似たイメージのものです。メジャー・マイナー間のPDCでは、メジャー球団がマイナー球団の選手人件費を負担する対価として、マイナー球団に選手育成を任せるものですが、この変形です。

 

PDCには、選手育成要件と収益分配要件の2つが含まれることになります。選手育成要件では、きちんと選手を育成管理して、リーグ戦に参加すること、リーグ事業の拡大に必要なプロモーションに協力することなどが求められます。


収益分配要件には、見かけ上「リーグの人」になった事業スタッフの頑張り(チケット販売、協賛営業など)に応じた収益の分配(リーグ→チーム)が規定されます。チームはこの分配費用を選手人件費に充てる形になります。実業団チームは、リーグに事業スタッフを派遣していないため、分配金はなく、選手人件費は親会社からの福利厚生費を充てる形になります。

 

長期的に考えると、実業団チームの場合は親会社から拠出される福利厚生費が一生続く保証はないですし、恐らく少しずつ減らされていくことが予想されます。そのため、現実的には実業団チームは少しずつリーグに派遣する事業スタッフの数を増やし、分配金を増やしていく形で自立していくイメージになるのかなと思います。

 

5)実業団チームの事業はリーグが担当

事業機能を持たない実業団チームのビジネスは、リーグが代行して行います。従来まで、福利厚生の範囲内ではチケット販売や協賛営業に十分なリソースを割けなかったわけですが、ここにリーグがしっかりと人員を配置して収益化を図ります。そして、そこから得られた収益は、4)の原則に乗っ取り実業団チームには分配せず、リーグの独自収益になります(この収益の使い方は要検討)。

 

ざっと思いつきレベルで僕の頭の中にあったものを書き散らしてみました。まだまだ概要レベルで詰めないといけないところはいくつかあると思います。

 

例えば、経営規模の格差をどうするか。この形でリーグを立ち上げると、初期フェーズでは実業団チームの方がプロチームより予算規模が大きくなってしまい、戦力のアンバランスなどが問題になる恐れがあります。これを解決する仕組みを考えないといけません。

 

仮にA〜Fの6チームで新リーグを作ったとして、うちAとBの2チームは元強豪実業団チームで年間10億円が福利厚生費で供出されており、C〜Fの4チームはプロチームで大きな責任企業は存在しないようなケース。この場合、新リーグ全体での売り上げが20億円しかなければ、C〜Fへの分配金は平均5億円となり、選手人件費はABの半分しかありません。こういうケースです。

 

これは、リーグ収益を厚くアロケートしたり、球団間の収益分配を行うなどで解消を目指すことができるかもしれません。選手の移籍なども視野に入れると、ドラフトとかFAなども設計しないといけないと思いますが、ざっと大きなガバナンスモデルで言うとこんな感じですかね。考えが至ってない点も少なからずあると思いますので、いいアイデアがあったら是非教えて下さい。

 

今回はあくまで「実業団チームが参入しやすいプロリーグ」という、日本のやや特殊な環境を前提に思考実験してみました。もちろん、理想は一気呵成に全チームがプロ化に疑いなく突き進んでいくのがシンプルで一番良いのは間違いありません。米国では、リーグがNPOとして組織され(リーグビジネスは関連会社を作って球団が株主になって実施)、球団が事業会社というのが一般的ですが、今回の私案はその逆のようなイメージですかね。日本だからこそ実現できる独自のリーグ経営の形というのがあると思うんですよね。皆さんも、既成概念にとらわれず、自由にリーグを設計してみて下さい。

東京オリンピックの通常開催がどのくらい現実的なのか考えてみた

前回のブログを書いてからちょうど10日が経過しましたが、残念ながらこの間に新型コロナウイルスが世界中に爆発的に拡散してしまいました。米国でも、10日前には11名だった死者数が今や103名と日本を大きく上回ってしまいました。SF市は昨日3週間の自宅待機令を出しました。NYも48時間以内に市長が外出禁止令を出すのではないかとの報道もあります。今マンハッタンはゴーストタウンのようです。

 

前回も書いたように、東京オリンピックが開催できるかどうかは、国内の感染の終息だけでなく、国外の状況に大きく依存しているように思われます。今回は、東京オリンピックを予定通り開催することがどれくらい現実的なのかをより具体的に考えてみることにしました。

 

A)最も理想的なシナリオ

最も理想的なシナリオは、国内外で新型コロナウイルスの感染拡大が終息している状況でしょう。一般的に、感染症のアウトブレイク終息の定義とは「潜伏期間の2倍の期間が経過するまでに新たな症例が確認されなかったとき」とされているようです。WHOによれば新型コロナの潜伏期間(incubation period)は最大14日とされていますから、28日間新たな感染者が確認されなければ終息宣言を出せることになります。

 

東京オリンピックの開会式は7月24日に予定されていますから、どんなに遅くともその28日前に当たる6月26日までに完全に感染拡大を絶っておくことが開催のための絶対条件になります(現実的には、選手の来日は開会式のもう少し前になります。選手村の開村は7月14日のようです)。6月26日以後に一人でも感染者が見つかれば、開会式までに終息宣言を出すことは不可能になります。

 

日本で最初の感染者が見つかったのが1月21日ですから、ざっくり中国の1か月遅れの状況です。現時点で、中国の新規感染者数はかなり少なくなってきていることを考えると(3月17日は21名。2月上旬には1万人を超える日もあった)、日本国内に関しては、終息宣言を出すことは不可能ではない様にも見えます(このあたり、僕は感染症の専門家ではないので分かりませんが、もし詳しい方がいたら教えて下さい)。

 

一方、海外はどうでしょうか?僕が住んでいるアメリカでは、先日トランプ大統領が「終息は7月とか8月になるかもしれない。誰にも分からない」と言っていました。ヨーロッパでも感染が日に日に拡大しています。この状況で、オリンピックに参加する全ての国で6月26日までに感染拡大を絶つことは難しいのではないでしょうか?となると、このシナリオはあまり現実的ではないということになります。

 

B)もう少し現実的なシナリオ

日本で終息宣言は出せたが、海外では出せなかった状況を考えてみましょう。

 

この場合、実効的な海外からの感染拡大防止策を大会組織委員会が用意しておくことが必要になります。でなければ、せっかく感染症が終息した日本で再発してしまう可能性があります。それにより万が一新たな死者が出たともなれば目も当てられません。そうなれば、「平和の祭典」であるオリンピックのブランドは大きく傷ついてしまうでしょう。それはIOCが最も恐れることです。

 

海外からの感染拡大防止策を考える場合、「選手を含む大会関係者」と「観戦者(旅行客)」の2つのグループに分けて考える必要があるでしょう。

 

まず前者(選手を含む大会関係者)の場合。来日前に厳しいスクリーニングを行っておくことは言うまでもないですが、来日後に万が一感染が発覚した際の隔離政策を事前に準備しておくことが不可欠です。そして、実はこれがかなり大変です。

 

米国スポーツ界でいち早くシーズン中断を決めたのはNBAだったのですが、それは選手から感染者が確認されたためです。NBAは、この選手が過去10日間に5試合に出場していたことから、自軍を含めた6チームの選手全員を濃厚接触者として隔離措置の対象にすることを決めました。NBAは全部で30球団ありますが、選手一人に感染者が出ただけで、1/5のチームがプレーできなくなってしまったのです。これがNBAがシーズン中断を決めた直接的な原因です。

 

東京大会では、公開競技も含めて33競技339種目が実施予定で、世界中の200以上の国や地域から1万5000名以上の選手が来日する予定です。競技によって接触度に違いがありますから、個別に隔離ポリシーを決めておく必要があります。

 

例えば、バスケットボールを例に考えてみましょう。バスケでは、出場する12か国をA・B2つのグループに分けて予選リーグを行い、それぞれ上位4か国(合計8か国)が決勝トーナメントに進出します。予選は7月26日から8月2日まで行われ、8月4日から決勝トーナメントが始まります。決勝戦は8月8日です。

 

万が一、予選リーグ実施中に選手から感染者が見つかった場合、どうなるでしょうか?NBAと同様の対応を取るなら、予選でこの選手と対戦した国の選手は全員隔離の対象になります。こうなった場合、それ以降の試合に参加できませんから、不戦敗とならざるを得ないでしょう。予選の後半で感染が分かれば、最悪の場合、グループ内全チームが隔離対象になります。一方のグループが隔離で全滅した場合、残りのグループの上位4か国だけでトーナメントを継続するのでしょうか?あるいはグループ内で4か国が隔離で参加できなくなった場合、残りの2か国は自動的に決勝トーナメントに出られるのでしょうか?例えばその2か国が全敗だったとしても?

 

新型コロナの厄介な点は、潜伏期間が長い(14日)上に、発症前から感染力があるとされる点です。選手から感染が確認されれば、基本的に大会中に接触のあった全選手が隔離対象になりえます(オリンピックは2週間しかない短期大会)。

 

競技により選手どうしの接触度は違いますから、隔離対象(濃厚接触者)を決めるのも簡単ではありません。体操や陸上といった個人競技はまだ感染した本人だけ隔離すれば済むかもしれませんが、団体競技は厄介です。NBAでは、試合で対戦した全選手が濃厚接触者とされ隔離されましたが、ラグビーはどうでしょうか?スクラム組むのでちょっと怪しいかもしれません。では、野球はどうでしょうか?サッカーは??

 

これを競技ごとに全て事前に決めておく必要があります(余談ですが、映像から濃厚接触者を自動的に割り出すソフトなんかを開発しておくと、いろんな競技団体から引き合いがあるかもしれません)。オリンピックは2週間の短期間に数多くの競技が行われる超過密大会です。競技スケジュールを見てみると、そのあまりの過密日程にちょっとゾッとします。

 

また、選手村や病院などのキャパや構造の問題で物理的に隔離できる人数にも上限があるはずです。大会期間中に隔離された選手がそのリミットに達してしまった場合、大会自体を即時中止することも考えておかなければならないかもしれません。また、こうした特別ルールについて、各国際競技連盟(IF)や各国のオリンピック委員会(NOC)から事前に承認を受けておく必要もあるでしょう。

 

当然、選手からは反発も考えられます。ここまで命を削って努力してきたのに、自分以外の選手のせいでその努力が水の泡になってしまうかもしれません。「そんな不合理な大会ルールに則ってプレーできない」と感じる選手を責められないでしょう。IFやNOCによっては、参加を辞退するところもあるかもしれません。

 

また、後者(観戦者・旅行客)の観点から感染拡大防止策を考えるとどうでしょうか?大会組織委員会によれば、大会期間中にオリパラ合わせて1010万人の観客を想定しています。人数が多過ぎるため、観戦者・旅行者から感染が確認されても、大会組織委員会が手取り足取り隔離を行うことは現実的ではありません。基本、自主的な隔離を行うことが原則になると思うのですが、わざわざ海外からやってきて少々風邪っぽいくらいで観戦を諦めるでしょうか?あるいは、家族など複数人が同部屋で泊っているケースなどでは、自主隔離を行おうとしても別途宿泊を手当てすることは至難の業でしょう。

 

ところで、感染拡大防止策を検討する上で気になる動きがあります。米国の上院議員がIOCに対して大会の危機管理を確認する公開書簡を3月11日に送付しています。書簡を送ったのは、「製造・貿易・消費者保護に関する商業小委員会」(Commerce Subcommittee on Manufacturing, Trade, and Consumer Protection)の委員長と幹部で、同小委員会は、米代表選手の健康・安全管理の責任を負っています。

 

書簡には以下の7つの質問が記載されており、4月10日までの回答を求めています(訳は筆者の意訳)。

  1. While we are aware that the U.S. Olympic and Paralympic Committee has an Infectious Disease Advisory Group, what internal organizational measures or actions has the IOC taken, to date, to specifically address and coordinate plans to prevent further spread of COVID-19 in preparing for the 2020 Olympic Games? (IOCが大会準備においてCOVID-19の感染拡大を防止するためにどのような対策を取っているのか?)
  2. Were there infectious disease coordination protocols for the 2020 Olympic Games in place prior to the initial reports of the COVID-19 outbreak? If so, what were those protocols? (COVID-19のアウトブレイクが始まる前に2020年大会のために何らかの感染症対策は存在したのか?)
  3. Please describe in detail the IOC’s coordination efforts with the WHO, the U.S. Centers for Disease Control and Prevention (CDC), the Government of Japan, and the relevant local health agencies in Tokyo to prepare for the upcoming Olympic Games and the expected influx of attendees. (IOCは、WHOやCDC、日本政府、東京の保健機関らとどのような大会準備を行っているのか?)
  4. Are there specific contingency plans to effectively respond to a confirmed case or cases of COVID-19 during the games? If so, what are these plans? (大会期間中にCOVID-19の感染者が確認された場合の危機管理計画は用意されているのか?)
  5. Please describe the frequency and substance of communications with the participating NOCs and their members.  (各NOCとの間にどの程度の頻度でコミュニケーションを取っているのか?)
  6. Are unique precautions being taken related to specific NOCs that are geographically located in countries with prevalent numbers of COVID-19 cases? If so, what are those measures? (COVID-19が流行中のNOCからの感染拡大防止策はあるのか?)
  7. Please describe in detail any other relevant actions being taken by the IOC as it relates to preventing the spread of COVID-19. (IOCがCOVID-19の感染拡大防止のために講じているその他の対策はあるか?)

 

上記7つの質問のうち、4(大会期間中に感染者が確認された場合の危機管理計画)と6(流行中の国からの感染拡大防止策)は日本の大会組織委員会が主体的に用意するものであることを考えると、既にIOCから組織委員会にはこの件で照会が入っているものと思われます。

 

多くの方が既にご存知のように、IOCの最大のお客様は米国であり、NBCです。この書簡に対して、IOCから納得いく回答が得られない場合、米政府は「日本の大会組織委員会は選手にとって十分に安全と言える競技環境を保証していない」などとして、代表選手派遣の中止検討などの対応を取るかもしれません。

 

最悪なのは、米国は今さながら戦時下のような厳戒態勢になってしまったことです(まあ、厳密に言えば米国はいつも世界のどこかで戦争をしているので、常時戦時下なのですが)。911の時に痛感しましたが、米国は戦争などで本土を攻撃された経験がほとんどないため(真珠湾と911だけ)、本土がやられると過剰反応する嫌いがあります。「挙国一致で敵をやっつけろ」と最大防御モードになるのです。

 

今、米国はコロナウイルスとの戦いで精いっぱいで、とても他国でのオリンピックのことを考える余裕はありません。昨日のCDCの勧告により、あと8週間は50人を超えるイベントの開催ができないことになっています。米スポーツ界ですら完全に沈黙している状況で、東京オリンピックへの選手派遣なんてまともに議論できる余裕はないかもしれません。米国が選手派遣に後ろ向きになった場合、他国もこれに追随する可能性は大きいでしょう。

 

とりあえず、このシナリオで通常開催に漕ぎつけるためには、少なくとも第一関門として4月10日の回答期限までに実効的な危機管理計画をIOCに提示できるかどうかにかかっているように見えます。

 

とはいえ、このシナリオは他国の状況次第という部分が強く、いくら日本が万全な危機管理計画を用意したとしても、日本が完全にリスクを管理することができません。「感染の危険を冒してまで無理に予定通り大会を開催する必要はない」との声が選手からも大きくなってくれば、「アスリートファースト」を掲げる組織委員会としても、この声を無視することは難しいでしょう。その意味では、先の見通せないシナリオと言えます。

 

C)残念なシナリオ

通常開催できなかった場合は、中止か延期の二択になりますが、個人的に中止の選択肢はないように思います。なぜなら、ただでさえ世界からオリンピック大会招致に立候補する都市が激減する中で、IOCとしては五輪ブランドを守るためにも東京大会を安易に中止にはできないからです。

 

以前、日経ビジネスにも寄稿しましたが、英オックスフォード大学の調査などによりオリンピックの財務的リスクが可視化されてきています。オリンピックはたった2週間ちょっとの短期イベントにも関わらず、小国の国家予算にも匹敵する巨額な開催費用が必要なことで知られています。同大学の調査チームは、2016年に発表したレポートで「オリンピックの開催を予定している都市や国は、世の中で最も高額で財務リスクの高いメガプロジェクトを行おうとしているという認識を持つべき」と警鐘を鳴らしています。耳が痛いです。

 

延期になった場合、1年後、2年後のほかに、12年後という案も出ているという噂があります(4年後はパリ、8年後はロスで決まっているため)。確かに12年後なら困る人は少なくなりますが、日本としては「今までの準備は何だったんだ」ということになり、到底受け入れられないでしょう。後手後手に回って外堀を埋められ、最悪の選択肢を強いられるのは何としても避けたいところです。

東京オリンピック開催への見過ごされがちなリスク

新型コロナウイルスの感染拡大が東京オリンピックの開催に暗い影を落としています。言うまでもなく、東京で予定通りオリンピックを開催するためには、少なくとも自国でコロナウイルスの感染が収束に向かっていることが絶対条件です。現在、関係各所がその対応に追われているところだと思います。

 

しかし、今「目の前にある危機」の対応で手一杯になっている中で見過ごされがちなのは、海外での感染拡大に伴うリスク管理だと思います。なぜなら、グローバルにみてアジアとその他の地域での感染や危機感の変化に時間差がある点は、日本にいると頭では分かっていても、なかなか実感しにくい部分だからです。

 

この「海外での感染拡大に伴うリスク」には、以下の2種類のリスクがあると思います。

 

1)海外から日本に対する危機感

「対岸の火事」だった新型コロナウイルスの拡大が自国に及んでくると、「他人事」だった恐怖が「自分事」になります。そうなると、「こんなに怖いウイルスだったとは知らなかった!」「日本国内での対応は大丈夫なのか?」「日本に行っても大丈夫なのか?」と、オリンピックを開催する日本に対する視線がおのずと厳しいものになっていくことが予想されます。

 

こうした危機感の変化は、海外から日本への観光客やオリンピックの競技観戦者の行動に大きな影響を与えます。このリスクの特徴は、自国の話なので「ある程度管理できる」が、観光客・旅行者を想定すると「リスク判断が比較的早期である」という点です。日本での感染が収束すれば、日本に対する危機感も和らいで行く一方、旅行者はオリンピック開催ギリギリまで渡航判断を待ってくれません。

 

早期の現場対応と効果的な広報が重要になってくると思います。幸い、日本でのコロナウイルスへの現場対応は、比較的上手くやっているのではないかという印象を個人的には持っています(あくまでも「比較的」ですが)。死者の数を見てみれば、イランやイタリア、韓国などに比べると低いレベルに抑えることができているように見えます。

 

一方、広報では、誤解を招くような(日本が損をするような)英語での報道が散見されます。ツイッターでもつぶやきましたが、DP号での感染対応を巡っては、政府による情報公開・広報が十分でなかったこともあり、それ以降批判的な報道が目立ちます。日本に関する記事なのに、中国や韓国の写真が併せて使われているようなケースもあります。

 

ここはもう少し効果的な国際広報を期待したいです。

 

2)海外での自粛ムードの拡大

日本では、今まさにコロナウイルスの自粛ムードが社会的に蔓延しているところだと思いますが、こうした状況が時間差で世界中に拡大していく可能性があります。学校閉鎖やスポーツイベントの延期・中止が相次いでいる今、もしオリンピック開催が8月ではなく5月や6月だったら、日本でも「開催はちょっと無理かも」と思ってしまったのではないでしょうか。

 

感染拡大にタイムラグがあるため、海外ではこの状況が起こりえるのです。これから数週間後、数か月後に国内で感染が拡大して今の日本と同じように自粛(萎縮?)ムードが高まった時、日本への代表選手の派遣をどう判断するでしょうか?そもそも、オリンピックを楽しく観戦できる雰囲気になっているでしょうか?

 

例えば、米国では、今まさに市中感染が広がり始めている状態で、私の住むNY州を含む8州が非常事態宣言を発令し、学級閉鎖やイベントの自粛などが検討され始めています。日本のちょうど1か月前のような状況だと思います。まさに、「対岸の火事」がこちら側に飛び火してきたような感じです。

 

このリスクのやっかいなところは、「日本が自分で管理できない」ものであり、しかも「時間差」で「これから広がっていく」性質をもっている点です。

 

そうした中、気になるニュースが出てきています。予定通りの大会開催を強調している日本政府をよそに、海外の競技団体(IF)や米国テレビ放送局が無観客オリンピックの実施や大会中止などのリスクシナリオに応じた危機管理計画の策定を進めているようです。

 

2月末には、東京オリンピックに参加する国際競技連盟の医療担当者が世界保健機構(WHO)と無観客オリンピック(Fan-free Olympics)の開催について協議を行ったとNY Timesが報じました。無観客オリンピックでは、選手のほか、競技団体の幹部や放送局のみの参加が認められる形が想定されているそうです。ただ、無観客としても、世界中から選手や関係者が来日することから、感染拡大のリスクは高く、そのスクリーニングが重要になるとWHOが指摘しているそうです。

 

世界中に200近い国がある中で、現在約半分の100か国に新型コロナウイルスの感染が広がっています。今後もさらに拡大していくでしょう。仮に日本で感染拡大が収束していたとしても、オリンピックを機に世界からウイルスを日本に呼び込んでしまうことにもなりかねません。

 

また、NBCが東京オリンピックが中止になった場合も含めた危機管理計画の策定を始めたという報道もあります。NBCと言えば、IOCの収入の約4割拠出していることで有名で、東京オリンピックについても高額なテレビ放映権料をIOCに支払っているため開催強硬派であるようなイメージが日本でも強いと思います。しかし、記事によれば、万が一オリンピックが開催されなくても、支出済みの五輪関連費用は保険でカバーされる可能性が高く、意外にも開催強硬の立場ではないようです。

 

NBCは東京オリンピックに際し、合計約7000時間の放送を行う予定で、広告枠もその約9割が埋まっており、現時点で12億5000万ドルの広告収入が上がっています。五輪に備えて既に番組制作を進めている部分もあるようですが、IOCへの放映権料も含め、こうした支出は全て保険の対象になりうるようです(具体的には今回のコロナウイルスの感染拡大は「Act of God」(天災)に相当し、保険の対象になるそうです)。まあ開催中止になれば、広告料は広告主に返還する必要があるでしょうが、費用が保険でカバーされれば「持ち出し」は最小限に抑えられます。

 

NBCが今気にしているのは、CMを出稿している広告主の顔色です。こうした企業は米国内で自社の商品やサービスをPRするために巨額の資金を出しているわけですが、自粛ムードが社会に蔓延する中で華やかなCMを流せば、むしろ企業イメージを傷つけてしまうかもません。オリンピックは注目度が高いだけに、“諸刃の剣”にもなりえます。

 

例えば、仮に日本国内では感染拡大が収束していて開催が可能だとしても、その時点で米国内での感染収束の目途が立っておらず、MLBがシーズンを中断していたらどうでしょうか?秋に開催を控えるNFLやNBA、NHLがシーズン開幕を延期すると発表していたらどうでしょうか?NBCは、様々なリスクシナリオを想定しながら、こうした状況が米国内のメディア消費者の行動にどう影響するかを慎重に精査し始めたということでしょう。

 

日本にとっては考えたくないことですが、日本国内では問題が収束していても、国外のステークホルダーの意向により五輪開催に圧力がかかることがあるかもしれません。今まさに、こうした国際情勢をにらみながら開催実現にこぎつけるシナリオ作りやストーリーメイキング、関係者の巻き込み力などが問われていると思います。

スポーツのプロ化構想(その1)〜服用する前にお読み下さい編〜

日本では、コロナウイルス感染拡大に伴う自粛ムードで大変なようですね。2009年の新型インフルエンザの世界的流行の時を思い出します。旅行業界は、今週前半時点で既に3分の1くらいの予約がキャンセルになっているという話を知人から聞きました。今はもっとひどくなっているかもしれません。僕も来週日本から来客予定なのですが、キャンセルにならないかヒヤヒヤしています。万全な準備を行い、あとは待つだけです。

 

2009年の経験から学んだのは、「花が咲かない時は、根を張れ」です。悪い流れに抗っても何もできないですし、自分がコントロールできる部分にリソースを集中する方がベターです。こういう時こそ自分が行っているビジネスの本質に立ち返って、自分がすべきことを再確認し、やるべきことをやり続けるのが重要かなと思います。「辛い時こそ胸を張れ」(SoulJa「Rain」より。この歌には励まされました)なのです。

 

というわけで、コンサルタントである私ができることと言えば、思考訓練でしょうか。僕は顧問先やクライアントから様々な経営課題に関する相談を受けるので、その際にどれだけたくさんの「議論のひきだし」をもっているかが、質の高いディスカッションを経た解決策の検討において重要になります。ひきだしを増やすには、特定のトピックについて自分なりに考え尽くしてみるということが有効に思えます。これを様々なトピックについて行っていると、いろいろな部分で結びつきが見えてくるようになり、結果的にひきだしが重層的に増えていくのです。

 

さて、昨年のラグビーW杯実施中にラグビーのプロ化構想についてTwitterでつぶやいたところ、結構バズりました。

ラグビーW杯は大成功に終わり、日本代表チームの爽やかな活躍を記憶していらっしゃる方も多いでしょう。その後、ご存知のようにラグビー界ではプロ化構想が公表されましたね。年明けにはラグビー協会が2021年からスタートする新リーグの参入要件を発表しました。

 

ラグビーに限らず、これからもスポーツ界ではプロ化の話が定期的に出てくると思います。良い機会なので、スポーツのプロ化に関してちょっとした思考訓練をしてみようと思います。ちなみに、ここでいう「プロ化」とは、「顧客を想定し、顧客への付加価値増大による拡大再生産のサイクルを目指すことで組織のレベルアップを図ること」と定義しておきます。分かりやすく言えば、お客様のためにやるのがプロで、自分(身内)のためにやるのがアマチュアです。  

 

日本の競技団体の多くで見られるスポーツのプロ化の最大のハードルは、プロチームと実業団チームの混在をどうまとめるかです。実業団チームは、基本的にインナー施策としての顧客(社員)は想定しているものの、広義の顧客(観戦者や協賛企業、メディア、地方自治体など)は想定していません。あくまでも福利厚生の範囲内での活動に限定されるため、プロチームと足並みが揃わない場合が出てきます。

 

例えば、チケットを売る時。プロチームは当然、チケットを観戦希望者に有料で販売しますが、実業団チームは親会社や関連企業にチケットを招待券として無料配布してしまいます。これは、チケットを「販売」してしまうとそれが事業になってしまい、福利厚生の範囲から逸脱してしまうからです(事業には規模拡大を見据えたリソースの追加投入が必要になるが、福利厚生はそれを想定していない)。実業団チームの場合、親会社は事業(スポーツビジネス)を行う前提でチームを保有・支援しているわけではありません。  

 

しかし、チケットはスポーツビジネスの最も基本的で重要な商材であり、チケットをタダで配布するということは「私たちの売り物に価値はありません」と言っているのと同義です。せっかくプロチームが価値を高めようとチケットを有償で販売しても、招待券として配ってしまうチームが混在すればリーグ全体としての事業価値を高めることはできません。まあ、チケット販売は一例ですが、こうした足並みの乱れがプロリーグとしての成功を難しくするのです。

 

競技レベルや顧客サービスの持続的なレベルアップを図るには、確かにプロ化が唯一の選択肢になるでしょう。しかし、プロ化にはリスクが伴います。ベストシナリオでは、10年後に世界と勝負できる競技に育つかもしれませんが、ワーストシナリオでは、3年後に経営破たんしてしまうかもしれません。実業団のまま続けていれば、15年後も存在しているかもしれないのに。

 

ツイートでも書きましたが、「実業団がプロ化するのは、サラリーマンが起業するのと同じ」です。ベンチャー企業の生存率は「創業から5年後は15.0%、10年後は6.3%。20年後は0.3%」とも言われています。本当に路頭に迷うリスクを負ってまでもプロ化に踏み切る大義があるのか、そこを本音で考える必要があります。プロ化とは「善悪の問題」ではなく「選択の問題」です。アマチュアやセミプロのまま続けることが必ずしも悪いことではありません。重要なのは、何のためにプロ化するのか、という部分だと思います。周りの顔色を窺って建前でプロ化には賛成したが、3年で経営破たんしました、ではシャレになりません。

 

「実業団スポーツ」という、企業がスポーツを支えてくれる文化があるのは日本や韓国など一握りです。企業に依存していて生殺与奪権を握られているとはいえ、実業団という形でプレーする機会が存在するだけでも、非常に恵まれた環境にあると言えます。その意味では、実業団スポーツとしてある程度成功していたラグビーは、逆にプロ化へのハードルが高いとも言えるわけです(捨てなければならない厚遇が多い)。「そこまで無理に頑張らなくても、俺は今のままでいいかな」と思っている関係者がいれば、プロ化して成功する可能性は下がります。不退転の決意と狂気にも似た熱狂が共有されていなければ、起業は成功しません。


「ノーサイド・ゲーム」をご覧なった方はイメージしやすいと思いますが、福利厚生費用として親会社から10億円程度のお金が拠出されるというのは本当に奇跡的なことです。仮にプロ化した場合、前述の理由から福利厚生費としての資金拠出を続けてもらうのは難しいでしょう。これを宣伝広告費として差し替えてもらうにしても、本当に10億円の広告効果があるかがシビアに評価されることになります(そして、恐らくその広告価値はないと判断され、大幅に減額される)。スポーツで起業して10億円の売り上げを立てるというのは、簡単なことではありません。


「プロ化」と言うと、Jリーグの成功が鮮烈だっただけに、それに倣って「チームを株式会社化して地域密着を行う」といったような手段にばかり注目が集まりますが(それは間違いではないですが)、成否のカギは別のところにあるのかもしれません。例えば、Jリーグに“倣って”プロ化を進めたように見えるBリーグですが、実情(特にリーグ経営)はむしろプロ野球の経営手法(パ・リーグ)を参考にしています。また、Bリーグが立ち上げり、事業規模を拡大しているバスケ界の今があるのは、ひとえに関係者一人ひとりの覚悟と熱狂に支えられた努力の賜物ですが、その背景としてFIBAからの制裁(国際活動禁止処分)により退路を断たれたことは特筆すべきです。自分たちが一つにまとまって力を合わせなければ、オリンピックにもアジア選手権にも出られない。これが関係者一人ひとりにプロ化(統一リーグ化)への「不退転の覚悟」を迫ることになったのだと思います。

 

プロ化と言っても、それぞれに成功を支えた異なる背景があります。そもそも、何のためにプロ化するのかよくよく考えた方がいいですし、プロ化するにしても、今では様々な方法が考えられます。次回は、今のスポーツ界を取り巻く経営環境の変化を踏まえた上で、どのようなプロ化が選択肢として可能なのか、ちょっとした私案を披露してみようと思います。読者の皆さんも、今自分がスポーツのプロ化を託されたら、どのようなリーグを構想するか頭の訓練だと思って考えてみて下さい。

XFLに学ぶ新リーグのValue Propositionの作り方

米国では、Super Bowlが終了して息つく暇もなく新フットボールリーグXFLが2月8日から開幕しました。XFLは、WWEのプロモーターだったVince McMahonが作ったプロフットボールリーグで、実は2001年に立ち上げて1年で経営破綻した経緯があります。今回は捲土重来を期した再チャレンジなのです。

 

最初のチャレンジの時は、チアリーダーのお色気やプロレス仕込みの派手な演出など、どちらかというとフットボール以外の要素が注目されてしまい、Week 2での不運な全国放送中の停電などもあって評判が落ち、経営が立ちいかなくなってしまいました(XFLの経営破綻の経緯はESPNの名作ドキュメンタリー「30 for 30」が“This Was the XFL”として詳しく特集しています)。

 

まだ開幕してWeek 1を終えただけですが、1回失敗しているだけあって、練りに練られてリーグ経営が行われている様子がヒシヒシと伝わってきており、業界関係者の評判も上々です。今回は、XFLのような後発リーグがプロスポーツとして成功するために考えなければならない点について、ケーススタディ的に書いてみようと思います。

 

以前「スポーツ経営におけるValue Propositionの重要性」「流行り言葉で思考停止にならないために」などでも書きましたが、リーグ経営でも球団経営でも施設経営でもそうですが、最も重要なのは、自分の組織の「Value Proposition(訴求価値)を考える」ことです。換言すれば、競合が真似できない自身のユニークな強みは何なのかを考え抜き、徹底的な差別化を図ることです。特にこの発想は人気のないマイナー競技や2nd Tier(上に同じ競技でレベルの高い既存リーグが存在する)の競技には不可欠な発想です。

 

Week 1のXFLの試合中継を見ていて気付いた点を列挙すると、

 

  • ヘッドコーチとQBの無線でのプレーコールのやり取りがそのまま聞ける(視聴者はプレーが始まる前にどんなプレーなのかが分かる)

⇒これはプレーを事前にネタバレさせることで新たな観戦体験を生み出しているわけです。野球なら、試合前にバッテリーのサインをファンに公開しているようなイメージでしょうか。投手の投げる球が事前に分かれば、プレーを先読みして見られるわけで、視聴体験も大幅に変わります。フットボールなら、プレーコールが事前に分かっているのはオフェンスの選手だけですから、視聴者も選手やチーム関係者と同じ立場に立ってプレーに臨めるわけですね。これは無茶苦茶面白いです。

  • ビッグプレー(TDやインターセプト)した選手やコーチに、プレーの直後に速攻インタビューする

⇒ビッグプレーを終えてまだハアハア言っている選手へのインタビューは選手のテンションが直に伝わってきます。視聴者の頭にプレーの残像が鮮明に残っているうちに、選手の視点からプレーを振り返ってくれるのは、試合後の記者会見などより圧倒的な臨場感があります。

  • TDの後のPATに1点、2点、3点のバリエーションが提供されている(普通は1点か2点が選べるだけ)

⇒これはフットボールを知らないと分かりにくいかもしれませんが、ラグビーに例えれば、トライの後のコンバージョンキックの距離を選べ、距離によって2点、3点、4点などが選択できるようなイメージです(普通は2点だけ)。無理してサッカーに例えると、ペナルティエリア外からゴールを決めれば2点みたいなものでしょうか。こうしたルール変更によって得点がダイナミックに動くようになるので、より高い戦術性が求められるようになり、見ている方もハラハラする機会が確実に増えます。

  • 脳震盪が起こるリスクが最も高いとされるキッキングゲームで、危険な接触が起こらないようにルールが大きく変更されている

⇒百聞は一見に如かずなので、以下の動画をまずみて下さい。

通常カバーチーム(キックを蹴る方)はボールが置いてあるラインから全力疾走してリターナーを止めに行くわけですが、XFLでは脳震盪の発生を防止するためにカバーチームとリターンチームを5ヤード離れて対峙させる方式を採用しています(これなら勢いがつかないため脳震盪が起こりにくい)。NFLがこんなドラスティックなルール変更をしようとしたら、キッキングのスペシャリストやコーチが職を失うことに直結するので、やりたくてもできないのです。

  • プレークロック(プレー終了から次のプレーを開始しなければならない間隔)は25秒で(NFLは40秒)、ハーフタイムも10分(NFLは12〜15分、カレッジは20分)と短い

⇒試合時間の短縮が大きな課題になっている中で、プレーの質を多少犠牲にしてでもペースアップを図る強い意志が見られます。

  • 女性審判が必ずいる

⇒XFLでは各試合での審判クルーのうち必ず1名は女性を入れないといけないルールになっています。女性の社会進出をエンパワーするツールとしてスポーツが注目されつつある中での画期的な取り組みと言えそうです。こういう旬なトレンドを迅速に取り込むXFLのビジネス感度は非常に高いです。近い将来、少なくとも選手の1名は女性でないといけない、みたいなルールも出てくるかもしれません。

 

上記を見てみると分かるように、これまでカメラやマイクが入ることが許されなかった“聖域”を公開したり、競技のルールそのものを変えてしまったりと、ことごとく既存の常識やタブーを覆しているのが分かります。  

 

競技軸が強い日本のスポーツ組織は“競技ドグマチック”になりがちなため、「野球とはそういうもんなんだ」「そんなのサッカーじゃない」「グランドは神聖な場所なんだ」といった理由にもならないような理由から新しい試みが否定される傾向が強いです。もちろん、トップレベルのプロスポーツは正統的な競技を提供する責務があるでしょう。でも、人気がなくて困っているようなマイナー競技や、トッププロリーグとの差別化を図る必要がある後発リーグや下部リーグが競技の正当性だけを主張しても自分で自分の首を絞めるだけかもしれません。

 

まだWeek 1が終わったばかりのXFLの成否を評価するのは早計ですが、少なくとも「XFLはフットボールに新たなイノベーションを起こした」という評価は共有されているようです。まさに、イノベーションは辺境から生まれるのです。

2020年の日米スポーツビジネスのトレンドを占う

気が付けば1月も半分以上過ぎてしまいましたが、年初ということで近年の出来事を振り返りながら2020年の日米スポーツビジネスのトレンドを占ってみようと思います。

 

■不動産業化する球団経営

スポーツ施設建設によるジェントリフィケーションって何?と思った時に読む話」でも書きましたが、日米のスポーツ施設建設における大きな違いの1つは、自治体がスポーツ施設建設を都市開発のツールとして考えているかどうかです。米国では、ジェントリフィケーションによる効果(税収増、雇用創出、都市のブランド向上など)を期待する自治体に球場建設費を負担してもらい、球団は税金で建ててもらった球場を事業の中心に据えて一体型経営を行っていく形が一般的でした。先進的な球団は、さらに球場を起点に事業の垂直統合を行い(テレビ局を買収したり、施設運営や協賛・飲食事業に特化した事業会社を作るなど)、多角化を進めています。

 

言い方を変えると、球場の中は球団、外は自治体や通常の民間企業(不動産会社など)という切り分けがあったのですが、近年は球団が球場の外の開発も主体的に手掛けるケースが増えてきています。例えば、MLBアトランタ・ブレーブスは2017年に新球場SunTrust Park(企業合併により今期からTruist Parkに名称変更)をオープンしましたが、球場建設費7億3500万ドルのうち2億7600万ドルは税金による支援を受けています。一方で、球場の周辺の街づくり(Battery Atlanta)には、球団が独占事業として5億5000万ドルを投じてホテルやオフィスビル、商業施設、マンション、シアターなどを建設しています。

 

今や、球団は不動産業にも進出するようになり(多角化の一事業として街づくりを行うようなイメージ)、ジェントリフィケーションによる利益をも手にできるように経営の守備範囲を広げています。

 

実はこうした動きは、日本でもちらほら見られるようになってきています。例えば、新球場の建設計画を進めている北海道日本ハムファイターズは、球場周辺に街づくりを行う計画を立てており、昨年9月には新球場の運営会社を設立しています。ボールパーク内にはショッピングセンターや保育園、温泉、マンションなども建設が予定されており、公式サイトには「Ballpark Future Vision」として街づくりの中心となる6つのテーマが掲げられています。今春には起工式が行われる予定となっており、広大な林だったところにどんな夢あるボールパークが出来上がるのか今から楽しみです(開場は2023年予定)。

 

また、横浜スタジアムに隣接する横浜市庁舎が今年中に移転することになっており、その跡地の開発コンペが昨年9月に実施され、ベイスターズの親会社DeNAを含む8事業者による開発グループが事業予定者に選定されています。こちらは、「Minato-Machi Live」(ミナト マチ ライブ)を事業コンセプトに、国際的な産学連携と観光・集客装置を目指してイノベーションセンターや大学、ライブビューイングアリーナ、ホテルなどを併設した地上30階、地下1階の総合施設が建設される計画です(こちらは2024年開業予定)。

 

ただ、「流行り言葉で思考停止にならないために」でも書きましたが、こうしたいわゆる「スポーツアンカー地区」の開発には巨額の投資が必要になるうえ、球団に集客力があることが前提になります。米国でも、こうした開発を手掛ける球団は一部の人気チームや、オーナーが不動産業を営んでいるようなケースに限られるので、全ての球団・都市への正解にならない点には注意が必要でしょう。

 

■大学スポーツの変容

2016年に学生選手への報酬の支払いを禁ずるNCAAのアマチュア規定が反トラスト法(日本の独禁法)違反とされて以来、大学スポーツはそのビジネスモデルの修正を迫られているわけですが、昨年の大きな進展としては、9月にCA州が大学学生アスリートにプロ選手同様エンドースメント契約の締結やエージェントの利用を認める法案を可決したことが挙げられます。

これにNY州やIL州など9つの州も追随しており、NCAAもこうした動きを受けて早々に肖像権(NIL)を用いた報酬の獲得を学生選手に認める方針転換を明らかにしました。

 

ただし、厳密に見れば、NCAAの収益を学生選手に分配するという話ではなく、あくまでこれとは別に報酬を獲得する手段を認めるという文脈なのは注意が必要です。NCAAとしては、学生への収益分配に話が及ぶのは是が非でも避けたいところでしょうから、今後はこの点が学生選手との分配の議論の焦点になっていくでしょう。

 

NBAは既にドラフトの年齢制限を撤廃する方向で選手会と調整を進めており、遅くとも現行の労使協定が失効する2024年以降は確実に年齢制限はなくなり、高卒即プロ入りが認められる「NCAAとの直接対決時代」に突入することになります。これを見越してNBA傘下のGリーグも選手待遇の改善や育成環境を整備を進めています。昨年末にGリーグのPresidentと面会する機会があったのですが、NBAとしてもよりGリーグに対するコミットメントを強め、NBA選手育成機関としての位置づけを明確にしていく方針のようです(これまでは大学が事実上のNBA選手育成機関という暗黙の了解があった)。

 

フットボールでも、いよいよ今年7月から18〜22歳を対象とした育成プロフットボールリーグ「Pacific Pro」が開幕しますし、いよいよパンドラの箱が開いたという感じです。

 

教育機関である大学がスポーツ“ビジネス”を行うことには、本質的な利害相反があります。結局、建前はどうあれ、現実はビジネスとして収益を最大化するには勝利至上主義にならざるを得ず、勉強どころではなくなってしまうのがNCAAで起こっている現実です。また、学生にタダ働きさせながら巨額の収益を生む現行システムは独禁法違反であり、人権侵害との批判も昔からありました。日本でもUNIVASが始動しましたが、こうした米国で大学スポーツが強いられている変容の本質を理解し、今後のかじ取りに生かしてほしいと思います。

 

■「Snack視聴」の加速

昨年3月に日経BPが主催した「SPORTS Tech&Biz」などでもお話ししましたが、米国ではスポーツは「じっと座って観戦する」(Watch)ものから、食事やおしゃべり、デート、ゲーム、賭け事など「何か他のことをしながら観戦する」(Snack)ようになると言われています。スマホの生活への浸透やスポーツ賭博の普及(後述)、デジタルネイティブのZ世代の登場などにより、今後さらにこの傾向が強まることが予想されています。

 

既にスポーツ施設の設計はこの傾向を反映したものになっており、座席を取り外して立ち飲みスペースに模様替えしたり、コンコースのデッドスペースにソファーなどを設置したラウンジにしてまったりスペースを作るなど、スポーツ施設内の空間の使い方に大きな変化が見られるようになってきています。

 

また、こうした変化を受けてチケットの販売方法も進化し、「サブスク型の席なしチケット」が売られるようになってきています。これは、月額30ドル程度を払えば、いつでも好きな試合に入場することができるというチケットで、固定席はアサインされないため、ラウンジや立見席で友人らと話しながら観戦してもらうというイメージです。従来まで、球場には来ずにスポーツバーなどで観戦していた層をターゲットにしているのでしょう。

 

これから新設されるスポーツ施設では、収容人数の1/4〜1/3程度は座席のない席になるのではないでしょうか。

 

■スポーツ賭博の拡大

2018年5月に最高裁が事実上スポーツ賭博を解禁して以来、昨年末時点でアメリカ全50州および特別行政区(ワシントンDC)において、14州が既にスポーツ賭博を合法化していて、7州は合法化法案が既に議会を通過し、施行を待つのみとなっています。また、合法化法案を審議中の州も24あります。つまり、約9割に当たる45/51(DC含め)の州はスポーツ賭博を既に合法化しているか、合法化を推進しているわけです。

 

昨年、僕も既にスポーツ賭博を合法化しているNJ州のアトランティックシティまでスポーツ賭博を体験しに行ってきました。

実際にやってみて良く分かりましたが、これは確実に一定数のファンを獲得するツールになるのは間違いありません。特に注目されているのは、In-Play BettingあるいはProp Bettingと呼ばれる試合中に賭けの結果がすぐに分かるスポーツ賭博で、例えば野球なら「最初の3イニングの両軍の合計得点は3点を超えるか」「5回表の2番目の打者は出塁するか」といった賭けがスマホのアプリで手軽に行えるようになっています(ファンはカジノ内のスポーツ賭博専用ラウンジに来てテレビモニターを見ながらスマホで賭けを行っている)。

 

将来的には、スポーツ施設内にもスポーツベッティングラウンジみたいなのができるように施設設計も変わるでしょうし、スポンサーシップやチケット販売の方法も変わっていくことになるでしょう。

 

「日本では賭博は違法だから関係ないかな」なんて思っているあなた、それは違います。実はスポーツ賭博は日本でも既にスポーツ市場最大のセグメントになっています。日本政策投資銀行によれば、2012年の国内スポーツ総生産(GDSP)は11.4兆円と推計されていますが、その38%に当たる4.3兆円が公営競技から生み出されています(「2020年を契機とした国内スポーツ産業の発展可能性および企業によるスポーツ支援」P16。グラフは東洋経済「日本はスポーツで「稼ぐ」国に変われるのか」のものを転載させて頂きました)。そうです、公営ギャンブルです。

 

 

ちなみに、この調査は日本政府による「2025年までにスポーツ市場を15.2兆円にする」という目標設定(下表)のベース(現状分析)になったものですが、政府の目標設定においては公営競技(4.3兆円)と教育(1.6兆円)が除外されています。まあ、民間事業ではないということなんでしょう。

 

日本では、賭博行為は刑法第23章「賭博及び富くじに関する罪」(第185条〜187条)により禁止されていますが、刑法第5条に則る「法令又は正当な業務による行為」として公営ギャンブルを認めており、競馬・競輪・ボートレース・オートレース・スポーツ振興くじ(toto)などの政府や地方行政による公営競技・ギャンブルは合法とされています。

 

公営ギャンブルは民間事業ではないですが、totoなども前述したSnack視聴の文脈に合うように商品開発を進めれば、スポーツ振興に寄与できる可能性は大いにあると思います。現在提供されているのは、勝敗や得点を当てるシンプルな方法のみですが、In-Play Bettingのような手法を導入すればファン開拓を進め、収益性を高めることもできるでしょう。日本のスポーツ界には、こうした未来を見据えたロビー活動も必要になってきますね。

 

■女性スポーツのブレイクスルー

昨年、フランスでサッカー女子ワールドカップが開催されました。結果はご存知の通りアメリカが優勝し、日本代表は決勝ラウンド1回戦でオランダに敗れて涙をのみました。

 

ところで、優勝した米国代表のユニフォームはナイキが提供しているのですが、そのユニフォームのシーズン販売数がナイキ社史上最多になりました。この数字は、同社が手掛けるバルサやブラジル代表など男子チームも含めたものであったこともあり、驚きをもって伝えられました。

 

これは、女性スポーツの社会における位置づけの変化を如実に表していると思えます。もはや、女性スポーツがRepresent(代理)するのは、単なる「競技」や「女性」だけではないのです。確かに、米国サッカー女子代表チームは世界最強で、米国内でも男子代表より人気があったりしますがw、単に「強いサッカーチーム」だけなら、バルサやブラジル男子代表チーム以上にユニフォームが売れたりしません。

 

今回の代表チームは、共同主将のMegan Rapinoeに象徴されるように、「強いサッカー」や「強い女性」の象徴であるだけでなく、「LGBTQ」「トランプに喧嘩をふかっけるリベラル」「黒人差別に抗議する人権主義者」「サッカー協会に男女同一賃金訴訟を起こす男女同権運動」など、様々な領域で象徴的存在として見られているのです。そして、「彼女たちこそ私の代弁者だ」と思った(サッカーファンに限らない)者がユニフォームを手にしたのです。

 

スポーツには「代理応援理論」というものがあります。要はファンはチームの「何か」と自分の「何か」を重ね合わせ、チームを自分の代理・代表として応援するという考え方なのですが、通常はこの「何か」が競技や地域や国籍であったりするわけです。しかし、近年スポーツ自体の社会的位置づけが大幅に変容し、より社会的存在感を高め、社会課題の解決者としての発言力を高めています。それにより、ファンが自分の存在を重ねられる「何か」が飛躍的に多様化しているのです。米国サッカー女子代表のユニフォームが売れた背景は、こうしたスポーツの質的変容と無関係ではありません。

 

こうしたスポーツの本質的変化に気づいた世界のスポーツ界は、男女の待遇平等化や女子リーグの再編・強化を進めています。昨年、WNBAのコミッショナーに就任したCathy Engelbertと意見交換する機会に恵まれました。NBAは、女性スポーツの重要性の高まりを認識し、従来までのWNBAのPresident職を廃止してデロイトのCEO(女性としては初)だったCathyをコミッショナーとして招聘したのです。

 

Cathyのプロ経営者としてのオーラから、これはただ者ではないという印象を受けましたが、やはりWNBAも「スポーツが女性をEmpowerしていくという文脈を大いに活用していく」と言っていました。彼女は経営側の人間ですから、女子選手の環境改善に最善を尽くしながらも、リーグの収支を整えていく責任を負います。夢物語だけを語るわけにはいかない苦しい胸の内も少し垣間見られたのですが(面会した時はちょうど労使交渉の真っ最中だった)、今年に入ってWNBA選手会と女性選手の環境改善に最大限配慮した新労使協定を締結したニュースが届き、彼女の本気度を改めて感じることになりました。ちなみに、彼女は大学時代はバスケ部とラクロス部と掛け持ちし、いずれも主将だったそうです。

 

日本では、まだ女性の活躍がスポーツ界だけでなく、社会一般でも進んておらず、こうした「女性のEmpower」という文脈が十分な勢いを得るに至っていない現実があります。日本は社会的な同質性も高く、女性スポーツが代理できる「文脈」もまだまだ競技の中に限られるのかなという印象があります。しかし、見方を変えれば、今後女性スポーツが日本における女性の社会進出のパイオニアとして、あるいは社会改革のペースセッターとしの役割を果たすことができるポテンシャルは大いにあるとも言えます。

 

そうした中で、昨年はワールドカップを戦い終えたばかりの熊谷紗希選手らが中心となり、「女子サッカーの文化に」を掛け声にピッチの外にも活動の幅を広げる「なでしこケア」(通称「なでケア」)が立ち上がるなど、日本でも新しい動きも芽生え始めています。日本でも女性スポーツのブレイクスルーが期待されています。

出会いを導くプリンシパル

明けましておめでとうございます。

 

2020年1月1日でトランスインサイト株式会社も設立14周年となり、15年目の年に突入しました。個人的には、米国滞在20年目に突入です。

 

僕が社会人になったのが1996年4月でしたから、今年4月で社会人人生は24周年。ほぼ四半世紀が過ぎたわけですが、そのうち20年を米国で自営業者として過ごしていることを考えると、自分事ながら全く恐ろしいですね。こんな人生になるなんて、文字通り全く夢にも思っていませんでした。人生とは、計画通りにいかないところが面白いですよね。計画以外の部分が人生の本質だなんて言う人もいます。

 

渡米したのは2000年8月。9月から大学院の授業が始まりました。19名の同級生のうち、非英語圏から来たのは自分だけ。最初のセメスターは英語がほとんど分からず、授業終了後に宿題は何だったのかを確認する日々が続きました。当然ながら日本人は米国ではマイノリティですが、留学生とかアフリカ系アメリカ人などの同じ立場の仲間がとても優しくしてくれました(僕の大学院時代のBest Friendはみなアフリカ系アメリカ人です)。

 

何とか最初のセメスターを乗り切り、次のセメスターが始まるかどうかの2001年2月に勢いで知人と起業しました。これも今思い返すと恐ろしいことですが、当時の自分には起業家として生きていく実力もお金もなく、「勢い」と「志」しか持ち合わせがありませんでした。それからジェットコースターのような日々が始まりました。授業と起業を何とか両立させながら、2003年に正式に労働ビザを獲得できる目途が立ち、大学院を卒業。

 

正式に労働ビザを取得して、自分に対して初めて払った給料で飲んだ生ビールの何て美味かったことか。大きな会社に所属していると、自分の成果なんてはっきり分からず、目に見えにくいものです。でも、起業した自分の会社なら、間違いなく自分の働きで得た収入だと実感できます。あのビールの味は一生忘れないでしょう。

 

そして、2006年1月にNYにトランスインサイトを設立しました。それからあっという間に14年。その間、いろいろな方にお世話になり、ご迷惑をかけ、面白いこと、大変だったこと、いろいろありました。その中で痛感した(体験的に確信している)ことは、人生も事業も計画通りにはいかないということです。良い意味で。

 

もちろん、企業経営者として会社を回す最低限の売り上げだとか、キャッシュフローとかには気を付けないと会社が潰れちゃいますから、それは大前提です。ただ、昨年比で売り上げをX%伸ばすとか、事業構成や競合を見てポテンシャルがありそうな領域を探すとか、最初はそういう経営計画っぽいことを考えたりしてたんですけど、途中からやらなくなりました。意味がないことに気づいたんです。特に僕みたいに実質的に個人事業主として仕事している人間には。

 

事業的な展開が大きく拓かれるのって、結局僕の経験的には出会いしかないんですよね。しかも、新たな展開とか可能性って、自分が気づいていない領域からくることが多いもので、自分の想像力の外にあるんですよね。だから、そんな意味ある出会いは計画できないわけです。

 

なので、僕は途中から厳密な目標設定をやめて、自分の行動の中で「出会いを導くプリンシパル(原理原則)」を守るようにするようになりました。3つしかない、とてもシンプルなものです。

 

原則 損得より使命感重視

仕事は、突き詰めれば「自分の命を何に使うか」という取捨選択ですが、起業家であれば、自分は何のために起業したのか言語化できているはずです。でも、「やるべきでない」けど「お金になる」領域の仕事って結構あるんですよね。でも、そういうのに手を出して使命感が伴わない仕事ばかりしてると、本当に必要な出会いってやって来ないんですよね。

 

原則◆Я蠱未気譴訖祐屬砲覆

僕にとっては「相談される」ことが仕事の重要な部分を占めているのですが、そういう立場を創るのって、結構大変です。経験的に「相談される総量」が増えると、仕事の相談も増えていくようです。そのために、仕事の相談はもちろん、仕事にならない知人や学生からの人生相談にも喜んで乗るようにしています。事故や災害などで「ヒヤリ・ハットの法則」というのがあると思うんですけど、あれと似ていますね。仕事になる相談が1つ来るためには、仕事にならない相談がいくつもあるみたいな。

 

原則:本気でやる

手抜きしない。嘘つかない。全力でやる。当たり前のことですが、これを続けるのは簡単ではない。また、原則,箸盍慙△靴泙垢、使命感を感じられる仕事でないと本気にはなれないものですよね。あとは、本気でやる相手と組むというのも大切ですね。本気でやっている人達には、本気の人が集まってきます。

 

経験的に、この3つの原理原則を守っていると、自分の計画(イマジネーション)より遠くに楽しく行けます。結局、自分の使命に忠実に全力で生きていると、それまで見えなかった流れが見えてくるんですよね。これが最大の経営サバイバル術だと思ってます。

 

ということで、2020年もよろしくお願いします。

今年もまだ見ぬ同志との出会いを楽しみにしています。

 

Trans Insight Corporation

President

鈴木友也

スポーツ施設建設によるジェントリフィケーションって何?と思った時に読む話

これから日本でいわゆる“稼げる施設”が建設されるためには、地方自治体がスポーツ施設建設による「ジェントリフィケーション」を理解し、施設建設をその手段として活用する投資マインドが生まれるかどうかにかかっていると思います。多分、数年後の日本のスポーツ界では「ジェントリフィケーション」がキーワードになっているはずです。  

 

「ジェントリフィケーション」(Gentrification)とは、日本語では「中産階級化」「高級化」などと訳されるようですが、要は都市の再開発や新しい産業の発展などがきっかけとなり、それまで荒廃していた地域に経済的に豊かな層が流入して地域住民や企業の構成が変わることを言います。  

 

今、日本スポーツ界で“稼げる施設”建設の流れをけん引しているのは、北海道日本ハムファイターズやV・ファーレン長崎、千葉ジェッツら民間企業が主導する(地方自治体が資金調達に直接的に関与しない)「民設施設」のスタジアム・アリーナ計画です。しかし、今後全てのプロジェクトがこれらのように民間主導で建設費を全額調達できるわけはなく、税金の投入を前提にした(地方自治体が資金調達に関与する)「公設施設」において、PPP(官民パートナーシップ)が資金調達の中心的な役割を果たせるようにならないといけません。  

 

ところが、現在そこで大きな壁になっているのが、多くの公設スポーツ施設を保有している地方自治体のスタンスです。スポーツが教育のツールとして発展してきた日本では、歴史的にスポーツ施設は国民(競技者)の心身を鍛える場として設置されてきた経緯があります。戦前は国民の体力低下を憂えた陸軍の提唱で、「総合運動場」が各地に設置されていきました。そして、戦後も国体がこの動きを踏襲してきたわけです。  

 

要は、日本のスポーツ施設は歴史的に観戦者(顧客)を想定しておらず、事業的発想はなかったわけです。ですから、それを管理する自治体にしても金儲けのセンスなど全く求められていなかった。施設保有者としての自治体が気を使うのは、施設使用時の平等性や公平性を担保することだけでした。これが、日本に“稼げる施設”がほとんどない理由です(だから、自治体の人が悪いわけではありません)。  

 

それが、アベノミクスでGDPを増やす必要から、それまで住民サービス(コストセンター)の拠点として運営されてきたスポーツ施設に、一転して“稼げる施設”(プロフィットセンター)として事業的センスが求められるように風向きが180度転換してしまったのです。だから、自治体がこの動きにすぐに着いていけないのも、ある意味致し方ないと思います。100年かけて作られたDNAがたった数年で変わったりしません。ここをうまく変えていけるかが“稼げる施設”を日本で増やしていけるかどうかの大きなポイントの1つになると思います。  

 

米国でも、日本同様に多くのスポーツ施設は地方自治体により保有されています。メジャーレベルの施設ですと、約7割の施設は税金が投入された「公設施設」で、しかも日本とは対照的にこれらは顧客体験に配慮され、高収益のプレミアムシートが多く設置された最新鋭施設で、巨額の収益を生み出しています。同じ自治体保有なのに収益性が大きく違うのは、施設保有者としての自治体のスタンスが全く違うからです。  

 

しかも、施設のP/Lを調べてみると、実は米国でも公設施設で黒字化しているのはあまり多くないことが分かります。巨額の収益を生み出すのに、なぜ黒字にならないのか?それは、施設から生み出されるほとんど全ての事業収入がテナント(施設を利用するプロ球団など)に分配されてしまうからです。米国では、テナントと施設保有者だと、テナントの方が交渉力が強いんですね。  

 

ではなぜ、米国では地方自治体が多額の税金を投入してまで黒字になりにくいスポーツ施設を建設するのでしょうか?それは、ジェントリフィケーションが起こるからです。  

 

言い方を変えると、自治体は施設からの直接的な事業収入を施設建設のメリットとは考えていないのです。それより、自治体が欲しいのは、都市の再開発を成功させることで固定資産税や消費税の増収や新たな雇用の創出、住民のQOL向上、都市のブランド向上といったメリットなのです。こうしたメリットは、ジェントリフィケーションによって新たな産業が興り、人々が集まることで賑わいが生じ、結果的に地域が活性化することで長期的にもたらされることになります。  

 

日本には、自治体が意図的なジェントリフィケーションを狙ってスポーツ施設の建設を計画した事例はまだほとんどないはずです。ですから、前例主義の自治体にこの投資サイクルを理解してもらうには、まずは民設施設で結果を出すことがファーストステップになると思います。ファイターズの新球場建設によって北広島市の税収が大きく伸びたり、北広島市が北海道で住みたい街ナンバーワンになるといった結果がでれば、それに興味を示し、似たような取り組みを始める自治体が出てくるはずです。1つでもそういう自治体が出てくれば、公設施設にも稼げる施設が拡大していくきっかけになるでしょう。  

 

ところで、ジェントリフィケーションを起こすのは、もちろんスポーツ施設建設だけではありません。例えば、今(どちらかというと悪い話として)話題になっているのは、サンフランシスコで起きているジェントリフィケーションです。シリコンバレーのテック企業が業容を拡大すると高給のエンジニアなどが増え、物件価値が急騰したため、それまでの住人が家賃を払えなくなってホームレスになっているのです。日本でもニュースになっていましたが、SFでは年収約12万ドル(1400万円)でも低所得者に分類されるそうです。。。  

 

僕も今月頭にSFに出張する機会がありました。1年ぶりくらいにSFに行きましたが、路上にはホームレスがあふれ、さながらBatmanのゴッサム・シティや北斗の拳の世界のような荒涼とした風景が広がっていました(多少大袈裟に言ってますが、雰囲気は近い感じでした)。これにはちょっとびっくりしました。SFはもともとホームレスが多い街ですが、先日目にしたのは(最近まで普通にアパートに住んでいたと思われるような)それなりに身なりの良い人が登山用のテントなどで路上生活している光景でした。先日、60 Minutesでもホームレスが急増したシアトルの様子が取り上げられていました。シアトルもマイクロソフトの本社があったり、Amazonが最近新社屋を建てたことが話題になりましたよね。  

 

ですから、ジェントリフィケーションは良い話だけではないのです。Amazonばかり悪い例に用いて恐縮ですが、AmazonがNYのLong Island Cityに東海岸のHQを建設することが決まった直後から、住環境の悪化を懸念する住民の反対運動が起こり、結局HQ建設は中止されてしまいました。僕も3年前にUpstate(NY州の北の田舎)に引っ越す前はLICに住んでましたが、住人だったらあそこにAmazonが来るのは嫌だったろうなと思います。地下鉄はさらに混むでしょうし、家賃も上がるでしょうから。  

 

と、こうした話題を半ば他人事のように聞いていたところ、先日ジェフ・ベゾスが僕のオフィスが入っているビルの向かいのアパートに引っ越してきたというニュースを知ってびっくり。なんでも、ペントハウスとその下の2階の3フロアを約8000万ドル(88億円)で購入したとか。  

 

僕も今では「NoMad」(North of Madison Sq.の略)と呼ばれるようになったこのエリアに2006年からオフィスを構えてますけど、当時はこの一帯は問屋街で、少し雑然とした下町風情のある地域でした。それが近くにAce HotelのようなブティックホテルやEatalyのようなマーケットプレイス、多数のレストラン・バーなどができ、ここ4〜5年で問屋はどんどん駆逐されていきました。オフィスの家賃も倍以上になりました。。。  

 

ベゾスが越してきたアパートなど、長い間誰も使っていない廃墟のような無人ビルだったのを、つい数年前にリノベしてリオープンした物件です。まさにジェントリフィケーションを身をもって体験しているわけですが、オフィスの家賃がさらに高騰しないことを祈るばかりです。

スポーツは音楽業界とは異なるチケット再販モデルを志向すべき

今月14日にチケット不正転売禁止法が施行されました。簡単に言うと、興行主が「特定興行入場券」に指定したチケットは、興行主の許可がない限り転売が違法になるというものです。

 

この法律の成立には、いわゆる「転売ヤー」の取り締まりを求める音楽業界の意向が強く反映されているようです。しかし、結論から先に言えば、スポーツ界はチケット再販では音楽業界とは異なる道を模索し、音楽業界とは差別化した再販モデルを志向すべきだと思います。なぜなら、チケット販売モデルが音楽業界と異なるからです。

 

チケット再販の日米の違いについては、以前日経ビジネスにも寄稿しました。

 

日経ビジネスのコラムでも指摘しましたが、音楽業界との最大の違いは、スポーツ業界の商品(チケット)の反復性が非常に高い点にあります(同じ顧客層をターゲットに同じ興行主が同じ市場で同じ商品を売る)。プロ野球なら年間140以上の試合があり、ホームゲームは70試合以上もあります。

 

著名なアーティストでも、全国ツアーという形で場所を変えて公演を行うのが普通です。同じ会場で年間70回以上も公演を行うアーティストなんてまずいないでしょう。

 

こうした興行形態の違いから、チケットの販売手法も音楽業界とスポーツ業界では大きく異なる部分があります。端的に言えば、シーズンチケット保有者(Season Ticket Holder=STH)の存在やその重要性です。

 

スポーツの主な興行収入にはチケット収入以外に、協賛収入やテレビ放映権収入、グッズ・飲食収入などが挙げられますが、チケットが売れることが、それ以外の収入源が潤う前提となります。つまり、チケット販売はその他の収益源にキャッシュという血液を循環させる心臓のような役割を担っています。

 

そのチケット販売の中でも、最重要顧客となるのがSTHです。公式シーズンが始まる前から全試合のチケットを購入してくれる(1試合も開催される前から球団にキャッシュインしてくれる)STHの存在は、球団経営に大きな安定をもたらしてくれます。

 

スポーツ興行の最大の特徴であり難点は、商品の品質を保証できない点にあります(必ず勝つチームは作れない)。こうした不確定要素が前提のスポーツ興行では、1試合毎に単券を販売しているだけでは、チームのパフォーマンスや天候リスクを十分に回避できず(チームの成績が落ち込んだり、天気が悪いとチケットが売れなくなる)、球団経営の一丁目一番地であるチケット収入が安定しなければ、他の収益源も含めたトータルでの球団経営の安定性・継続性が損なわれます。

 

言い方を変えれば、こうしたリスクを承知の上で全試合のチケットを購入してくれるSTHは球団にとって最も大切にすべき顧客であり、STHの比率を高めるとともに、彼らに最大の利益を提供することが事業戦略上極めて重要になるわけです。

 

つまり、スポーツ業界がチケット再販モデルを設計する上でより重視しなければならないことは、転売ヤーの取り締まりではなく(これが重要ではないという意味ではありません)、STHへの最大利益の提供なのです。

 

米国のメジャースポーツでは(競技や球団にもより違いはありますが)、観客収容数の5〜8割程度はSTHであるケースが一般的です。チケット販売でも、シーズン開幕前はとにかくシーズンチケットを中心に販売し、開幕後はグループチケット(団体を相手にしたチケット)やパッケージチケット(複数の試合を組み合わせたチケット)、企画チケットを販売し、最後に単券を売るというのが基本的な販売戦術になります。

 

一方、日本の場合はSTHをメインに据えた販売が必ずしも行われておらず、どちらかというと球団はファンクラブ中心にチケットを売っているケースが一般的でしょう。そのため、日本のプロスポーツ界ではSTH比率は多くても2〜3割程度と言うのが私の感覚値です。STH比率が低いのは、球団が慣習的にチケット販売をプレイガイドに委託してきた歴史とも関係があるように思います(話が逸れるので、これは別の機会に)。

 

こうした現状の日本のスポーツ界にとって、チケット再販制度の整備は、「将来的にどのようなチケット販売戦略を考えますか?シーズンチケット販売モデルを志向しますか?それとも、従来通り単券販売モデルで行きますか?」という問いに等しい訳です。しかし、僕の知る限りスポーツ界でこうした議論が十分に行われた形跡はあまりなく、盲目的に音楽業界がリードする現行のチケット再販モデルに追従してきたような印象があります。

 

半年前に全試合のチケットを買ってくれた人と、今日チケットを1枚買ってくれた人の球団経営における重要度は異なります。スポーツ興行では、STHをより買い求めやすい環境を作る一貫として、いつでも行けなくなった試合のチケットを再販できる仕組みを用意しておく必要があるのです。購入額より高い金額で再販できてむしろ当たり前です。今日の100万円と半年前の100万円では価値が異なるのと同じことです。

 

チケット不正転売禁止法では、興行主が「特定興行入場券」に指定した場合、入場時に本人確認を実施することが努力義務として求められています。しかし、本人確認が厳しく(面倒に)なればなるほど、再販しづらくなるSTHへの提供価値は下がります。スポーツ界はSTHの存在という特殊性を理解し、このトレードオフの関係を上手くバランスできる独自の再販モデルを志向すべきでしょう。

 

米国では、NFLは既に昨シーズンから紙チケットを全廃してデジタルチケットに完全移行していますし、他のメジャースポーツも今から1〜2年程度でチケットは全てデジタル化されるようなスピード感で動いています。米国の様に、「スマホで正規のチケットを保有していれば本人と見なす」程度で僕は十分だと思います。もっと言えば、公式シーズンのチケットは、特定興行入場券の指定すら不要かもしれません。

 

日本のスポーツ界は音楽業界とは異なる道を模索し、STHの最大利益に配慮した流動性の高い、顧客志向の独自のチケット再販モデルを志向すべきだと思います。

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