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TNFを観て戦力均衡を思う

普段はあまりThursday Night Footballを観ることなんてないんですけど、昨晩のカードがNY Jets対Cleveland Brownsだったので思わずチャンネルを合わせてみました。Jets対Brownsと聞いてピンと来たあなたはかなりのNFL通です。そう、これは今年のドラフト1巡QB対決なのです。

 

TNFは、ファンの間では導入以来もっぱら不評なのですが、なぜかと言うと前節の試合から中3日しかないため、コーチ陣や選手が十分な休養や準備のための時間が割けず、クオリティーの低い試合が多いからです。なので、TNFの放映権はババ抜きみたいになっちゃってまして、OTTの実験場に使われたりしています。

 

昨年なら、はっきり言ってJets対Brownsなんて誰も観たくないような試合です。なにせ、Brownsは2016年シーズンから引き分けを挟んで18連敗中で、不振を極めていました。一方、私の地元のJetsも毎年QBの育成に失敗し、シーズン途中で失速というパターンが映画のように繰り返されていました。

 

しかし、今年4月のドラフトでBrownsは1巡1位でOklahomaからBaker Mayfieldを獲得、Jetsも1巡3位でUSCからSam Darnoldを獲得しました。つまり、昨日の対戦は今年ドラフトされた上位2QBの戦いだったわけです。JetsのDarnoldは初戦から先発を任されていたのですが、BrownsはBillsからトレードで獲得したTyrod Taylorを初戦から使い、Mayfieldには育成期間を設ける方針だったようです。しかし、昨日の試合ではTaylorが第2Qで負傷したため、予期せぬ形でMayfieldのNFL初戦になりました。

 

試合の方は、初戦から新人離れした落ち着いたパフォーマンスを見せるDarnoldがこの日も難なくオフェンスを指揮し、Mayfieldが投入された前半残り1分42秒の時点で14-0でJetsがリードしていました。しかし、Mayfieldが入ってオフェンスのリズムが変わったBrownsは試合終了前にフィールドゴールを決めると、後半も得点を重ね、試合終了まで残り47秒でJetsを逆転し、そのまま14-17でBrownsが勝利を収めました。

 

試合展開自体も非常にスリリングだったのですが、去年までカレッジフットボール界を賑わしていた2人のQBがBrownsとJetsという不人気チームを一夜にして立て直してしまうダイナミズムに舌を巻きました。これぞ、ウェーバー制ドラフトの真骨頂というところでしょう。日本のプロ野球もドラフト1巡の入札抽選を止めるだけでかなりの戦力ダイナミズムが生まれるだろな、なんてことを思った木曜日の夜でした。

アラフォー男子のeSports初観戦記

ここ数年、どこのカンファレンスに出ても「eSports」のワードを聞かない事はありません。コンサルタントとして「語るからには実体験せねば」ということで、機会があれば観に行こうと思いつつ、なかなか身近で開催している大会がなく機会を窺っていたわけですが、インターンのJ嬢に地元のBarclays Centerで開催されることを教えてもらい、ようやく初観戦に至りました。

 

<観戦したゲーム>

観戦したのはOverwatchという対戦型ゲームで、世界中に約4000万人のユーザがいるそうです(2018年5月現在)。Overwatchは2016年5月に米Blizzard Entertainment社が発売したゲームで、今年からMLG(Major League Gaming)と組んで「Overwatch League」(OWL)というリーグ戦を開始しました(ちなみに、Blizzard/MLGともにActivision-Blizzardという会社に保有されています)。

 

OWLは12チーム(米国9、韓国・イギリス・中国からそれぞれ1チーム。各チーム先発6名)から成り、1月から6月まではLAのBlizzard Arenaを拠点に公式戦を戦い、7月にプレーオフと決勝戦が開催される流れになります。公式シーズンは4ステージで構成され、各ステージでトップのチームに12万5000ドルの賞金が支払われるほか、公式シーズン全体の成績により2万5000ドル〜30万ドルの報酬がチームに支払われるそうです。プレーオフは上位8チームが進出し、優勝チームには100万ドルの優勝賞金が提供されるなど、賞金総額は350万ドルとのこと。

 

今回観に行った試合は7月28日(金)に開催された優勝決定戦「Grand Finals」の1試合目で、優勝チームは翌日の第2戦の結果とのトータルで決まるようです。まあ、MLBに例えればWorld Series、NBAならNBA Finalsの初戦を観戦したというイメージです。

 

OWLは所属12チームが各都市にフランチャイズを置く閉鎖型モデルを採用しており、eSportsで一般的な昇降格制度を伴う開放型ではないようです。米国でプロリーグが組織されるとサッカーもeSportsも閉鎖型になっちゃうのは面白いところです。

 

<観戦者のゲーム歴>

ちなみに、私45歳男ですが、小学生低学年の頃は地元のゲーセンでインベーダーゲームやパックマンをするなど、割とゲームが身近な環境で育ったように記憶しています。初代ファミコンが登場してファミスタやゼビウス、ドラクエなどに一通りハマりましたが、中学生になって部活が忙しくなって以来、ゲームとの接点はプツリと無くなって今に至ります。少なくとも30年以上はゲームから遠ざかっていた中、いきなりeSportsの観戦となりました。

 

全く予備知識のない中でのeSports観戦もいかがなものかと思い、試合当日の開始3時間前くらいになってオフィスでJ嬢とWikipediaやYouTubeなどでゲームの世界観やルールなどを慌てて勉強しだすも、展開や登場人物が複雑すぎて途中で心が折れ、二人ともほとんど無知なままぶっつけ本番の観戦となりました。

 

<Barclays Centerの様子>

30分前到着を目標にするも地下鉄の遅れでBarclays Centerに着いたのは試合開始15分前でした。アリーナの外はNBAの試合前のような混雑はなく、少し拍子抜けした感じでしたが、アリーナに入場しコンコースから座席エリアに入ると、熱狂的なファンで既に会場が埋め尽くされており、その熱気に圧倒されました。「なんじゃこりゃ」という感じです。

 

 

 

 

バスケ時に約1万8000名を収容するBarclays Centerですが、eSportsの場合はコンサート仕様と同様に一方にステージを設営するため、使えなくなるステージ裏の席と、フロアに追加設置される仮設席を相殺してキャパは約1万7000席程度のようです。フロアと1階席はほぼ埋まっており、2階席は半分くらいの入りだったので、全体で1万人ちょっとの動員だったような印象です。

 

ちなみに、チケットは全席自由で(フロア席だけ違うカテゴリだったと思いますが、1階と2階は行き来自由)、早い者勝ちです。3週間前に購入しようとした時には既に売り切れていたため、StubHubで1枚80ドルちょっとで購入しました。

 

<ゲーム展開>

ゲームは5つの異なるステージを攻守交替で行う形でした。1ステージ20〜30分程度かかり、各ステージの間には5分くらいインターミッションが入ります。こう説明すると、野球に似ていなくもないですね。

 

試合開始前にはチーム紹介があり(そういえば国家斉唱はありませんでした)、MCが居て1試合を通して会場を盛り上げます。MCとは別にDJもいて、ステージ間のインターバルなどはクラブのような感じでイケイケの曲をかけて雰囲気をヒートアップさせます。Tシャツトスなんかもやってました。この辺はNBAをもう少し賑やかにしたような感じです。

 

試合の模様はTwitchでも無料で生中継されており、25万人前後のアクセスが確認できました。ちなみに、翌日の決勝戦第2戦はESPNで生中継されてました。これをESPNが生でオンエアしちゃうのかと、ちょっと衝撃でした。

 

 

 

<通常のスポーツ観戦・興行との違い>

1)ゲーム経験者と未経験者の間の断絶

OWLを実際に観戦してみて痛感したのは、ゲームをやったことがないと全く盛り上がりに着いていけない点です。これはゲームの種類によっても違いがあると思いますが、今回観戦したOverwatchに限って言えば、アリーナのビジョンにゲーム展開は大きく表示されているので場面を見逃しているわけではないのですが、それでもやはり何が起こっているか全く理解できず、残念ながら最後まで周りの熱狂に溶け込むことができませんでした。

 

 

従来的なスポーツの場合、例えば野球やサッカーをやったことがない人でも、場外ホームランやセットプレーからの華麗なゴールなどを見れば、「すげー」と感激する場面があり、プレーの感動を共有することができると思うのですが、eSportsの場合これが比較的難しいのではないかと感じました。従来的なスポーツの場合は、プレーヤーの身体性自体が観戦対象であり、そのレベルの高さに観客は魅了されるわけですが、eSportsの場合は画面の中のプレーヤー(キャラクター)の身体性そのものというよりは、それを操作するゲーマーの技が観戦対象になるので、その技がどれだけ凄いのかが分からないと盛り上がれないのです。

 

米国プロスポーツ業界は最近5〜10年で「競技を見せる場」から「競技+アルファを楽しめる場」にそのValue Propositionを大きくシフトさせてきています。個人的に、その達成度を測るには「その競技を全く知らない人が来ても楽しめるかどうか」が一つの目安になると考えています。この尺度でeSportsを評価してみると、(Overwatchを知らない自分があまり楽しめなかったことが象徴的ですが)競技を知っている人と知らない人の間に大きな断絶があるのは、通常のスポーツ観戦との大きな違いかもしれません。

 

2)ゲーム会社主導の興行体制

特定のゲームタイトルをベースに大会を組織せざるを得ないのもeSportsの特徴です。今回観戦したOWLはBlizzard Entertainment社が開発したゲームを使い、MLGの協力でリーグ戦が実現しているだけですが、前述のように両社は同一オーナー会社に保有されています。つまり、こうしたスキームからどうしても特定企業の存在感を感じざるを得ず、「どうせゲーム会社のプロモーションに上手いこと乗せられてるだけでしょ?」という見方を否定できないのです。

 

また、テレビ中継やネット配信などでは、MCのトークやDJの盛り上げなどはあるにせよ、大部分はゲーム展開をそのままオンエアしているわけですが、当然ゲーム自体の知的財産権はゲーム会社に帰属しています。OWLのように、タイトルゲームの開発元とリーグ戦の興行主が同一であれば問題ないですが、これが異なる場合に、試合中継やその周辺コンテンツ(Pregame、Aftergame、応援番組などのコンテンツ)の放映権は誰が保有するのかは、まだグレーゾーンなのではないでしょうか?韓国などでは、訴訟も起こっているようです。

 

<想定されるKSF>

eSportsを大きな市場に育てていこうと考えた場合、前述のように「ゲーム経験者と未経験者の間に大きな断絶がある」ことが大きなハードルになるように思えます。

 

断絶を超える方向性としては、「ゲーム経験者を増やす」か、「ゲーム未経験者からも共感の得られやすい(見て分かりやすい)ゲームタイトルを選ぶ、あるいは会場全体としてそのような訴求価値を目指す」、の2つが大きくありそうです。前者は正論ですが(アメフト市場を拡大するには、アメフトのルール理解者を増やすべきだ、という主張に似ています)、これはマイナースポーツが陥りやすい罠で、実はなかなかすぐに成果が出にくい部分です。特にeSportsの場合は特定のゲーム会社の利害に直結するところも、単純に「ゲーム経験者を増やそう」という主張が響きにくいところではあるでしょう。

 

まあ、両方やって行くんでしょうけど、個人的には後者のアプローチに力を入れるべきかなと感じます。

 

ゲームを知らない人にも楽しんでもらえるには、前提条件として良いアリーナがあるのは必須でしょう。正直、ゲームを見せるだけだと間が持たないので、音楽や映像などで盛り上げないと単調になってしまいそうです(アリーナスポーツとの相性は抜群ですので、NBA球団が躍起になってeSportsチームの買収に走る気持ちは良く分かります)。

 

もう1つは、言葉の問題も市場を定義する上では大きな壁になり得ると思います。eSportsの場合、オンラインで予選や大会を開催することもできてしまうので、それを良く捉えれば国境などにとらわれずにボーダレスに興行することが可能です。ただ、(個人的には勉強不足で一般的な興行形態をよく知らないのですが)、例えば日本の大会を日本語で行うとした瞬間に世界(英語)のeSportsマーケットから取り残されてしまうような状況になり得るのではないかなとも思います。

 

今回、Barclays CenterでOWLを見た印象では、英語圏ではそれなりの市場やエコシステムが既に存在しているように見えるので、ゲーム経験者のみを前提としたマーケットだけでクリティカルマスが取れて事業として成立してしまうかもしれないものの、日本語だけだと十分な市場を確保できないという事態に直面するかもしれない、少なくとも英語圏に根付いた事業よりは不利だろうなと言う印象を受けます。

 

これは、ある意味今日本のサッカー界が直面している課題と共通するかもしれませんが、ヨーロッパのようにコアサポーターだけをターゲットにして毎試合6万人の観客が集まるほど市場が大きければ(成熟していれば)問題にはならないのですが、そうならない場合に、サッカー先進国のファン開拓はあまり日本の参考にならないのです。

 

こう考えると、日本を軸に日本語で事業展開する場合は、よりゲーム未経験者(カジュアルファン)からも共感を得られやすい日本独自の環境を整備しないとビジネスとしては苦しくなるかもしれません。

 

あと、細かいところですけど、今回優勝したLondon Spitfireのプレーヤー(ゲーマー)はほとんどが韓国人だったんですけど、試合中のプレーヤーの音声をステージ間のインターバルでオンエアするなど盛り上げる努力はしていたものの、そもそも会話が韓国語で、通訳や字幕が付くわけでもなく、「おー、何か真剣に声かけあってやってるな」とは思うものの、何を言っているのかサッパリ分からず、とても残念な感じだったので、こうしたところの多言語対応などもあれば良いなと感じました。

 

以上、初観戦記として書いてみましたが、ぼとんどeSports初心者でまだまだ勉強中ですので、的外れなことを言っていたらご指摘頂けますと有難いです。

海外視察を成功させるには

日本企業がシリコンバレーで嫌われているというのは有名な話なのですが、同じようなことがヨーロッパでも起こってるみたいです。

 

日本企業は「お勉強」海外視察を撲滅せよ。日本人は相手の時間奪う意識が希薄

一番の問題点であり、その他の問題を引き起こす真因でもあるのが「目的意識の欠如」です。視察希望者の70%くらいは「こういうことをするために、こういう企業を訪問して、こういう話を聞きたい」といった、具体的な目的を持っていません。

 

受け入れ先の時間と人的コストを使って情報をもらっているにも関わらず、テイクばかりでギブができない。だから「また日本人か」と言われてしまう。なので最近は視察の依頼を断るケースさえあります。僕なりの「無駄な視察撲滅運動」です。

 

僕も海外研修のコーディネートをやらせて頂いたりするので、記事の吉田さんの気持ちはとても良く分かります。

 

ちょうど先週、某プロ野球球団の海外研修で西海岸にいたのですが、このアレンジでいろいろと思うことがありました。この球団はもうかれこれ10年くらい毎年ミドルマネジメント層向けに海外研修を実施しており、かなり視察慣れしているので目的の明確化やその後のTakeawayの活用方法などは組織内で十分検討のうえで視察を実施しています。今年は従来と少し趣向を変えて、スポーツの領域以外にも目を向け、西海岸のIT企業も視察先に加え、彼らのマネジメント手法や事業開発思考なども参考にできないかという話になりました。

 

アポイントメントの調整は、同じ競技どうし(日本のプロ野球球団がMLB球団を訪問するようなケース)なら比較的容易です。特に選手の日米交流があるような競技は既にスカウトどうしで協力関係があったりするので、相手側もよっぽど都合が合わない場合を除いてだいたい快く会ってくれます。競技が異なる(プロ野球球団がNBA球団を訪問するなど)と少し難易度は上がります。

 

今回、プロ野球球団がIT企業にアポを入れるということで、全く異なる畑に足を踏み入れることになりました。結果的に、AmazonさんとZapposさんの視察はできたのですが、それ以外にもいくつかのIT企業に面会依頼をしていたのですが、こちらは見事に断られてしまいました。

 

理由はほぼ共通してて、「自分の企業にとって面会する直接的なメリットがない」から。ここまではっきり言われると逆に気持ちいいですけど(笑)、先方としてはビジネスにつながる可能性があるか、それがない場合は拘束時間に対する従業員の収入逸失分を謝礼という形で補償しない限り、基本的に面会には応じてくれないようです。

 

東海岸だと、断るにしてもこう少し婉曲的に言ってくれたりするんですけど、やはりシリコンバレーに代表される西海岸のベンチャー気質は違うなぁと、変に感心してしまいました。こういうカルチャーは、終身雇用がまだ色濃く残ってて、時間と成果で生産性を厳密に管理しない日本ではピンと来ないかもしれませんが(なので、日本の大手上場企業がシリコンバレーを訪問するなどという場合が、実は一番危険なのです)。

 

Zapposさんなんかは、世界中から視察が殺到しているらしく、逆に視察・面会への対応を1つの事業にしてしまっています。Zappos Insightsという関連会社を設立してて、面会は30分で参加者一人につき250ドル、1時間350ドルで受け付けています。安くない金額ですが、これで向こうも訪問者をスクリーニングしているのだと思います(単なる興味本位の訪問者の排除)。まあ、お金で解決できるなら、ある意味コーディネーターとしては楽なんですけどね。ちなみに、今回は6名で訪問したので、1時間の面会に2100ドル(約23万円)支払いました。

 

それにしても、Zapposは衝撃的な企業でした。視察前にNDAにサインしているので、残念ながらその情報を共有することはできないのですが、完全な自由主義の裏に、それはそれはとてもとても厳しい成果主義が徹底されていました。ほとんど宗教団体のような企業でしたね。

 

海外視察を成功させるために会社としてやらなければならないことは、非常にシンプルです。とにかく事前に質問項目をできるだけブラッシュアップしておくことです。これは2つの意味で重要です。

 

まず、良い質問は、訪問先のことをある程度理解していないと出てきません。公式サイトを見て基本的な事業内容を理解し、自社との違いが何かのか考えてみるとか、財務情報をIRのページから入手して事業構成や売上比率を押さえておくとか、最低その位はやっておかないと良い質問はできません。英語が分からないなら、専門家を呼んで日本で事前勉強会をやっておくのもよいでしょう。

 

良い質問、深い質問を考えるためには、それなりの準備を強いられますが、まずはこれがとても重要だと思います。

 

2つ目は、ある程度詳細な質問項目を用意し、事前にそれを訪問先に渡しておけば、Right Personに面会できる可能性が高まり、場合によっては関連資料なども事前に準備してくれたりもします。1時間の面会としても、通訳が入れば実質的にヒアリングできる時間はその半分の30分しかありません。この短時間の勝負に勝つには、事前準備が欠かせません。1時間の面会なら、最低でも質問したい事業領域(大項目)に応じて各10個程度の大まかな質問項目(中項目)を用意し、できれば各質問項目をもう少し詳しく落とし込んだ具体的な質問(小項目)にまで整理できていたらベターです。

 

最悪なのは、「ざっとこんな感じの話が聞きたい」という風に曖昧に視察目的を伝え、「あとは現地で何とかなるでしょ」というスタンスで視察に臨むケース。こういう場合、いざ面会になっても「御社の基本的な事業内容を教えて下さい」みたいな、「そんなの自分で前もって調べとけよ!」(コーディネーターの心の声)というような質問をするため、経験的にあまりいい面会になりません。事前にお願いしていた質問領域と全然違う質問をしたりすると、そもそもそれに答えられる人が出席していないというミスマッチも起こりやすくなります。

 

逆に、深い話に至ったり、「実はここだけの話だけどね」というマル秘情報を教えてもらえたりするのは、向こうが「こいつらなかなか勉強して来てるし、その熱意に何とか応えたい」って思ってもらえるようなケースなんですよね。あとは、財務情報などの数値は向こうも敏感なので、質問する際に一方的に質問するよりは、「うちは総収入がX億円で、うちY事業の収入比率がZ%なんだけど、御社は?」みたいに聞くと、向こうも数字を言ってくれやすくなります。

 

僕は、1つの目安として「相手に“That's a good question”と言われたら勝ち」という風にクライアントに伝えるようにしています。アメリカ人は自分が知らない事や、考えたことのないことを聞かれると大体「That's a good question」と言うので、そこまで鋭い質問ができたらこちらの勝ちなのです。

 

あと、これはクライアントにはあまり話さないことですが、日本企業の立場からは「一期一会」なのですが、コーディネーターは視察先組織と日常的な接触があるケースが多いので、あまりにも雑な視察をする企業は連れて行きたくない、というのがコーディネーターの本音です。「こいつが連れてくる日本企業はロクなところがないな」と思われてしまったら最後だからです。

 

そうならないようにするには、1)少なくとも事前に十分準備した状態で視察に臨み、相手に失礼のない質問をする、2)できれば面会時に相手の参考になるような情報をこちらから提供することも心掛け、その場でギブ&テイクを成立させる、ことが重要になります。2)は理想ですが、そこまでできる企業はあまりないので、コーディネーターがクライアントに見えないところでギブ&テイクの関係を上手くバランスさせていることが多いと思います。そのようにして、自ら身を守ることができるかどうかも、コーディネーターの実力の1つと言えるかもしれません。

 

僕もいろいろな視察のお手伝いをしていますが、Outputを強いられた視察というのは、もう参加者の覚悟が全然違います。「とにかくここで何かを掴まないと帰れない」という決意があります。逆に、「お勉強」目的の視察だと、どうしても主体性がなくなりがちで、お客様気分(来たくて来たのではなく、会社に連れてこられた感)が抜けません。

 

まあ、現実には「期末で予算が余ったから」とか「いつも頑張ってるからご褒美で」といった理由で海外視察に来るケースもありますから、全ての視察をストイックに進めて行くというのは無理でしょうが、少なくとも視察先の時間を奪っているという感覚を持ち、失礼がない程度の準備はしておいて欲しいというのが、(僕も含め)多くのコーディネーターの心の声だと思います。

スポーツ界の“やりがい搾取”に気をつけよう

今年も新社会人がフレッシュな息吹を組織にもたらしてくれる季節を迎えました。うちのインターンOB/OGの中にも、今年新社会人になるのが何人かいます。彼らの社会への門出を祝うとともに、これからの長い人生で、社会に価値を創出しながら自分のやりたいことを実現し、固有の居場所を作ることができるように応援したいと思います。

 

さて、そんな新陳代謝がもたらされる季節であることを鑑み、SBAでも4月24日にこんなセミナーを実施します。以前から理事の間で是非やりたいと話していたものです。

 

スポーツ界で活躍するために20代で必要なこと 〜間違いだらけのスポビズキャリアの作り方

スポーツビジネスは「夢の仕事」(Dream Job)とも言われ、2020年の東京オリンピックの開催もあって多くの若者が一刻も早くこの業界で働きたいと躍起になっている。各地で有志の情報共有会や勉強会が開催され、多くの大学や教育機関がスポーツビジネスコースを提供している。

 

しかし、「いち早く業界で働くこと」と「業界で活躍すること」は似て非なるものだ。今や人生100年時代とも言われ、ビジネスパーソンとしての活動期間は半世紀にも及ぶ。そんな長期戦に臨むに当たり、夢だけ膨らませて何とかスポーツ業界に潜り込もうと固執するのは、目隠ししたまま丸腰で戦場に突入していくようなものだ。

(中略)

仕事に脂がのってくるのは40代を過ぎてからだとも言われる。この年代に勝負をかけるために、今何をしておくべきなのだろうか? 大企業/ベンチャーでの経験は活きるのか? 留学経験はあった方がいいのか? 英語は役に立つのか? 女性が活躍するために肝に銘じておくべきことは何か? などなど、20代で必要になる職業観やキャリアプランなどについて、登壇者が受講生の皆さんに等身大のストーリーを共有する。

 

どの国・業界にも多かれ少なかれ「搾取構造」が存在します。例えば、日本で最も大きな搾取構造の1つは、解雇規制があるため企業が過去に採用した正社員を優遇せざるをえず、その結果、新規採用において非正規社員が多く生まれ、同一労働を行いながらも金銭的に区別されてしまう年功序列型雇用制度でしょう。これは、既得権に根差した搾取構造で、今や世代間闘争の様相すら呈しています。

 

コンビニやファーストフード業界なども、現場を回している大部分は学生のアルバイトや留学生、移民ですよね。まあ、「搾取構造」というと、ちょっと言葉が悪いかもしれませんが、もう少し波風立たないように言い換えるなら、異なる動機やスキルを持った人材を上手く戦力化して、効率的な経営を実現していく、とでも言いましょうか。

 

スポーツ業界にも“搾取構造”は存在します。しかも、スポーツ界の場合「やりがい搾取」という巧妙な形を取るため、一見すると気づきにくかったり、気づいても目の前のニンジン(スポーツ界への就職)の魅力が強すぎて冷静な判断力を失うような、ある意味で性質の悪い形になっています。

 

東京オリンピックなどもあり、スポーツ界の注目度は高まってきています。ただ、既存企業の予算配分がスポーツに向けられてきたという程度で、実際に新たな市場が生まれている状況にはまだなっていません(まあ、これだけでも大きな変化ですが)。スポーツ産業の中心ともいえるプロスポーツでは、市場規模はここ10年ほとんど横ばいです。Bリーグはできましたが、これは既存のリーグを統合しただけで、新たな市場がゼロからできたわけではありません。

 

椅子取りゲームをイメージしてもらうと良く分かるかもしれません。日本のスポーツ業界の状況は、大学などが積極的にスポーツビジネスの学科を設けるなどの流れもあり、ここ10年でゲームの参加者の数は増え続けています。その一方で、椅子の数はほとんど変わっていません。それは、「儲かる教育」が幅を利かせ、椅子を増やすことができる人材が育成されないからです。

 

では、なぜこれで椅子取りゲームが続いていくかというと、定期的に辞める人がいるからです。スポーツ業界は長時間労働、土日休みなしなど、絵に描いたようなブラック企業ですから(笑)、情熱や夢だけあっても、職場で戦う武器がなければ10年も経てばバーンアウトしてしまうのです。装備を持たずに登山を始めてしまうと、途中で上にも横にも行けなくなって「これ以上ムリ」となってしまうのです。


以前、「なぜ天職はすぐに見つからないのか?」でも“3つの円”を使って解説しましたが、「好きなこと」を追い求めても、「できること」の範囲を広げなければ、天職になど出会わないし、面白い仕事などできません。「好きなこと」しか追い求めない人は、独りよがりで早晩燃え尽きて終わります。

 

僕も自分の会社の採用や人生相談などを通じて多くの学生と面談しますが、「自分は○×の理由でスポーツに情熱を持っています」「御社の業務が私のやりたいことにマッチするのです」という自己PRに終始する人が少なくないです。でも、経営者の本音は「あなたのやりたいことではなく、できることが知りたい」なのです。

 

言い方は悪いですが、こうした猪突猛進型の兵隊クラスタが定期的に入れ替わりながらスポーツ界に安価な労働力を提供し、現場を回しているのです(この状況は日本もアメリカもあまり変わりません)。ある人が「“スポーツビジネスの塔”に一番下から入っても、2階から3階に上がる階段はない」と言っていましたが、言い得て妙だと思います。そして、こうした現実に、スポーツ界に入った後で気づいても遅いのです。

 

さて、冒頭で紹介したSBAセミナーですが、今回はスポーツ界でその人にしかできないユニークな仕事をして業界や組織の中で存在感を発揮している若手の皆さんを登壇者としてお招きします。全員30代です。キャリアの築き方に「正解」はありませんが、スポーツ組織で「活躍」するためには何が必要なのか、彼らに共通するものが見えてくると思います。

 

以下のような皆さんを主な対象にしていますので、興味がある方は是非ご参加下さい。セミナーの後には懇親会もありますよ。

 

※将来スポーツビジネスに関係する仕事に就きたいと考えている学生

※将来スポーツ界への転職を考えているビジネスパーソン

※日本のスポーツ界での本質的な人材育成を考えている教育関係者

流行り言葉で思考停止にならないために

秋田県の佐竹知事が、J3ブラウブリッツ秋田(BB秋田)の本拠地となるスタジアムの新設構想に関し、「地方で複合型は成功しない」と発言したことがニュースになっています。

 

複合型スタジアム構想に否定的(NHK)

サッカーJ3、ブラウブリッツ秋田のスタジアム整備をめぐり、クラブなど官民連携の協議会が今月、サッカー以外にも活用できる複合型スタジアムの構想をまとめたことに対し、秋田県の佐竹知事は、26日の会見で「地方で複合型は成功しない」と述べ、否定的な考えを示しました。

(中略)

ブラウブリッツなど官民連携の協議会が今月、サッカー以外にも活用できる複合型スタジアムの構想をまとめたことについて、佐竹知事は「地方で複合型は成功しない。あの構想は東京のコンサルタントが自分でもうけるために示したものなので東京の言うことは聞かない。あれは全部商売だ。自分でものをこなしたことがない人が理想論を言っている」と強く批判しました。その上で、佐竹知事は「構想は参考にはするが、できるのかできないのかを協議するのはこちらだ」と述べ、複合型スタジアムの構想に否定的な考えを示しました。

 

発言は多少過激な部分もありますが(笑)、地方自治体の首長としては正しい態度なのではないかなと思います。むしろ、「スマート・ベニュー」(ちなみに、この言葉は株式会社日本政策投資銀行の登録商標です)といった流行り言葉を分かったつもりになって使って思考停止になっているよりは、よっぽど良いと思います。

 

FBでもポストしましたが、多機能複合型は経営上の変数が多くて難易度が高いモデルです。米国でも多機能複合型は数えるほどしかありませんし、成功モデルが確立しているわけではありません。

 

昨年、米国で新球場とともに周辺開発地域「The Battery Atlanta」を同時オープンした初めてのケースとなったアトランタ・ブレーブスに何度か話を聞きに行きましたが、プロジェクト責任者は、「我々としても何がKSFなのか当たりがついていないのが正直なところ。だから、変化に迅速・柔軟に対応できるオーナーシップを確保しておくことが重要」と言っていました。これが、ブレーブスが周辺開発に要した5億5500万ドルを全額拠出している理由です。ブレーブスのケースでは、球団が中心となって推進する多角化事業の1つとして街があるというイメージです。

 

まあ、球団が中心になって街を作っちゃうというのはむしろ例外的なケースかもしれませんが、米国でも多機能複合化に舵を切っている球団・都市に共通するのは、試合観戦だけでは溢れる顧客需要を取りこぼすため、その周辺にも受け皿を作ろうというのが基本的な考え方です。仕事柄、米国内で多機能モデルを計画・展開しているフランチャイズにはかなり足を運んでいますが、強力な動員力のあるアンカーテナントの存在が成功の前提条件になるように感じます。

 

これを踏まえると、多機能複合型にすれば必ず成功するというわけではないですから、「構想は参考にはするが、できるのかできないのかを協議するのはこちらだ」という佐竹知事のスタンスは、これはこれで真っ当な自治体経営者としての在り方だよなと思います。ただ、「地方で複合型は成功しない」と断言してしまうだけの材料は、少なくとも僕にはありませんが。。。

 

スポーツ施設は“生き物”ですから、一旦建設してしまえばあとは10年20年メンテナンスだけしていればOKなんてことはありません。激変する競合環境を睨みながら、競合他社が真似できない独自のValue Propositionを構築する努力を怠れば、その施設は建ったまま死んでしまいます。

 

例えば、野球ビジネスを例に挙げて考えてみるともう少しイメージが沸くかもしれません。NY市には、ヤンキースとメッツというMLB球団が本拠地を構えています。両球団のスタジアムは、車で行けば30分、地下鉄なら1時間ちょっとの距離にあります。また、同じくNY市内には両球団のシングルA球団が1つずつあります(SIヤンキースとブルックリン・サイクロンズ)。さらに、マンハッタンから車で1時間半圏内に独立リーグの球団が4つあります。

 

つまり、同じ野球ビジネスで飯を食っている競合球団だけでも8つあるわけです。MLBならブロードウェイが、マイナーや独立リーグなら映画館やモールが競合相手になりますから、本当の競争環境はもう少し複雑です。こうした中で、他社ではなく自社の球場に足を運んでもらうための独自の提供価値を考え抜き、変化する事業環境に応じて自身も変化し続け、それを施設設計にも定期的に反映しなければなりません。つまり、どこにも当てはまる正解などないのです。

 

誤解なきように言っておきますが、日本でバズワードになっている「スマート・ベニュー」というコンセプト自体が悪いわけではありません(すみません、登録商標なので勝手に使うと怒られてしまうかもしれませんので、最小限に留めます)。守破離ではないですが、最新コンセプトを参考にしつつ、最終的には自分たちの事業環境にフィットするモデルを自分の頭で考えるしかないのだと思います。

 

最近は日本でもスポーツ施設建設プロジェクトの構想がいくつも立ち上がってきています。まだ初期段階のものが多いようですが、僕のところにも最近不動産会社さんやゼネコンさん、総合商社さんなどから相談事が舞い込むようになりました。ただ、話を聞いて少しだけ怖いなと思うのは、流行り言葉が先走りして「ITを活用してスマートアリーナを建設します」みたいな、どこに進むか分からないまま進んでいるような計画であったり、テナント(施設を長期間利用する球団)が決まっていない中で、アウトサイダーだけで事業の話が進み、誤解を恐れずに言えば、大家ビジネスで汗をかかずに儲けが出るのではないかというイメージを抱いているようなプロジェクトが散見されることです。

 

最近日経ビジネスに書いたコラム「運動施設の命名権、米国より収益性が低い訳は?」で、日米のスポーツ施設の収益性の違いやその背景などに触れていますが、ここでも書いているように、事業価値を高めるためには施設所有者とテナントの協力体制が何よりも重要になってきます。

 

いずれにしても、スポーツ施設の建設計画では、「スマートなんとか」という流行言葉から離れて、自分の言葉で自らの経営モデルを語れるようになることが必要なんじゃないかなと思います。僕は2年ほど前から北海道日本ハムファイターズの新球場プロジェクトの外部アドバイザーをやらせて頂いていますが、プロジェクトメンバーの日常会話の中にはこうした「スマートなんとか」という流行り言葉はまず出てきません。

五輪壮行会やPV自粛が相次ぐ日本と世界で起こっていること

今日から平昌五輪が開幕しましたが、開幕に際して気になる報道を目にしました。日本で、選手の壮行会やパブリックビューイング(PV)の自粛が相次いでいるというのです。

 

平昌五輪あす開幕 学校や企業、PV自粛相次ぐ(産経新聞)

9日に開幕する平昌五輪で、競技の中継映像を大型スクリーンで公開し大勢で応援する日本でのパブリックビューイング(PV)について、選手が所属する学校や企業が五輪の宣伝規制への抵触を恐れ、相次いで自粛を決めたことが7日、分かった。2020年東京五輪・パラリンピックに影響することもあり、大会組織委員会や日本オリンピック委員会(JOC)などが協議。同日夜、自治体・スポンサーの主催を除き、企業や学校の主催でのPVは原則認めないとする方針を確認した。

 

五輪選手、CMから消える 肖像権理由に自粛 (日経新聞)

国際オリンピック委員会(IOC)は大会期間中、宣伝目的でのエンブレムや代表選手の肖像権などの利用を公式スポンサーに限っている。これに伴い、日本選手の肖像権を管理するJOCも2月中、スポンサー以外の利用を制限している。

 

自粛の動きは壮行会の中止や非公開化にも広がった。葛西紀明選手が所属する土屋ホームは2月1日、社員らだけで同選手を送り出した。同社は「壮行会を非公開にしたのは初めて。報道されればビジネスにつながるとは思っていないが、ルールに従った」という。

 

IOCが規則を変えたわけではない。JOCが指導を強化したのだ。ただ乗りが横行すれば国際社会から批判されかねず「東京五輪を控え、知財保護を徹底せざるを得ない」とJOCは説明する。ある意味「忖度(そんたく)」だが、JOCにも言い分はある。五輪関連の知財使用権を公式スポンサーに与える見返りに協賛金の拠出を受け、運営や選手強化の財源にしている。不正使用が増えれば知財の侵害だけでなく、協賛金の減収を招き大会運営に支障をきたしかねない。

 

この件は、「日本の状況しか知らないと世界の流れを見誤る」好例だと思いますので、少し解説を加えてみようと思います。

 

公式スポンサーの権利保護は大会主催者にとってはもちろん非常に重要な視点です。IOCもオリンピック憲章第40条でアンブッシュ活動を防ぐためオリンピックが開催される前後30日間はIOCの公式スポンサーであるTOPパートナー以外の広告活動を禁止していました(通称「ルール40」)。このルール40により、例えば公式パートナー以外の企業から支援を受けている選手がいても、この期間中は選手がそうした企業のテレビCMに出演したり、その商品を使用した写真やリンクをソーシャルメディアに流すことなどが出来ませんでした。

 

しかし、実はIOCは2015年からルール40を緩和する決定を下しています。オリンピックを想起しない形の広告活動に限り、それを認めることにしたのです。実際、現場でこの緩和を受け入れるかどうかは各国のNOCに一任されることになっています。米国、カナダなどでは既に2016年のリオ五輪からNOCがルール40の緩和を受け入れています。USOCなどは、オンラインで簡単にルール40からの離脱手続きができるようになっています。

 

先の日経新聞の記事などを読むと、IOCの規則に則ってJOCが指導を厳しくしたようにも読めますが、これは少しミスリーディングです。実際はIOCがルール40の規則を緩和しているのにも関わらず、JOCがその流れを受け入れていないのです。日本の代表選手でも、こうした状況を知らない選手が少なくないのかもしれません。元パラリンピアンの中西麻耶さんも、ご自身のブログでルール40に関する日米の違いについて言及されています。

 

IOCがルール40を緩和せざるを得なくなったのは、選手から大きな批判にさらされ、大規模な抗議活動が展開されるようになったためです。選手側の言い分は、「日頃から練習環境を支えてくれているのはオリンピック公式パートナーではなく支援企業(所属している会社や、物品を提供してくれる個人の協賛企業)。晴れ舞台でその名前を出せないのは理不尽だ」というものです。特にマイナー競技で活動している選手にとって、五輪での大きな露出は日ごろお世話になっている支援企業に恩返しをするまたとない機会です。

 

選手からのルール40への不満が臨界点を超えたのが、2012年のロンドン五輪でした。これは、2000年(シドニー)と2004年(アテネ)のオリンピック(砲丸投げ)で銀メダルを獲得した米国の陸上選手アダム・ネルソンが、閉会式など注目度の高い場面でも公式スポンサー以外のブランド着用を禁止するルール40に抗議するため、ロンドン五輪予選で選手やファンに自分の裸足の写真をソーシャルメディアで拡散するように奨励したのがきっかけになり、米陸上界を中心に大規模な抗議活動に発展していきました(通称「裸足の革命」)。

 

身も蓋もない話かもしれませんが、そもそもスポンサーシップという仕組み自体、大会主催者が勝手に考えた制度です。IOCが五輪開催地に特別立法を求めるのはこのためです。スポーツマーケティングに習熟した企業が多い米国では、大きなスポーツイベントが開催される場合はアンブッシュ活動も盛んに行われますが、これは企業によって考え方が異なるからです。

 

高額な協賛金を支払って正当に権利を行使した方がマーケティング活動がやりやすいと考える企業は公式スポンサーになりますし、スポーツ組織の言われるがままに高額な権利料を支払うなんてバカバカしい、もっとスマートで効果が高い合法的なマーケティング活動は可能だと考える企業はアンブッシャーになります(NIKEなどはアンブッシャーの代表的な企業です)。大会主催者とアンブッシャーのイタチごっこは終わりませんが、誤解を恐れずに言えば、アンブッシュ活動があるからこそ大会主催者は高額な権利料に見合った協賛効果を公式スポンサーに提供しなければならないという健全なプレッシャーに晒されるという側面があるのも事実でしょう。

 

日本人はお上や規則に弱いですから、一旦ルールが定められると、その合理性に疑問があっても盲目的にルールに従う傾向が強いですが、国によってはルール40の合法性を疑う動きすら出てきています。例えば、ドイツの連邦カルテル庁(Bundeskartellamt)は、「ルール40は過度に制限的すぎ、IOCと独オリンピック委員会に支配的地位の濫用の疑いがある」として、昨年末から調査を開始しています。同庁が問題視しているのは、ルール40が選手の活動を大きく制約するにも関わらず、選手に対する利益の還元がないためです。

 

常識的に考えて、日ごろ選手の活動を支えている所属企業や学校が選手の壮行会や応援も自由にできないなんて少しおかしいでしょう。こうした企業や学校は規模が小さかったり、スポーツビジネスの専門家ではないため、JOCから「ダメだ」と言われればそれに従うしかないのでしょう。世界で起こっているルール40緩和に向けた動きなどについては知見がないのかもしれません。

 

でも、おかしいことにはおかしいという声を上げなければ、日本のスポーツ界は健全に発展していかないでしょう。まずは、世界的に進められているルール40の緩和が、なぜ日本ではまだ受け入れられていないのか。その疑問に焦点を当ててその理由を考えてみるのが第一歩になるかもしれません。

恥さらしマーケティングというリスク

ツイッターでもつぶやきましたが、良い機会なので整理しておこうと思います。

 

この一件は、東京大田区の町工場が開発し、ジャマイカチームに提供した通称「下町ボブスレー」が、五輪開催直前にチームから使用拒否の憂き目にあい、町工場側が損害賠償請求訴訟も辞さずという泥沼に発展しているというものです。池井戸潤さん原作のドラマ「下町ロケット」のヒットもあって、同様に下町工場の技術力の高さのPRを狙ったのでしょう。

 

ところが、残念ながら朝日新聞の記事のように「遅い、安全でない、検査不合格」といった露出が出てしまい、むしろ大田区の町工場ブランド価値を落とす結果になってしまいました。オリンピックのような国際的に注目度が高まるイベントでは、それが公式協賛企業であるかどうか、あるいは協賛活動に関係する文脈かどうか、に関わらず、不祥事に注目が集まってしまい、自社の悪評を不本意に広めてしまう結果になりかねないリスクが潜んでいますので、注意が必要です。

 

例えば、2012年のロンドンオリンピックでも、TOPスポンサーとして、大会組織委員会の運営をバックエンドからサポートするITインフラの構築を一手に引き受けていたAtoS社が、パラリンピックに協賛しているにも関わらず障がい者への給付金カットにつながる調査を行っているとして大きな批判にさらされたり、同じくTOPスポンサーのDowが過去にインドで多数の死傷者を出した企業を買収していたことから、「オリンピック協賛に支払う金があるのなら、事故の補償をすべき」と批判にさらされるなど、年間数十億円という巨額の権利料を支払ってわざわさ自社の悪評を広める“恥さらしマーケティング”に足元をすくわれてしまいました。

 

また、先の週末に開催されたSuper Bowlは一日イベントとして世界で最も大きな露出を誇るスポーツイベントですが、この試合中にオンエアされたCMも、内容によっては後日大きな批判にさらされるリスクがあります。例えば、Ram Truckは、アフリカ系アメリカ人の公民権運動の指導者として活動したキング牧師(Martin Luther King Jr.)の演説をCMに活用したことで批判を受けています。人種差別撤廃を求めて運動した同氏の歴史的な演説を、トラックを販売する商業活動に安易に使うなという批判です。

 

また、こちらは米国では問題視されていないものの、日本で同じCMがオンエアされたら物議をかもすかもしれないなと思ったHyundaiのCMです。「Hope Detector」(希望探知機)と題されたこのCMでは、Super Bowl入場口で同車のオーナーを“探知”し、自動車購入時に併せて行われたガン研究基金への寄付により一命をとりとめた患者たちが感謝の意を述べるというものです。

 

こうした、いわゆるCause Marketing(慈善行為に結びつくことを消費者に訴求することで、商品・サービスの販売促進、製品ブランドや企業のイメージアップを狙うマーケティング手法)は米国では一般的なマーケティング手法として定着していますが、日本で同じことをすると、「病人を使って金儲けするなんて」と嫌悪感を感じる方がいるかもしれません。

 

ソーシャルメディア全盛の現在、マーケティング活動に国境がなくなってきていますが、こうした文化的・社会的背景の違いにリスクが潜むこともあり得ますので、注意が必要です。とはいえ、教科書的な表現ばかりになってもエッジの効いた広告にはならないでしょうから、その辺りの絶妙なバランス感覚が求められるんでしょうね。マーケターには厄介な時代になったのかもしれません。

「正しい」は「儲かる」に勝てない?

先日、日経ビジネスに「米国で急拡大、ユーススポーツビジネスの不安 〜大学スポーツを凌駕する巨大マーケットの全貌とは?」と題したコラムをアップしたのですが、これが意外に多くの方に読んで頂いたようで、当日のランキング3位まで行きました。

 

競技の早期専門化(若いうちにプレーする競技を1つに絞ること)による競技レベルの減退は、アメリカでもスポーツ組織の経営者が大きな懸念を示している話題です。このコラムを読んでくれた北米でアイスホッケーのコーチをしている知人(若林弘紀さん)と意見交換する機会があったのですが、現場のコーチの実感としても早期専門化の弊害を肌で感じているということでした。

 

彼が分かりやすい例として挙げてくれたのはゴーリー(ゴールキーパー)の育成で、専門化が進む今では7〜8歳までにゴーリーのポジションを固定することが多くなってきているそうなのですが、スケーティングなどの基本的なスキルが身に着く前に専門的なトレーニングを始めてしまうため、かえって上達が遅くなるんだそうです。そして、10歳くらいでプロみたいな動きができるようになるものの、その後急速に伸び悩むんだとか。逆に、他のポジションでプレーしていて10歳以降にゴーリーになった子供の方が明らかに伸びが早く、その後のポテンシャルも高いようです。

 

こうした早期専門化による弊害はコーチの間でももちろん共有されているようですが、ビジネス化の進展により、これまでコーチが有していたユースプログラムの方針決定権が、育成と事業の双方に責任を持つ施設(スケートリンクなど)のプログラムディレクターに移管されるようになり、歯止めが利かなくなっているようです。つまり、コーチは弊害に気付きながらも口を出せなくなってしまい、ディレクターも知らないわけではないんでしょうが、施設経営の観点から儲かる方向に舵を切らざるを得ない。これがビジネス化の怖いところですね。「ジュニア世代のエリート化」「施設の収益最大化」という短期的な個別最適を志向した結果、集団全体としての育成レベルが下がってしまう。これは「合成の誤謬」そのものです。

 

ビジネス化が進んでしまうと、どうしても「正しい育成」より「儲かる育成」の方が優先され、それが強力に推進されてしまいますから、競技全体で育成のグランドデザインを考えておく必要がありそうです。実際、米ホッケー連盟は2009年に科学的根拠に基づいた年代別選手育成手法を「American Development Model」として体系化し、一括して導入して成果を上げているようです(詳しく知りたい人は若林さんのこちらのコラムをご覧下さい)。

 

で、この早期専門化による弊害なのですが、同じことがビジネススキルについても当てはまるのではないかと思います。例えば、スポーツ界で活躍するために、スポーツビジネスを高校や大学で学ぶ必要が本当にあるのか? 僕は必ずしもないと思います。

 

スポーツビジネスは一見華やかに見えるのでカネになります。こうしたビジネスの論理により、「正しい教育」より「儲かる教育」が幅を利かせているようにも見えます。僕もSBAというスポーツビジネスの教育プラットフォームを運営しているので、この点は自戒したいと思います。

 

ビジネスパーソンとして活動できる時間は少なくとも40年、今後定年が伸びれば45年かひょっとして50年は働くことになります。将来スポーツ界で活躍することを夢見ている学生さんには、「いち早くスポーツ界に就職する」ことと「将来スポーツ界で活躍できる」ことは必ずしもイコールではないということに気付いてほしいと思います。

 

これは業界関係者なら皆知っている不都合な真実ですが、スポーツ界は丸腰でいち早く就職して伸び悩んでバーンアウトしてしまう人が非常に多い業界です。言い方は悪いですが、こういうクラスタの人が定期的に入れ替わりながら安価な労働力を提供して現場を回しているのが実態です。

 

僕もこれまで多くの学生(ほとんどが大学生。稀に高校生も来る)の進路相談に乗ってきましたが、10人中9人、いや100人中99人は「どうしたらスポーツ界に入れますか?」という質問をしてきます。残念ながら「どうしたらスポーツ界で活躍できますか?」という質問をされたことはほとんどありません。「儲かる教育」の餌食にならないためには、目利き力や人生構想力を高めて自衛するしかありません。

プリンシパル(原理原則)

明けましておめでとうございます。

 

2018年1月1日でトランスインサイトも設立12周年となり、会社としては13年目の年に突入しました。私個人としては、米国滞在18年目ということになります。

 

この18年間はいろいろありましたが、振り返るとあっという間でした。渡米当時は「アメリカ在住18年」などと聞くと、「もうほとんどアメリカ人みたいな日本人」というイメージがありましたが、今は自分がそう見られているのでしょうね(苦笑)。2か月に1回程度は日本に出張していることもあり、同じ立場になっても本人にそのような自覚はほとんどないのですが。

 

米国に渡ったのは、2000年8月2日でした。日付までよく覚えています。文字通り片道だけの航空券でボストンのローガン空港に降り立ち、夜遅かったためFenway Parkの裏のBuckminsterというホテルに宿泊しました(もっとも当時は土地勘もなく、それがFenway Parkの裏にあるホテルだと気づくのは少し後になってからですが)。

 

翌朝目覚めた時の気持ちは今でもありありと覚えています。見知らぬホテルの天井が視界に飛び込んできた時の形容しがたい不安感。雨模様のボストンの街を眺めながら、この先どうするんだろうと確固たる計画のない人生に途方に暮れ、胸に溢れてくる寂寥感。「不安と期待の入り混じった」というよりは、「ほとんど不安しかなかった」と言った方が正確かもしれません。

 

当時、27歳でした。でも、今思えばこの日から自分の「本当の人生」が始まり、人生が展開し始めたのだと思います。「カチッ」とスイッチが入った感じです。

 

私の好きな言葉に、「Life begins when you get out of the grandstand into the game」(観客席を降りて試合に参加しなければ本当の人生は始まらない)というものがあります。それまで、受験、就職といった人生の節目イベントに特に何の疑問も持たず、車の助手席に乗っているかのような人生を送ってきていましたが、退職、留学という自分の人生の舵を大きく切る決断を初めてしたのがこの時でした。まあ、格好良く言えば、この時に人生の運転席に乗り換えたんだと思います。

 

でも、この時には、その後自分がアメリカで2回も起業し、18年も滞在することになろうとは全く思ってもいませんでした。そして、27歳だった若者は、44歳の立派なおっさんになりました。

 

18年も活動を続けていると、いろいろなものが手に入ります。それは、業界内での人脈だったり、お客様からの信頼だったりするわけですが、一方で失っていくものも少なくありません。それは、体力だったり、勢いだったりします。

 

40歳を超えた頃から、本当に面白い仕事冥利に尽きる仕事に関われる機会が少しずつ増えてきました。留学した頃に思い描いていた、日本のスポーツ界を変えるインパクトを残せるような仕事です。でも、冷静に考えると、これは自分に実力が着いてきたから手に入れることができたのではなく、そうした仕事に関わっている方々と以前から志でつながっていたからなのです。そして、こうした同志と知り合ったのは、実は僕の留学直後だったケースが意外に多いのです。

 

見方によっては、そうした志を共にした絆がようやく仕事で花開いたと考えることもできます。これはこれで胸熱なストーリーです。しかし、一方で「これは怖いな」とも感じる自分がいます。

 

留学直後の自分にはほとんど何もありませんでした。あったのは、日本のスポーツ界を健全に発展させたいという「勝手な使命感」と、それを人生をかけて実現したいという「損得勘定のない志」だけでした。そもそも、当時は損得勘定できるほど自分の中にモノがありませんでしたから。

 

それから18年経った今、失うものがなく怖いもの知らずだった当時の自分が持ち得ていた使命感や志を同じレベルの純粋さで維持できているかと自問自答した時、自信をもってYESと言えるのか?年とともに失ってはいけないものがあるとすれば、それは志の高さや純粋さなのかもしれません。今食えてるのは、無邪気だった昔の自分の遺産なのかもしれない。こう考えると、本当に怖いです。

 

正月はこうした振り返りにはいい時間ですね。今年は、18年前になぜ自分がアメリカに渡ったのか、何を成し遂げたかったのかを思い出し、トランスインサイトを創業した時のプリンシパルを再確認しながら仕事ができたらと思います。そして、これはもはや無理な願いなのかもしれませんが、渡米当時の無邪気さを取り戻したい、少なくとも思い出したいと思います。

 

ということで、2018年もどうぞよろしくお願いします。

今年もまだ見ぬ同志との出会いを楽しみにしています。

 

Trans Insight Corporation

President

鈴木友也

 

米国大学スポーツの不都合な真実

BROKE(なぜスポーツ選手は一文無しになるのか?)」などでも触れましたが、ESPNの良質ドキュメンタリー「30 for 30」はテレビでまとめ撮りしておいて時間がある時に見ています。最近見てとても面白かったのが「One and not done」。

 

これは、現ケンタッキー大学バスケ部ヘッドコーチJohn Calipariのライフストーリー。CalipariはNCAAバスケ界で最高報酬をもらうHCの一人で、その年俸は800万ドル(約8億8000万円)。ケンタッキーといえば大学バスケの名門で、全米ランキング1位になることも珍しくありません。そんな名門バスケ部のHCであるCalipariは「プロになる可能性があるなら、大学なんて卒業する必要はない」と公言する米大学スポーツ界の異端児です。

 

少なくとも「教育がスポーツに優先する」という建前のあるNCAAでは、彼の発言はPolitically Correctではありません。しかし、実質的に米国ではバスケとフットボールで大学がプロのマイナーリーグ(人材育成機関)となっており、特に「Power 5」と言われる上位カンファレンスの実態はプロスポーツそのものです。HCはプロ同様に勝敗だけで評価され、勝てばインセンティブでボーナスも増えます。口には出さなくとも、本音ではCalipariと同じように考えている勝利至上主義のHCは少なくないでしょう。

 

番組の中でも特に衝撃的だったのは、部員に2ドルの宝くじを実際に手に取らせ、「いいか、普通の人間は2ドルの宝くじで当たることのない夢を買う。でも、お前たちは宝くじを買う必要はない。なぜなら、お前たち自身が宝くじそのものだからだ。それも、今手にしているくじよりもよっぽど確率の高い。この大会で活躍すれば、お前たちはプロになれる。そうすれば、普通の人が稼げない大金を手にできるんだ」と発破をかけるシーンです。

 

トップアスリートの中には、スラムやプロジェクト(低所得者用の住宅街)出身の選手も珍しくありません。彼らが貧困の連鎖から抜け出せるのは、スポーツしかないのです。ある選手が大学1年で活躍後、2年目も大学に残りたいとCalipariに相談しに来た時、「本気で勉強したいなら、大学なんて後からでも卒業できる。でも、プロになれるのは今しかない。馬鹿なこと言わずにプロに行け」と選手を追い返してしまったのです(結局彼は大学を中退してNBA選手になった)。

 

Calipariが周りに敵を作ることを恐れずにこう喝破できるのは、彼自身の生い立ちにあるのかもしれません。彼はイタリア移民の3世で、移民1世の祖父は炭鉱で働き(肺病で若くして亡くなる)、2世の父親は炭鉱や飛行機の燃料入れなどの職を転々として貧乏暮らしだったそうです。彼自身が貧困から抜け出すために選んだ手段がスポーツだったのです。彼の場合、それは選手としてではなくコーチとしてでしたが。

 

個性が強いCalipariの評価は分かれます。Calipariが嫌いな人は調和を乱すトラブルメーカーと評します。しかし、教え子たちからは絶対の信頼を得ている毀誉褒貶の激しい人物。彼は教え子に対しては一切手を抜かず、高校までスター選手であっても本音で罵倒し、挑戦し、能力以上の存在に引き上げていくのです。そして、数々のNBAプレーヤーを世に輩出しています。

 

NBAは2005年からドラフトに年齢制限を導入し、19歳(高校を卒業して1年経過)にならないとドラフト指名できないルールを導入しました。当初、ルール上有資格になるのは19歳とはいえ、大学に進学した選手は卒業までプレーするのが常識とされていました。しかし、この常識を覆したのがCalipariでした。選手に大学で1年プレーさせたあと、躊躇なくプロ入りさせて行ったのです。これを俗に「One and done」(1年で終わり)と言います。

 

彼は2009年からケンタッキーのHCとして指揮を取っていますが、名門大ですから全米中から選りすぐりの人材が集まります。彼らをプロに通用するレベルまで引き上げ、バンバンNBAに送り込んでいるのです(実際、昨年までの8年間でケンタッキーから48名のNBA選手を送り出している)。そんな彼の指導法は、“教育を隠れ蓑にしたビジネス”として度々批判されるNCAAの欺瞞を象徴する行為として糾弾されますが、彼はそれを一ミリも気にする素振りを見せません。

 

彼が気にするのは、選手の将来だけです。バスケットボール選手としての能力を最大に引き上げることこそが、彼らの人生に最も大きな変化をもたらすことだと確信しているのです。彼は育て上げた選手を惜しげもなく在学中にNBAに送り込んでいきますが、そんな彼の指導を求めて全米から選手が殺到しているので、批判にさらされながらも、このモデルは回り続けています。ケンタッキー大バスケ部は今や完全にNBAのマイナー球団になっています。

 

番組内では、Calipariの教え子たちの多くがインタビューに答えていますが、彼らは「本気で取り組むことでどんな困難でも打開できることをCoach Caliから学んだ」と異口同音に答えているのが印象的でした。心からそう思っているようでした。そして、プロ志望の学生に形だけ単位を整えて大卒資格を手渡すより、こうした揺るぎない信念が得られる方がよっぽど意味のある教育と言えるのではないかという印象を私は持ちました。

 

このドキュメンタリーのタイトルは「One and not done」(1年で終わりじゃない)。これは、現在のNCAAに対する痛烈な批判であるようにも見えます。

 

現在、NBAは年齢制限を撤廃するためにNCAAと意見交換をはじめました。これは、今年発覚したNCAAバスケ界のスキャンダルにより生まれた動きです。プロ入りが有望視される高校生のトッププロスペクトに、有名大学やアパレルメーカーなどから賄賂が贈られていたことが明らかになり、FBIが捜査を開始したのです。

 

米国大学スポーツで収益を生んでいるのは、バスケとフットボールだけなのですが、これは両競技にはプロリーグ(NBAとNFL)のドラフトに年齢制限があるためです。そのため、高卒で即プロ入りできないため、ある意味で大学スポーツの利権が守られてきたのです。

 

しかし、NBAで年齢制限が撤廃されれば、トップ選手は大学に行かずに直接NBAに行くことになるでしょう。NBAもこれを見越して、今年更改された労働協約では傘下のマイナーリーグであるGリーグの選手待遇を改善していますし、最近はメキシコなど海外にもGリーグ球団を拡張する動きを見せています。これは、年齢制限撤廃後のNCAAとの人材獲得競争を見越した動きの様にも見えます。

 

大学スポーツのあるべき姿とは?」でも書きましたが、来年7月には18-22歳を対象にしたプロフットボールリーグ「Pacific Pro Football」も開幕する予定です。今後、今まで稼ぎ頭だった2競技でNCAAとプロリーグが直接的に競合していくことになるわけですから、米国における大学スポーツの在り方も変わっていくのではないかと思います。

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