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ファウルボールの代わりに地獄をつかんだ男。彼への贖罪は叶うか

日米ともに野球シーズンが大詰めを迎えています。

日本では広島カープが25年ぶりに日本シリーズ進出を決め、32年ぶりの日本一を目指して日本ハムファイターズと対戦しています。一方、MLBでは、シカゴ・カブスが71年ぶりにワールドシリーズ進出を決め、何と108年ぶり!の優勝を目指してクリーブランド・インディアンズとの対戦を決めています。

優勝から1世紀以上も遠のいているファンからしてみれば、WS進出にかける思いはいかほどのものなんでしょうか。そして、このWS進出を機に、ある男性の免罪がなされるか注目されています。

スティーブ・バートマン(Steve Bartman)

カブスファンなら、この名前を聞いたとたん複雑な思いが去来する、忘れることができない名前でしょう。

“事件”は2003年のNLCSに遡ります。3勝2敗でマーリンズをリードし、リーグ優勝まであと1勝に迫ったカブスは地元シカゴで第6戦に臨みます。3対0で迎えた8回表1アウト2塁、WS進出まであとアウト5つでした。打席に入ったルイス・カスティーヨの打ち上げたレフトのファウルフライを左翼手のモイゼス・アルーが猛然と捕球しに行った際、ポール際に座っていたあるカブスファンがアルーよりタッチの差で先にボールに触ってしまったのです。この事件で流れが変わってしまったカブスは、その後8点の大量失点で敗れ、翌日も連敗してWS進出の望みは絶たれました。

今日ほどソーシャルメディアが普及していなかった当時、球場内のファンは何が起こったのか分からなかったそうですが、テレビを見ていたカブスファンがバートマンを戦犯扱いし、その素性を暴露。実家には度々嫌がらせが行われ、とうとうバートマンはシカゴに住むことができなくなりました。

事態はさらにエスカレートし、彼のお陰でWS進出を果たしたマーリンズの地元フロリダからは、バートマン宛てにフロリダへのバケーションや移住プランのプレゼントが提供されたり(もちろん、広告効果を狙ったもの)、テレビCMのオファーも届くなど、一躍“時の人”になってしまいました。バートマンはCMのオファーを全て断り、バケーションプランなどは商品券にしてもらい、それを寄付したそうです。

その後、件のファウルボールが競売にかけられ、10万ドル以上の値段でレストランオーナーが落札。その後、レストランで“呪いのボール”の爆破イベントなども行われました。ここまで来ると、ちょっと常軌を逸していますね。今では、彼が座っていたレフトポール際の席は観光名所になっているそうです。

ESPNもドキュメンタリー「Catching Hell」(地獄をつかんだ男)というタイトルでドキュメンタリーを制作しています。僕もオンエアを見ましたが、丹念な取材に基づいたストーリー展開は迫力があり、ファウルボールの代わりに地獄をつかんでしまった男のターニングポイントが克明に明かされていきます。ファンの熱狂が方向性を間違うと一人の人間をここまで追い詰め、その人生をこうも狂わせてしまうのかと怖くなったのを覚えています(以下で視聴できます)。

さて、晴れて71年ぶりにWS進出を決め、有名な“ビリーコート(ヤギ)の呪い”とともにこの“バートマンの呪い”を解いたカブスですが、さすがにファンも行き過ぎを認め、贖罪の場を設けようという雰囲気になっているようです。WSは明日からクリーブランドで開催されますが、シカゴでの初戦となる第3戦でバートマンを始球式に招くというプランがあるようです。実際、これを彼が受けるかどうか。勝利は彼のトラウマを癒すことができるでしょうか。

MLB新コミッショナーの驚きの初仕事

ご存知の方も多いと思いますが、現MLBコミッショナーのアラン・“バド”・セリグ氏は今年いっぱいで退任し、来年1月よりロブ・マンフレッド氏が新コミッショナーに就任します。既に水面下では実質的にマンフレッド氏がトップとしてリーダーシップを発揮しているようですが、その初仕事の内容を知ってとても驚きました。
 
これは既にSBJなどいくつもの専門誌が報じているものですが、現状のビジネス環境に合わせて大きな組織改編を行うというものです。中でも象徴的な人事は、これまで15年近くMLBのビジネス部門のトップとして手腕を発揮したティム・ブロズナン氏に代えて、MLBのネット事業を統括するMLBAMのトップであるボブ・ボウマン氏を据えるというものです。  

これは、業界を知る人にとっては衝撃的な人事です。なぜか?  

MLBにはMLBAM以外にも、MLB PropertiesやMLB Enterprisesなどいくつもの関連会社があるのですが、その中にあってMLBAMは異色の存在です。これは、日本でもネット企業のカルチャーが他の伝統的企業とは異なるのに似ていて、良く言えば若くて自由闊達な、悪く言えば強烈なエゴを持った尖った人材が集まって出来ている会社です。

多くの関連会社がMLB本部のあるミッドタウンのパークアベニューに身を寄せているのに、MLBAMだけ「シリコンアレー」とも呼ばれGoogleなどがオフィスを置くチェルシー地区にあるのもこのためかもしれません。社員も若くイケイケな感じです。リーグ機構の職員は皆スーツでビシッと決めていますが、BAMのオフィスに行っても皆カジュアルで、スーツを着ている人を探すのは大変です。

これは日本でも同じだと思いますが、ネット企業の若手起業家が大企業の経営者から距離を置かれるような感覚でしょうか。だから、BAMはMLB内でも敵が多く、その存在を疎ましく思っている人も少なくなかったのです。しかし、設立から10年で、全国放送の放映権料に匹敵する7億ドル(約840億円)以上の市場を創り上げたMLBAMには、誰も表だって文句を言えなかったわけです。

普通に考えれば、テレビとネットを統合して、メディアとしてシナジーを考えながらビジネス戦略を練っていくのが常識なのでしょうが、実はMLBではテレビ放映権とネット事業権がこれまで統合管理されていませんでした。テレビはMLB本体(ブロズナン氏管轄)、ネットはBAM(ボウマン氏管轄)でバラバラにビジネスが展開されていました。

ただ、BAMがMLB本体(正確にはMLB Properties)に気兼ねなく強力にネットビジネスを推進することができた背景には、「テレビとインターネットビジネスはカニバライズしない(食い合わない)」というコンセンサスが米国スポーツ界では既に確立されている点は指摘しておくべきでしょう。

で、この度、マンフレッド新コミッショナーが誕生と共に断行したのが、テレビ事業とネット事業の統合でした。そして、そのトップに据えられたのがネット事業のトップだったボウマン氏だったというわけです。

これは、見方を変えれば、オールドビジネスからニュービジネスへの新陳代謝を行ったということです。この人事により、ブロズナン氏はMLBから去らざるを得なくなりました。この辺りは非情にも見えますが、コミッショナーの職務はMLBの最高経営責任者(CEO)として、その事業価値を高めることです(これはメジャーリーグ協約に明言されています)。これはコミッショナーにしかできない仕事でしょう。

MLBは今季過去最高の90億ドルの売上を予測し、現在の為替ベースでは、初めて1兆円の大台に乗せたことになりました。20年前のMLBでは、ちょうどストが起こって売上が12億ドルに減じた年でした。20年で7.5倍の計算ですが、この間収益源別に売上構成を分析してみると、中でも大きく収益を伸ばしているのがテレビとネットです。

ボウマン氏がMLBビジネスのトップになることで、今後MLBは更にメディア企業としての性格を強め、収益を伸ばしていくものと思われます。その布石は打たれました。米国スポーツビジネスの成長を支えている一端は、こうしたダイナミズムなんだなぁということを改めて実感した次第です。

WSも今年からテレビ放映スケジュールを変更

日本シリーズはホークス、ワールドシリーズ(WS)はジャイアンツの勝利で日米の野球界は奇しくも同じタイミングでシーズンを終えました。

日本では、パ・リーグ優勝を果たしたホークスが、セ・リーグ2位のタイガースを破って堂々の日本一に輝きました。CSファイナルステージでタイガースがジャイアンツを破った際は、リーグ優勝のジャイアンツに配慮して胴上げなどはやりませんでしたが、これは非常に日本的な配慮ですね。これはこれで文化の表れで良いのではないかと思います。

一方、MLBはWSに進出したロイヤルズもジャイアンツも、共にワイルドカードからチャンスを掴んだチームでした。これについては、批判がないわけではないようです(例えば、これとかこれ)。今後、この批判が大きなうねりになるようなことがあれば、また別途レポートしたいと思います。

閑話休題。

一昨日、日米のPOのテレビ中継のオンエア方法の違いについて書きましたが、実はWSも今年からテレビ放映スケジュールに若干の変更を加えているんです。WSは

2試合
1日休み
3試合
1日休み
2試合

の7試合で、4勝先取のフォーマット(ちなみに、英語では「Best-of-seven」と言います)で実施されています。で、昨年までは初戦が水曜日に開催されていたのですが、今年からこれが火曜日に1日繰り上げになりました。なぜだと思いますか?

実はこれ、NFLとの放映スケジュールの重複を避けるためなんです。何で今更?と思う方もいるかと思いますが、実は近年、NFLは自ら保有するNFL Networkでの試合中継を強化していて、これを木曜日に充てるようになってきています(つまり、今ではNFLは木・日・月と週3日間テレビ中継している)。

Business Insider誌の図が分かりやすいので、ちょっと拝借します。


 出所:Business Insider

ご覧のように、水曜日から始める放映日程(図の右側)だと、最大で7試合中4試合がNFLと重複するリスクがあるわけです(黄色の網掛け部分)。火曜日開始にすれば(図の左側)、このリスクを1試合に軽減できるというわけです。

まあ、そもそもアメリカではフットボールのコンテンツ力が強すぎるのですが。MLBでは、公式戦の試合中継なら視聴率は数%(一桁前半)程度(全国放送の場合)、WSでも10%前後です。一方、NFLは公式戦でも10%を超えてきますし、スーパーボウルに至っては50%弱という怪物コンテンツです。

ともあれ、MLB最高のコンテンツであるWSですら、競合コンテンツとの食い合いを避けてその露出効果を最大化しようとしているわけですね。

【参考】

ヤンキースのユニフォームにはなぜ選手の名前がないのか?

久しぶりの投稿になってしまいましたが、以下の新刊が本日発売になります。


2007年から執筆をつづけている日経ビジネスのコラムを書籍化した前著『勝負は試合の前についている!〜米国スポーツビジネス流「顧客志向」7つの戦略』(2011年7月発売)の続編で、前著のコアな部分を残しつつ、その後3年間で追加執筆したコラムを追加して大幅に再編集したものです。

前著は、どちらかと言うと一般ビジネスパーソンを対象に、スポーツビジネスを題材に顧客獲得のためのTakeawayを整理したような体裁でしたが、今回は少しビジネス色を薄めにし、ビジネスを「理」とするなら、それを支え、ドライブする「情」の部分にもフォーカスを当てたような内容にしています。前著に比べ、スポーツファン全般を対象にした柔らかいデザインやフォントを使っているので、割とサクサク読める感じになっているはずです。

本の中で取り上げる球団は、僕自身も仕事上でお付き合いがあって、米球団の中でも自分の目で何度も見ているので比較的良く知っている球団をピックアップしています。日本からクライアントを連れて行くのも結構多い球団です。

現場を見たり、担当者の話を聞いたりして毎回痛感するのは、それぞれの組織には成功を支える個別の文化があり、十人十色という点です。地域により市場の大きさやファンの気性、競合企業の存在なども違いますから、同じような組織はありません。これは日本も同じですね。

例えば、レッドソックスは、働いているスタッフが本当にレッドソックスの組織の一員であることに喜びを感じていて、皆楽しそうに働いています。日本からクライアントを連れて行っても、例外なく驚かれる点の一つです。そこにサラリーマン的な「やらされ感」はあまり感じません。スタッフに地元出身者が多いのもここの特徴でしょうか。

また、ヤンキースは、スタッフから球界の盟主を自認する強烈なプライドを感じます。「やるなら何でも世界一」というのが彼らの出発点ですから、他の球団に比べて視座が1つも2つも高いです。プライドが反作用すると殿様商売的になったり、柔軟性に欠けるといった欠点はあるのですが、動く時は中途半端では終わらない、鉈で切ったような経営をする球団です。スタッフも全米中から集まってくる感じでしょうか。

日本のスポーツビジネス組織と比べると、収益を生み出すビジネス構造に大きな違いが見られますが、それを支える営業文化や顧客意識、更にその奥深くにあり組織活動の根源となる部分に「愛情」がある点が最も違う点だと痛感します。

収益を生み出すのに「理」があるのは必要条件ですが、それを支え、日本的に言えば「仏に魂を入れる」という意味での「情」があるのは、米国のスポーツビジネスで見過ごされがちな真実だと思います。

ワールドシリーズ周辺ビジネス

ワールドシリーズの優勝を目の当たりにして、もちろんその雰囲気に興奮したのは言うまでもないのですが、「上手いこと商売やってるなー」と感心した点もありました。

優勝が決まるといえば、やはりマーチャンダイズが大きなビジネスになります。以前、「Linsanity現象とBIRG効果」でも書きましたが、BIRG効果でグッズが最も売れるのは優勝直後です。

良く知られた話ですが、WSやSuper Bowlなどの優勝決定戦に際しては、どちらのチームが優勝しても良いように、予め両チームの優勝グッズを作っておきます。そして、優勝が決まった瞬間から、テレビでは「優勝グッズは公式HPで買えます」というCMが流れ、球場やストアでも優勝グッズの販売が始まります。

これは、優勝チームが決まってからグッズを発注していたのでは、タイムラグからBIRG効果が薄れてしまい販売を最大化できないためです。言い方を変えると、予め両チームのグッズを作っておいても、直後から販売すれば負けたチームのグッズ制作費をカバーする以上の売上が見込まれるのです。ちなみに、お蔵入りになったグッズは発展途上国などに寄付されるそうです。

レッドソックスでも、優勝直後からスタジアム内の公式ストアで優勝グッズ(キャップとTシャツだけでしたが)の販売が始められ、文字通り飛ぶように売れていました。



それと、「これはこれから来そうだな」と感じたのが、プレミアムイベントのチケット用ディスプレービジネスです。

WS優勝なんて、そうそうお目に掛かれるものではありません。優勝までいかなくても、20年ぶりにPOに進出したパイレーツなどでは、POチケットを持っているだけでも家宝になりそうです。そうしたファンにとって、自分が観に行った試合のチケットをきれいにディスプレーできたら嬉しくないわけありません。

特に、今後チケットのデジタル化が進展し、チケットレスになって行くのは時間の問題だと思われます。そんな時代だからこそ、記念となる試合のチケットは、味気ないモバイルチケットや「Print at Home」ではなく、ロゴ入りのきれいなオフィシャルチケットを飾っておきたいものです。

こうしたニーズに応えてか、レッドソックスの公式ストアにもチケットディスプレー専用コーナーが設置されていました。




ディスプレーはシンプルにチケットをアクリルケースに入れるものから、チケットと合わせて優勝決定の瞬間の写真や自分の好みの写真を入れられるものまで多数あり、金額も20ドルから150ドルまで多様です。後日ネットで注文することもできるので、便利です。

僕も、優勝当日はストアがごった返していて買う気が起きなかったのですが、翌日いろいろと調べていると「やっぱ優勝の瞬間に立ち会うなんて、もう生きているうちにないかもしれないよなー」「体験してみるのも仕事のうちだよね」などと都合よく思い、結局一番値の張る以下のディスプレーを買ってしまいました(笑)。

(実は、後でわかったのですが、優勝直後はネットの倍の価格で球場で売っていたようです。BIRG効果を最大限高めた取り組み、と言えば聞こえは良いですが、それはちょっとやり過ぎかもしれません。当日買わなくて良かった)


中央の写真は、ご覧の優勝決定の瞬間のもの以外に、最後のバッタを三振に仕留めたバッテリー(上原選手と捕手)のものや、WS開幕式のものなど4種類から選ぶことができます。チケットは中央左端に入るのですが、ネットから購入した(きちんとしたチケットを持たない)人のために、必要情報を記入すればレプリカチケットをちゃんと入れてくれるなど、悪くないサービスです。

欲を言えば、右下の「Your Photo Here」の部分に(後から自分で好きな写真を入れることができる)、FanFotoなどと連動したサービスを提供していてくれると、更に良かったのではないかと思います。

僕は当日、偶然FanFotoで写真を撮られたので(以下)、その写真を別途注文して入れようと思っています。これをサイト上でワンクリックで実現できたら言うことなしですね。まだ改善の余地はありそうです。


最高のスタメン発表

ピッツバーグ・パイレーツが、米国の人気ナイトショー「Saturday Night Live」をパクったスタメン発表ビデオを製作したのですが、これがとても格好良い。



ユニフォーム姿の選手とはまた別の、“普段着の魅力”とでも言うべきくだけた雰囲気が良いです。ちなみに、本家SNLのオープニングはこちら。


よく見ると、パイレーツはYouTubeに「Pirates Scoreboard」という公式チャネルを開設してて、球場で流している映像をネット上でも公開してるんですね。既に50本近い動画があっぷされています。

こういう取り組みは日本でもどんどん真似して欲しいですね。

「MLBビジネスアカデミー」開講

「開講」と言うほど大袈裟なモノでもないかもしれませんが(笑)、光栄にもMLBよりお声掛け頂き、日本語公式HP「MLB.jp」にてMLBビジネスを解説するコラム「MLBビジネスアカデミー」を執筆させて頂くことになりました。

MLBは過去20年間で売上を6.25倍に伸ばしています。この間、チーム数もそれほど増えていないですし、平均観客動員数も伸びていません。このような状況下でいかに売上を増大させることに成功したのか?こうした問題意識からMLBのビジネスモデルを解説していく予定です。

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■第1回:コンビニとして読み解くMLBビジネスとは

 MLBと言えば、ファンの皆さんはマスメディアなどを通じて日本人メジャーリーガーの活躍などフィールド上の情報について触れる機会は多いと思います。しかし、MLBがその舞台裏でどのようなビジネスを展開しているのかについてはあまり知られていないかもしれません。このコラムでは、今回から20回ほどでMLBのビジネスモデルやその手法についてできるだけ分かりやすく解説してみようと思います。  

 「MLBビジネス」と言われても、すぐにはピンと来ないでしょう。そこで、話の入り口としてまずは同じ野球ということで、日米のプロ野球を比較してみようと思います。日本プロ野球機構(NPB)とMLBとの比較です。下のグラフは、2012年シーズンと、その20年前の1992年シーズンのMLBとNPBの売り上げを比較したものです。  


 昨シーズンの売り上げを見ると、単純比較でNPBの売り上げは1,200億円(推定)ですが、MLBのそれは約7,500億円(75億ドルを1ドル=100円で円換算。以下同じ)と、NPBの6.25倍となります。日本の人口が約1億2000万人、米国のそれが3億人ちょっとですから、日本の値を2.5倍すればこの差が補正されることになります(日米のGDP比もだいたい同じです)。 

 しかし、NPBの売り上げを2.5倍にしても3,000億円ですから、MLBには遠く及びません。現在のMLBビジネスがいかに大きいかが少しお分かり頂けたのではないでしょうか。 

 ところが、表からも分かるように、時計の針を20年戻した1992年の値を比較すると、両者の売り上げは共に1,200億円です。国力の差を補正すれば、当時はむしろ日本のプロ野球の方が相対的に大きなビジネスだったことになります。しかし、その後の20年間で、売り上げが横ばいだったNPBとは対照的に、MLBはそれを6倍以上に伸ばしています。 

 では、この20年間でMLBに一体何が起こったのでしょうか?

 実はこの「問い」こそが、現在のMLBビジネスを理解する上で分かりやすい切り口を導いてくれます。スポーツビジネスと考えると実態がイメージしづらいかもしれません。話を分かりやすくするために、これがコンビニビジネスだったと仮定しましょう。 

 ”コンビニMLB”は、現在全米とカナダの一部地域に30店舗(=球団)をフランチャイズ展開しており、その年商は75億ドルです。しかし、1992年の売り上げは12億ドルに過ぎませんでした。6.25倍の売り上げ増は何によってもたらされたのでしょうか? こう設問を置き換えてみるのです。皆さんも考えてみて下さい。

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WBCのマーケティング活動に見た変化の兆し

日経ビジネスオンラインに最新記事がアップされました。今回は、第3回を迎えたWBCで米国内のマーケティング活動に見られた変化の兆しを書いています。  

前回までの大会と比較し、今大会では実はWBCの収益化に向け水面下で大きな変化が起きています。上手いなあと思うのは、どれもMLBのマーケティング資産を有効活用している点です。魚が来る前に網を張り始めているイメージです。ようやく、MLBも米国内の収益化に本腰を入れてきたかなという印象です。

とはいえ、米国内でのWBCの認知度は依然として低いのが現状です。眠れる獅子、米国代表チームが目覚め、WBCで活躍する日が来れば、WBCは一転してカネのなる木に育っていくかもしれません。その「Xデー」に備え、マネタイズの仕組みが構築されつつあります。

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■WBCのマーケティング活動に見た変化の兆し
 〜米国内の収益化モデル構築に本腰

2006年からスタートしたワールド・ベースボール・クラッシック(WBC)も今回で3回目を迎えました。参加国も当初の16カ国から28カ国に増え、国際スポーツイベントとして少しずつ定着してきた感があります。   

3連覇を目指した日本代表チームは、残念ながら準決勝でプエルトリコに惜敗してしまいましたが、手に汗握る素晴らしい試合でした。私はスタンドから応援していましたが、日本人として彼らの活躍を誇りに思いました。   

ところで、WBCの米国内の認知度は依然として低いままというのが現状です。今大会中、米国内で最も多くの視聴者数を集めた米国対ドミニカ戦も、視聴者数は88万3000人に過ぎません(ちなみに、決勝戦のドミニカ対プエルトリコの視聴者数は84万3000人)。米国の人口は約3億人ですから、国民340人に1人が見ているに過ぎない計算です。   

340人に1人と言われてもピンと来ないかもしれませんが、山手線の朝のラッシュ時に1車両当たり約350人前後が乗車していると言われていますので、ラッシュ時の各車両に1人ずつというイメージです。これでは「昨日WBC見た?」という会話も成り立ちません。   

日本が登場した決勝ラウンド初日の夜、米スポーツ専門局ESPNの看板番組「スポーツセンター」(その日のスポーツニュースをオンエアする1時間番組)を見ていたのですが、WBCに触れたのは番組開始45分後で、それもたった40秒だけでした。それまでは、延々と大学バスケットボールや米プロバスケットボール協会(NBA)、プロフットボール(NFL)、NASCARのニュースを取り上げていました。   

以前、「WBC連覇でも、日本球界は浮かばれない?(下)〜負けてもMLBだけが輝くシステム」などでも解説しましたが、もともとWBCは米メジャーリーグ(MLB)にとって国際市場開拓ツールとして機能してきたという経緯があります。WBCの米国内人気が低かろうが、米国代表チームが敗れようが、WBCが世界各国の野球タレントの“見本市”として機能する限り、MLBは他国の野球市場の一部をテレビ放映権や協賛権、グッズ販売という形で吸い取ることができるのです。   

この位置づけは今でも変わりません。しかし、今回から米国内でのWBCのマーケティング活動にいよいよMLBが本腰を入れてきた感があります。今回のコラムでは、米国内で見受けられるWBCマーケティング活動の変化の兆しをご紹介することにします。

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“世界最強の労働組合”の伝説の活動家が死去

日経ビジネスオンラインに最新記事がアップされました。

今回は、先月死去された元MLB選手会事務局長のマービン・ミラー氏の功績を振り返ってみました。ミラー氏が事務局長に就任した当時のMLB選手の平均年俸は1万9000ドルに過ぎませんでした。今年のMLBの平均年俸は約320万ドルですから、45年間で年俸が168倍になった計算です。

現MLBPA事務局長のマイケル・ウェイナー氏も言っていますが、「かつての、現在の、そして未来の全てのメジャーリーガーはミラー氏に感謝」しなければなりませんね。日本人メジャーリーガーも。

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■“世界最強の労働組合”の伝説の活動家が死去
 〜メジャーリーガー年俸を100倍以上にしたその手腕とは?

 日米のプロ野球界で年俸格差がどの程度あるかご存じでしょうか?

 今でこそ、日本のプロ野球界で年俸が1億円を超える選手は珍しくありません。2012年シーズンには支配下選手全体の10.7%に当たる78人が1億円プレーヤーとなり、球界最高年俸は中日ドラゴンズの岩瀬仁紀投手の4億5000万円(推定)と言われています。しかし、平均年俸は意外に低く、3816万円でした。 

 一方、米メジャーリーグ(MLB)の今シーズンの平均年俸は321万3479ドル(約2億5708万円)で、日本の約6.7倍に相当します。ちなみに、今季のメジャー最低保証年俸が48万ドル(約3840万円)ですから、日本球界の平均年俸とほぼ同額ということになります。最高年俸はニューヨーク・ヤンキースのアレックス・ロドリゲス選手で、3000万ドル(約24億円)でした。  

 平均年俸を球団別に見てみると、MLBトップはロドリゲス選手が所属するヤンキースの618万6321ドル(約4億9491万円)で、フィラデルフィア・フィリーズが581万7964ドル(約4億6544万円)でこれに続きます。最下位はマネーボールでその名を馳せたオークランド・アスレチックスの184万5750ドル(約1億4766万円)でした(USA Today調べ)。 

 日本のトップは読売ジャイアンツの5894万円で、阪神タイガースが5229万円で続きます。ちなみに、最下位は横浜DeNAベイスターズで、2399万円でした。以下が、それをグラフにしたものですが、日米間に年俸額で大きな格差があるのが分かります。トップのヤンキースは、最下位のベイスターズの20倍以上に当たる平均年俸を選手に支払っています。

 今でこそ、MLB選手は前述のように高額年俸を享受していますが、昔から選手の年俸が高かったわけではありません。年俸増額など、選手の権利獲得で大きな役割を果たしたのが、“世界最強の労働組合”とも言われるMLB選手会です。  

 MLB選手会が結成されたのは今から60年近く前の1954年のことでした。当時の野球界には労使関係という概念はなく、選手待遇は今とは比べようもないくらいひどいものでした。

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写真集になるようなボールパーク

レッドソックスがGiveawayをやらない理由」でも書きましたが、僕の一番好きなスタジアムはレッドソックスの本拠地、Fenway Parkです。Fenwayは今年で建設100周年なのですが、それにちなんで写真集が発売されています。

↓こちらがその写真集です(ここでプレビューできます)。


この写真集、全部で250ページ以上の大作なのですが(値段は75ドル)、どの写真も本当に素晴らしい写真ばかりで身震いしてしまいます。レッドソックスファンにとっては、これはもう単なる写真集の域を超え、ボールパークの一部といってもいいくらいです。そのくらい素晴らしい出来栄えです。

気持ちとしては、パッカーズの株式を持っているのに似ているかもしれません。チームの歴史の一部を所有しているような感覚です。

米国のスポーツ施設といっても、NFLやNBA、NHLは大体どこにいっても似たようなものが多いのですが、MLBだけは一つとして同じボールパークがないんですね。FenwayやCamdenのようなレンガ造りのもの、Yankee Stadiumのように白亜の大聖堂のようなもの、Marlins Stadiumのように美術館のようなものなど、様々です。

そして、どのボールパークにもそれを作った人々の思いが刻まれ、継承されています。「日本のスポーツ界にはもう少し女性的な感性が必要」でも書きましたが、今のMLBのボールパークの流れを作った設計者は女性です。彼女と話すと、ボールパークは単なる建物ではなく、自分の息子のような存在なんだと感じます。もう可愛くて可愛くてしょうがないんですね。そういう思いが球団全体に浸透しています。

日本でも、最近は球団と球場の一体経営が模索されており、スタジアムを改修する動きがいろいろと見られます。是非、将来写真集になるようなボールパークに仕上げて頂けたらと思います。
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