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NFLをMLB化させるパンドラの箱

とかくリーグのビジネスモデルの違いを比較されるNFLとMLB。どの立場から見るかで評価は変わりますが、NFLは良く言えば「戦力均衡が実現されている」、悪く言えば「社会主義的で自由競争のあまりない」リーグ、MLBは良く言えば「資本主義的自由競争が実現されている」、悪く言えば「戦力格差が広がっている」リーグと言うことができるでしょう。

一見、対照的にも見える両リーグですが、実は最近お伝えしているNFLの労働協約のOPT-OUTが、NFLを“MLB化”してしまうパンドラの箱を開けてしまうかもしれません。

戦力均衡を効果的に実現しているNFLの経営の屋台骨を支えているのは、強力な収益分配制度とサラリーキャップ制度です。これにより、チーム間の選手獲得資金と人材の偏りを防ぎ、特定チームに良い人材が集まらないようにしているわけです。ところが、OPT-OUTしたことで、CBA(=労働協約)最終年となる2010-11年がサラリーキャップのないシーズンになる可能性が高まっています。

そもそも、CBAの最終年のサラリーキャップをなくすというのは、特に目新しいことではなく、以前「ヤンキースとレッドソックスに“ぜいたく税”」でも解説したように、経営者側に労使交渉を誠実に行わせるインセンティブとするため、CBAの最終年度はぜいたく税やサラリーキャップをなくし、選手側に有利な条件を設定しておくことが一般的です(安易に同条件で延長させることを防ぐため)。

今回のOPT-OUTでも、2010年の春までに新労使協定が合意に至らない場合は、2010-11年シーズンのサラリーキャップが消滅するきまりになっています(Uncapped条項)。現行CBAも、そもそもは1993年に締結されたCBAが基礎となり、何度か修正を加えられながら今日まで更新されてきたものです。それぞれのCBA期間の最終年には同様にUncapped条項が規定されていたはずですが、労使協調路線を歩んでいたため、滞りなくCBAの更新に漕ぎ着けていたわけです。

ただし、今回ばかりは事情が違います。期限の半年も前にOPT-OUTを表明したことからも分かるように、リーグ側は選手会側への対決姿勢をあらわにしていますし、「NFL労使交渉、焦点は財務情報の開示」でもお伝えしたように、選手会側も一歩も引く気はないようです。つまり、従来までの労使協調を前提とした交渉にはならないであろう点が、2010年シーズンがサラリーキャップなしのシーズンになるのではないか、という憶測を呼んでいるのです。

ここで見過ごされがちなのは、サラリーキャップ制度は、チームの年俸総額の上限だけでなく、下限も設定している点です。つまり、金持ちチームの年俸総額に上限を設けると同時に、貧乏チームにも一定額の年俸を使わせることを強いることによって、チームの戦力格差拡大を防いでいるわけです。

実は、今NFLでは(MLBほどではないにしても)チーム間の球団収入の格差が広がっていることが問題になっています(詳細は日経ビジネスのコラム「格差の徹底排除で成長するNFL(下)〜見つかりだした“抜け穴”にどう立ち向かう」参照)。フォーブス誌によれば、2006-07年シーズンNFLで最も収入が多かったのがワシントン・レッドスキンズの3億1200万ドル(約312億円)、最も少なかったのがミネソタ・バイキングスの1億8200万ドル(約182億円)で、その差は約130億円にもなります。しかし、サラリーキャップがあるお陰で、「勝ち星と年俸総額との相関(NFL)」でも書いたように、年俸総額の格差は3800万ドル(約38億円)にまで抑えられています。しかし、逆に言えば、収入格差が拡大している中、サラリーキャップ制度がなくなれば、ここまでNFLが必死に築いてきた戦力均衡が崩れてしまい、“MLB化”してしまうリスクがあるのです。

しかし、そこはさすがにNFLで、こうした事態を見越した上で、CBAには次のような付帯条項が記されています。

(サラリーキャップ制度がなくなった場合)
・昨年プレーオフに進出した12チーム中、上位8チームについては、FA選手を失った場合のみ、同じ人数だけFA選手を獲得できる(つまり、FA選手を失わなければ、新たにFAで補強できない)
・FA資格が暫定的に4年から6年に引き上げられる
・各チームが「フランチャイズ選手」(他のチームがサインできない選手)もしくは「トランジション選手」(他のチームからオファーがあっても、チームに第一拒否権がある選手)に指定できる選手を1名から2名に増やすことができる

つまり、サラリーキャップがなくなることで起こりうる選手争奪戦に備えて、ある程度選手の流動性を低める条件を設定しているわけです。良く考えますよね、こんなところまで。NFLだけでないですが、CBAを読み解いていくと、こうした非常に細かいところまで良く考え抜かれて作られているので、本当に感心します。

2010年の春まであと2年。この間、労使間でどのような駆け引きが行われるのか、あるいはチーム間でもビックマーケットとスモールマーケットのチームで足並みが揃うのか、注目してフォローしようと思います。

【関連情報】
Uncapped season? NFL has been there before(USA Today)
What it means: Possibilities abound for uncapped NFL year(USA Today)
Franchise and Transition Tags(AllAbout.com)
NFL、CBAの見直し決定について発表(NFL Japan)

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comments

ご無沙汰しております。
昨今のCBAに関する動向を個人的に大変注目しております。
この結果次第で1つのターニングポイントになるのでは
ないかと勝手に思っております。
また、今アメリカのスポーツで起こっていることは、
遅かれ早かれ日本でも起こるとも思っています。
前にも申し上げたかもしれませんが、リーグマネジメントと
いう観点で、CBAの位置づけは非常に重要であり、できるだけ深く読み込んでいきたいと思っております。

  • Baseball all of my life
  • 2008/06/05 5:44 PM

Baseball all of my lifeさん

お久しぶりです。コメントありがとうございます。

おっしゃるとおり、アメリカでも今回のOPT-OUTはNFLの経営に大きなインパクトを与えうるターニングポイントになるのではないかと見られています。日本のメディアではあまり報じられていないようですが、スポーツビジネスの分野では極めて大きなニュースですので、引き続きレポートしていきますね。

  • tomoyasuzuki
  • 2008/06/06 3:42 AM
   

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