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日本のスポーツ施設建設が直面しているユニークな共通課題

スポーツ庁によれば、2019年10月時点でスタジアム・アリーナの新設・建替え構想は、スタジアム・球技場で52件、アリーナ・体育館で37件が存在します。しかし、これらには既に資金調達のメドが立ち、設計・建設が具体的に進められているものから、単なる“希望的構想”の域を出ないものまで様々な段階のプロジェクトが入り混じっています。

 

これらの中で、これからの日本におけるスタジアム・アリーナ改革をけん引することになる存在は、先日このブログでも紹介した北海道日本ハムファイターズのエスコンフィールド北海道(2023年開場予定)や、三井不動産やDeNA、星野リゾートらが進めている関内駅前(横浜スタジアム横)の市庁舎街区活用事業「Minato-Machi Live」(ミナト マチ ライブ)(2024年開場予定)、J2に所属するV・ファーレン長崎の新スタジアム建設計画(2024年開場予定)などの(施設建設費に税金の拠出を伴わない)民設民営プロジェクトになると思います(まあ、民設民営と言っても、実際は土地を自治体から借りたり、税務上の便宜を図ってもらったりするので、全く地元の自治体との協力関係なくできるプロジェクトはほとんどありませんが、ここでは話の展開上、便宜的に「民設民営」と呼ぶことにします)。

 

日本では、ファイターズのように球団主導で新しい施設建設をファイナンスできるだけの収益力があるスポーツはプロ野球くらいですから、JリーグやBリーグなどのスポーツの場合は、球団以外の事業者(球団の親会社を含む)の協力を得て民設施設を作るか、自治体の協力を得て公設施設を作ってもらうかの二択になります。しかし、「スポーツ施設建設によるジェントリフィケーションって何?と思った時に読む話」でも書きましたが、まだ日本では地方自治体が“稼げる施設”を積極的に作ろうとするフェーズには入っていないため、現実的には前者が唯一の選択肢(可能性)になるケースが多いはずです。

 

そして、民間事業者がスポーツ施設を本気で作ろうとすると、どうしてもスタジアムよりもアリーナ建設の方が有利になります。アリーナはスタジアムより建設費が少なく、必要な敷地も小さくて済むため、アクセスのよい街中に作ることが比較的容易です。また、屋根があるため雨天運営・中止がなく、多目的利用を促進しやすいこともあって、スタジアムよりも事業計画が立てやすいのです。実際、私もいくつかのスポーツ施設建設プロジェクトにアドバイザーとして関与していますが、多くは民設アリーナプロジェクトです。

 

複数のプロジェクトに横断的に関わるようになってみて、スポーツ施設(アリーナ)建設における日本特有の共通課題があることに気づきました(以下は、特定のプロジェクトを念頭に置いたものではなく、全体に共通する傾向について整理したものであることを誤解なきように予め申し添えておきます)。

 

前述した様に、こうしたプロジェクトの多くでは球団が施設建設事業を主導する立場にはなれないのが日本のユニークな状況です。実際、不動産会社のような民間事業者が施主となり(建設費を捻出して施設を保有し)、Bリーグ球団などがそのテナントとして施設を利用する形になります(多くの場合、球団は施設運営会社に出資するなどの形で運営権を手に入れることになるでしょう)。

 

こうしたケースでは、ゝ綯跳弍弔防ずしも精通していない民間事業者が施設の収支計画を立てる責任を負い、▲瓮ぅ鵐謄淵鵐函淵廛蹈好檗璽諜綯帖砲まだ成長期に差し掛かったばかりのコンテンツ力が比較的ないスポーツである、という点が共通したハードルになります。つまり、球団経営に疎い事業者がメインテナントの成長戦略を描きながらそれを施設設計に反映させていく必要がある点が日本独自の課題なのです。

 

これがアメリカなら、民設施設なら球団が施主兼施設運営者になって一気通貫でプロジェクトを進めてしまうのが大多数ですし、NBAやNHLなどは平均1万7000名の動員力があるので、これ以上コンテンツを大きく育てていく必要もあまりありません。日本の場合、球団経営に関与しない事業者が、メインテナントの集客力を2倍にも3倍にも伸ばして行く責任を負うのです。しかし、どうもその必要性・重要性が十分に認識されていないケースが散見されます。

 

施設とは顧客育成の起点ですから、施設設計にはメインテナントである球団の顧客育成を支える事業戦略を踏まえることが大前提です。例えば、球団のチケット販売戦略と施設設計はどう連動させるのか。シーズンチケット比率をどう高めていくのか?グループチケットやパッケージチケットをどう販売していくのか?スポーツ自体には興味のない顧客層をどの程度取り込みたいのか?

 

こうした問いに答えられなければ、“稼げる”施設設計はできません。

 

あるいは、スポンサーシップ営業と施設設計をどう結びつけるか。せっかく施設をゼロから設計できるわけですから、施設内で独占的な事業を行ってもらう共同設立パートナー導入のまたとないチャンスです(共同設立パートナーって何?と思った方はこちらを参照)。その前提として、球団内の協賛営業の方向性をメディアドリブンからイシュードリブンに変革する必要があります。協賛企業の経営課題(イシュー)を踏まえたアクティベーション計画の提案ができなければ共同設立パートナーも絵に描いた餅になってしまうからです。

 

しかし、現場を覗いてみると、施設設計と球団の事業戦略がうまく連動していないケースが意外に多いのです。不動産会社などの施主は球団経営が分からず、施設の事業計画を立ててみると、球団からの収益はたかが知れている。これでは全然黒字化できないと、勢いコンサートなど他のイベントを増やして収支を整えようとする。球団の方も、今の集客力では偉そうなことは言えないなという感じで、変に遠慮してしまう。こうした状況から、施主とメインテナントの間に顧客育成に関する会話があまり存在しないケースが少なくないのです。

 

この背景には、多目的利用とか多機能複合化といったコンセプトが先行してしまい、「メインテナントの顧客育成拠点となる」という施設経営の一丁目一番地がないがしろにされがちな雰囲気があるように感じます。しかし、テナント育成機能を軽視した施設では、顧客獲得コストの高い顧客をずっと相手にビジネスを行わなければならず、いつまでたっても施設の収益性は高まりません。これは100m走の感覚でマラソンを始めるようなものです。

 

施設の多目的利用も多機能複合化も、そこをフランチャイズとするスポーツ球団がアンカーテナントとして強力な集客力を発揮することが成功する前提条件です。将来的にメインテナントが育っていくような施設にしなければいけません。多くのコンテンツや機能を寄せ集めても、キラーコンテンツがなければ単なる“弱者連合”で終わってしまいます。施設設計や都市設計の文脈からアイデアを出せる人は日本にも多くいるのですが、今現場で最も求められているのは、球団事業をきちんと理解し、顧客育成的な発想からアイデアを交通整理して施設設計・都市設計に優先順位付けができる人材だと思います。また、メインテナントにも将来の顧客育成に関する計画について施主となる事業者と遠慮せずにガチンコで議論する勇気と覚悟が必要でしょう。

ファイターズ新球場の建設現場を視察して来ました。

2023年にオープンする北海道日本ハムファイターズの新球場、エスコンフィールド北海道の建設現場を視察して来ました。楽しみにしていた今年4月の起工式にコロナ禍のため参加できずにガッカリしていたのですが、その後米国の感染状況も好転する兆しが見えず、このままではズルズル時間だけ経ってしまうと思い、無理を押して出張して来ました。

 

このプロジェクトは構想の初期段階からアドバイザーとして関わらせて頂いているのですが、ゼロから新球場が作られて行くプロセスを体験できることなんてそんなにあるもんじゃありません。ファイターズは2015年から特命チームが毎年米国に視察に来ており、MLBはほぼ全球場を回り、必要に応じてマイナーやキャンプ施設のほか、NFLのスタジアムやNBA/NHLのアリーナなども回ってきました。面会した球団幹部は数百名になると思います。

 

多大な労力をかけて得た知見や球団スタッフの皆さんの志、サポートしてくれている多くの方々の期待が込められたプロジェクトが1つの形に集約されていく。そのプロセスは何としてでもこの目に焼き付けておきたかったのです。

 

2年前にまだ北広島市が建設候補地の1つだった際は、こんな感じの何もない雑木林だったのですが(2018年6月時点。著者撮影)、

 

それが今ではこんな感じに様変わりしていてビックリ(2020年9月時点。著者撮影)

 

建設現場の写真を子細に公開することは差し控えますが、既にフィールドの形は浮かび上がってきており、サービストンネルにはコンクリートの床が出来上がっていました。個人的に何より嬉しいのは、フィールドを掘って作っている点です。日本の多くの野球場は、箱をそのまま上に乗せる形になるので、フィールドは地面と同じかそれより高い位置に設置され、来場者はそこまで階段などで上がっていく構造になっているケースが多いです。日本の野球場の外観が宇宙船や陸に上がったカブトガニのようになってしまいがちなのはこのためです。

 

一方、米国のボールパークは通常、フィールドを取り巻くメインコンコースをストリートレベルに合わせるため、フィールドは掘って一段低い位置に設置します。そうすると、来場者は入場口からそのまま真っすぐ進むだけでボールパークにスッと入っていく形になり、一気にフィールドが眼下に見えて視界がパッと開け、美しく青々とした芝生が目に飛び込んでくる。これが「ボールパークに来たな」って感覚なんですよね。

 

新球場の建設に当たっては、本場米国のボールパーク設計に精通している御三家HKS、HOK、Populousの3社にコンペ参加を直接依頼し、審査の結果HKSさんにお願いすることになりました。米国の大手設計事務所にボールパークのデザインを依頼するのは日本では初めてではないでしょうか。ちなみに、コンペは設計者と建築業者がチームを組んで一括して工事を請け負うDB(デザインビルド)方式で実施しており、建設自体は大林組さんが担当することになります。DB方式を採用したのは、ボールパーク設計に精通する一方で日本の法制度や慣習をあまり知らない米国の設計事務所と、世界に誇る技術力を持つ日本のゼネコンにできるだけ早い段階からチームを組んでもらい、お互いの強みを引き出すことが狙いです。

 

建設工事は2022年末には完了する予定で、最終的にはこんな感じのボールパークになります。

 

球場内にはホテルやレストランが併設されるほか、お湯につかりながら観戦できる世界初の温泉席があったりと、どんなカタチになるのか今から楽しみです。また、球場周辺のエンタメエリア(通称「Fビレッジ」)は球場も含めて約37ヘクタールもの広さがあり(東京ドーム約8個分)、敷地内に沢やキャンプ場、シアター、子供用のミニチュア球場、マンションなどが設置される予定です。

 

エリア全体の開発は、23年の開業から42年までの20年間を4年ごとに5期に分けて行う予定で、決まっている部分と走りながら考えていく部分を併せ持つ形で進んで行くことになると思います。移りゆくエンタメトレンドや日進月歩のテクノロジーを柔軟に取り込むためには、むしろ最初にかっちり全てを決めすぎない方がいいんですよね。

 

ちなみに、このプロジェクトの合言葉は「世界がまだ見ぬボールパークを作ろう」。20年間進化し続けながら、野球場に遊園地や避暑地、キャンプ場、居住スペース、ワーケーションなどが融合した今まで日本になかった全く新しいエンターテイメントが出現することになるはずです。

 

ところで、この新球場計画に懸念がないわけではありません。市街地にある札幌ドームから15km程度郊外に移転することになるため、現在の顧客基盤を全て引き継げるわけではありません。ボールパーク前に新駅が建設されるとはいえ、札幌市内で地下鉄で行ける札幌ドームの利便性に比べると、どうしても来場への心理的なハードルは高くなってしまうでしょう。

 

2004年に東京から札幌に移転して以来時間をかけて信頼関係を育んできた大切なお客様の一部が離反してしまうリスクを負ってまでも、なぜファイターズがこのプロジェクトを進めているのかと言えば、それはお客様に今までにない圧倒的に革新的なエンタメ体験を提供するためです。そのためには、今までの球団経営の延長線上にない、非線形の成長の基盤となる新たなボールパークの存在が不可欠なのです。これはまさに『ビジョナリー・カンパニー』で言うところの「BHAG」(社運を賭けた大胆な目標)に他ならないでしょう。

 

多くのスポーツ球団が企業に保有されている日本のスポーツビジネスでは、親会社からの出向人事による「事なかれ主義」が蔓延している組織も少なくありません。そんな中でのファイターズのこの取り組みは、控えめに言っても常軌を逸していると思います。食品を作っている一部上場企業から、目に見えない「体験」を売る舞台装置としてのボールパークのために600億円もの資金を引っ張ってくるのは、そんなに簡単な話ではなかったはずです。

 

私も初期から関わっているため、このプロジェクトには特別な思い入れがあります。また、ファイターズではかれこれもう10年以上も社員研修を担当させて頂いているので、多くの球団スタッフとも顔見知りです。彼ら彼女らが大きく成長しながらプロジェクトをけん引する様子は本当に頼もしい限りです。

 

もう球場建設予定地の周辺にはコンビニや小売店などがオープンし始めており、新しい街が生まれつつある息吹が目に見えて実感されました。既に北広島市に引っ越した球団スタッフもいるようです。日本でもスタジアム・アリーナ改革の必要性が叫ばれていますが、そのパイオニアであり、これから続くスポーツ施設建設のペースセッターにもなるこのプロジェクトには何が何でも成功して欲しいです。皆さんも是非注目して下さい。

 

最後に、このプロジェクトの生みの親でもある前沢事業統括本部長のインタビューが日経BPに取り上げられていますので、興味のある方はご覧下さい。

 

自治体と一からつくる「野球を見なくても楽しい」ボールパーク(日経BP)

原生林から「北海道のシンボル」へ、ボールパーク建設への思い(日経BP)

コロナ禍で揺れる米国大学スポーツ

米国では、7月下旬になってMLBを皮切りにNBAやNHLなどのメジャースポーツが約4か月ぶりにシーズンを再開させました。当面は無観客での試合開催となりますが、テレビ中継も思っていたほどの違和感もなく、意外に普通に中継を楽しめています。もちろん、現地観戦の熱気を当分体感できないのは残念なのですが。

 

細かく見てみると、事実上プレーオフを残すだけのNBAとNHLは中立地でのセントラル開催方式を採用している一方、シーズンが短縮されたとはいえ試合数の多いMLBは、家族と会えないことへの選手側の反発も大きく、当初計画されていたアリゾナ・フロリダでのセントラル開催では話がまとまりませんでした。結局、テストの頻度を上げること(2日に1回やっているようです)で例年通りのフランチャイズ開催となりました(ただし、カナダが米国からの選手の入国を認めなかったため、例外的にトロント・ブルージェイズは今期だけ傘下AAA球団のあるバッファローを本拠地にすることになった)。

 

ところが、蓋を開けてみるととMLBでは選手や関係者から感染者が続出し、シーズンの続行が危ぶまれています。これを見て今肝を冷やしているのは9月開幕のNFL幹部でしょう。NFLもセントラル開催は行わず、通常のフランチャイズ開催での実施を予定しているのですが、MLBの感染拡大によりこの開催方法に批判が集まっており、既にオプトアウト(参加辞退)する選手が続出しています。

 

いずれにしても、プロスポーツは健康で体力の有り余る20代の若者がチームの中心とあって、「試合以外は家でじっとしてろ」と言っても無理があるのですね。おまけに、お上に管理されることを嫌うアメリカ人独特の気質もあって、全般的に感染症対策がうまく行っていません。

 

そんな中、今米国のスポーツ界で大きく揺れているのが大学スポーツ(NCAA)です。米国全体で感染者数が一向に減らない中、NCAAは9月から始まる新学期でのスポーツの再開には慎重な姿勢を見せているのですが、腰が引けたNCAAの姿勢に対して5大カンファレンス(ACC、Big Ten、Big 12、Pac-12、SEC)が反対しています。もしNCAAが秋シーズンのスポーツを中止にするなら、5大カンファレンスだけで独自の大会を開催するとの動きも見せています。

 

5大カンファレンスに所属する大学は特にスポーツに力を入れる大学ですが、男子バスケとフットボール部に収益の大半を依存する構造のため、ドル箱である秋のフットボールシーズンを中止にすることは何としても避けたいのです。先日、JBpressにも「マイナー運動部をリストラする米大学の懐事情」として寄稿しましたが、米スタンフォード大学が学内にある36の運動部のうち11競技を廃部にすることを公表するなど、新型コロナウイルスの感染拡大による体育局の減収により、NCAAでは収益力の乏しいマイナー競技が廃部の危機に瀕しています。

 

誤解を恐れずに例えれば、5大カンファレンスに所属する大学の体育局というのは「排気量は大きいが燃費の悪いアメ車」のようなもので、常にガソリンを注ぎ続けなければ車が止まってしまうのです。5大カンファレンスがNCAAの意向に反してでもイベント開催に漕ぎつけたいのはこのためです。

 

労使交渉によりオプトアウト(参加辞退)が選手の権利として正式に認められているプロスポーツに対し、労働組合のない学生スポーツでは、学生の立場を擁護する組織がなく、それが権利として認められていません(オプトアウトした場合は奨学金の取り消しなどの事実上の報復行為が考えられる)。こうした状況の中、Pac-12に所属する大学のフットボール選手が集団ボイコットを検討するなど、いわば学生スポーツの“労使対立”が先鋭化してきています。

 

今まさに米国では白人警官により暴行を受けて死亡したジョージ・フロイド氏の事件をきっかっけに全米的にBLM運動が席巻しており、シーズンを再開させたメジャースポーツも、オープニングセレモニーで例外なくBLM運動をテーマの中心に据えています。

 

 

 

 

Pac-12の学生選手は、こうした時流を捉えて「#WeAreUnited」という声明文をネット上に掲げ、以下の4つの要求をPac-12側に求めています。彼らは、学生選手の安全を犠牲にしてまでもスポーツ開催の強行を推し進めるPac-12の姿勢は黒人学生アスリートの搾取であり(フットボール部の選手は大半がアフリカ系アメリカ人)、大学が組織的な人種差別に加担していると批判の声を上げています。

 

  1. 健康・安全対策の実施
  2. 全ての運動部の存続
  3. 大学スポーツにおける人種差別の撤廃
  4. 選手への報酬支払いや肖像権利用の許諾など

 

コロナウイルスのパンデミック下にて、労使協調により社会問題をいち早く織り込んだリーグ経営が実現されているプロスポーツとは対照的に、労使対立により混迷を極めるNCAAの足並みの乱れが図らずも露呈した形になりました。まあ、そもそも実質的にプロスポーツ組織である5大カンファレンスと、D-IからD-IIIまでの多くの大学を束ね、「スポーツより勉強が優先」との立場を強調せざるをえないNCAAとでは視線の高さが違っているため、昔から5大カンファレンスがNCAAを脱退して新リーグを作るのではないかという噂はありました。コロナ禍がそのきっかけになるかもしれません。

 

個人的にも、Power 5はNCAAから離脱して別のセミプロリーグを作った方が、NCAAとしても教育機関としての立場・ブランディングを守ることができるため、両者にとってHappyなのではないかと思います。

ロックダウン中の米国のスポーツ界で今何が起きているか?

新型コロナウイルスの感染拡大により、米国のスポーツ界は完全にストップしてしまいました。

 

私が住むNY州では、3月22日から外出禁止令が出され、その前からの自主待機を含めると自宅勤務はそろそろ1か月に及びます(そんな中、ちょうど先ほどNY州が自宅待機令を5月15日まで延期する決定を発表しました)。11月の大統領選挙への影響を恐れたトランプ政権が全米に向けた自宅待機令を出さないため、規制は州政府に任せられている形になっていますが、現時点で全米50州のうち、一部中西部の州を除く42州で外出禁止令が出されており、全人口の約96%に当たる3億1600万人がが自宅待機を余儀なくされています。

 

こういう状況ですから、スポーツ観戦なんてすぐに再開できる状況ではないという感覚です。Seton Hall大学が実施した米国スポーツ界のコロナ対応に関する意識調査(4月9日発表)によれば、回答者の74%は年内にスポーツが再開されない可能性があると回答しており、また、72%は仮にスポーツが再開してもワクチンができるまでは安全に試合観戦できないと回答しています(今まで通り観戦を行うと答えたのは13%のみ)。

 

■シーズン再開に向けた温度感

各スポーツ組織も何とかしてシーズン再開できないかとCDCなどからアドバイスを受けながら様々な選択肢を検討しているところなのですが、

 

観客を入れた通常開催 →とてもじゃないが無理(ワクチンか集団免疫ができるまで無理)

無観客での開催 →遠征に伴う感染リスクがあり当面無理

 

というのが業界の共通感覚で、現在唯一可能なのではないかと言われているのが、中立地に選手ら関係者を完全隔離して実施するセントラル開催案です。要は、宇宙ステーションのような完全に外界と隔絶されたエコシステムを作り、シーズン中は関係者をずっとそこに隔離していくようなイメージです。ちょうど昨日、米コロナウイルス対策の最高責任者ファウチ博士がプロスポーツの再開に言及し、「スポーツの再開には〔鬼儺辧↓∩手の完全隔離(遠征の禁止)、週次検査の実施が前提条件になる」と述べていました。

 

この1か月あまり、日本のクライアントに米国の状況を随時伝えたり、オンラインサロンなどを通じて日本のスポーツ業界関係者の方々と意見交換する機会がありましたが、率直に言って日米では危機感が決定的に違うなと感じています。

 

ただ、僕は「日本の危機意識が薄い」「日本の危機管理体制がなってない」と言いたいのではなく、感染状況が大きく異なるのでこの感覚の違いはやむを得ないと思っています。なにせ米国では既に3万3000名以上の方が亡くなってますから、死者の数が200名にも満たない日本とは感覚が違って当たり前だと思います。ちなみに、全米の死者の約半数はNY州で(1万6000名超)、うち6割超がNY市です(1万人超)。東京23区内で約1か月の間に1万人の犠牲者が出たと想像してみて下さい。これが今の米国での感覚です。日本には米国のようにならないで欲しいと心から願っています。

 

ですから、例えば「米国では無観客試合も遠征での感染リスクが高くて今のところ実施は難しいという感覚です」といった話を日本のクライアントにすると、「無観客開催でもダメなんですか?」「そんなに深刻なんですか?」「チャーター便移動だと感染しないのでは?」といった反応が多いのですが、遠征すればホームチームでも試合会場までの移動があり、アウェイチームならチャーター便とはいえ、空港までの移動や、到着空港⇔ホテル⇔試合会場への移動が発生します。これらは公共スペースの利用を伴う移動にならざるを得ませんから、感染リスクをゼロにすることができません。

 

また、選手や関係者から一人でも感染が確認されれば、クラブハウスは濃厚接触の温床になるリスクが高く、一気に感染者が広がる恐れがあります。また、潜伏期間が長いコロナウイルスでは、過去2週間に遡って濃厚接触者を洗い出して隔離措置を取らなければならず、競技に与える影響は小さくありません。

 

「ゼロリスクにするのは現実的なのか?」「過剰反応ではないか?」といった意見もあるでしょうし、実際本土を攻められた経験がほとんどない米国は(真珠湾と911だけ)、こうした時に過剰反応しがちではあります。しかし、「コロナウイルスとの戦争」が国内で勃発したという感覚の今の米国では、不用意にファンや関係者を感染リスクにさらすことは、彼らを丸腰で戦地に送り込むのと同義だと思われています。年中世界のどこかで戦争をしている米国は、自国民が戦争で亡くなることに強い拒否感を示します。社会の公共財を自認する米スポーツ界は、よもやそんなリスクは容認できないのです。

 

■スポーツ組織経営への影響

目下試合が開催できない状況ですから、米国の多くのスポーツ組織は運転資金が時間とともに目減りしていく状態です。セントラル開催でキャッシュインが見込まれるのは、事実上巨額のテレビ放映権契約を結んでいる4大メジャーだけで(だからメジャースポーツリーグと言われるわけですが)、それ以外のスポーツ組織は仮に開催しても手間だけかかって実入りが少ないので実施には消極的でしょう。マイナーレベルの球団では、メディア収入がほとんどなく、チケット収入とスポンサー収入で球団収入の7〜8割といったところが多いでしょうから、こうしたところは観客を入れて試合を行わないとどうしようもない状況です。今は体力勝負の我慢比べという状況です。

 

こうした中、19年ぶりに復活したXFLがチャプター11を申請して経営破綻したり、米サッカー連盟が資金難からユースアカデミーの運営をやめるなどの影響が出はじめています。大学スポーツも3月のMarch Madnessの全米トーナメントが中止になった影響でNCAAの収入が大幅に減り、カンファレンス→大学への分配金減額に伴う大学体育局の予算減からマイナー競技の廃部が相次いでいます。ロックダウンが長引き、9月のフットボールシーズンが短縮・中止にでもなれば、更に大きな影響が出るのは避けられないでしょう。

 

米国(NY)におけるスモールビジネス緊急支援策」でも書きましたが、米国では連邦政府がかなり早い段階からスモールビジネスに対する休業補償策を出しており、例えば従業員500名以下の中小企業なら、無条件で月額人件費の2.5倍を上限に融資を受けることができ、これが給与や家賃の支払いに充てられる限り、返済免除になります(Paycheck Protection Program。PPPは3490億ドルを上限としたスモールビジネス救済策なのですが、ちょうど今日支給額が上限に達したという報道が出てました。今議会が追加拠出を検討中)。

 

メジャーの球団でもさすがに従業員数が500名を超えるところはないでしょうから、機転の利く球団経営者はPPPを申請しているはずです。ということは、5月いっぱいまでは資金繰りに窮するということはあまりないはずです。問題なのはそれ以降でしょう。特に経営基盤がぜい弱なマイナー競技では、治療薬が開発されたり感染が奇跡的に早期に終息するなどのことがない限り、従業員のレイオフや身売り、経営破綻がいつ起こってもおかしくないと思います。

 

マイナーリーグ(野球)はタイミング悪く今期後にMLBとのプロ野球協定(PBA)が失効するのですが、これを機にMLBは現行のマイナー球団160チーム体制から120チーム体制への組織改編を目論んでおり、渡りに船とばかりに経営不振のマイナー球団の放置プレーを決め込むかもしれません。そうなれば、マイナー球団での経営破綻が連鎖的に起こる可能性もあります。

 

■これからのスポーツ組織経営

球団経営は特に州の公衆衛生政策の影響を大きく受けることになりますから、少なくともロックダウンが解除されるまでは何もできないもどかしい状況です。LA市が今年いっぱいのスポーツやコンサート等の大規模イベントの禁止を検討しているなどの報道もあり、大都市がこれに追随するような動きを見せると、スポーツ組織としてはさらに厳しい状況に直面することになります。

 

1つだけ確かなことは、経済活動再開へのタイムラインは人間が決められるものではない(ウイルスが決める)という点でしょう。これは、前述のファウチ博士がホワイトハウスのブリーフィングで良く言っていることなのですが、ウイルスは人間の都合など考えてくれず、パンデミック下でできるのはデータに基づいて科学的に現状を把握し、感染状況を踏まえて柔軟に対応策を検討する(ウイルスに合わせて人間が変わる)しかないとするものです。

 

ハーバード大学は2022年まで断続的にロックダウンを続ける必要があるとの予測を出していますし、スポーツ組織としては「施設への集客を前提にした試合開催」という従来までのマネタイズ手法が今後1〜2年は使えないという最悪のシナリオに立って事業構造の転換を図る必要があるかもしれません。

 

必要は発明の母とも言いますし、試合開催ができない中で今までにない斬新な発想でのコンテンツ制作がこれからたくさん生まれてくるでしょう。あるいは、バーチャルシーズンチケットのような、VR技術を活用して無観客試合のチケットを売るような試みも出てくるでしょう。「試合観戦がスポーツの売り物である」という従来のスポーツビジネスの前提自体を疑い、もっと大胆な発想でゼロベースの商品設計が行われるようになるかもしれません。

 

こうした新たな取り組みについては、近い将来まとめてご紹介できたらと思いますが、こうした変化(淘汰)の嵐を乗り越えられる組織が、コロナ後のスポーツ経営の担い手になるんだと思います。経営破綻や新規参入(オーナーの変更)も起こるでしょう。ダーウィンの進化論ではないですが、環境の変化に対応できたものだけがサバイブするのでしょう。僕も変化に食らいつき、「新しい普通」(New Normal)を受け入れる準備をしたいと思います。

米国(NY)におけるスモールビジネス緊急支援策

東京でも、いよいよ一部事業者への使用制限が伴う緊急事態宣言が出るようですね。事業者への強制力を伴う措置が取られる以上、当然休業中の補償がセットになっているべきでしょう。また、使用制限の対象にならなくとも、外出自粛要請により飲食店や小売店などのB2C事業者には既に大きな影響が出ているので、こうした事業者に対する支援は一刻を争うものだと思います。特に、資金的に余裕のない中小企業や個人事業主、フリーランスなどスモールビジネス従事者への支援が重要になってくると思います。

 

マッキンゼーの消費者調査によれば、コロナウイルスの感染拡大により飲食品への需要が増える一方、外食や衣料品、家具・電化製品、装飾品などへの需要が激減していることが明らかになっています。

 

私がビジネスの拠点を置いているNY(マンハッタン)は、良くも悪くもコロナ対応では日本の少し先を行っているため、スモールビジネス従事者への支援はかなり早い段階から用意されていました。参考までに、米国での取り組みをご紹介しようと思います。私のようにNY市に本社を置くスモールビジネス事業者は、概ね3か月程度の運転資金を補助金(返済の必要なし)という形で取得できる見込みです。それ以外にも、低利ローンなどの支援があります。

 

スモールビジネスへの支援はNY市と連邦政府の2つのレベルから提供されています。

 

1)NY市によるスモールビジネス支援

感染者が拡大することは目に見えていたので、NY市は既に3月8日時点でスモールビジネスへの支援を具体的に約束しています(この時点でNY市内の感染者20名、死者ゼロ)。ちなみに、NY州が外出禁止令を出したのは、3月22日(日)の午後8時からでしたから、NY市による支援は州が外出禁止令を出す2週間も前のタイミングで発表されていたことになりますね。

 

NY市による支援策として、以下の2つのプログラムが用意されています。

 

1−1)Employee Retention Grant Program

従業員5名以下の零細企業を対象としたもので、昨年同時期比で売り上げが25%以上減っている事業者は、2か月分の給与総額の40%相当の補助金を受けることができるというものです(返済不要)。金額的には、ざっくり1か月分の運転資金が支援されることになります。

 

これ、素晴らしいのは補助金申請が全部オンラインで出来ちゃうところです(申請先はNY市)。確認メールが届かなかったり、書類のアップロードができない時があるなど小さなバグはあるのですが、スピード重視で対応してくれる方が事業者は嬉しいですよね。

 

ちなみに、この補助金は4月3日17時が締め切りだったのですが、応募者多数で締め切り前に申請の受付を止めてしまってました。日本だと文句が出てくるところかもしれませんが、自己責任の国アメリカでは、「チャンスを逃すのは自己責任」というのがサバイバルの掟ですから、あまり文句を言う人もいないようです。

 

1−2)Small Business Continuity Loan Fund

従業員100名以下の中小企業を対象としたもので、昨年同時期比で売り上げが25%以上減っている事業者は、7万5000ドルを上限に無利息でローンを受けることができるというものです。

 

2)連邦政府によるスモールビジネス支援

これは連邦政府内の中小企業庁(SBA)が提供しているもので、補助金・ローン関連では以下の2つのプログラムが用意されています。

 

2−1)Paycheck Protection Program(PPP)

従業員500名以下の中小企業を対象としたもので、無条件で月額給与総額の2.5倍を上限に融資を行うというもので、給与や家賃の支払いに充てられる限り、返済免除になります(後からちゃんとチェックされるみたい)。従業員1名あたり10万ドルが上限になるという条件はありますが(年収10万ドル以上の従業員は、金額に関わらず計算上は全員10万ドルとなる)、悪くない金額です。

 

これは4月3日から申請受付が始まりましたが(申請先は金融機関)、まだ金融機関での対応が追い付いていないようで、申請を受け付けているところは少数のようです。こちらの申請期日は6月30日なので、まだ余裕はあります。

 

2−2)(Economic Injury Disaster Loan=EIDL、「アイドル」と読みます)

従業員500名以下の中小企業を対象としたもので、上限1万ドルの補助金です(返済不要)。PPPとの併用はできないみたいで、どちらか補助金額が多い方に吸収されるようです。

 

以上、NY市と連邦政府による主な支援策をご紹介しました。支援内容は細かい部分が日に日に変わるので、これからもどうなるか分かりませんが、「早いタイミング」で「補助金(ローンではない)」を提供できる形にどんどん変わっているように見えますね。支援の公平性を考えているときりがないですし、とにかく今はざっくりしたものを早くローンチするのが先決です。こういう荒業はアメリカは得意なので、スモールビジネス経営者としては頼もしい感じがします。

 

最後に、最近(ここ1週間くらいで)、日本の知り合いから「NYは大変みたいですけど大丈夫ですか?」という心配のご連絡を結構頂いたのですが(ご連絡を下さった方、ありがとうございます)、どうも話しているとアメリカの都市も武漢やイタリアのようにロックダウン(都市封鎖)されているというイメージを抱いている方が少なくないような気がします。  

 

少なくとも僕の住んでいるNY州ではロックダウン(都市封鎖)はされていません(他州も同様だと思います)。電車もバスも普通に動いています。州からの行政命令(通称PAUSE)により、日常生活に欠かせない事業を除くビジネス(non-essential business)が閉鎖され、個人の外出が条件付きで禁止されているだけです。食料品の買い物はもちろん、一人での散歩やジョギング、犬の散歩なども、ソーシャルディスタンスが保てる範囲で認められています。個人に対する罰則もないので、基本的には自粛要請と同じです。警察が道を封鎖しているなんてこともありません。

 

むしろ、こんな状況にも関わらず自宅待機令を出していない州がまだ7つもあり、それに対してトランプ政権が米国全土での外出禁止令を出さないことが逆に問題視されています(票田である保守的な州が多いため、トランプは無理に要請したくない)。  

 

要は何が言いたいかというと、今この危機で問われているのは、法律の整備状況とか権限云々ではなく、国民一人一人の「常識」だということです。国や会社ではなく、個人の強さが求められています。感染爆発の瀬戸際にある日本の皆さんには、是非常識的な判断をして頂きたいと思います。  

 

ちなみに、私はいたって元気です。田舎暮らしですから、ソーシャルディスタンスが言われる前から、そもそも日常生活の中で他人と至近距離で交わる機会はほとんどありませんのでw。さすがにマンハッタンへの出勤は控えていますが。

スポーツのプロ化構想(その2)〜私ならこうするかも編〜

ちょっと東京オリンピックの延期問題が急展開したため、間が空いてしまいました。前のブログで、日本の競技団体がプロ化する際に往々にして直面する「実業団とプロの混在問題」について書きましたが、その続編です。

 

プロ化というと、鮮烈だったJリーグの成功に倣って「チームの株式会社化」「地域密着」「企業名排除」などが方法論として強調されることが今でも多いです。しかし、果たして1990年代に有効だった手法が30年経った今でも本当に効果的なのでしょうか?  

 

当時の状況を端的に表すエピソードとして、Jリーグチェアマンだった川淵さんが、企業名をチーム名に入れられないことなどに反発していたヴェルディ川崎(現・東京ヴェルディ )の親会社だった読売新聞のナベツネ氏に「Jリーグに巨人は要らない」と言い放った事件がありました。これは当時は全く正しい発言で、企業保有に胡坐をかいていたプロ野球経営をアンチテーゼに「企業スポーツから脱皮し、地域に密着したJリーグの健全経営」というポジショニングを際立たせる発言だったと思います。  

 

しかし、プロ野球界は2004年の球界再編騒動を経て、企業保有の良い所を残しながら地域密着も進め、経営規模を順調に拡大し、今や平均観客動員数でもMLBを凌ぐまでになりました。一方、Jリーグは地域密着がある意味ドグマ化し、企業の支援を十分に得られないまま成長の踊り場に直面することになりました。 

 

この話はSBAの理事をお願いしている杉原海太さんともよくするのですが、杉原さんも日経新聞に寄稿した「Jリーグ四半世紀、企業を本気にさせ新たな段階へ」でも書いていますが、日本では企業とスポーツの親和性が高く、企業の支援を得やすい土台があります。スポーツがこれを使わない手はないと思います。念のために言っておくと、僕はJリーグを批判しようとしているのではありません。むしろ、Jリーグは経営環境や成長ステージに応じて正しい経営を、形を変えて適切に行ってきていると思います。実際、今ではJリーグはビッククラブ政策に舵を切り、かつて否定していた「Jリーグ版ジャイアンツ」を作ろうとしています。また、コロナウイルス感染拡大によるリーグ開幕延期に伴い、「競争から共存」というメッセージを出したりしています。こうした柔軟性やスピード感あるリーグ経営はプロ野球にはない素晴らしいものです。

 

僕が言いたいのは、Jリーグも今ではリーグ設立時点とは違う方向性を目指していたり、Jリーグに“倣って”プロ化したと思われがちなBリーグも、実情を見るとプロ野球を参考にしていたりと、プロ化の成功モデルは単一でなく、しかも刻一刻と変化し、簡単に公式化することができない実情があまり共有されていないということです。プロ化にも、もっといくつもの形(バリエーション)があってもいいのかなと思います。  

 

「プロ化=チームの株式会社化(事業会社化)」が暗黙の前提になっているように見えますが、株式会社化しない選択肢はないでしょうか? 特にラグビーなど、実業団スポーツとして上手く回っている競技ほど、(福利厚生モデルの共存が認められない)株式会社化への抵抗は強いでしょう。強硬な事業会社化は、有力な実業団チームの離反を招くため、悩ましいところです。

 

前置きが長くなりましたが、私が今日本でこんな形でプロ化を進めたら面白いんじゃないかと思う私案の概要を簡単にご紹介しますね。リーグガバナンスにおける主な骨子は以下の様な感じです。

 

1)事業と強化を分離して別法人化

球団の中には「儲かるチームを作る機能」(事業)と「強いチームを作る機能」(強化)の2つがあります。通常はこれが1つの法人の中に併存するのですが、まずこれを分離します。

 

実は、事業と強化を分けるのはそれほど珍しい話ではありません。例えば、読売ジャイアンツ(球団)は基本的にはベースボールオペレーション(強化)に特化していて、ビジネスオペレーション(事業)は親会社である読売新聞の事業部が行っています。また、新球場の建設計画を進めている北海道日本ハムファイターズも、今年1月に新球場の運営業務を担う「株式会社ファイターズスポーツ&エンターテイメント」を設立して、球団の事業機能もそちらに全部移管しています。

 

事業と強化を分ける理由は、次の2)を行うことにより実業団の新リーグ参加を容易にするためです。

 

2)分離した事業機能を統合してSingle Entityリーグを組成

各チームから分離した事業機能を統合して、Single Entity(シングル・エンティティ)のリーグを組成します。ただ、「統合」といっても、これは組織上の見え方(所属)であって、実際の事業スタッフが働く場所などを必ずしも変える必要はありません。

 

Single Entityとは、米国において人員やリソースが限られるプロリーグの立ち上げ期やマイナーレベルのスポーツが主に採用する組織形態で、球団をリーグの中に統合してしまう(球団はリーグの一部署という見え方)という手法です。球団オーナーは、リーグの共同投資家という立ち位置になり、全球団を共同保有する形になります。まあ、誤解を恐れずに言えば「合法的談合」ですw。MLSやWNBA(今はSEを離脱)、今はなきWUSA(女子サッカー)などが老舗でしょうか。最近だと、2018年にできたMajor League Rugbyや今年再始動したXFLなどがSEを採用しています。

 

リソースをリーグに集約管理することで、限られた人員でリーグの全体最適を目指してスピーディーに意思決定していくことができるのがSEの最大の強みです。また、戦力均衡型を志向する米国型リーグ経営モデルでは、反トラスト法(日本の独禁法に相当)による訴訟リスクをどう排除するかが非常に重要になるのですが、SEにすればそもそも「異なる組織が共謀する」という構図にならないので、訴訟リスクを大きく下げられるという利点もあります。

 

その反面、球団間の競争意識が芽生えにくくスタッフの成長意欲が阻害されがちだったり、選手待遇が悪くなる(選手はリーグと契約を結ぶため、球団間の選手獲得競争が起こりにくい)などのデメリットもあります。実際、MLSは過去に選手から訴えられたりしてますし。

 

話を戻すと、チームの事業サイドにいたスタッフは、組織的には「リーグの人」になるわけです。そして、各チームに対応する事業部署(各チームの事業スタッフはそこにアサインされる)がリーグ内にチームの数だけ作られるイメージです。また、チーム内に事業機能をもたない実業団チームは、リーグには人を出しません。

 

リーグにリソースが集中されるので、チケット販売や協賛営業などの事業のノウハウはもちろん全て共有します。NBAが始めたTMBOのような感じです。

 

3)チームは強化に特化して非営利組織化

事業機能をリーグに統合することで、組織上チームには強化機能だけが残ることになります。チームは、強化に特化した非営利組織(NPO)として組織しなおし、基本的には選手育成と地域密着活動を行うことを活動の柱にします。チームに収入を拡大する責任はなく、予算内でどれだけレベルの高い選手育成ができるかが求められることになります。

 

チームから事業機能を分離することで、福利厚生の範囲内でしか活動できない実業団チームの参画も容易になるはずです。チーム名に地域名を入れるのはMUST、企業名を併せて入れるのは自由です。

 

4)リーグとチームで選手育成契約(PDC)を締結

SEとして組織されたリーグと各チームの間に選手育成契約(Player Development Contract)を結びます。これは、メジャー球団がマイナー球団と結んでいるPDCと似たイメージのものです。メジャー・マイナー間のPDCでは、メジャー球団がマイナー球団の選手人件費を負担する対価として、マイナー球団に選手育成を任せるものですが、この変形です。

 

PDCには、選手育成要件と収益分配要件の2つが含まれることになります。選手育成要件では、きちんと選手を育成管理して、リーグ戦に参加すること、リーグ事業の拡大に必要なプロモーションに協力することなどが求められます。


収益分配要件には、見かけ上「リーグの人」になった事業スタッフの頑張り(チケット販売、協賛営業など)に応じた収益の分配(リーグ→チーム)が規定されます。チームはこの分配費用を選手人件費に充てる形になります。実業団チームは、リーグに事業スタッフを派遣していないため、分配金はなく、選手人件費は親会社からの福利厚生費を充てる形になります。

 

長期的に考えると、実業団チームの場合は親会社から拠出される福利厚生費が一生続く保証はないですし、恐らく少しずつ減らされていくことが予想されます。そのため、現実的には実業団チームは少しずつリーグに派遣する事業スタッフの数を増やし、分配金を増やしていく形で自立していくイメージになるのかなと思います。

 

5)実業団チームの事業はリーグが担当

事業機能を持たない実業団チームのビジネスは、リーグが代行して行います。従来まで、福利厚生の範囲内ではチケット販売や協賛営業に十分なリソースを割けなかったわけですが、ここにリーグがしっかりと人員を配置して収益化を図ります。そして、そこから得られた収益は、4)の原則に乗っ取り実業団チームには分配せず、リーグの独自収益になります(この収益の使い方は要検討)。

 

ざっと思いつきレベルで僕の頭の中にあったものを書き散らしてみました。まだまだ概要レベルで詰めないといけないところはいくつかあると思います。

 

例えば、経営規模の格差をどうするか。この形でリーグを立ち上げると、初期フェーズでは実業団チームの方がプロチームより予算規模が大きくなってしまい、戦力のアンバランスなどが問題になる恐れがあります。これを解決する仕組みを考えないといけません。

 

仮にA〜Fの6チームで新リーグを作ったとして、うちAとBの2チームは元強豪実業団チームで年間10億円が福利厚生費で供出されており、C〜Fの4チームはプロチームで大きな責任企業は存在しないようなケース。この場合、新リーグ全体での売り上げが20億円しかなければ、C〜Fへの分配金は平均5億円となり、選手人件費はABの半分しかありません。こういうケースです。

 

これは、リーグ収益を厚くアロケートしたり、球団間の収益分配を行うなどで解消を目指すことができるかもしれません。選手の移籍なども視野に入れると、ドラフトとかFAなども設計しないといけないと思いますが、ざっと大きなガバナンスモデルで言うとこんな感じですかね。考えが至ってない点も少なからずあると思いますので、いいアイデアがあったら是非教えて下さい。

 

今回はあくまで「実業団チームが参入しやすいプロリーグ」という、日本のやや特殊な環境を前提に思考実験してみました。もちろん、理想は一気呵成に全チームがプロ化に疑いなく突き進んでいくのがシンプルで一番良いのは間違いありません。米国では、リーグがNPOとして組織され(リーグビジネスは関連会社を作って球団が株主になって実施)、球団が事業会社というのが一般的ですが、今回の私案はその逆のようなイメージですかね。日本だからこそ実現できる独自のリーグ経営の形というのがあると思うんですよね。皆さんも、既成概念にとらわれず、自由にリーグを設計してみて下さい。

東京オリンピックの通常開催がどのくらい現実的なのか考えてみた

前回のブログを書いてからちょうど10日が経過しましたが、残念ながらこの間に新型コロナウイルスが世界中に爆発的に拡散してしまいました。米国でも、10日前には11名だった死者数が今や103名と日本を大きく上回ってしまいました。SF市は昨日3週間の自宅待機令を出しました。NYも48時間以内に市長が外出禁止令を出すのではないかとの報道もあります。今マンハッタンはゴーストタウンのようです。

 

前回も書いたように、東京オリンピックが開催できるかどうかは、国内の感染の終息だけでなく、国外の状況に大きく依存しているように思われます。今回は、東京オリンピックを予定通り開催することがどれくらい現実的なのかをより具体的に考えてみることにしました。

 

A)最も理想的なシナリオ

最も理想的なシナリオは、国内外で新型コロナウイルスの感染拡大が終息している状況でしょう。一般的に、感染症のアウトブレイク終息の定義とは「潜伏期間の2倍の期間が経過するまでに新たな症例が確認されなかったとき」とされているようです。WHOによれば新型コロナの潜伏期間(incubation period)は最大14日とされていますから、28日間新たな感染者が確認されなければ終息宣言を出せることになります。

 

東京オリンピックの開会式は7月24日に予定されていますから、どんなに遅くともその28日前に当たる6月26日までに完全に感染拡大を絶っておくことが開催のための絶対条件になります(現実的には、選手の来日は開会式のもう少し前になります。選手村の開村は7月14日のようです)。6月26日以後に一人でも感染者が見つかれば、開会式までに終息宣言を出すことは不可能になります。

 

日本で最初の感染者が見つかったのが1月21日ですから、ざっくり中国の1か月遅れの状況です。現時点で、中国の新規感染者数はかなり少なくなってきていることを考えると(3月17日は21名。2月上旬には1万人を超える日もあった)、日本国内に関しては、終息宣言を出すことは不可能ではない様にも見えます(このあたり、僕は感染症の専門家ではないので分かりませんが、もし詳しい方がいたら教えて下さい)。

 

一方、海外はどうでしょうか?僕が住んでいるアメリカでは、先日トランプ大統領が「終息は7月とか8月になるかもしれない。誰にも分からない」と言っていました。ヨーロッパでも感染が日に日に拡大しています。この状況で、オリンピックに参加する全ての国で6月26日までに感染拡大を絶つことは難しいのではないでしょうか?となると、このシナリオはあまり現実的ではないということになります。

 

B)もう少し現実的なシナリオ

日本で終息宣言は出せたが、海外では出せなかった状況を考えてみましょう。

 

この場合、実効的な海外からの感染拡大防止策を大会組織委員会が用意しておくことが必要になります。でなければ、せっかく感染症が終息した日本で再発してしまう可能性があります。それにより万が一新たな死者が出たともなれば目も当てられません。そうなれば、「平和の祭典」であるオリンピックのブランドは大きく傷ついてしまうでしょう。それはIOCが最も恐れることです。

 

海外からの感染拡大防止策を考える場合、「選手を含む大会関係者」と「観戦者(旅行客)」の2つのグループに分けて考える必要があるでしょう。

 

まず前者(選手を含む大会関係者)の場合。来日前に厳しいスクリーニングを行っておくことは言うまでもないですが、来日後に万が一感染が発覚した際の隔離政策を事前に準備しておくことが不可欠です。そして、実はこれがかなり大変です。

 

米国スポーツ界でいち早くシーズン中断を決めたのはNBAだったのですが、それは選手から感染者が確認されたためです。NBAは、この選手が過去10日間に5試合に出場していたことから、自軍を含めた6チームの選手全員を濃厚接触者として隔離措置の対象にすることを決めました。NBAは全部で30球団ありますが、選手一人に感染者が出ただけで、1/5のチームがプレーできなくなってしまったのです。これがNBAがシーズン中断を決めた直接的な原因です。

 

東京大会では、公開競技も含めて33競技339種目が実施予定で、世界中の200以上の国や地域から1万5000名以上の選手が来日する予定です。競技によって接触度に違いがありますから、個別に隔離ポリシーを決めておく必要があります。

 

例えば、バスケットボールを例に考えてみましょう。バスケでは、出場する12か国をA・B2つのグループに分けて予選リーグを行い、それぞれ上位4か国(合計8か国)が決勝トーナメントに進出します。予選は7月26日から8月2日まで行われ、8月4日から決勝トーナメントが始まります。決勝戦は8月8日です。

 

万が一、予選リーグ実施中に選手から感染者が見つかった場合、どうなるでしょうか?NBAと同様の対応を取るなら、予選でこの選手と対戦した国の選手は全員隔離の対象になります。こうなった場合、それ以降の試合に参加できませんから、不戦敗とならざるを得ないでしょう。予選の後半で感染が分かれば、最悪の場合、グループ内全チームが隔離対象になります。一方のグループが隔離で全滅した場合、残りのグループの上位4か国だけでトーナメントを継続するのでしょうか?あるいはグループ内で4か国が隔離で参加できなくなった場合、残りの2か国は自動的に決勝トーナメントに出られるのでしょうか?例えばその2か国が全敗だったとしても?

 

新型コロナの厄介な点は、潜伏期間が長い(14日)上に、発症前から感染力があるとされる点です。選手から感染が確認されれば、基本的に大会中に接触のあった全選手が隔離対象になりえます(オリンピックは2週間しかない短期大会)。

 

競技により選手どうしの接触度は違いますから、隔離対象(濃厚接触者)を決めるのも簡単ではありません。体操や陸上といった個人競技はまだ感染した本人だけ隔離すれば済むかもしれませんが、団体競技は厄介です。NBAでは、試合で対戦した全選手が濃厚接触者とされ隔離されましたが、ラグビーはどうでしょうか?スクラム組むのでちょっと怪しいかもしれません。では、野球はどうでしょうか?サッカーは??

 

これを競技ごとに全て事前に決めておく必要があります(余談ですが、映像から濃厚接触者を自動的に割り出すソフトなんかを開発しておくと、いろんな競技団体から引き合いがあるかもしれません)。オリンピックは2週間の短期間に数多くの競技が行われる超過密大会です。競技スケジュールを見てみると、そのあまりの過密日程にちょっとゾッとします。

 

また、選手村や病院などのキャパや構造の問題で物理的に隔離できる人数にも上限があるはずです。大会期間中に隔離された選手がそのリミットに達してしまった場合、大会自体を即時中止することも考えておかなければならないかもしれません。また、こうした特別ルールについて、各国際競技連盟(IF)や各国のオリンピック委員会(NOC)から事前に承認を受けておく必要もあるでしょう。

 

当然、選手からは反発も考えられます。ここまで命を削って努力してきたのに、自分以外の選手のせいでその努力が水の泡になってしまうかもしれません。「そんな不合理な大会ルールに則ってプレーできない」と感じる選手を責められないでしょう。IFやNOCによっては、参加を辞退するところもあるかもしれません。

 

また、後者(観戦者・旅行客)の観点から感染拡大防止策を考えるとどうでしょうか?大会組織委員会によれば、大会期間中にオリパラ合わせて1010万人の観客を想定しています。人数が多過ぎるため、観戦者・旅行者から感染が確認されても、大会組織委員会が手取り足取り隔離を行うことは現実的ではありません。基本、自主的な隔離を行うことが原則になると思うのですが、わざわざ海外からやってきて少々風邪っぽいくらいで観戦を諦めるでしょうか?あるいは、家族など複数人が同部屋で泊っているケースなどでは、自主隔離を行おうとしても別途宿泊を手当てすることは至難の業でしょう。

 

ところで、感染拡大防止策を検討する上で気になる動きがあります。米国の上院議員がIOCに対して大会の危機管理を確認する公開書簡を3月11日に送付しています。書簡を送ったのは、「製造・貿易・消費者保護に関する商業小委員会」(Commerce Subcommittee on Manufacturing, Trade, and Consumer Protection)の委員長と幹部で、同小委員会は、米代表選手の健康・安全管理の責任を負っています。

 

書簡には以下の7つの質問が記載されており、4月10日までの回答を求めています(訳は筆者の意訳)。

  1. While we are aware that the U.S. Olympic and Paralympic Committee has an Infectious Disease Advisory Group, what internal organizational measures or actions has the IOC taken, to date, to specifically address and coordinate plans to prevent further spread of COVID-19 in preparing for the 2020 Olympic Games? (IOCが大会準備においてCOVID-19の感染拡大を防止するためにどのような対策を取っているのか?)
  2. Were there infectious disease coordination protocols for the 2020 Olympic Games in place prior to the initial reports of the COVID-19 outbreak? If so, what were those protocols? (COVID-19のアウトブレイクが始まる前に2020年大会のために何らかの感染症対策は存在したのか?)
  3. Please describe in detail the IOC’s coordination efforts with the WHO, the U.S. Centers for Disease Control and Prevention (CDC), the Government of Japan, and the relevant local health agencies in Tokyo to prepare for the upcoming Olympic Games and the expected influx of attendees. (IOCは、WHOやCDC、日本政府、東京の保健機関らとどのような大会準備を行っているのか?)
  4. Are there specific contingency plans to effectively respond to a confirmed case or cases of COVID-19 during the games? If so, what are these plans? (大会期間中にCOVID-19の感染者が確認された場合の危機管理計画は用意されているのか?)
  5. Please describe the frequency and substance of communications with the participating NOCs and their members.  (各NOCとの間にどの程度の頻度でコミュニケーションを取っているのか?)
  6. Are unique precautions being taken related to specific NOCs that are geographically located in countries with prevalent numbers of COVID-19 cases? If so, what are those measures? (COVID-19が流行中のNOCからの感染拡大防止策はあるのか?)
  7. Please describe in detail any other relevant actions being taken by the IOC as it relates to preventing the spread of COVID-19. (IOCがCOVID-19の感染拡大防止のために講じているその他の対策はあるか?)

 

上記7つの質問のうち、4(大会期間中に感染者が確認された場合の危機管理計画)と6(流行中の国からの感染拡大防止策)は日本の大会組織委員会が主体的に用意するものであることを考えると、既にIOCから組織委員会にはこの件で照会が入っているものと思われます。

 

多くの方が既にご存知のように、IOCの最大のお客様は米国であり、NBCです。この書簡に対して、IOCから納得いく回答が得られない場合、米政府は「日本の大会組織委員会は選手にとって十分に安全と言える競技環境を保証していない」などとして、代表選手派遣の中止検討などの対応を取るかもしれません。

 

最悪なのは、米国は今さながら戦時下のような厳戒態勢になってしまったことです(まあ、厳密に言えば米国はいつも世界のどこかで戦争をしているので、常時戦時下なのですが)。911の時に痛感しましたが、米国は戦争などで本土を攻撃された経験がほとんどないため(真珠湾と911だけ)、本土がやられると過剰反応する嫌いがあります。「挙国一致で敵をやっつけろ」と最大防御モードになるのです。

 

今、米国はコロナウイルスとの戦いで精いっぱいで、とても他国でのオリンピックのことを考える余裕はありません。昨日のCDCの勧告により、あと8週間は50人を超えるイベントの開催ができないことになっています。米スポーツ界ですら完全に沈黙している状況で、東京オリンピックへの選手派遣なんてまともに議論できる余裕はないかもしれません。米国が選手派遣に後ろ向きになった場合、他国もこれに追随する可能性は大きいでしょう。

 

とりあえず、このシナリオで通常開催に漕ぎつけるためには、少なくとも第一関門として4月10日の回答期限までに実効的な危機管理計画をIOCに提示できるかどうかにかかっているように見えます。

 

とはいえ、このシナリオは他国の状況次第という部分が強く、いくら日本が万全な危機管理計画を用意したとしても、日本が完全にリスクを管理することができません。「感染の危険を冒してまで無理に予定通り大会を開催する必要はない」との声が選手からも大きくなってくれば、「アスリートファースト」を掲げる組織委員会としても、この声を無視することは難しいでしょう。その意味では、先の見通せないシナリオと言えます。

 

C)残念なシナリオ

通常開催できなかった場合は、中止か延期の二択になりますが、個人的に中止の選択肢はないように思います。なぜなら、ただでさえ世界からオリンピック大会招致に立候補する都市が激減する中で、IOCとしては五輪ブランドを守るためにも東京大会を安易に中止にはできないからです。

 

以前、日経ビジネスにも寄稿しましたが、英オックスフォード大学の調査などによりオリンピックの財務的リスクが可視化されてきています。オリンピックはたった2週間ちょっとの短期イベントにも関わらず、小国の国家予算にも匹敵する巨額な開催費用が必要なことで知られています。同大学の調査チームは、2016年に発表したレポートで「オリンピックの開催を予定している都市や国は、世の中で最も高額で財務リスクの高いメガプロジェクトを行おうとしているという認識を持つべき」と警鐘を鳴らしています。耳が痛いです。

 

延期になった場合、1年後、2年後のほかに、12年後という案も出ているという噂があります(4年後はパリ、8年後はロスで決まっているため)。確かに12年後なら困る人は少なくなりますが、日本としては「今までの準備は何だったんだ」ということになり、到底受け入れられないでしょう。後手後手に回って外堀を埋められ、最悪の選択肢を強いられるのは何としても避けたいところです。

東京オリンピック開催への見過ごされがちなリスク

新型コロナウイルスの感染拡大が東京オリンピックの開催に暗い影を落としています。言うまでもなく、東京で予定通りオリンピックを開催するためには、少なくとも自国でコロナウイルスの感染が収束に向かっていることが絶対条件です。現在、関係各所がその対応に追われているところだと思います。

 

しかし、今「目の前にある危機」の対応で手一杯になっている中で見過ごされがちなのは、海外での感染拡大に伴うリスク管理だと思います。なぜなら、グローバルにみてアジアとその他の地域での感染や危機感の変化に時間差がある点は、日本にいると頭では分かっていても、なかなか実感しにくい部分だからです。

 

この「海外での感染拡大に伴うリスク」には、以下の2種類のリスクがあると思います。

 

1)海外から日本に対する危機感

「対岸の火事」だった新型コロナウイルスの拡大が自国に及んでくると、「他人事」だった恐怖が「自分事」になります。そうなると、「こんなに怖いウイルスだったとは知らなかった!」「日本国内での対応は大丈夫なのか?」「日本に行っても大丈夫なのか?」と、オリンピックを開催する日本に対する視線がおのずと厳しいものになっていくことが予想されます。

 

こうした危機感の変化は、海外から日本への観光客やオリンピックの競技観戦者の行動に大きな影響を与えます。このリスクの特徴は、自国の話なので「ある程度管理できる」が、観光客・旅行者を想定すると「リスク判断が比較的早期である」という点です。日本での感染が収束すれば、日本に対する危機感も和らいで行く一方、旅行者はオリンピック開催ギリギリまで渡航判断を待ってくれません。

 

早期の現場対応と効果的な広報が重要になってくると思います。幸い、日本でのコロナウイルスへの現場対応は、比較的上手くやっているのではないかという印象を個人的には持っています(あくまでも「比較的」ですが)。死者の数を見てみれば、イランやイタリア、韓国などに比べると低いレベルに抑えることができているように見えます。

 

一方、広報では、誤解を招くような(日本が損をするような)英語での報道が散見されます。ツイッターでもつぶやきましたが、DP号での感染対応を巡っては、政府による情報公開・広報が十分でなかったこともあり、それ以降批判的な報道が目立ちます。日本に関する記事なのに、中国や韓国の写真が併せて使われているようなケースもあります。

 

ここはもう少し効果的な国際広報を期待したいです。

 

2)海外での自粛ムードの拡大

日本では、今まさにコロナウイルスの自粛ムードが社会的に蔓延しているところだと思いますが、こうした状況が時間差で世界中に拡大していく可能性があります。学校閉鎖やスポーツイベントの延期・中止が相次いでいる今、もしオリンピック開催が8月ではなく5月や6月だったら、日本でも「開催はちょっと無理かも」と思ってしまったのではないでしょうか。

 

感染拡大にタイムラグがあるため、海外ではこの状況が起こりえるのです。これから数週間後、数か月後に国内で感染が拡大して今の日本と同じように自粛(萎縮?)ムードが高まった時、日本への代表選手の派遣をどう判断するでしょうか?そもそも、オリンピックを楽しく観戦できる雰囲気になっているでしょうか?

 

例えば、米国では、今まさに市中感染が広がり始めている状態で、私の住むNY州を含む8州が非常事態宣言を発令し、学級閉鎖やイベントの自粛などが検討され始めています。日本のちょうど1か月前のような状況だと思います。まさに、「対岸の火事」がこちら側に飛び火してきたような感じです。

 

このリスクのやっかいなところは、「日本が自分で管理できない」ものであり、しかも「時間差」で「これから広がっていく」性質をもっている点です。

 

そうした中、気になるニュースが出てきています。予定通りの大会開催を強調している日本政府をよそに、海外の競技団体(IF)や米国テレビ放送局が無観客オリンピックの実施や大会中止などのリスクシナリオに応じた危機管理計画の策定を進めているようです。

 

2月末には、東京オリンピックに参加する国際競技連盟の医療担当者が世界保健機構(WHO)と無観客オリンピック(Fan-free Olympics)の開催について協議を行ったとNY Timesが報じました。無観客オリンピックでは、選手のほか、競技団体の幹部や放送局のみの参加が認められる形が想定されているそうです。ただ、無観客としても、世界中から選手や関係者が来日することから、感染拡大のリスクは高く、そのスクリーニングが重要になるとWHOが指摘しているそうです。

 

世界中に200近い国がある中で、現在約半分の100か国に新型コロナウイルスの感染が広がっています。今後もさらに拡大していくでしょう。仮に日本で感染拡大が収束していたとしても、オリンピックを機に世界からウイルスを日本に呼び込んでしまうことにもなりかねません。

 

また、NBCが東京オリンピックが中止になった場合も含めた危機管理計画の策定を始めたという報道もあります。NBCと言えば、IOCの収入の約4割拠出していることで有名で、東京オリンピックについても高額なテレビ放映権料をIOCに支払っているため開催強硬派であるようなイメージが日本でも強いと思います。しかし、記事によれば、万が一オリンピックが開催されなくても、支出済みの五輪関連費用は保険でカバーされる可能性が高く、意外にも開催強硬の立場ではないようです。

 

NBCは東京オリンピックに際し、合計約7000時間の放送を行う予定で、広告枠もその約9割が埋まっており、現時点で12億5000万ドルの広告収入が上がっています。五輪に備えて既に番組制作を進めている部分もあるようですが、IOCへの放映権料も含め、こうした支出は全て保険の対象になりうるようです(具体的には今回のコロナウイルスの感染拡大は「Act of God」(天災)に相当し、保険の対象になるそうです)。まあ開催中止になれば、広告料は広告主に返還する必要があるでしょうが、費用が保険でカバーされれば「持ち出し」は最小限に抑えられます。

 

NBCが今気にしているのは、CMを出稿している広告主の顔色です。こうした企業は米国内で自社の商品やサービスをPRするために巨額の資金を出しているわけですが、自粛ムードが社会に蔓延する中で華やかなCMを流せば、むしろ企業イメージを傷つけてしまうかもません。オリンピックは注目度が高いだけに、“諸刃の剣”にもなりえます。

 

例えば、仮に日本国内では感染拡大が収束していて開催が可能だとしても、その時点で米国内での感染収束の目途が立っておらず、MLBがシーズンを中断していたらどうでしょうか?秋に開催を控えるNFLやNBA、NHLがシーズン開幕を延期すると発表していたらどうでしょうか?NBCは、様々なリスクシナリオを想定しながら、こうした状況が米国内のメディア消費者の行動にどう影響するかを慎重に精査し始めたということでしょう。

 

日本にとっては考えたくないことですが、日本国内では問題が収束していても、国外のステークホルダーの意向により五輪開催に圧力がかかることがあるかもしれません。今まさに、こうした国際情勢をにらみながら開催実現にこぎつけるシナリオ作りやストーリーメイキング、関係者の巻き込み力などが問われていると思います。

スポーツのプロ化構想(その1)〜服用する前にお読み下さい編〜

日本では、コロナウイルス感染拡大に伴う自粛ムードで大変なようですね。2009年の新型インフルエンザの世界的流行の時を思い出します。旅行業界は、今週前半時点で既に3分の1くらいの予約がキャンセルになっているという話を知人から聞きました。今はもっとひどくなっているかもしれません。僕も来週日本から来客予定なのですが、キャンセルにならないかヒヤヒヤしています。万全な準備を行い、あとは待つだけです。

 

2009年の経験から学んだのは、「花が咲かない時は、根を張れ」です。悪い流れに抗っても何もできないですし、自分がコントロールできる部分にリソースを集中する方がベターです。こういう時こそ自分が行っているビジネスの本質に立ち返って、自分がすべきことを再確認し、やるべきことをやり続けるのが重要かなと思います。「辛い時こそ胸を張れ」(SoulJa「Rain」より。この歌には励まされました)なのです。

 

というわけで、コンサルタントである私ができることと言えば、思考訓練でしょうか。僕は顧問先やクライアントから様々な経営課題に関する相談を受けるので、その際にどれだけたくさんの「議論のひきだし」をもっているかが、質の高いディスカッションを経た解決策の検討において重要になります。ひきだしを増やすには、特定のトピックについて自分なりに考え尽くしてみるということが有効に思えます。これを様々なトピックについて行っていると、いろいろな部分で結びつきが見えてくるようになり、結果的にひきだしが重層的に増えていくのです。

 

さて、昨年のラグビーW杯実施中にラグビーのプロ化構想についてTwitterでつぶやいたところ、結構バズりました。

ラグビーW杯は大成功に終わり、日本代表チームの爽やかな活躍を記憶していらっしゃる方も多いでしょう。その後、ご存知のようにラグビー界ではプロ化構想が公表されましたね。年明けにはラグビー協会が2021年からスタートする新リーグの参入要件を発表しました。

 

ラグビーに限らず、これからもスポーツ界ではプロ化の話が定期的に出てくると思います。良い機会なので、スポーツのプロ化に関してちょっとした思考訓練をしてみようと思います。ちなみに、ここでいう「プロ化」とは、「顧客を想定し、顧客への付加価値増大による拡大再生産のサイクルを目指すことで組織のレベルアップを図ること」と定義しておきます。分かりやすく言えば、お客様のためにやるのがプロで、自分(身内)のためにやるのがアマチュアです。  

 

日本の競技団体の多くで見られるスポーツのプロ化の最大のハードルは、プロチームと実業団チームの混在をどうまとめるかです。実業団チームは、基本的にインナー施策としての顧客(社員)は想定しているものの、広義の顧客(観戦者や協賛企業、メディア、地方自治体など)は想定していません。あくまでも福利厚生の範囲内での活動に限定されるため、プロチームと足並みが揃わない場合が出てきます。

 

例えば、チケットを売る時。プロチームは当然、チケットを観戦希望者に有料で販売しますが、実業団チームは親会社や関連企業にチケットを招待券として無料配布してしまいます。これは、チケットを「販売」してしまうとそれが事業になってしまい、福利厚生の範囲から逸脱してしまうからです(事業には規模拡大を見据えたリソースの追加投入が必要になるが、福利厚生はそれを想定していない)。実業団チームの場合、親会社は事業(スポーツビジネス)を行う前提でチームを保有・支援しているわけではありません。  

 

しかし、チケットはスポーツビジネスの最も基本的で重要な商材であり、チケットをタダで配布するということは「私たちの売り物に価値はありません」と言っているのと同義です。せっかくプロチームが価値を高めようとチケットを有償で販売しても、招待券として配ってしまうチームが混在すればリーグ全体としての事業価値を高めることはできません。まあ、チケット販売は一例ですが、こうした足並みの乱れがプロリーグとしての成功を難しくするのです。

 

競技レベルや顧客サービスの持続的なレベルアップを図るには、確かにプロ化が唯一の選択肢になるでしょう。しかし、プロ化にはリスクが伴います。ベストシナリオでは、10年後に世界と勝負できる競技に育つかもしれませんが、ワーストシナリオでは、3年後に経営破たんしてしまうかもしれません。実業団のまま続けていれば、15年後も存在しているかもしれないのに。

 

ツイートでも書きましたが、「実業団がプロ化するのは、サラリーマンが起業するのと同じ」です。ベンチャー企業の生存率は「創業から5年後は15.0%、10年後は6.3%。20年後は0.3%」とも言われています。本当に路頭に迷うリスクを負ってまでもプロ化に踏み切る大義があるのか、そこを本音で考える必要があります。プロ化とは「善悪の問題」ではなく「選択の問題」です。アマチュアやセミプロのまま続けることが必ずしも悪いことではありません。重要なのは、何のためにプロ化するのか、という部分だと思います。周りの顔色を窺って建前でプロ化には賛成したが、3年で経営破たんしました、ではシャレになりません。

 

「実業団スポーツ」という、企業がスポーツを支えてくれる文化があるのは日本や韓国など一握りです。企業に依存していて生殺与奪権を握られているとはいえ、実業団という形でプレーする機会が存在するだけでも、非常に恵まれた環境にあると言えます。その意味では、実業団スポーツとしてある程度成功していたラグビーは、逆にプロ化へのハードルが高いとも言えるわけです(捨てなければならない厚遇が多い)。「そこまで無理に頑張らなくても、俺は今のままでいいかな」と思っている関係者がいれば、プロ化して成功する可能性は下がります。不退転の決意と狂気にも似た熱狂が共有されていなければ、起業は成功しません。


「ノーサイド・ゲーム」をご覧なった方はイメージしやすいと思いますが、福利厚生費用として親会社から10億円程度のお金が拠出されるというのは本当に奇跡的なことです。仮にプロ化した場合、前述の理由から福利厚生費としての資金拠出を続けてもらうのは難しいでしょう。これを宣伝広告費として差し替えてもらうにしても、本当に10億円の広告効果があるかがシビアに評価されることになります(そして、恐らくその広告価値はないと判断され、大幅に減額される)。スポーツで起業して10億円の売り上げを立てるというのは、簡単なことではありません。


「プロ化」と言うと、Jリーグの成功が鮮烈だっただけに、それに倣って「チームを株式会社化して地域密着を行う」といったような手段にばかり注目が集まりますが(それは間違いではないですが)、成否のカギは別のところにあるのかもしれません。例えば、Jリーグに“倣って”プロ化を進めたように見えるBリーグですが、実情(特にリーグ経営)はむしろプロ野球の経営手法(パ・リーグ)を参考にしています。また、Bリーグが立ち上げり、事業規模を拡大しているバスケ界の今があるのは、ひとえに関係者一人ひとりの覚悟と熱狂に支えられた努力の賜物ですが、その背景としてFIBAからの制裁(国際活動禁止処分)により退路を断たれたことは特筆すべきです。自分たちが一つにまとまって力を合わせなければ、オリンピックにもアジア選手権にも出られない。これが関係者一人ひとりにプロ化(統一リーグ化)への「不退転の覚悟」を迫ることになったのだと思います。

 

プロ化と言っても、それぞれに成功を支えた異なる背景があります。そもそも、何のためにプロ化するのかよくよく考えた方がいいですし、プロ化するにしても、今では様々な方法が考えられます。次回は、今のスポーツ界を取り巻く経営環境の変化を踏まえた上で、どのようなプロ化が選択肢として可能なのか、ちょっとした私案を披露してみようと思います。読者の皆さんも、今自分がスポーツのプロ化を託されたら、どのようなリーグを構想するか頭の訓練だと思って考えてみて下さい。

XFLに学ぶ新リーグのValue Propositionの作り方

米国では、Super Bowlが終了して息つく暇もなく新フットボールリーグXFLが2月8日から開幕しました。XFLは、WWEのプロモーターだったVince McMahonが作ったプロフットボールリーグで、実は2001年に立ち上げて1年で経営破綻した経緯があります。今回は捲土重来を期した再チャレンジなのです。

 

最初のチャレンジの時は、チアリーダーのお色気やプロレス仕込みの派手な演出など、どちらかというとフットボール以外の要素が注目されてしまい、Week 2での不運な全国放送中の停電などもあって評判が落ち、経営が立ちいかなくなってしまいました(XFLの経営破綻の経緯はESPNの名作ドキュメンタリー「30 for 30」が“This Was the XFL”として詳しく特集しています)。

 

まだ開幕してWeek 1を終えただけですが、1回失敗しているだけあって、練りに練られてリーグ経営が行われている様子がヒシヒシと伝わってきており、業界関係者の評判も上々です。今回は、XFLのような後発リーグがプロスポーツとして成功するために考えなければならない点について、ケーススタディ的に書いてみようと思います。

 

以前「スポーツ経営におけるValue Propositionの重要性」「流行り言葉で思考停止にならないために」などでも書きましたが、リーグ経営でも球団経営でも施設経営でもそうですが、最も重要なのは、自分の組織の「Value Proposition(訴求価値)を考える」ことです。換言すれば、競合が真似できない自身のユニークな強みは何なのかを考え抜き、徹底的な差別化を図ることです。特にこの発想は人気のないマイナー競技や2nd Tier(上に同じ競技でレベルの高い既存リーグが存在する)の競技には不可欠な発想です。

 

Week 1のXFLの試合中継を見ていて気付いた点を列挙すると、

 

  • ヘッドコーチとQBの無線でのプレーコールのやり取りがそのまま聞ける(視聴者はプレーが始まる前にどんなプレーなのかが分かる)

⇒これはプレーを事前にネタバレさせることで新たな観戦体験を生み出しているわけです。野球なら、試合前にバッテリーのサインをファンに公開しているようなイメージでしょうか。投手の投げる球が事前に分かれば、プレーを先読みして見られるわけで、視聴体験も大幅に変わります。フットボールなら、プレーコールが事前に分かっているのはオフェンスの選手だけですから、視聴者も選手やチーム関係者と同じ立場に立ってプレーに臨めるわけですね。これは無茶苦茶面白いです。

  • ビッグプレー(TDやインターセプト)した選手やコーチに、プレーの直後に速攻インタビューする

⇒ビッグプレーを終えてまだハアハア言っている選手へのインタビューは選手のテンションが直に伝わってきます。視聴者の頭にプレーの残像が鮮明に残っているうちに、選手の視点からプレーを振り返ってくれるのは、試合後の記者会見などより圧倒的な臨場感があります。

  • TDの後のPATに1点、2点、3点のバリエーションが提供されている(普通は1点か2点が選べるだけ)

⇒これはフットボールを知らないと分かりにくいかもしれませんが、ラグビーに例えれば、トライの後のコンバージョンキックの距離を選べ、距離によって2点、3点、4点などが選択できるようなイメージです(普通は2点だけ)。無理してサッカーに例えると、ペナルティエリア外からゴールを決めれば2点みたいなものでしょうか。こうしたルール変更によって得点がダイナミックに動くようになるので、より高い戦術性が求められるようになり、見ている方もハラハラする機会が確実に増えます。

  • 脳震盪が起こるリスクが最も高いとされるキッキングゲームで、危険な接触が起こらないようにルールが大きく変更されている

⇒百聞は一見に如かずなので、以下の動画をまずみて下さい。

通常カバーチーム(キックを蹴る方)はボールが置いてあるラインから全力疾走してリターナーを止めに行くわけですが、XFLでは脳震盪の発生を防止するためにカバーチームとリターンチームを5ヤード離れて対峙させる方式を採用しています(これなら勢いがつかないため脳震盪が起こりにくい)。NFLがこんなドラスティックなルール変更をしようとしたら、キッキングのスペシャリストやコーチが職を失うことに直結するので、やりたくてもできないのです。

  • プレークロック(プレー終了から次のプレーを開始しなければならない間隔)は25秒で(NFLは40秒)、ハーフタイムも10分(NFLは12〜15分、カレッジは20分)と短い

⇒試合時間の短縮が大きな課題になっている中で、プレーの質を多少犠牲にしてでもペースアップを図る強い意志が見られます。

  • 女性審判が必ずいる

⇒XFLでは各試合での審判クルーのうち必ず1名は女性を入れないといけないルールになっています。女性の社会進出をエンパワーするツールとしてスポーツが注目されつつある中での画期的な取り組みと言えそうです。こういう旬なトレンドを迅速に取り込むXFLのビジネス感度は非常に高いです。近い将来、少なくとも選手の1名は女性でないといけない、みたいなルールも出てくるかもしれません。

 

上記を見てみると分かるように、これまでカメラやマイクが入ることが許されなかった“聖域”を公開したり、競技のルールそのものを変えてしまったりと、ことごとく既存の常識やタブーを覆しているのが分かります。  

 

競技軸が強い日本のスポーツ組織は“競技ドグマチック”になりがちなため、「野球とはそういうもんなんだ」「そんなのサッカーじゃない」「グランドは神聖な場所なんだ」といった理由にもならないような理由から新しい試みが否定される傾向が強いです。もちろん、トップレベルのプロスポーツは正統的な競技を提供する責務があるでしょう。でも、人気がなくて困っているようなマイナー競技や、トッププロリーグとの差別化を図る必要がある後発リーグや下部リーグが競技の正当性だけを主張しても自分で自分の首を絞めるだけかもしれません。

 

まだWeek 1が終わったばかりのXFLの成否を評価するのは早計ですが、少なくとも「XFLはフットボールに新たなイノベーションを起こした」という評価は共有されているようです。まさに、イノベーションは辺境から生まれるのです。

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