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スポーツは音楽業界とは異なるチケット再販モデルを志向すべき

今月14日にチケット不正転売禁止法が施行されました。簡単に言うと、興行主が「特定興行入場券」に指定したチケットは、興行主の許可がない限り転売が違法になるというものです。

 

この法律の成立には、いわゆる「転売ヤー」の取り締まりを求める音楽業界の意向が強く反映されているようです。しかし、結論から先に言えば、スポーツ界はチケット再販では音楽業界とは異なる道を模索し、音楽業界とは差別化した再販モデルを志向すべきだと思います。なぜなら、チケット販売モデルが音楽業界と異なるからです。

 

チケット再販の日米の違いについては、以前日経ビジネスにも寄稿しました。

 

日経ビジネスのコラムでも指摘しましたが、音楽業界との最大の違いは、スポーツ業界の商品(チケット)の反復性が非常に高い点にあります(同じ顧客層をターゲットに同じ興行主が同じ市場で同じ商品を売る)。プロ野球なら年間140以上の試合があり、ホームゲームは70試合以上もあります。

 

著名なアーティストでも、全国ツアーという形で場所を変えて公演を行うのが普通です。同じ会場で年間70回以上も公演を行うアーティストなんてまずいないでしょう。

 

こうした興行形態の違いから、チケットの販売手法も音楽業界とスポーツ業界では大きく異なる部分があります。端的に言えば、シーズンチケット保有者(Season Ticket Holder=STH)の存在やその重要性です。

 

スポーツの主な興行収入にはチケット収入以外に、協賛収入やテレビ放映権収入、グッズ・飲食収入などが挙げられますが、チケットが売れることが、それ以外の収入源が潤う前提となります。つまり、チケット販売はその他の収益源にキャッシュという血液を循環させる心臓のような役割を担っています。

 

そのチケット販売の中でも、最重要顧客となるのがSTHです。公式シーズンが始まる前から全試合のチケットを購入してくれる(1試合も開催される前から球団にキャッシュインしてくれる)STHの存在は、球団経営に大きな安定をもたらしてくれます。

 

スポーツ興行の最大の特徴であり難点は、商品の品質を保証できない点にあります(必ず勝つチームは作れない)。こうした不確定要素が前提のスポーツ興行では、1試合毎に単券を販売しているだけでは、チームのパフォーマンスや天候リスクを十分に回避できず(チームの成績が落ち込んだり、天気が悪いとチケットが売れなくなる)、球団経営の一丁目一番地であるチケット収入が安定しなければ、他の収益源も含めたトータルでの球団経営の安定性・継続性が損なわれます。

 

言い方を変えれば、こうしたリスクを承知の上で全試合のチケットを購入してくれるSTHは球団にとって最も大切にすべき顧客であり、STHの比率を高めるとともに、彼らに最大の利益を提供することが事業戦略上極めて重要になるわけです。

 

つまり、スポーツ業界がチケット再販モデルを設計する上でより重視しなければならないことは、転売ヤーの取り締まりではなく(これが重要ではないという意味ではありません)、STHへの最大利益の提供なのです。

 

米国のメジャースポーツでは(競技や球団にもより違いはありますが)、観客収容数の5〜8割程度はSTHであるケースが一般的です。チケット販売でも、シーズン開幕前はとにかくシーズンチケットを中心に販売し、開幕後はグループチケット(団体を相手にしたチケット)やパッケージチケット(複数の試合を組み合わせたチケット)、企画チケットを販売し、最後に単券を売るというのが基本的な販売戦術になります。

 

一方、日本の場合はSTHをメインに据えた販売が必ずしも行われておらず、どちらかというと球団はファンクラブ中心にチケットを売っているケースが一般的でしょう。そのため、日本のプロスポーツ界ではSTH比率は多くても2〜3割程度と言うのが私の感覚値です。STH比率が低いのは、球団が慣習的にチケット販売をプレイガイドに委託してきた歴史とも関係があるように思います(話が逸れるので、これは別の機会に)。

 

こうした現状の日本のスポーツ界にとって、チケット再販制度の整備は、「将来的にどのようなチケット販売戦略を考えますか?シーズンチケット販売モデルを志向しますか?それとも、従来通り単券販売モデルで行きますか?」という問いに等しい訳です。しかし、僕の知る限りスポーツ界でこうした議論が十分に行われた形跡はあまりなく、盲目的に音楽業界がリードする現行のチケット再販モデルに追従してきたような印象があります。

 

半年前に全試合のチケットを買ってくれた人と、今日チケットを1枚買ってくれた人の球団経営における重要度は異なります。スポーツ興行では、STHをより買い求めやすい環境を作る一貫として、いつでも行けなくなった試合のチケットを再販できる仕組みを用意しておく必要があるのです。購入額より高い金額で再販できてむしろ当たり前です。今日の100万円と半年前の100万円では価値が異なるのと同じことです。

 

チケット不正転売禁止法では、興行主が「特定興行入場券」に指定した場合、入場時に本人確認を実施することが努力義務として求められています。しかし、本人確認が厳しく(面倒に)なればなるほど、再販しづらくなるSTHへの提供価値は下がります。スポーツ界はSTHの存在という特殊性を理解し、このトレードオフの関係を上手くバランスできる独自の再販モデルを志向すべきでしょう。

 

米国では、NFLは既に昨シーズンから紙チケットを全廃してデジタルチケットに完全移行していますし、他のメジャースポーツも今から1〜2年程度でチケットは全てデジタル化されるようなスピード感で動いています。米国の様に、「スマホで正規のチケットを保有していれば本人と見なす」程度で僕は十分だと思います。もっと言えば、公式シーズンのチケットは、特定興行入場券の指定すら不要かもしれません。

 

日本のスポーツ界は音楽業界とは異なる道を模索し、STHの最大利益に配慮した流動性の高い、顧客志向の独自のチケット再販モデルを志向すべきだと思います。

「スポーツ×テクノロジー」の落とし穴

先月、日経BPさんが主催した「Sports Tech & Bizカンファレンス2019」で講演する機会を頂きました。頂いたお題は「米スポーツ界のテクノロジー活用の実態と日本版成功モデルの作り方」。スポーツ×テクノロジーは近年注目を集める分野だけに、「喋りづらいなぁ」というのが正直な感想でした。

 

米国でのスポーツテックの進化の過程を見てきた立場から率直に告白すると、今の日本のスポーツ界のテクノロジーの応用文脈には少し違和感を覚えているのですが、それを上手く伝えられるか自信がなかったためです。言うまでもなく、米国で成功している取り組みが日本での正解には必ずしもならないという前提がありますし、僕のクライアントでもこの分野で事業を行っている企業もいます。やはり、やりにくい。何よりも、2020年の東京オリパラに向けてスポーツ界が成長産業として注目されている今、その勢いに水を差したくないという気持ちもありました。

 

頂いた講演時間は50分。この手のカンファレンスの講演時間としては短い方です(普通は90分くらい?)。なので、一層伝える情報を厳選して構成を上手く考えないと伝えるべきメッセージが伝わらず、誤解を生むだけで終わってしまうかもしれません。うーん、喋りづらい。

 

同じようなトピックでは、1年ちょっと前にSBAで「スポーツ×ICTを疑え!? 〜米国スポーツ界の“実像”と日本企業が陥りがちな“罠”〜」というセミナーを行ったことがありました。少し挑戦的なタイトルをつけてやってみたセミナーだったのですが、意外と受けが良かったこともあり、基本的なアングルは同じ感じで行こうと決めました。しかし、日進月歩のテクノロジーの分野で1年以上前の話をそのまま繰り返しても情報は古いし、面白味もないので、そこは情報をアップデートした上で、構成にもひねりが必要です。結局、カンファレンス当日の朝まであれこれ考えて、テクノロジー企業の立ち位置を俯瞰して整理する形から入ることに決めました。

 

スポーツへのアプローチの仕方で整理すると、企業は「協賛スポンサー」と「商材スポンサー」に大別されます。協賛スポンサーは読んで字のごとく、スポーツに協賛することで自社の経営課題を解決する、いわゆるスポンサーシップとしての関わり方です。スポーツをツールとして活用することで自社の経営課題を解決することから、「Marketing THROUGH Sports」と言い換えることができます。

 

一方、商材スポンサーは、分かりやすい例で言えば、スポーツ用品製造者や試合運営支援企業など、スポーツ自体を盛り上げることが事業となっている企業です。サプライヤーと言い換えることができるかもしれません。こうした企業はスポーツと共存共栄関係にあるため、スポーツ自体の経営課題を解決することが重要になることから、「Marketing OF Sports」と呼ぶことができるでしょう。

 

このように、スポーツに関与する企業でも、協賛スポンサーと商材スポンサーではアプローチが真逆になります。前者は「己」(自社のニーズ)を知ることが重要になりますが、後者は「相手」(スポーツのニーズ)を理解することが重要になります。

 

「スポーツ×テクノロジー」での最大の落とし穴は、テクノロジー企業は本質的に商材スポンサーの位置づけになるべきなのに、協賛スポンサーとして振る舞っているケースが(特に日本では)多く見受けられることです。本来は、スポーツ組織が抱える経営課題を踏まえ、それを技術で解決するのがあるべき姿なのに、自社のシーズ(テクノロジー)ありきで、それを売ることが目的となってしまうのです。

 

最近、スポーツの本質を捉えきれない(苦戦中の)事例として米国で良く言及されるのが「VR観戦」です。スポーツ観戦の本質とはソーシャルな体験であり、喜怒哀楽を仲間と共有することを求めてファンは試合観戦を行うわけです。このソーシャル機能は、近年コンテンツ開発や施設設計でもより重要視されているファクターです。

 

今の技術では、VR観戦はファンが箱の中に閉じこもってしまうため、このソーシャル体験が大きく損なわれてしまうんですね。隣の人とハイタッチもできない。なので、米国ではVR観戦はスポーツの本質を捉えきれない失敗事例として整理されつつあり、実際VCによるVRテックに対する2018年の投資額は前年から半減していますし、VRテック大手のNextVRも今年に入って従業員の4割をレイオフしています。

 

VR観戦も、例えばミッション・インポッシブルの様にコンタクトレンズにVR映像を投影できるレベルまで技術革新が進めば、ソーシャル体験は損なわれないため話は違ってくるでしょうし、観戦用途以外でも、トレーニング用途(フットボールでQBがパスカバーを判断力を磨いたり、ダウンヒルの滑降選手がコース取りや体重移動の判断力を養うなど)や営業用途(シーズン席や協賛の営業で実際の試合での座席からの見え方や施設での見栄えを見せたり、施設建設前からプレミアム席のモデルルームでVR視聴で未来体験させるなど)などでは活躍の可能性がまだあると思います。

 

また、顧客体験とかファンエンゲージメントといった、ファンとのI/Fの部分に行きたがる点も日本独特なのかもしれません。しかし、ここは当てるのが難しい領域です。米国でも、一昔前にはアプリを使って今までにない革新的な観戦体験を提供しようと多くのテック企業がこぞって様々なサービス(マルチアングルの映像提供とか、座席からの飲食オーダーとか、トイレの待ち時間表示とか)を開発していましたが、結局今でも定着したサービスはほとんどなく、観戦中のアプリの使用率は低迷したままです。

 

結局、いろいろと球団やリーグの経営者と話していると、やはり最も顧客体験にインパクトがあり、かつ観戦体験を損なうことがない投資は、ビジョンの大型化と音響設備の拡充に集約されつつあるような印象を受けます。

 

個人的には、「顧客体験 < サービス < ビジネス < インフラ」という原則があり、左ほど「Nice To Have」(あったらいいけど、なくてもいい領域)、右ほどMust Have(なくてはならない領域)というイメージを持っています。しかし、皆左に行きたがる(笑)。日本のスポーツ界では、テクノロジーの導入が遅れているビジネス領域やインフラが少なからずありますので、そっちの方に注目してもいいのではないかと思っています。

 

こんな形でカンファレンスの導入部分を整理し、後半は日本のスポーツ界が抱える本質的な問題点や、今後スポーツ界にもたらされるであろう変化の潮流・トレンドについて駆け足でお話しさせて頂きました。自分の頭の中でも上手く整理できていなかった領域だったこともあり、「たった50分の講演なのに何時間準備にかけるんだ」と自分で突っ込みを入れたくなるくらい悩みながら構成を考えた講演だったんですよね。

 

まだ自分の中でどれだけ聴いて頂いた方々に有益な情報を提供できたのか手応えが掴み切れない感じではあるのですが、講演後、わざわざ控室までいらして頂いて「感動しました」と感想を伝えてくれた方がいらしたり(こんなことは初めてでした。僕も感動しました!)、個別に来場してくれていた知り合いからも割とポジティブなフィードバックは聞けたので、悩みながらも準備をした甲斐は少しはあったなと、少しは安堵したところです。

 

とはいえ、最後は駆け足になり、何枚かスライドもスキップせざるを得なくなってしまいました。余裕をもって構成を考えたつもりだったのですが、やはり、少しでも丁寧に説明しようとすると、時間があっという間にたってしまいます。スポーツ賭博の部分などは、もっとじっくりそのインパクトや本質的な意味について解説したかったのですが、残念です。まあ、これはまた別の機会にということで。

 

感想やご意見、建設的批判はWelcomeですので、是非当日お越し頂いていた方がいましたら、共有して頂けますと幸いです。

2018年の米国スポーツビジネス振り返り

新年になりましたが、これからの来るべきスポーツ界の1年を見据えるに当たり、いい機会なので昨年米国スポーツ界で起こった大きな出来事・新しい潮流について、ツイッターへの投稿などを振り返りながら整理してみようと思います。

 

■スポーツ賭博の合法化

何といっても昨年米国スポーツ界最大の出来事は、これまで違法とされてきたスポーツ賭博に合法化の道が開けたことでしょう。これまでスポーツ賭博は1992年に制定された連邦法PASPAによりネバダ州をはじめ4州を例外に違法とされてきました。しかし、このPASPAを憲法違反だとする司法審査が昨年5月に最高裁で確定したため、スポーツ賭博の合法性に関する判断は州政府に委ねられることになりました。

 

この最高裁判決を受け、昨年10月時点で6州が既にスポーツ賭博を合法化し、18の州が合法化に向けた法案の審議を進めています。全米50州+DCの約半数の州がスポーツ賭博合法化に舵を切っている状況です。こうした中、NBA、NHL、MLBが相次いでスポーツ賭博事業者MGM Resortsとスポンサー契約を締結。NFLもつい先日、Caesarsとスポンサーシップ契約を結びました(ただし、NFLはリーグ規約で賭博を許可していないので、スポーツ賭博領域は契約から除外されている)。

 

スポーツ組織にとって、スポーツ賭博合法化の事業的インパクトは単に賭博者という新たな顧客を取り込めるだけに留まりません。スポーツの消費形態は、近年のソーシャルメディアやモバイルデバイスの登場や、デジタルネイティブのミレニアル世代の社会参加により、大きく変化してきていると言われています。具体的には、1試合をじっくり観戦する(Watching)という消費は主流ではなくなり、スポーツをつまみながら(Snacking)他のこと(食事、おしゃべり、別のスポーツ観戦など)を並行して行う形に変化してきています。

 

スポーツ賭博解禁で重要なのは、このSnackingの文脈からこれを理解することです。実際、スポーツ賭博合法化のインパクトは、賭博から生み出される直接的な収益よりも、新たな観戦形態を提供できる選択肢によって既存収益源から増収を生み出せる部分の方がはるかに大きいと言われています。

 

AGA(米国ゲーミング協会)とNielsenの試算では、米国4大スポーツで合計42.3億ドルの増収効果があるとされていますが、増収効果の78%はスポーツ賭博により新しい観戦・消費形態が生まれることによる既存収益源への増収効果(Revenue Increase from Fan Engagement)で、賭博からの直接的な増収効果(Gaming Related Revenue)をはるかに上回っています。

 

■来そうで来ないOTT

Jリーグを筆頭に放映権がテレビからOTTに移行しつつある(スポーツ界におけるテレビの影響力が減退しつつある)日本にいるとイメージしづらいと思いますが、米国では放映権は有料テレビ局が高額複数年契約でガチガチに押さえていて、OTTが入り込んでくるスキがなかなかない状況です。

 

過去には、NFLがTNFの放映権をYahoo!やTwitterに実験的に売ったり、最近でもMLBがDAZNと新たにストリーミング契約を結びましたが、これもNFLのRedZone Channelのようにプレー中の試合のチャンスの場面だけを「Live Look-In」として抜き出してオンエアするもので、試合中継の本丸を手にするものではありません。

 

「来るぞ来るぞ」と言われながら、なかなか来ないOTTだったのですが、果たしてその状況を一変させたのがAmazonでした。

 

昨年、DisneyがFOXを買収したのは記憶に新しいところですが、反トラスト法違反でこの買収を審査していた司法省が、FOXが持つ22のRSNの売却を条件にこの買収を認めました。現在、このRSNの入札が行われている最中なのですが、ここに手を上げてきたのがAmazonでした。放映権を買うのではなく、テレビ局を丸ごと買ってしまおうというのですから、Amazonらしいスケールの大きな話です。

 

この22局の中には、ヤンキースの放映権を持つYESなども含まれており、Amazonがスポーツ中継ビジネスに参入してくると、これまでの勢力図が一変してしまう可能性があり、この入札の行方は要注目なのです。


■NCAAとプロスポーツの直接競争時代の幕開け

米国の大学スポーツで大きな収益を上げているのは、男子バスケとフットボールの2競技にほぼ限定されます。なぜこの2競技だけビジネスとして成功しているかというと、NBAとNFLにはドラフトに年齢制限があり(NBAは19歳、NFLは20歳にならないとドラフト資格を得られない)、高卒即プロ入りが認められていないからです。

 

これにより、プロ志望の大学トッププレーヤーは、年齢制限があるから仕方なく大学に進学しているという学生も少なくなく、これが裏金の温床になっていました。昨年、FBIの捜査により、有望選手の入学を希望するナイキやアディダスといった大学スポンサー企業や、卒業後の代理業務を狙うエージェントが、選手(やその家族)やリクルーティングで影響力のあるヘッドコーチにカネをばら撒いていた一大スキャンダルが発覚しました。

 

FBIの捜査はまだ続いていますが、このスキャンダルを受け元国務長官のコンドリーザ・ライスを委員長とする第三者委員会が立ち上がり、スキャンダルの元凶となっていた年齢制限の撤廃や代理人の使用許可などを含む大学バスケ界の改革案が提示されました。

 

こうした動きに合わせ、NBAも傘下のGリーグの待遇を改善するなど、来るべき年齢制限撤廃に備え、高卒トッププロを受け入れる環境整備を虎視眈々と進めています。

 

つまり、これまで年齢制限により上手く守られていた大学スポーツとプロスポーツの住み分けが終焉を迎え、今後は直接的な競合として選手の争奪戦を繰り広げることになるわけです。

 

NCAAとプロスポーツが直接対決を迫られるのはバスケだけではありません。2020年7月から18-22歳を対象とした育成プロフットボールリーグ「Pacific Pro」が開幕します。これにより、年齢制限により利権が守られていたバスケ・フットボールともに今後はプロとの直接競争を強いられることになります。

 

NCAAは2016年には既にそのビジネスモデルの根幹ともいえるアマチュア規定(学生の本分は学問にあるという建前から、学生にはプレーの対価としての報酬は支払えないという規約。これによりスポーツ組織経営における最大のコスト要因である選手年俸を極小化することができた)が反トラスト法違反という判決が下されています。

 

大学スポーツのビジネスモデルが根本的に見直される流れは今後も続きそうです。教育機関がスポーツビジネスを行うことによる商業至上主義・勝利絶対主義の弊害がこれまでにない程噴出してきている昨今、プロとの直接対決時代を迎えるに当たり、学生スポーツの意義が本質的に問い直されていくことになるでしょう。

 

■アナリティクスによる競技の変容

いわゆる“マネーボール”に始まったアナリティクス(統計的データ分析)の戦術分析への応用は、スポーツの本質すら変えつつあります。主に打撃面での選手評価から用いられ始めたアナリティクスは、守備面にもその応用領域を拡大し、今やMLBでは多くの球団がバッターの打撃傾向に応じて極端な守備シフトを敷くようになってきています。

 

これは、フライには傾向が見られないがゴロには一定の傾向があるという分析結果に基づいた動きなのですが、これにより投手はゴロを打たせるような配球を行い、それに対峙する打者は逆にフライを打つように意識を向けるようになりました。

 

この結果、全体的な傾向として打者の平均打率は下がる一方で、ホームランの数は増えるようになり、インプレーの数が減ってきていると言われています。言い方を変えれば、野球が大味になったというわけです。これに対しては、MLBのコミッショナーも危機感を示しており、守備シフトの規制を検討していると報じられています。

 

また、アナリティクスが変えたのは選手の動きだけではありません。基本的な戦術はフロント主導になる傾向が強まり、監督には戦術(選手の起用や作戦の選択など)よりもチームの雰囲気づくり(いわゆるケミストリー)が任されるようになってきているようです。要は、科学の部分は球団が行うので、アートの部分を担当するように役割が縮小されてきているのです。これにより、MLBの監督の年俸は減少傾向になっています。

 

既に試合映像のスカウティング分析などにAIが入って来つつあります。リアルタイムで戦術分析が行えるようになるのも、時間の問題でしょう。言い方を変えれば、AIがGMや監督を置き換えるのが技術的に可能になるのです。果たしてそうなった場合、それをルールで許すのかどうか。スポーツの中で人の要素をどこまで排除することを認めるのか。守備シフトの先にはこうした本質的な問題が横たわっています。

 

■都市招致型グローバルメガイベントのビジネスモデル陳腐化

東京五輪開幕が目前に迫った今、オリンピックに代表される都市招致型グローバルメガイベントへの風当たりが急速に強くなってきています。資本主義が成熟期を迎え、資源の有効活用に向けReduce、Reuse、Recycleが求められてきている世の中で、開催都市に無理を強いるビジネスモデルは立ちいかなくなってきています

 

オリンピックのモットー「Faster, Higher, Stronger」(より早く、より高く、より強く)は、資本主義の発展過程では「豊かになりたい」という国民心理と密接に結びつき、大会開催を後押ししてきました。しかし、今日のように成長より成熟が求められる世の中では、たった2週間のイベントに兆円レベルの巨費を投じる理由を正当化するのが難しい時代に差し掛かっています。

 

26年の冬季五輪招致から札幌が撤退したのは記憶に新しいですし、カルガリーも市民の反対から昨年11月に撤退を決めたのをご記憶の方もいるかと思います。既に、26年五輪では大会招致に立候補した7都市のうち5都市が撤退を決めました。

 

日経ビジネスにも書きましたが、2016年にオックスフォード大学が実施した調査では、過去に開催されたオリンピックで招致段階の見積もり通りに収まった大会は1つもないという衝撃的な事実が明らかになっています。こうしたリサーチ結果を受け、同大学の調査チームも「オリンピックの開催を予定している都市や国は、世の名で最も高額で財務リスクの高い大規模プロジェクトを行おうとしているという認識を持つべき」と警鐘を鳴らしています。

 

東京オリンピックも「レガシー」をキーワードにサステナブルな五輪の実現に向け動いているようですが、「レガシー」がその場しのぎの言い訳に使われるようなら、東京オリンピックは1984年のロス五輪により構築されたと言われるオリンピックのビジネスモデルに終止符を打った大会として記憶されることになるでしょう。

 

ピンチはチャンス。是非とも、2020年の東京オリンピックが「サステナブル五輪への道筋をつけた大会」と言われるように、意味あるレガシーが残されることを期待したいと思います。

私の存在という質問

新年明けましておめでとうございます。

 

2019年1月1日でトランスインサイト株式会社は設立13周年を迎え、14年目の年に突入しました。個人的には在米生活も19年目になります。

 

渡米当時、こんなに長くアメリカに住むことになるとは、文字通り夢にも思いませんでした。振り返ってその理由を考えてみると、まずスポーツビジネスの先進的なノウハウを間近に見ることができ、これが業務上の差別化要因になっていることが挙げられます。感覚としては、これが50%くらい。やはり、生活者としての視点がないと、米国のスポーツ界を本質的に理解し、客観的に評価することはできません。

 

例えば、1週間出張でアメリカに来ても、先進的な事例を見たり話を聞くことは可能です。でも、生活者としての視点や実感がないと、情報の重みづけはなかなかできないものです。住んでいることで先進的な情報を肌で理解し、その実相を感覚としてつかんでいることを私は重視しています。

 

2つ目の理由は、スポーツを観るにしてもやるにしても、最高の環境が整っていること。これが30%くらいでしょうか。スポーツが人々のDNAとして刻み込まれている米国では、どの季節でも違ったスポーツが生活を盛り上げ、喜怒哀楽をもたらしてくれます。スポーツをやるにしても、人工芝で照明が完備されたグランドを比較的簡単に使うことができます。

 

平日、仕事を終えて午後6時からレクリエーションスポーツを楽しめる環境が身近に整っているというのは、本当に素晴らしいことです。50歳を目前に控え、3回も手術を経験しながら未だにフラッグフットボールをプレーし続けていること自体が、その証とも言えるかもしれません(笑)。

 

3つ目の理由は、アメリカという国との相性が悪くなかったのだと思います。集団への帰属がアイデンティティとなる母性社会の日本とは対照的に、一神教に根差した父性社会の米国では、あらゆる局面で個人の判断がベースになります。雑多な価値観が混ざり切った米国社会では、“暗黙の正解”は存在せず、同調圧力はゼロです。

 

こう聞くと、なんだか自由で楽しそうな印象を持つかもしれませんが、むしろこれは苦痛になりえます。僕もそうですが、母性社会での価値観をベースに米国で生活し始めると、大抵の人は大きな疎外感を感じることになります。母性社会の日本では、個人の自由を一定程度制限する対価として、自分が帰属する母集団(学校、会社など)が個人の世話を焼いてくれることが当たり前のようにあります(終身雇用制度などはその好例)。

 

個人の都合が常に集団の都合に優先する米国では、まず前提として個人の持つ集団への帰属意識は希薄で、集団も個人の世話を焼いてくれません。つまるところ、これは個人の自由意志の尊重なのですが、これに慣れていないと疎外感や冷たい感じを受けてしまいます。

 

自分で言うのもなんですが、僕は割と一人でいるのが平気ですし、どちらかというと天邪鬼で、皆が行く方向と違う方に行きたがる個人的な気質を持っているので、こういう性格的な部分がアメリカの生活に合ったのかもしれません。

 

「わたしの存在そのものが質問なのだ。その答えを知りたくて生きてるんだ」。これは、劇作家の寺山修司の言葉です。

 

何の因果か、私はアメリカに19年も暮らすことになりました。その間、弊社の取り組みに価値を感じて下さったお客様や、スタッフ・インターンをはじめとする多くの友人、知人、同志、そして家族に支えられて今に至りました。

 

異国に生活しながら個人事業主として社会に向き合っていると、どう考えても大きな存在に導かれているとしか思えないような不思議な感覚を覚えることも少なくありません。寺山修司の言葉ではないですが、こうした生き方を送ることになった自分の存在意義というものを再確認しながら、社会貢献と自己実現を両立する自分なりの人生の訴求価値(Value Proposition)というものを追い求めていきたいと改めて思います。

TNFを観て戦力均衡を思う

普段はあまりThursday Night Footballを観ることなんてないんですけど、昨晩のカードがNY Jets対Cleveland Brownsだったので思わずチャンネルを合わせてみました。Jets対Brownsと聞いてピンと来たあなたはかなりのNFL通です。そう、これは今年のドラフト1巡QB対決なのです。

 

TNFは、ファンの間では導入以来もっぱら不評なのですが、なぜかと言うと前節の試合から中3日しかないため、コーチ陣や選手が十分な休養や準備のための時間が割けず、クオリティーの低い試合が多いからです。なので、TNFの放映権はババ抜きみたいになっちゃってまして、OTTの実験場に使われたりしています。

 

昨年なら、はっきり言ってJets対Brownsなんて誰も観たくないような試合です。なにせ、Brownsは2016年シーズンから引き分けを挟んで18連敗中で、不振を極めていました。一方、私の地元のJetsも毎年QBの育成に失敗し、シーズン途中で失速というパターンが映画のように繰り返されていました。

 

しかし、今年4月のドラフトでBrownsは1巡1位でOklahomaからBaker Mayfieldを獲得、Jetsも1巡3位でUSCからSam Darnoldを獲得しました。つまり、昨日の対戦は今年ドラフトされた上位2QBの戦いだったわけです。JetsのDarnoldは初戦から先発を任されていたのですが、BrownsはBillsからトレードで獲得したTyrod Taylorを初戦から使い、Mayfieldには育成期間を設ける方針だったようです。しかし、昨日の試合ではTaylorが第2Qで負傷したため、予期せぬ形でMayfieldのNFL初戦になりました。

 

試合の方は、初戦から新人離れした落ち着いたパフォーマンスを見せるDarnoldがこの日も難なくオフェンスを指揮し、Mayfieldが投入された前半残り1分42秒の時点で14-0でJetsがリードしていました。しかし、Mayfieldが入ってオフェンスのリズムが変わったBrownsは試合終了前にフィールドゴールを決めると、後半も得点を重ね、試合終了まで残り47秒でJetsを逆転し、そのまま14-17でBrownsが勝利を収めました。

 

試合展開自体も非常にスリリングだったのですが、去年までカレッジフットボール界を賑わしていた2人のQBがBrownsとJetsという不人気チームを一夜にして立て直してしまうダイナミズムに舌を巻きました。これぞ、ウェーバー制ドラフトの真骨頂というところでしょう。日本のプロ野球もドラフト1巡の入札抽選を止めるだけでかなりの戦力ダイナミズムが生まれるだろな、なんてことを思った木曜日の夜でした。

アラフォー男子のeSports初観戦記

ここ数年、どこのカンファレンスに出ても「eSports」のワードを聞かない事はありません。コンサルタントとして「語るからには実体験せねば」ということで、機会があれば観に行こうと思いつつ、なかなか身近で開催している大会がなく機会を窺っていたわけですが、インターンのJ嬢に地元のBarclays Centerで開催されることを教えてもらい、ようやく初観戦に至りました。

 

<観戦したゲーム>

観戦したのはOverwatchという対戦型ゲームで、世界中に約4000万人のユーザがいるそうです(2018年5月現在)。Overwatchは2016年5月に米Blizzard Entertainment社が発売したゲームで、今年からMLG(Major League Gaming)と組んで「Overwatch League」(OWL)というリーグ戦を開始しました(ちなみに、Blizzard/MLGともにActivision-Blizzardという会社に保有されています)。

 

OWLは12チーム(米国9、韓国・イギリス・中国からそれぞれ1チーム。各チーム先発6名)から成り、1月から6月まではLAのBlizzard Arenaを拠点に公式戦を戦い、7月にプレーオフと決勝戦が開催される流れになります。公式シーズンは4ステージで構成され、各ステージでトップのチームに12万5000ドルの賞金が支払われるほか、公式シーズン全体の成績により2万5000ドル〜30万ドルの報酬がチームに支払われるそうです。プレーオフは上位8チームが進出し、優勝チームには100万ドルの優勝賞金が提供されるなど、賞金総額は350万ドルとのこと。

 

今回観に行った試合は7月28日(金)に開催された優勝決定戦「Grand Finals」の1試合目で、優勝チームは翌日の第2戦の結果とのトータルで決まるようです。まあ、MLBに例えればWorld Series、NBAならNBA Finalsの初戦を観戦したというイメージです。

 

OWLは所属12チームが各都市にフランチャイズを置く閉鎖型モデルを採用しており、eSportsで一般的な昇降格制度を伴う開放型ではないようです。米国でプロリーグが組織されるとサッカーもeSportsも閉鎖型になっちゃうのは面白いところです。

 

<観戦者のゲーム歴>

ちなみに、私45歳男ですが、小学生低学年の頃は地元のゲーセンでインベーダーゲームやパックマンをするなど、割とゲームが身近な環境で育ったように記憶しています。初代ファミコンが登場してファミスタやゼビウス、ドラクエなどに一通りハマりましたが、中学生になって部活が忙しくなって以来、ゲームとの接点はプツリと無くなって今に至ります。少なくとも30年以上はゲームから遠ざかっていた中、いきなりeSportsの観戦となりました。

 

全く予備知識のない中でのeSports観戦もいかがなものかと思い、試合当日の開始3時間前くらいになってオフィスでJ嬢とWikipediaやYouTubeなどでゲームの世界観やルールなどを慌てて勉強しだすも、展開や登場人物が複雑すぎて途中で心が折れ、二人ともほとんど無知なままぶっつけ本番の観戦となりました。

 

<Barclays Centerの様子>

30分前到着を目標にするも地下鉄の遅れでBarclays Centerに着いたのは試合開始15分前でした。アリーナの外はNBAの試合前のような混雑はなく、少し拍子抜けした感じでしたが、アリーナに入場しコンコースから座席エリアに入ると、熱狂的なファンで既に会場が埋め尽くされており、その熱気に圧倒されました。「なんじゃこりゃ」という感じです。

 

 

 

 

バスケ時に約1万8000名を収容するBarclays Centerですが、eSportsの場合はコンサート仕様と同様に一方にステージを設営するため、使えなくなるステージ裏の席と、フロアに追加設置される仮設席を相殺してキャパは約1万7000席程度のようです。フロアと1階席はほぼ埋まっており、2階席は半分くらいの入りだったので、全体で1万人ちょっとの動員だったような印象です。

 

ちなみに、チケットは全席自由で(フロア席だけ違うカテゴリだったと思いますが、1階と2階は行き来自由)、早い者勝ちです。3週間前に購入しようとした時には既に売り切れていたため、StubHubで1枚80ドルちょっとで購入しました。

 

<ゲーム展開>

ゲームは5つの異なるステージを攻守交替で行う形でした。1ステージ20〜30分程度かかり、各ステージの間には5分くらいインターミッションが入ります。こう説明すると、野球に似ていなくもないですね。

 

試合開始前にはチーム紹介があり(そういえば国家斉唱はありませんでした)、MCが居て1試合を通して会場を盛り上げます。MCとは別にDJもいて、ステージ間のインターバルなどはクラブのような感じでイケイケの曲をかけて雰囲気をヒートアップさせます。Tシャツトスなんかもやってました。この辺はNBAをもう少し賑やかにしたような感じです。

 

試合の模様はTwitchでも無料で生中継されており、25万人前後のアクセスが確認できました。ちなみに、翌日の決勝戦第2戦はESPNで生中継されてました。これをESPNが生でオンエアしちゃうのかと、ちょっと衝撃でした。

 

 

 

<通常のスポーツ観戦・興行との違い>

1)ゲーム経験者と未経験者の間の断絶

OWLを実際に観戦してみて痛感したのは、ゲームをやったことがないと全く盛り上がりに着いていけない点です。これはゲームの種類によっても違いがあると思いますが、今回観戦したOverwatchに限って言えば、アリーナのビジョンにゲーム展開は大きく表示されているので場面を見逃しているわけではないのですが、それでもやはり何が起こっているか全く理解できず、残念ながら最後まで周りの熱狂に溶け込むことができませんでした。

 

 

従来的なスポーツの場合、例えば野球やサッカーをやったことがない人でも、場外ホームランやセットプレーからの華麗なゴールなどを見れば、「すげー」と感激する場面があり、プレーの感動を共有することができると思うのですが、eSportsの場合これが比較的難しいのではないかと感じました。従来的なスポーツの場合は、プレーヤーの身体性自体が観戦対象であり、そのレベルの高さに観客は魅了されるわけですが、eSportsの場合は画面の中のプレーヤー(キャラクター)の身体性そのものというよりは、それを操作するゲーマーの技が観戦対象になるので、その技がどれだけ凄いのかが分からないと盛り上がれないのです。

 

米国プロスポーツ業界は最近5〜10年で「競技を見せる場」から「競技+アルファを楽しめる場」にそのValue Propositionを大きくシフトさせてきています。個人的に、その達成度を測るには「その競技を全く知らない人が来ても楽しめるかどうか」が一つの目安になると考えています。この尺度でeSportsを評価してみると、(Overwatchを知らない自分があまり楽しめなかったことが象徴的ですが)競技を知っている人と知らない人の間に大きな断絶があるのは、通常のスポーツ観戦との大きな違いかもしれません。

 

2)ゲーム会社主導の興行体制

特定のゲームタイトルをベースに大会を組織せざるを得ないのもeSportsの特徴です。今回観戦したOWLはBlizzard Entertainment社が開発したゲームを使い、MLGの協力でリーグ戦が実現しているだけですが、前述のように両社は同一オーナー会社に保有されています。つまり、こうしたスキームからどうしても特定企業の存在感を感じざるを得ず、「どうせゲーム会社のプロモーションに上手いこと乗せられてるだけでしょ?」という見方を否定できないのです。

 

また、テレビ中継やネット配信などでは、MCのトークやDJの盛り上げなどはあるにせよ、大部分はゲーム展開をそのままオンエアしているわけですが、当然ゲーム自体の知的財産権はゲーム会社に帰属しています。OWLのように、タイトルゲームの開発元とリーグ戦の興行主が同一であれば問題ないですが、これが異なる場合に、試合中継やその周辺コンテンツ(Pregame、Aftergame、応援番組などのコンテンツ)の放映権は誰が保有するのかは、まだグレーゾーンなのではないでしょうか?韓国などでは、訴訟も起こっているようです。

 

<想定されるKSF>

eSportsを大きな市場に育てていこうと考えた場合、前述のように「ゲーム経験者と未経験者の間に大きな断絶がある」ことが大きなハードルになるように思えます。

 

断絶を超える方向性としては、「ゲーム経験者を増やす」か、「ゲーム未経験者からも共感の得られやすい(見て分かりやすい)ゲームタイトルを選ぶ、あるいは会場全体としてそのような訴求価値を目指す」、の2つが大きくありそうです。前者は正論ですが(アメフト市場を拡大するには、アメフトのルール理解者を増やすべきだ、という主張に似ています)、これはマイナースポーツが陥りやすい罠で、実はなかなかすぐに成果が出にくい部分です。特にeSportsの場合は特定のゲーム会社の利害に直結するところも、単純に「ゲーム経験者を増やそう」という主張が響きにくいところではあるでしょう。

 

まあ、両方やって行くんでしょうけど、個人的には後者のアプローチに力を入れるべきかなと感じます。

 

ゲームを知らない人にも楽しんでもらえるには、前提条件として良いアリーナがあるのは必須でしょう。正直、ゲームを見せるだけだと間が持たないので、音楽や映像などで盛り上げないと単調になってしまいそうです(アリーナスポーツとの相性は抜群ですので、NBA球団が躍起になってeSportsチームの買収に走る気持ちは良く分かります)。

 

もう1つは、言葉の問題も市場を定義する上では大きな壁になり得ると思います。eSportsの場合、オンラインで予選や大会を開催することもできてしまうので、それを良く捉えれば国境などにとらわれずにボーダレスに興行することが可能です。ただ、(個人的には勉強不足で一般的な興行形態をよく知らないのですが)、例えば日本の大会を日本語で行うとした瞬間に世界(英語)のeSportsマーケットから取り残されてしまうような状況になり得るのではないかなとも思います。

 

今回、Barclays CenterでOWLを見た印象では、英語圏ではそれなりの市場やエコシステムが既に存在しているように見えるので、ゲーム経験者のみを前提としたマーケットだけでクリティカルマスが取れて事業として成立してしまうかもしれないものの、日本語だけだと十分な市場を確保できないという事態に直面するかもしれない、少なくとも英語圏に根付いた事業よりは不利だろうなと言う印象を受けます。

 

これは、ある意味今日本のサッカー界が直面している課題と共通するかもしれませんが、ヨーロッパのようにコアサポーターだけをターゲットにして毎試合6万人の観客が集まるほど市場が大きければ(成熟していれば)問題にはならないのですが、そうならない場合に、サッカー先進国のファン開拓はあまり日本の参考にならないのです。

 

こう考えると、日本を軸に日本語で事業展開する場合は、よりゲーム未経験者(カジュアルファン)からも共感を得られやすい日本独自の環境を整備しないとビジネスとしては苦しくなるかもしれません。

 

あと、細かいところですけど、今回優勝したLondon Spitfireのプレーヤー(ゲーマー)はほとんどが韓国人だったんですけど、試合中のプレーヤーの音声をステージ間のインターバルでオンエアするなど盛り上げる努力はしていたものの、そもそも会話が韓国語で、通訳や字幕が付くわけでもなく、「おー、何か真剣に声かけあってやってるな」とは思うものの、何を言っているのかサッパリ分からず、とても残念な感じだったので、こうしたところの多言語対応などもあれば良いなと感じました。

 

以上、初観戦記として書いてみましたが、ぼとんどeSports初心者でまだまだ勉強中ですので、的外れなことを言っていたらご指摘頂けますと有難いです。

海外視察を成功させるには

日本企業がシリコンバレーで嫌われているというのは有名な話なのですが、同じようなことがヨーロッパでも起こってるみたいです。

 

日本企業は「お勉強」海外視察を撲滅せよ。日本人は相手の時間奪う意識が希薄

一番の問題点であり、その他の問題を引き起こす真因でもあるのが「目的意識の欠如」です。視察希望者の70%くらいは「こういうことをするために、こういう企業を訪問して、こういう話を聞きたい」といった、具体的な目的を持っていません。

 

受け入れ先の時間と人的コストを使って情報をもらっているにも関わらず、テイクばかりでギブができない。だから「また日本人か」と言われてしまう。なので最近は視察の依頼を断るケースさえあります。僕なりの「無駄な視察撲滅運動」です。

 

僕も海外研修のコーディネートをやらせて頂いたりするので、記事の吉田さんの気持ちはとても良く分かります。

 

ちょうど先週、某プロ野球球団の海外研修で西海岸にいたのですが、このアレンジでいろいろと思うことがありました。この球団はもうかれこれ10年くらい毎年ミドルマネジメント層向けに海外研修を実施しており、かなり視察慣れしているので目的の明確化やその後のTakeawayの活用方法などは組織内で十分検討のうえで視察を実施しています。今年は従来と少し趣向を変えて、スポーツの領域以外にも目を向け、西海岸のIT企業も視察先に加え、彼らのマネジメント手法や事業開発思考なども参考にできないかという話になりました。

 

アポイントメントの調整は、同じ競技どうし(日本のプロ野球球団がMLB球団を訪問するようなケース)なら比較的容易です。特に選手の日米交流があるような競技は既にスカウトどうしで協力関係があったりするので、相手側もよっぽど都合が合わない場合を除いてだいたい快く会ってくれます。競技が異なる(プロ野球球団がNBA球団を訪問するなど)と少し難易度は上がります。

 

今回、プロ野球球団がIT企業にアポを入れるということで、全く異なる畑に足を踏み入れることになりました。結果的に、AmazonさんとZapposさんの視察はできたのですが、それ以外にもいくつかのIT企業に面会依頼をしていたのですが、こちらは見事に断られてしまいました。

 

理由はほぼ共通してて、「自分の企業にとって面会する直接的なメリットがない」から。ここまではっきり言われると逆に気持ちいいですけど(笑)、先方としてはビジネスにつながる可能性があるか、それがない場合は拘束時間に対する従業員の収入逸失分を謝礼という形で補償しない限り、基本的に面会には応じてくれないようです。

 

東海岸だと、断るにしてもこう少し婉曲的に言ってくれたりするんですけど、やはりシリコンバレーに代表される西海岸のベンチャー気質は違うなぁと、変に感心してしまいました。こういうカルチャーは、終身雇用がまだ色濃く残ってて、時間と成果で生産性を厳密に管理しない日本ではピンと来ないかもしれませんが(なので、日本の大手上場企業がシリコンバレーを訪問するなどという場合が、実は一番危険なのです)。

 

Zapposさんなんかは、世界中から視察が殺到しているらしく、逆に視察・面会への対応を1つの事業にしてしまっています。Zappos Insightsという関連会社を設立してて、面会は30分で参加者一人につき250ドル、1時間350ドルで受け付けています。安くない金額ですが、これで向こうも訪問者をスクリーニングしているのだと思います(単なる興味本位の訪問者の排除)。まあ、お金で解決できるなら、ある意味コーディネーターとしては楽なんですけどね。ちなみに、今回は6名で訪問したので、1時間の面会に2100ドル(約23万円)支払いました。

 

それにしても、Zapposは衝撃的な企業でした。視察前にNDAにサインしているので、残念ながらその情報を共有することはできないのですが、完全な自由主義の裏に、それはそれはとてもとても厳しい成果主義が徹底されていました。ほとんど宗教団体のような企業でしたね。

 

海外視察を成功させるために会社としてやらなければならないことは、非常にシンプルです。とにかく事前に質問項目をできるだけブラッシュアップしておくことです。これは2つの意味で重要です。

 

まず、良い質問は、訪問先のことをある程度理解していないと出てきません。公式サイトを見て基本的な事業内容を理解し、自社との違いが何かのか考えてみるとか、財務情報をIRのページから入手して事業構成や売上比率を押さえておくとか、最低その位はやっておかないと良い質問はできません。英語が分からないなら、専門家を呼んで日本で事前勉強会をやっておくのもよいでしょう。

 

良い質問、深い質問を考えるためには、それなりの準備を強いられますが、まずはこれがとても重要だと思います。

 

2つ目は、ある程度詳細な質問項目を用意し、事前にそれを訪問先に渡しておけば、Right Personに面会できる可能性が高まり、場合によっては関連資料なども事前に準備してくれたりもします。1時間の面会としても、通訳が入れば実質的にヒアリングできる時間はその半分の30分しかありません。この短時間の勝負に勝つには、事前準備が欠かせません。1時間の面会なら、最低でも質問したい事業領域(大項目)に応じて各10個程度の大まかな質問項目(中項目)を用意し、できれば各質問項目をもう少し詳しく落とし込んだ具体的な質問(小項目)にまで整理できていたらベターです。

 

最悪なのは、「ざっとこんな感じの話が聞きたい」という風に曖昧に視察目的を伝え、「あとは現地で何とかなるでしょ」というスタンスで視察に臨むケース。こういう場合、いざ面会になっても「御社の基本的な事業内容を教えて下さい」みたいな、「そんなの自分で前もって調べとけよ!」(コーディネーターの心の声)というような質問をするため、経験的にあまりいい面会になりません。事前にお願いしていた質問領域と全然違う質問をしたりすると、そもそもそれに答えられる人が出席していないというミスマッチも起こりやすくなります。

 

逆に、深い話に至ったり、「実はここだけの話だけどね」というマル秘情報を教えてもらえたりするのは、向こうが「こいつらなかなか勉強して来てるし、その熱意に何とか応えたい」って思ってもらえるようなケースなんですよね。あとは、財務情報などの数値は向こうも敏感なので、質問する際に一方的に質問するよりは、「うちは総収入がX億円で、うちY事業の収入比率がZ%なんだけど、御社は?」みたいに聞くと、向こうも数字を言ってくれやすくなります。

 

僕は、1つの目安として「相手に“That's a good question”と言われたら勝ち」という風にクライアントに伝えるようにしています。アメリカ人は自分が知らない事や、考えたことのないことを聞かれると大体「That's a good question」と言うので、そこまで鋭い質問ができたらこちらの勝ちなのです。

 

あと、これはクライアントにはあまり話さないことですが、日本企業の立場からは「一期一会」なのですが、コーディネーターは視察先組織と日常的な接触があるケースが多いので、あまりにも雑な視察をする企業は連れて行きたくない、というのがコーディネーターの本音です。「こいつが連れてくる日本企業はロクなところがないな」と思われてしまったら最後だからです。

 

そうならないようにするには、1)少なくとも事前に十分準備した状態で視察に臨み、相手に失礼のない質問をする、2)できれば面会時に相手の参考になるような情報をこちらから提供することも心掛け、その場でギブ&テイクを成立させる、ことが重要になります。2)は理想ですが、そこまでできる企業はあまりないので、コーディネーターがクライアントに見えないところでギブ&テイクの関係を上手くバランスさせていることが多いと思います。そのようにして、自ら身を守ることができるかどうかも、コーディネーターの実力の1つと言えるかもしれません。

 

僕もいろいろな視察のお手伝いをしていますが、Outputを強いられた視察というのは、もう参加者の覚悟が全然違います。「とにかくここで何かを掴まないと帰れない」という決意があります。逆に、「お勉強」目的の視察だと、どうしても主体性がなくなりがちで、お客様気分(来たくて来たのではなく、会社に連れてこられた感)が抜けません。

 

まあ、現実には「期末で予算が余ったから」とか「いつも頑張ってるからご褒美で」といった理由で海外視察に来るケースもありますから、全ての視察をストイックに進めて行くというのは無理でしょうが、少なくとも視察先の時間を奪っているという感覚を持ち、失礼がない程度の準備はしておいて欲しいというのが、(僕も含め)多くのコーディネーターの心の声だと思います。

スポーツ界の“やりがい搾取”に気をつけよう

今年も新社会人がフレッシュな息吹を組織にもたらしてくれる季節を迎えました。うちのインターンOB/OGの中にも、今年新社会人になるのが何人かいます。彼らの社会への門出を祝うとともに、これからの長い人生で、社会に価値を創出しながら自分のやりたいことを実現し、固有の居場所を作ることができるように応援したいと思います。

 

さて、そんな新陳代謝がもたらされる季節であることを鑑み、SBAでも4月24日にこんなセミナーを実施します。以前から理事の間で是非やりたいと話していたものです。

 

スポーツ界で活躍するために20代で必要なこと 〜間違いだらけのスポビズキャリアの作り方

スポーツビジネスは「夢の仕事」(Dream Job)とも言われ、2020年の東京オリンピックの開催もあって多くの若者が一刻も早くこの業界で働きたいと躍起になっている。各地で有志の情報共有会や勉強会が開催され、多くの大学や教育機関がスポーツビジネスコースを提供している。

 

しかし、「いち早く業界で働くこと」と「業界で活躍すること」は似て非なるものだ。今や人生100年時代とも言われ、ビジネスパーソンとしての活動期間は半世紀にも及ぶ。そんな長期戦に臨むに当たり、夢だけ膨らませて何とかスポーツ業界に潜り込もうと固執するのは、目隠ししたまま丸腰で戦場に突入していくようなものだ。

(中略)

仕事に脂がのってくるのは40代を過ぎてからだとも言われる。この年代に勝負をかけるために、今何をしておくべきなのだろうか? 大企業/ベンチャーでの経験は活きるのか? 留学経験はあった方がいいのか? 英語は役に立つのか? 女性が活躍するために肝に銘じておくべきことは何か? などなど、20代で必要になる職業観やキャリアプランなどについて、登壇者が受講生の皆さんに等身大のストーリーを共有する。

 

どの国・業界にも多かれ少なかれ「搾取構造」が存在します。例えば、日本で最も大きな搾取構造の1つは、解雇規制があるため企業が過去に採用した正社員を優遇せざるをえず、その結果、新規採用において非正規社員が多く生まれ、同一労働を行いながらも金銭的に区別されてしまう年功序列型雇用制度でしょう。これは、既得権に根差した搾取構造で、今や世代間闘争の様相すら呈しています。

 

コンビニやファーストフード業界なども、現場を回している大部分は学生のアルバイトや留学生、移民ですよね。まあ、「搾取構造」というと、ちょっと言葉が悪いかもしれませんが、もう少し波風立たないように言い換えるなら、異なる動機やスキルを持った人材を上手く戦力化して、効率的な経営を実現していく、とでも言いましょうか。

 

スポーツ業界にも“搾取構造”は存在します。しかも、スポーツ界の場合「やりがい搾取」という巧妙な形を取るため、一見すると気づきにくかったり、気づいても目の前のニンジン(スポーツ界への就職)の魅力が強すぎて冷静な判断力を失うような、ある意味で性質の悪い形になっています。

 

東京オリンピックなどもあり、スポーツ界の注目度は高まってきています。ただ、既存企業の予算配分がスポーツに向けられてきたという程度で、実際に新たな市場が生まれている状況にはまだなっていません(まあ、これだけでも大きな変化ですが)。スポーツ産業の中心ともいえるプロスポーツでは、市場規模はここ10年ほとんど横ばいです。Bリーグはできましたが、これは既存のリーグを統合しただけで、新たな市場がゼロからできたわけではありません。

 

椅子取りゲームをイメージしてもらうと良く分かるかもしれません。日本のスポーツ業界の状況は、大学などが積極的にスポーツビジネスの学科を設けるなどの流れもあり、ここ10年でゲームの参加者の数は増え続けています。その一方で、椅子の数はほとんど変わっていません。それは、「儲かる教育」が幅を利かせ、椅子を増やすことができる人材が育成されないからです。

 

では、なぜこれで椅子取りゲームが続いていくかというと、定期的に辞める人がいるからです。スポーツ業界は長時間労働、土日休みなしなど、絵に描いたようなブラック企業ですから(笑)、情熱や夢だけあっても、職場で戦う武器がなければ10年も経てばバーンアウトしてしまうのです。装備を持たずに登山を始めてしまうと、途中で上にも横にも行けなくなって「これ以上ムリ」となってしまうのです。


以前、「なぜ天職はすぐに見つからないのか?」でも“3つの円”を使って解説しましたが、「好きなこと」を追い求めても、「できること」の範囲を広げなければ、天職になど出会わないし、面白い仕事などできません。「好きなこと」しか追い求めない人は、独りよがりで早晩燃え尽きて終わります。

 

僕も自分の会社の採用や人生相談などを通じて多くの学生と面談しますが、「自分は○×の理由でスポーツに情熱を持っています」「御社の業務が私のやりたいことにマッチするのです」という自己PRに終始する人が少なくないです。でも、経営者の本音は「あなたのやりたいことではなく、できることが知りたい」なのです。

 

言い方は悪いですが、こうした猪突猛進型の兵隊クラスタが定期的に入れ替わりながらスポーツ界に安価な労働力を提供し、現場を回しているのです(この状況は日本もアメリカもあまり変わりません)。ある人が「“スポーツビジネスの塔”に一番下から入っても、2階から3階に上がる階段はない」と言っていましたが、言い得て妙だと思います。そして、こうした現実に、スポーツ界に入った後で気づいても遅いのです。

 

さて、冒頭で紹介したSBAセミナーですが、今回はスポーツ界でその人にしかできないユニークな仕事をして業界や組織の中で存在感を発揮している若手の皆さんを登壇者としてお招きします。全員30代です。キャリアの築き方に「正解」はありませんが、スポーツ組織で「活躍」するためには何が必要なのか、彼らに共通するものが見えてくると思います。

 

以下のような皆さんを主な対象にしていますので、興味がある方は是非ご参加下さい。セミナーの後には懇親会もありますよ。

 

※将来スポーツビジネスに関係する仕事に就きたいと考えている学生

※将来スポーツ界への転職を考えているビジネスパーソン

※日本のスポーツ界での本質的な人材育成を考えている教育関係者

流行り言葉で思考停止にならないために

秋田県の佐竹知事が、J3ブラウブリッツ秋田(BB秋田)の本拠地となるスタジアムの新設構想に関し、「地方で複合型は成功しない」と発言したことがニュースになっています。

 

複合型スタジアム構想に否定的(NHK)

サッカーJ3、ブラウブリッツ秋田のスタジアム整備をめぐり、クラブなど官民連携の協議会が今月、サッカー以外にも活用できる複合型スタジアムの構想をまとめたことに対し、秋田県の佐竹知事は、26日の会見で「地方で複合型は成功しない」と述べ、否定的な考えを示しました。

(中略)

ブラウブリッツなど官民連携の協議会が今月、サッカー以外にも活用できる複合型スタジアムの構想をまとめたことについて、佐竹知事は「地方で複合型は成功しない。あの構想は東京のコンサルタントが自分でもうけるために示したものなので東京の言うことは聞かない。あれは全部商売だ。自分でものをこなしたことがない人が理想論を言っている」と強く批判しました。その上で、佐竹知事は「構想は参考にはするが、できるのかできないのかを協議するのはこちらだ」と述べ、複合型スタジアムの構想に否定的な考えを示しました。

 

発言は多少過激な部分もありますが(笑)、地方自治体の首長としては正しい態度なのではないかなと思います。むしろ、「スマート・ベニュー」(ちなみに、この言葉は株式会社日本政策投資銀行の登録商標です)といった流行り言葉を分かったつもりになって使って思考停止になっているよりは、よっぽど良いと思います。

 

FBでもポストしましたが、多機能複合型は経営上の変数が多くて難易度が高いモデルです。米国でも多機能複合型は数えるほどしかありませんし、成功モデルが確立しているわけではありません。

 

昨年、米国で新球場とともに周辺開発地域「The Battery Atlanta」を同時オープンした初めてのケースとなったアトランタ・ブレーブスに何度か話を聞きに行きましたが、プロジェクト責任者は、「我々としても何がKSFなのか当たりがついていないのが正直なところ。だから、変化に迅速・柔軟に対応できるオーナーシップを確保しておくことが重要」と言っていました。これが、ブレーブスが周辺開発に要した5億5500万ドルを全額拠出している理由です。ブレーブスのケースでは、球団が中心となって推進する多角化事業の1つとして街があるというイメージです。

 

まあ、球団が中心になって街を作っちゃうというのはむしろ例外的なケースかもしれませんが、米国でも多機能複合化に舵を切っている球団・都市に共通するのは、試合観戦だけでは溢れる顧客需要を取りこぼすため、その周辺にも受け皿を作ろうというのが基本的な考え方です。仕事柄、米国内で多機能モデルを計画・展開しているフランチャイズにはかなり足を運んでいますが、強力な動員力のあるアンカーテナントの存在が成功の前提条件になるように感じます。

 

これを踏まえると、多機能複合型にすれば必ず成功するというわけではないですから、「構想は参考にはするが、できるのかできないのかを協議するのはこちらだ」という佐竹知事のスタンスは、これはこれで真っ当な自治体経営者としての在り方だよなと思います。ただ、「地方で複合型は成功しない」と断言してしまうだけの材料は、少なくとも僕にはありませんが。。。

 

スポーツ施設は“生き物”ですから、一旦建設してしまえばあとは10年20年メンテナンスだけしていればOKなんてことはありません。激変する競合環境を睨みながら、競合他社が真似できない独自のValue Propositionを構築する努力を怠れば、その施設は建ったまま死んでしまいます。

 

例えば、野球ビジネスを例に挙げて考えてみるともう少しイメージが沸くかもしれません。NY市には、ヤンキースとメッツというMLB球団が本拠地を構えています。両球団のスタジアムは、車で行けば30分、地下鉄なら1時間ちょっとの距離にあります。また、同じくNY市内には両球団のシングルA球団が1つずつあります(SIヤンキースとブルックリン・サイクロンズ)。さらに、マンハッタンから車で1時間半圏内に独立リーグの球団が4つあります。

 

つまり、同じ野球ビジネスで飯を食っている競合球団だけでも8つあるわけです。MLBならブロードウェイが、マイナーや独立リーグなら映画館やモールが競合相手になりますから、本当の競争環境はもう少し複雑です。こうした中で、他社ではなく自社の球場に足を運んでもらうための独自の提供価値を考え抜き、変化する事業環境に応じて自身も変化し続け、それを施設設計にも定期的に反映しなければなりません。つまり、どこにも当てはまる正解などないのです。

 

誤解なきように言っておきますが、日本でバズワードになっている「スマート・ベニュー」というコンセプト自体が悪いわけではありません(すみません、登録商標なので勝手に使うと怒られてしまうかもしれませんので、最小限に留めます)。守破離ではないですが、最新コンセプトを参考にしつつ、最終的には自分たちの事業環境にフィットするモデルを自分の頭で考えるしかないのだと思います。

 

最近は日本でもスポーツ施設建設プロジェクトの構想がいくつも立ち上がってきています。まだ初期段階のものが多いようですが、僕のところにも最近不動産会社さんやゼネコンさん、総合商社さんなどから相談事が舞い込むようになりました。ただ、話を聞いて少しだけ怖いなと思うのは、流行り言葉が先走りして「ITを活用してスマートアリーナを建設します」みたいな、どこに進むか分からないまま進んでいるような計画であったり、テナント(施設を長期間利用する球団)が決まっていない中で、アウトサイダーだけで事業の話が進み、誤解を恐れずに言えば、大家ビジネスで汗をかかずに儲けが出るのではないかというイメージを抱いているようなプロジェクトが散見されることです。

 

最近日経ビジネスに書いたコラム「運動施設の命名権、米国より収益性が低い訳は?」で、日米のスポーツ施設の収益性の違いやその背景などに触れていますが、ここでも書いているように、事業価値を高めるためには施設所有者とテナントの協力体制が何よりも重要になってきます。

 

いずれにしても、スポーツ施設の建設計画では、「スマートなんとか」という流行言葉から離れて、自分の言葉で自らの経営モデルを語れるようになることが必要なんじゃないかなと思います。僕は2年ほど前から北海道日本ハムファイターズの新球場プロジェクトの外部アドバイザーをやらせて頂いていますが、プロジェクトメンバーの日常会話の中にはこうした「スマートなんとか」という流行り言葉はまず出てきません。

五輪壮行会やPV自粛が相次ぐ日本と世界で起こっていること

今日から平昌五輪が開幕しましたが、開幕に際して気になる報道を目にしました。日本で、選手の壮行会やパブリックビューイング(PV)の自粛が相次いでいるというのです。

 

平昌五輪あす開幕 学校や企業、PV自粛相次ぐ(産経新聞)

9日に開幕する平昌五輪で、競技の中継映像を大型スクリーンで公開し大勢で応援する日本でのパブリックビューイング(PV)について、選手が所属する学校や企業が五輪の宣伝規制への抵触を恐れ、相次いで自粛を決めたことが7日、分かった。2020年東京五輪・パラリンピックに影響することもあり、大会組織委員会や日本オリンピック委員会(JOC)などが協議。同日夜、自治体・スポンサーの主催を除き、企業や学校の主催でのPVは原則認めないとする方針を確認した。

 

五輪選手、CMから消える 肖像権理由に自粛 (日経新聞)

国際オリンピック委員会(IOC)は大会期間中、宣伝目的でのエンブレムや代表選手の肖像権などの利用を公式スポンサーに限っている。これに伴い、日本選手の肖像権を管理するJOCも2月中、スポンサー以外の利用を制限している。

 

自粛の動きは壮行会の中止や非公開化にも広がった。葛西紀明選手が所属する土屋ホームは2月1日、社員らだけで同選手を送り出した。同社は「壮行会を非公開にしたのは初めて。報道されればビジネスにつながるとは思っていないが、ルールに従った」という。

 

IOCが規則を変えたわけではない。JOCが指導を強化したのだ。ただ乗りが横行すれば国際社会から批判されかねず「東京五輪を控え、知財保護を徹底せざるを得ない」とJOCは説明する。ある意味「忖度(そんたく)」だが、JOCにも言い分はある。五輪関連の知財使用権を公式スポンサーに与える見返りに協賛金の拠出を受け、運営や選手強化の財源にしている。不正使用が増えれば知財の侵害だけでなく、協賛金の減収を招き大会運営に支障をきたしかねない。

 

この件は、「日本の状況しか知らないと世界の流れを見誤る」好例だと思いますので、少し解説を加えてみようと思います。

 

公式スポンサーの権利保護は大会主催者にとってはもちろん非常に重要な視点です。IOCもオリンピック憲章第40条でアンブッシュ活動を防ぐためオリンピックが開催される前後30日間はIOCの公式スポンサーであるTOPパートナー以外の広告活動を禁止していました(通称「ルール40」)。このルール40により、例えば公式パートナー以外の企業から支援を受けている選手がいても、この期間中は選手がそうした企業のテレビCMに出演したり、その商品を使用した写真やリンクをソーシャルメディアに流すことなどが出来ませんでした。

 

しかし、実はIOCは2015年からルール40を緩和する決定を下しています。オリンピックを想起しない形の広告活動に限り、それを認めることにしたのです。実際、現場でこの緩和を受け入れるかどうかは各国のNOCに一任されることになっています。米国、カナダなどでは既に2016年のリオ五輪からNOCがルール40の緩和を受け入れています。USOCなどは、オンラインで簡単にルール40からの離脱手続きができるようになっています。

 

先の日経新聞の記事などを読むと、IOCの規則に則ってJOCが指導を厳しくしたようにも読めますが、これは少しミスリーディングです。実際はIOCがルール40の規則を緩和しているのにも関わらず、JOCがその流れを受け入れていないのです。日本の代表選手でも、こうした状況を知らない選手が少なくないのかもしれません。元パラリンピアンの中西麻耶さんも、ご自身のブログでルール40に関する日米の違いについて言及されています。

 

IOCがルール40を緩和せざるを得なくなったのは、選手から大きな批判にさらされ、大規模な抗議活動が展開されるようになったためです。選手側の言い分は、「日頃から練習環境を支えてくれているのはオリンピック公式パートナーではなく支援企業(所属している会社や、物品を提供してくれる個人の協賛企業)。晴れ舞台でその名前を出せないのは理不尽だ」というものです。特にマイナー競技で活動している選手にとって、五輪での大きな露出は日ごろお世話になっている支援企業に恩返しをするまたとない機会です。

 

選手からのルール40への不満が臨界点を超えたのが、2012年のロンドン五輪でした。これは、2000年(シドニー)と2004年(アテネ)のオリンピック(砲丸投げ)で銀メダルを獲得した米国の陸上選手アダム・ネルソンが、閉会式など注目度の高い場面でも公式スポンサー以外のブランド着用を禁止するルール40に抗議するため、ロンドン五輪予選で選手やファンに自分の裸足の写真をソーシャルメディアで拡散するように奨励したのがきっかけになり、米陸上界を中心に大規模な抗議活動に発展していきました(通称「裸足の革命」)。

 

身も蓋もない話かもしれませんが、そもそもスポンサーシップという仕組み自体、大会主催者が勝手に考えた制度です。IOCが五輪開催地に特別立法を求めるのはこのためです。スポーツマーケティングに習熟した企業が多い米国では、大きなスポーツイベントが開催される場合はアンブッシュ活動も盛んに行われますが、これは企業によって考え方が異なるからです。

 

高額な協賛金を支払って正当に権利を行使した方がマーケティング活動がやりやすいと考える企業は公式スポンサーになりますし、スポーツ組織の言われるがままに高額な権利料を支払うなんてバカバカしい、もっとスマートで効果が高い合法的なマーケティング活動は可能だと考える企業はアンブッシャーになります(NIKEなどはアンブッシャーの代表的な企業です)。大会主催者とアンブッシャーのイタチごっこは終わりませんが、誤解を恐れずに言えば、アンブッシュ活動があるからこそ大会主催者は高額な権利料に見合った協賛効果を公式スポンサーに提供しなければならないという健全なプレッシャーに晒されるという側面があるのも事実でしょう。

 

日本人はお上や規則に弱いですから、一旦ルールが定められると、その合理性に疑問があっても盲目的にルールに従う傾向が強いですが、国によってはルール40の合法性を疑う動きすら出てきています。例えば、ドイツの連邦カルテル庁(Bundeskartellamt)は、「ルール40は過度に制限的すぎ、IOCと独オリンピック委員会に支配的地位の濫用の疑いがある」として、昨年末から調査を開始しています。同庁が問題視しているのは、ルール40が選手の活動を大きく制約するにも関わらず、選手に対する利益の還元がないためです。

 

常識的に考えて、日ごろ選手の活動を支えている所属企業や学校が選手の壮行会や応援も自由にできないなんて少しおかしいでしょう。こうした企業や学校は規模が小さかったり、スポーツビジネスの専門家ではないため、JOCから「ダメだ」と言われればそれに従うしかないのでしょう。世界で起こっているルール40緩和に向けた動きなどについては知見がないのかもしれません。

 

でも、おかしいことにはおかしいという声を上げなければ、日本のスポーツ界は健全に発展していかないでしょう。まずは、世界的に進められているルール40の緩和が、なぜ日本ではまだ受け入れられていないのか。その疑問に焦点を当ててその理由を考えてみるのが第一歩になるかもしれません。

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