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ファイターズ新球場の建設現場を視察して来ました。

2023年にオープンする北海道日本ハムファイターズの新球場、エスコンフィールド北海道の建設現場を視察して来ました。楽しみにしていた今年4月の起工式にコロナ禍のため参加できずにガッカリしていたのですが、その後米国の感染状況も好転する兆しが見えず、このままではズルズル時間だけ経ってしまうと思い、無理を押して出張して来ました。

 

このプロジェクトは構想の初期段階からアドバイザーとして関わらせて頂いているのですが、ゼロから新球場が作られて行くプロセスを体験できることなんてそんなにあるもんじゃありません。ファイターズは2015年から特命チームが毎年米国に視察に来ており、MLBはほぼ全球場を回り、必要に応じてマイナーやキャンプ施設のほか、NFLのスタジアムやNBA/NHLのアリーナなども回ってきました。面会した球団幹部は数百名になると思います。

 

多大な労力をかけて得た知見や球団スタッフの皆さんの志、サポートしてくれている多くの方々の期待が込められたプロジェクトが1つの形に集約されていく。そのプロセスは何としてでもこの目に焼き付けておきたかったのです。

 

2年前にまだ北広島市が建設候補地の1つだった際は、こんな感じの何もない雑木林だったのですが(2018年6月時点。著者撮影)、

 

それが今ではこんな感じに様変わりしていてビックリ(2020年9月時点。著者撮影)

 

建設現場の写真を子細に公開することは差し控えますが、既にフィールドの形は浮かび上がってきており、サービストンネルにはコンクリートの床が出来上がっていました。個人的に何より嬉しいのは、フィールドを掘って作っている点です。日本の多くの野球場は、箱をそのまま上に乗せる形になるので、フィールドは地面と同じかそれより高い位置に設置され、来場者はそこまで階段などで上がっていく構造になっているケースが多いです。日本の野球場の外観が宇宙船や陸に上がったカブトガニのようになってしまいがちなのはこのためです。

 

一方、米国のボールパークは通常、フィールドを取り巻くメインコンコースをストリートレベルに合わせるため、フィールドは掘って一段低い位置に設置します。そうすると、来場者は入場口からそのまま真っすぐ進むだけでボールパークにスッと入っていく形になり、一気にフィールドが眼下に見えて視界がパッと開け、美しく青々とした芝生が目に飛び込んでくる。これが「ボールパークに来たな」って感覚なんですよね。

 

新球場の建設に当たっては、本場米国のボールパーク設計に精通している御三家HKS、HOK、Populousの3社にコンペ参加を直接依頼し、審査の結果HKSさんにお願いすることになりました。米国の大手設計事務所にボールパークのデザインを依頼するのは日本では初めてではないでしょうか。ちなみに、コンペは設計者と建築業者がチームを組んで一括して工事を請け負うDB(デザインビルド)方式で実施しており、建設自体は大林組さんが担当することになります。DB方式を採用したのは、ボールパーク設計に精通する一方で日本の法制度や慣習をあまり知らない米国の設計事務所と、世界に誇る技術力を持つ日本のゼネコンにできるだけ早い段階からチームを組んでもらい、お互いの強みを引き出すことが狙いです。

 

建設工事は2022年末には完了する予定で、最終的にはこんな感じのボールパークになります。

 

球場内にはホテルやレストランが併設されるほか、お湯につかりながら観戦できる世界初の温泉席があったりと、どんなカタチになるのか今から楽しみです。また、球場周辺のエンタメエリア(通称「Fビレッジ」)は球場も含めて約37ヘクタールもの広さがあり(東京ドーム約8個分)、敷地内に沢やキャンプ場、シアター、子供用のミニチュア球場、マンションなどが設置される予定です。

 

エリア全体の開発は、23年の開業から42年までの20年間を4年ごとに5期に分けて行う予定で、決まっている部分と走りながら考えていく部分を併せ持つ形で進んで行くことになると思います。移りゆくエンタメトレンドや日進月歩のテクノロジーを柔軟に取り込むためには、むしろ最初にかっちり全てを決めすぎない方がいいんですよね。

 

ちなみに、このプロジェクトの合言葉は「世界がまだ見ぬボールパークを作ろう」。20年間進化し続けながら、野球場に遊園地や避暑地、キャンプ場、居住スペース、ワーケーションなどが融合した今まで日本になかった全く新しいエンターテイメントが出現することになるはずです。

 

ところで、この新球場計画に懸念がないわけではありません。市街地にある札幌ドームから15km程度郊外に移転することになるため、現在の顧客基盤を全て引き継げるわけではありません。ボールパーク前に新駅が建設されるとはいえ、札幌市内で地下鉄で行ける札幌ドームの利便性に比べると、どうしても来場への心理的なハードルは高くなってしまうでしょう。

 

2004年に東京から札幌に移転して以来時間をかけて信頼関係を育んできた大切なお客様の一部が離反してしまうリスクを負ってまでも、なぜファイターズがこのプロジェクトを進めているのかと言えば、それはお客様に今までにない圧倒的に革新的なエンタメ体験を提供するためです。そのためには、今までの球団経営の延長線上にない、非線形の成長の基盤となる新たなボールパークの存在が不可欠なのです。これはまさに『ビジョナリー・カンパニー』で言うところの「BHAG」(社運を賭けた大胆な目標)に他ならないでしょう。

 

多くのスポーツ球団が企業に保有されている日本のスポーツビジネスでは、親会社からの出向人事による「事なかれ主義」が蔓延している組織も少なくありません。そんな中でのファイターズのこの取り組みは、控えめに言っても常軌を逸していると思います。食品を作っている一部上場企業から、目に見えない「体験」を売る舞台装置としてのボールパークのために600億円もの資金を引っ張ってくるのは、そんなに簡単な話ではなかったはずです。

 

私も初期から関わっているため、このプロジェクトには特別な思い入れがあります。また、ファイターズではかれこれもう10年以上も社員研修を担当させて頂いているので、多くの球団スタッフとも顔見知りです。彼ら彼女らが大きく成長しながらプロジェクトをけん引する様子は本当に頼もしい限りです。

 

もう球場建設予定地の周辺にはコンビニや小売店などがオープンし始めており、新しい街が生まれつつある息吹が目に見えて実感されました。既に北広島市に引っ越した球団スタッフもいるようです。日本でもスタジアム・アリーナ改革の必要性が叫ばれていますが、そのパイオニアであり、これから続くスポーツ施設建設のペースセッターにもなるこのプロジェクトには何が何でも成功して欲しいです。皆さんも是非注目して下さい。

 

最後に、このプロジェクトの生みの親でもある前沢事業統括本部長のインタビューが日経BPに取り上げられていますので、興味のある方はご覧下さい。

 

自治体と一からつくる「野球を見なくても楽しい」ボールパーク(日経BP)

原生林から「北海道のシンボル」へ、ボールパーク建設への思い(日経BP)

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