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「次の野球」

ベイスターズさんより献本頂きました。球団自身が著者になっているという面白い本です。

タイトルにもなっている「次の野球」に向けて全職員・全選手でアイデアを出し合い、集まった600を超えるアイデアの中から厳選された143個がイラスト形式で紹介されています。書籍というよりイラスト集という感じの読み易い体裁で、1時間もあれば読み終えることができます。

ベイスターズさん、成績で苦戦されていることもあってか、なかなか球団自体が注目されることが多くないような気もするのですが、実は昨シーズンは前年度比で122%の観客動員増を実現しています。これは凄い数字なので、もっと注目されても良いと思うのですが。

DeNAさんがオーナーになって2年目の数字ですから、1年目に蒔いた種が着実に実を結んでいるんだと思います。多少手前味噌な話になりますが、「生まれ変わった横浜スタジアムに行こう!」にも書きましたが、僕も横浜スタジアムの球場改修などで少しお手伝いしているので、球団の内情には多少明るいのですが、とにかく業界の慣習に囚われない様々な取り組みをしています。こうしたチャレンジ精神が観客増を達成した背景として挙げられると思います。

で、この本の中にある143のアイデア、中には「リリーフカーがホワイトベース」とか(実はこれは選手からのアイデア)、突拍子もないものもあるのですが(笑)、「あ、これアメリカでは実用化されてる!」というのも少なくなかったです。

例えば、以下は既に実在する(僕が聞いたことがある)サービスです。

003: スタンドの座席がマッサージチェア
006: 野球を観ながらヘアカット
008: 宝くじシート
010: 電子マネーでチケットレス化
037: 子供だらけデー
058: 盗塁のランニングタイムと捕手のスローイングタイムを表示
074: 席に座布団
076: スタジアムドッグラン
077: 外野の一角がビーチ
081: 外野フェンスが水族館
090: テーマパークの中に球場
102: 24時間密着応援ツアー
104: 観戦〜宿泊まで
106: 女性向け野球観戦スクール
111: スタジアムでお葬式
112: スタジアム内にマンションを併設
131: 各球団が海外に第2フランチャイズをつくる
133: ビデオ判定
140: DeNAベイスターズが上場する

数えてみたら19個もありますね。

皆さんもよかったら是非手に取って見てみて下さい。既存の野球観を壊すいいチャンスです。

生まれ変わった横浜スタジアムに行こう!

先週、日本に出張していたのですが、出張最終日に横浜スタジアムに行ってきました。

ご存知のように、ベイスターズは昨年DeNAさんにオーナーが代わりましたが、昨年7月にベイスターズさんと横浜スタジアムさんの幹部が合同で米国視察を実施しています。その際、ご相談を受け、現地での視察アレンジやレクチャーなどを担当させて頂きました。

その視察でのインプットが形になったのが、球団公式HPでも特別ページで紹介されている「コミュニティーボールパーク化構想」です。2013年シーズン開幕に合わせて大規模な改修が行われ、横浜スタジアムが新しく生まれ変わりました。


まず、関内駅からスタジアムを目にしたときに目に飛び込んでくるのが、スタジアム上部を一周するブルーリボンと「YOKOHAMA STADIUM」の文字。今まではコンクリートの塊のようなちょっと殺風景な雰囲気でしたが、その印象が一新されました(以下の写真は全てベイスターズさんのHPからお借りしました)。


スタジアム内に入ると、コンコースもガラッと刷新されています。球団カラーのブルーとレンガで内装が統一され、モニターも至る所に設置されています。コンコースから試合が見られないのは構造上の問題で仕方がないのですが、これだけモニターがあれば買い物やトイレで席を立っても試合からの接点が失われません。


座席も、今シーズンから新たにファウルゾーンにせり出した「エキサイティング・シート」、家族でテーブルを囲んでゆったり座れる「BOXシート」、カップルや友人同士で映画を見るように観戦を楽しめる「ツイン(トリプル)・シート」が新設されています。




特におススメはエキサイティング・シートです。これはもうほとんどフィールド内で観戦しているような感じで、臨場感が凄い。ここだけ異空間という感じです。

さらに、バックネット裏には、かつてプレス席だった場所にスイートボックスが新設されています。何と言ってもここからの眺めは最高で、バッテリーの息遣いを感じたり、ネクストバッターズ・サークルにいる選手の表情までも手に取るように眺めることができます。


スコアボードも全面LEDの高精細カラービジョンに代わり、とても見やすくなりました。昨年導入されたリボンビジョンと連動したプロモーションなども面白いです。


改修後の横スタに足を運んだのは初めてだったのですが、昨年の視察からわずか半年ちょっとでここまで進化しているとは、正直びっくりしました。この背景には、横浜スタジアムさんの改修へ向けた英断や、DeNAさんの意思決定の速さがあります。

僕も最近こうしたプロジェクトに関与させて頂く機会が増えましたが、なかなかこのスピード感で物事が進んでいくケースは少ないです。いろいろと批判された時期もありましたが、今は球団と球場の信頼関係は盤石といって良いのではないでしょうか。やはり両者に信頼関係がないと、ファン目線での改修にはつながりません。

思い起こせば、僕が高校球児だった今から20数年前、開会式や神奈川県予選などで訪れていた横浜スタジアムは、高校球児の「聖地」でした。今、この「聖地」に再び足を運べるようになった幸運に感謝したいと思います。

全国のベイスターズファンの皆さん、およびスタジアムオタクの皆さん、是非、新生横浜スタジアムに足を運んでみて下さい。きっとびっくりすると思いますよ!

DeNAがセ・リーグ改革の旗手になりうる理由

日経ビジネスオンラインに表題の最新記事がアップされました。

最近は日本球界を騒がす話題が何かと多いのですが(笑)、今回もベイスターズを買収したDeNA社がオンラインゲームを本業とするということで、米国では既に市民権を得ていてファン基盤開拓のツールとして一般化しているオンラインゲーム「ファンタジースポーツ」と絡めて書いてみました。

DeNA社の本業については、ファンの間でも賛否両論あるようですが、僕はきちんと球団のステークホルダーに目を向けた経営を実施して頂けるなら、プロ野球興行との間には大きなシナジーが期待できると思っています。 

先日寄稿した日経ビジネス本誌にも書いたのですが、1903年に設立されたMLBは、1994年にストが起こるまではNPBと同様に球団が互いの既得権を手放さずに足を引っ張り合い、まさに経済用語で言う「合成の誤謬」のような状態が続いていました。しかし、ストで観客動員が2割以上落ち込むと、さすがにヤバイと思って設立後90年以上経ってからようやく球団の既得権にもメスを入れる聖域なき改革を実施しました。

一方、日本球界でも2004年の球界再編の際に、改革の機運は少し高まったのですが、球界全体としての改革は中途半端に終わってしまっています。その中で、パ・リーグは参入初年度で単黒を実現した東北楽天ゴールデンイーグルスに刺激され、PLMが設立されるなど経営改革が進みました。これは、伝統的に巨人戦という既得権を持たなかったパ・リーグには早くから危機意識があったことと無縁ではないように思います。この7年でパ・リーグとセ・リーグの経営力の差は大きく開いてしまったように感じます。

誤解を恐れずに言えば、今回のDeNAの球界参入が球界全体を改革するラストチャンスかもしれません。

球団経営を変えるために一番インパクトがある方法は、球団オーナーを変えることです。そして、それが今回セ・リーグの球団で起こったわけです。ベイスターズの経営が変われば、楽天がそうであったように、他のセ球団にもポジティブな影響を与えるでしょう。

リーグマネジメントという視点で考えると、実はパ・リーグにだけにPLMが設立されているというのはおかしな状況です。本来であれば、NPBがこれに反対し、「いやパ・リーグだけではなくて、球界全体の共有マーケティング会社をつくらないとダメでしょう」と言うべき立場にあったはずです。しかし、日本ではそうはならなかった。

しかし、楽天が参入してパ・リーグで起こった同じことが、DeNAの参入でセ・リーグにも起こっていくかもしれません。CLMを設立し、ゆくゆくはPLMと合併させてNPB全体の共同事業会社を作っていく。順番はボトムアップで時間がかかってしまうかもしれませんが、リーグマネジメント機能の希薄なNPBではこのやり方しかなかったのかもしれません。

優秀な人材もベイスターズに続々と集っているようです。DeNAさんには、従来型オーナーのように本業への広告効果という視点に留まらず、球界改革という視点から是非とも大胆な取組みをして頂きたいと期待しています。

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■DeNAがセ・リーグ改革の旗手になりうる理由
 〜米国スポーツを活性化する「ファンタジースポーツ」とは?

 12月1日に開催されたプロ野球オーナー会議にて、TBSホールディングスから横浜ベイスターズを買収したディー・エヌ・エー(DeNA)の球界参入が正式に承認されました。プロ野球球団の売却は2004年にソフトバンクが福岡ダイエーホークスを買収して以来7年ぶりで、IT企業の球界参入は楽天、ソフトバンクに次いで3球団目になります。

 DeNA社の球界参入では、東北楽天ゴールデンイーグルスを保有する楽天が、DeNA社の運営する「モバゲー」が事実上の出会い系サイトであると主張して反対に回っていたほか、ソーシャルゲーム業界の競合に当たるグリー社らから計10億5000万円の損害賠償訴訟を提起されるなど、波乱含みとなりました。ベイスターズファンの中にも、「親会社が変わるまでファンをやめる」と公言している漫画家のやくみつる氏のように、DeNA社の事業内容に疑問を持っている方もいるようで、賛否両論があるようです。

 個人的には、球界参入が認められた以上、親会社のビジネスが「主」、球団経営は「従」という形で球団を自社ビジネスのツールとしてだけ使うのではなく、しっかりと野球ファンや協賛企業、地元自治体などのステークホルダーを見据えた球界の発展に資する球団経営を行って頂きたいと願っています。

 実は米国スポーツ界では、ここ数年「ファンタジースポーツ」(Fantasy Sports)と呼ばれるオンラインゲームがファン開拓に大きな役割を果たすようになってきており、その可能性が注目されています。今回のコラムでは、今では米国では当たり前のサービスとなりつつあるファンタジースポーツを紹介すると共に、DeNA社の球界参入によってもたらされる改革の可能性について考えてみようと思います。

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“清武の乱”とベイスターズ買収騒動に通じるあの問題

ジャイアンツ清武球団代表兼GMの内部告発についてコラムを書きました。

編集部から執筆依頼があった時、実はどういうアングルから書こうか少し迷いました。というのも、既に多くの方から今回のナベツネ氏による人事介入は“内輪揉め”の域を出ず、オリンパスのようなコンプライアンス違反とは次元の違う話だという指摘がなされていたので。

少し考えて、先のベイスターズ買収問題と共通して感じられる“違和感”という切り口からまとめてみました。

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■“清武の乱”とベイスターズ買収騒動に通じるあの問題

 昨年来、世間を騒がせていた横浜ベイスターズ買収問題がディー・エヌ・エー(DeNA)への売却でようやく落ち着いたと思った1週間後、今度は読売ジャイアンツの清武英利球団代表兼ゼネラルマネージャー(GM)が、読売新聞グループ本社代表取締役会長・主筆の渡辺恒雄氏を内部告発しました。

 この2つの騒動で、歴史と伝統ある日本シリーズの存在感がすっかり霞んでしまったのは大変残念なことですが、私はこの2つの騒動には共通した違和感を覚えます。「適切なリーグマネジメント」という視点の欠如です。

 まず、清武氏による内部告発ですが、米国ではオーナーによる人事介入はよくある話とまでは言いませんが、度々起こることがあります。米国では個人がチームを保有することが多く、その点で日本とは事情が少し異なりますが、渡辺氏もジャイアンツの親会社である読売新聞の代表取締役会長であり、実質的なオーナーと目されています。

 球団経営では、オーナーが金を出し、GMが選手を獲得し、監督が采配を振るうという役割分担が一般化しています。レストランに例えれば、オーナーが金を出し、GMが食材を購入し、監督が料理を作るというイメージになりますが、中には購入する食材や調理方法にまで細かく指示を出すオーナーもいます。

 米メジャーリーグ(MLB)ニューヨーク・ヤンキースのオーナーで、昨年亡くなったジョージ・スタインブレナー氏や、米プロフットボールリーグ(NFL)オークランド・レーダーズのオーナーで、こちらも先月亡くなったアル・デービス氏はそうした“金も出すが、口も手も出すオーナー”の典型例と言えるかもしれません。

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菅野選手の入団拒否は罪なのか?

日経ビジネスオンラインに最新記事がアップされました。今回は、今話題になっている東海大学の菅野選手が北海道日本ハムファイターズに指名された騒動について触れてみました。

米国では、ドラフト制度は既に司法審査や労使交渉を経ており、その制度の違法性自体が問題視されることはあまりありません。完全ウェーバー制が定着していることから、戦力均衡の有効な手段として認識されています。

つまり、こうした背景があるので、米国では指名拒否は「戦力均衡の理念に逆らう我がままな行為」として大きな批判を受けることになります。一方、日本のドラフト制度は位置づけ自体が曖昧で、必ずしも戦力均衡のために機能しているわけではないので、入団拒否を犯してもそのような合理的な批判が出来ない状況です。

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■菅野選手の入団拒否は罪なのか?
 〜ファイターズが一石を投じたドラフトの形骸化

 その瞬間、会場は大きなどよめきと歓声に包まれました。

 10月27日に開催されたドラフト会議にて、1巡目で読売ジャイアンツからの単独指名が有力視されていた東海大学の菅野智之投手を北海道日本ハムファイターズも指名し、抽選の結果、ファイターズが独占交渉権を得たのです。

 菅野選手がジャイアンツ原監督の甥であることも騒動に拍車をかけ、連日メディアには「強行指名」「強奪」などの刺激的な言葉が並びました。その後、同選手の身内から「挨拶もなく指名するのは人権蹂躙だ」「同義的に許されるのか」などの発言もあり、その報道は日に日に過熱していきました。

 ところで、ファイターズの指名はドラフトのルールに則ったものであり、法律違反を犯したわけでもありません。一方、ジャイアンツ入りを熱望していたと言われる菅野選手は、ファイターズへの入団を拒否するのではないかという憶測も流れています。しかし、入団を拒否することも菅野選手に認められた選択肢の1つであり、別にルールや法律に違反しているわけではありません。

 誰もルール違反を犯したわけでないのに、これだけ世間から騒がれるのは一体なぜなのでしょうか?

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ドラフト所感

北海道日本ハムファイターズがジャイアンツ原監督の甥に当たる東海大学の菅野投手をドラフトで指名、クジで引き当てたことが大きな話題になっていますね。

多くの方が言われていることですが、ファイターズもジャイアンツも何かの規約に違反したわけでもなく、マスコミが面白おかしく騒ぎ立てているだけのような気もします。ただ、もし他球団がジャイアンツに“配慮”して菅野選手の指名を回避したようなことがあるならば、それこそファンへの背信行為でしょう。

しかし、選手が特定球団のみに入団したいと公言できるのは、日本球界のユニークな点ですね。かつての逆指名制度の名残なのかもしれません。

例えば、MLBでは指名された選手が意中の球団でないことを理由に入団を拒否することなど聞いたことがありません。もちろん、契約条件で揉めて入団拒否をちらつかせることはありますが、「僕はヤンキース以外は指名されても行きません」などと公言する選手は聞いたことがありません。

MLBでは、「ドラフト指名=一軍での活躍」は全く保証されるものではありません。1球団50人もドラフト指名する中で、指名は単に約200名のマイナーリーガーの一人として「MLBに挑戦できる権利を得た」に過ぎないからです。ドラフトのトッププロスペクトでも、数年はマイナーでの修行が必要で、「大卒即戦力」という言葉はありません。

ところで、ドラフトは法律違反という意見もあります。確かに、ドラフト制度単体で見れば、職業選択の自由を一定程度侵害するものですし、日本では司法審査を経てもいませんから、違法と判断される可能性は残ります。

米国でも、ドラフト制度は反トラスト法(日本で言う独占禁止法)違反という議論も昔はあり、訴訟にもなっています。米国では、反トラスト法違反で提訴された場合は「合理の原則」(Rule of Reason)が適用されます。合理の原則とは、問題となった制度の「競争抑制的側面」と「競争促進的側面」を比較して、前者が後者より大きい場合は違法とする考え方です。

ドラフト制度には「職業選択の自由を侵害する」という競争抑制的側面と、「チーム間の戦力均衡に寄与する」という競争促進的側面があり、合理の原則から必要最低限の形(Lease Restrictive Form)に限ってその導入が認められています(MLBが50ラウンドという数のドラフト指名を実施できるのは、MLBが反トラスト法適用を免除されているため)。

つまり、米国では、ドラフト制度は司法審査を経ているので、文句のいいようがないというのも事実なのです。

閉鎖型を採用する野球界では、ドラフト制度は保留(FA)制度とセットで戦力均衡のために機能していますから、制度単体で議論してもあまり建設的ではありません。開放型を採用している欧サッカー界のように、ドラフト制度をなくすなら、保留制度もなくすべきですが、それを球団はOKしないでしょう。また、開放型には戦力不均衡の問題があり、絶対最善の解は存在しません。

しかし、驚いたのは、ドラフト制度を維持・運営している球団経営側の人間から「ドラフト制度は法律違反」という声が出ていること。例えば、仮にヤンキースのオーナーが同じ発言をしたなら、MLBコミッショナーが厳罰を科すでしょう。ドラフト制度は球界全体の利益のために全球団が合意して運営している制度ですから。不用意な発言は労使交渉で選手側に交渉力を渡すことにもなってしまいますし。

「耕論」補足

本日(2月1日)の朝日新聞朝刊の「耕論」というコーナーで日本球界改革に関するインタビューが掲載されています。

同じトピック(今回は「日本球界の開国」)に関して是非双方の立場から主張を比較するというものですが、取材は別々に行われ、双方の主張についても、紙面になるまでお互いには分からないという形になっています。

つまり、今回は“対戦相手”が張本さんだということは事前に伺っていたのですが、張本さんがどのような意見を展開されるのかは、僕も紙面を読んで初めて知ったという訳です。インタビューの聞き手は、記事の整合性を取るために同じ記者の方が行っています。

記事を読んでみて、率直に編集の上手さに驚きました。サブタイトルのつけ方も「世界展開で収入」に対して「球団減らし強く」、「日米関係強化を」に対して「中韓台と連携を」といった具合に、「拡大対縮小」、「米国対アジア」という形で主張を比較しやすいようになっています。

僕の場合、インタビューは約1時間位行われたので、記事にならない情報の方が多かったと思うのですが、行ったり来たりするインタビューを分かりやすい形で上手くまとめて頂いたと思っています。

張本さんの主張を読んでみて、お互い「このままでは日本球界が先細りになる」という危機感や「選手の米国流出が球界衰退に拍車をかけている」という問題意識は共有できているのではないかと感じました。それに対する解決策の方向性が少し異なるという感じでしょうか。

張本さんもおっしゃっていますが、「野球」と「ベースボール」では同じ競技でもスタイルが異なります。ただし、同じ土俵で勝負したら僕はいい勝負になると思っています。例えば(こんなことは実際には不可能ですが)、日本シリーズの勝者とワールドシリーズの勝者が100回対戦したら、五分五分の勝敗に落ち着くのではないかと思います。

確かに、日米間での選手の待遇(例えば年俸格差)や環境の差(施設や移動、ファンからの敬意)は大きいと思います。この差を一朝一夕で埋めるのは難しいでしょう。ただし、プレーのレベルに関して、日本人選手の多くが「いつかは世界一のMLBでプレーしたい」と思うのは、僕はある種の“幻想”だと思っています。そして、この“幻想”に気づけは、人材流出にも一定の歯止めがかかるのではないかと思います。

逆にいえば、この“幻想”がなくならない限り、ポスティングという「出口」をなくしても、別の出口からMLBに向かうだけでしょう(恐らく、FA取得要件の緩和などを行わずにポスティングを廃止すれば、レッドソックスに入団した田沢選手のように、NPBに入らずにダイレクトにMLB入りを目指す選手が増えるだけだと思います)。

この“幻想”に気づいてもらうには、日米直接対決の機会を作って自ら過小評価している日本のプロ野球の実力に気づくしかない、というのが僕の主張の根底にある発想です。

実は米国にも別の“幻想”があります。「アメリカの野球(MLB)が世界で断トツのレベルにある」というものです。もともとアメリカ人は「アメリカ=世界」だと悪気なく思っている人が多いので、日本の野球を思いっきり格下に見下している人が多いと感じます。

この2つの“幻想”の間に解決策のヒントとビジネスチャンスがあるのではないかと思います。

これはインタビューでも言っていますが。日米で共催する新たなコンテンツを作るのです。ワールドシリーズはMLB最高のコンテンツですから、その価値を毀損するような動き(つまり、日米の勝者が対決する「リアル・ワールドシリーズ」)をいきなり実現することは困難だと思います(米国のテレビ局が反対するでしょう)。しかし、日本の実力を米国の野球ファンに認めさせていくステップを踏めば、長期的には「リアル・ワールドシリーズ」も実現可能だと思いますし、これを最終目的に掲げるべきでしょう。

その前段として、ハードルの低い部分から日米共同コンテンツを作っていくのです。その案が球宴の共催であったり、PO進出チーム同士のトーナメント(UEFAヨーロッパリーグの野球版)開催というイメージです。これをやれば、いい勝負になるはずですから、日本のファンもアメリカのファンも「日本の野球はなかなかレベルが高いじゃないか!」という事実に気がつくはずです。

米国人は良くも悪くも合理的ですから、価値をあるものにはお金を出します。NPBのレベルの高さが認知されれば、NPBの放映権やネット中継、グッズなどを米国市場に販売できる機会が生まれます(MLBが日本市場に行っているのとまさに同じプロセス)。最終的にMLBのステークホルダーが納得すれば、「リアル・ワールドシリーズ」開催にも現実味が増すはずです。

MLBも実は今、日本市場開拓で壁に突き当たっています。日本人メジャーリーガーファンは増えたのですが、MLBファンは増えていないのです。日米共催コンテンツを実施すれば、対戦相手となるMLBチームに興味を持つファンも増える可能性があり、MLBにとってもメリットのある話になるでしょう。

つまり、日米共催コンテンツを作れば、日米の市場双方に眠っている潜在需要を掘り起こすことができる可能性があります。

選手流出と並んでもう1つの問題点は、日経ビジネスのコラム「ベイスターズ買収で“露呈”した日本プロ野球の伝統」でも解説しましたが、NPBが歴史的にコストセンター(親会社の節税ツール)として運営されてきたことでしょう。これについては、良し悪しではなく、その事実を受け入れた上で今後の対応を考える必要があるでしょう。

日本のプロ野球にも積極的に改革を進めている球団もありますが、平均値で見れば米国の球団経営の方が利益創出に対してアグレッシブな印象を受けます。抜本的に球団経営のスタンスを見直さない限り、今の延長線では日米の差は開いていく可能性が高いと感じます。

劇薬かもしれませんが、NPBの組織文化を変える1つの方策が、外資規制の撤廃です。日産がゴーンさんで生まれ変わったように、トップダウンで文化を変革するのです。これに対しては、異論も多いでしょうし、様々な副作用が出ることも予想されます。

順序としては、まず国内の優良企業がオーナーになりやすいようにオーナーシップルールを修正する(例えば、25億円の保証金を撤廃する、あるいは支払方法を変更するなど)という方が比較的現実的かもしれません。元気があって球団経営にどん欲な企業がオーナーになる道筋をつけるのです(まあ、今回のインタビューでは「開国」ということなので、この辺は端折られていますが)。

ただ、外資規制を撤廃すれば、先に提示した日米共催コンテンツの創出はやりやすくなるはずです。

昨年、レッドソックスのオーナー企業NESVがプレミアのリバプールFCを買収して話題になりましたが、ベイスターズがNESVに買収されていたらどうでしょうか?MLBの球団経営で培ったノウハウや利益創出に対する球団文化が日本球界にもたらされていたかもしれません。外資系オーナーに変わることで、一気に球団経営改革が進む可能性を秘めています。

また、日米デュアルオーナーシップが実現できれば、先の日米共催コンテンツは実現しやすくなるでしょう。ハゲタカ外資による日本球界の蹂躙は許せないというのであれば、マリナーズを保有する任天堂に日本球団を買ってもらう、あるいは三木谷さんにMLB球団を買ってもらうということもアリかもしれません。

アップル社の製品に日本製の部品は少なくありません。技術力では世界でトップレベルだからです。でも、アップルのように、あるいはかつてソニーがウォークマンを世に送り出して世を席巻したような製品プロデュースにて日本企業の存在感は残念ながら高くありません。

これは野球界も同じで、イチローや松井といった「世界最高レベルの部品」は供給していますが、製品プロデュースではMLBの後塵を拝しています。でも、アップルになれないなら、ソフトバンクのようにアップルと提携してしまえばいいではないでしょうか?

世界と伍して戦えるレベルにある日本球界には、まだその選択肢が残されています。

球団と球場の一体経営に向けて

札幌ドームを所有する札幌市は、ドームの命名権を販売する方針を発表しました。来年4月から年間5億円の命名権料での5年契約を想定しているそうです。

ところで、驚くことにこの命名権の販売については、札幌ドームのテナントの1つであり、ドームでの売り上げの半分以上に貢献する北海道日本ハムファイターズには、何と事後報告だったそうです。つまり、

・命名権収入の使い道
・球団と球場との収益分配条件
・球団に求められるコミットメント

といった、米国では当然事前に調整されるであろうことが球団と全く協議されていないのだそうです(当然、球団への収益分配はないようです)。

札幌ドームは来年から大規模な改修を行うということで、この改修に20年で200億円を投じるとのこと。報道によれば、今年はファイターズが不振(リーグ4位)で昨年に比べ3割の減収になるということで、改修費用を工面する有力手段として命名権の販売に踏み切ったようです。

しかし、改修といっても単に電光掲示板や天然芝を新しくすればよいというわけではなく、テナント(主にファイターズとコンサドーレ札幌)の経営戦略と整合性を取った改修をしないと、表面的に衣替えしただけの“味気ない箱モノ”で終わってしまいます。収益性も高まりません。

例えば、ファイターズやコンサドーレの営業戦略として、どのような顧客層を伸ばそうとしているのか。そうした顧客層(法人・個人)への付加価値を高めるには、スタジアムにどのようなハードとソフトが必要なのか。それをどのような手順とスケジュールで実現していくのか。球団と球場の担うべき役割(責任と義務)はどうなのか、などなど。

日本にはただでさえ“コンクリートのお化け”のような供給者の論理で作られたスタジアムが多い中で、同じ轍を踏まないようにしてほしいところです。

しかし、20年におよぶ長期の改修をするということですが、ファイターズやコンサドーレが他の都市に移転したり、あるいは北海道内の別の施設に移ってしまったらどうするつもりなんでしょうかね?

球場の改築についても、顧客の視点に立った配慮が必要です。ただ作り手の改修し易さだけで順序やスケジュールを組むと、機会損失になるリスクもあります。施設改修は、「出し惜しみしながら少しずつ顧客の楽しみを重ねて行くように行う」ことが重要です。

一気に改修を終えてしまうと、改修効果で初年度の集客は高まりますが、2年目からの客足はどっと落ち込みます。この辺りはレッドソックスのフェンウェイ・パークなどが非常に参考になると思いますが、毎年少しずつファンへの楽しみを増やしていくのです。「今年は何が出来るんだろう」的なワクワク感を醸成していくのです。そして、繰り返しになりますが、これが球団の経営戦略と整合していないといけません。

12月15日から日経新聞で「球場考〜球団経営の最適解は」という連載が始まりました。先のベイスターズ身売り騒動で、球団経営が箱モノビジネスであり、いくら球団が経営努力しても、球場との二人三脚での一体経営が進まないと、球団の懐は温まらないことが再確認されたと思います。

この日経の第1回の連載でもファイターズやベイスターズなどの事例が取り上げられています。記事で知ったのですが、現在ベイスターズと横浜スタジアムとの間でスタジアム使用契約の更新期限があと2週間に迫っているのだそうです。両者の主張は球団が「1年更新」なのに対して横スタは「10年更新」。両者の隔たりは大きいようです。

米国では施設のリース契約では、権利と義務を定めた細かい付帯条項が付くのが普通です。この辺りは、収益分配条件や両者の力関係などにより一概に言えないのですが、例えば、今リーグ機構によるチーム買収や移転で話題になっているNBAニューオリンズ・ホーネッツの場合、2007年に施設使用契約を2014年まで延長したのですが、その際、2007年以降2シーズン2007〜09年までの3シーズンでの平均観客動員数が1万4735名を下回った場合、チームに早期離脱権が発生する取り決めになっています。

この契約は、アリーナ側(ルイジアナ州)が集客の責任を負う形になっていたということです。そして、実際ホーネッツは2007年からの2シーズンで観客数が基準を下回ったので早期離脱権を手にしましたが、オプションを行使しませんでしたこの2年間3年間の平均が基準を下回ったので、ホーネッツは現在リース契約をOPT-OUTする権利を有しています(ただし、早期離脱には1000万ドルの違約金が必要)。

日経の記事からはベイスターズと横スタの交渉にてどの程度の詳細な付帯条件が詰められていたのかは不明ですが、多くの収益分配(権利)を手にする方が、より大きな集客への責任(義務)を負うべきと考えることもできるので、ベイスターズにしてもファイターズにしても、可能であればこうした交渉を重ねることができたら良いのだと思います。

日本で米国のように球団と球場の二人三脚の経営が難しい原因は大きく2つあるように思います。

1つは日本のプロ野球球団が私企業の宣伝広告ツールであるという点。多額の税金を投入して建設されたスタジアムだけに、限られた私企業のビジネスだけを優遇できない、という役所側の主張は正論でしょう。

もう1つは日本に球団移転マーケットが整備されていないこと。先日、「Save the last dance for me!」でも書きましたが、ホーネッツ移転の噂が流れた際、すぐにシアトル、アナハイム、カンザスシティ、ルイビルなどの都市が移転先候補に名乗りを挙げています。日本ではこれがないので、結局施設所有者に足元を見られながら交渉せざるを得ないわけです。「どうせ他に行くアテもないだろ」ってタカをくくられているのです。

しかし、今年の日本シリーズの一部の地上波全国放送のテレビ中継が行われなかったように、これから国内市場のB2B領域で収益を拡大して行くことは簡単ではありません。そんな中、球団経営の伸びシロとして考えられるのは、球場と一体になってファンを育て、収益化していく点でしょう。

スポーツを宗教に例えるなら、ファンは「信者」、スタジアムは「聖地」、試合観戦は「礼拝」です。スタジアムには、信者を増やす基地としての重要な役割があります。そして、この役割は施設の管理者とテナントが二人三脚で“同志”として全うしていかなければならないものです。

目先の利益を考えるばかりで頑なな姿勢に終始すれば、結局収益化できるファンが育たず、長期的には利益を失うことになりかねません。それは、管理者にしてもテナントにしても本意ではないはずです。

【関連情報】

結局、ベイスターズ買収騒動は何だったのか?

この週末にNYに戻ってきました。2週間ほどの日本出張だったのですが、時節柄、クライアントと話していると、横浜ベイスターズの買収騒動の話になることが多かったです。

噂レベルの話も含めて、いろいろな話を聞きましたが、事実としてどうにもならなかったのが、まだマルハが球団を保有していた頃に結ばれたと言われる、スタジアム運営者である株式会社横浜スタジアムとの間の収益分配契約が未だに相当長期間残っており、移転を希望していた住生活Gがその契約を解除出来なかった点に集約されるようです。

良い悪いは別にして、日本のプロ野球球団は親会社の広告宣伝ツールとしてある意味コストセンターとして運営されてきたという経緯があるため、移転を収益最大化のための手段の1つと考える米国の球団のような発想がなかったのだと思います。そのため、結果的に球団経営を圧迫することになる長期に渡るスタジアムリース契約が結ばれてしまったのでしょう。

日米で状況が決定的に異なるのは、米国では球団を欲しがる都市がたくさん存在するため、球団移転マーケットが出来あがっているのに対し、日本ではそこまで球団移転市場が成熟していない点でしょう。球団経営は、ホテルや映画、航空産業などと同じ箱ものビジネスですから、どのような箱を持っていて、そこからの収益構造がどうなっているのかが経営上極めて重要ということになります。

米国では、リース契約が切れる都度に移転を交渉のカードに収益構造を改善してきています。これが出来ると球団とスタジアム所有者とのリース契約には市場原理が働くことになりますが、逆にこれがないと売り手市場となり球団はスタジアム所有者に言われるがままに高額の施設使用料や収益分配条件を飲まざるを得なくなります。

結局、ベイスターズの買収騒動では残存するリース契約がネックになり、球団売却はとん挫してしまいました。ベイスターズに会社更生法を適用して会社更生手続きの中でリース契約を再整理した上で、球団再建に努めるようなことができれば面白かったのかもなどと知人と冗談で話していました。米国では、シカゴ・カブスやテキサス・レンジャーズが球団売買においてチャプター11を申請するといったことが戦略的に行われています。

【関連情報】 

ベイスターズ買収劇で露呈した日本プロ野球界の“伝統”

日経ビジネスンオンラインに最新コラムがアップされました。

成立には至りませんでしたが、今回は住生活グループによる横浜ベイスターズ買収劇に見られる日米の球団保有に対するスタンスの違いについて解説してみました。

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■ベイスターズ買収劇で露呈した日本プロ野球界の“伝統”
 〜球団保有の在り方に透けて見える日米スポーツビジネスの違い

 TBSホールディングスが横浜ベイスターズの売却を検討しており、トステムやINAXを傘下に持つ住宅設備大手の住生活グループと売却交渉に入っていることが今月初旬から度々ニュースで報じられていました。結局、住生活グループは買収を断念したようですが、球団保有をどう考えるかは、リーグ経営の要諦です。

 横浜ベイスターズは、2001年に経営が悪化していた筆頭株主のマルハから第2位の株主だったニッポン放送に球団株式が譲渡されましたが、同じフジサンケイグループのフジテレビがヤクルトスワローズの株式を所有していたことから、複数球団の支配的保有を禁ずる野球協約に抵触するとして頓挫。第3位の株主だったTBSが140億円で球団株式の69.2%を取得し、筆頭株主になったという経緯があります。

 しかし、TBSも近年の広告収入の落ち込みから今年3月期の連結決算が23億円の純損失に陥るなど、本業の経営不振で球団経営が重荷になってきたため売却を検討したと報じられています。

 ところで、米国では日本のスポーツ界以上に球団の売買が頻繁に行われています。

(中略)

 このように、米国では球団売買は日常茶飯事なのですが、こうした米国の球団買収劇を見慣れている私にとって、今回のベイスターズ売却報道は、日米のスポーツビジネスには改めて大きな違いがあると感じる機会になりました。

 住生活グループによるベイスターズ買収は成立しませんでしたが、今回のコラムでは、ベイスターズ買収劇をケーススタディーに「球団のオーナーシップ」という観点から日米のスポーツビジネスの在り方の違いを見てみたいと思います。

(続きはこちら
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