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忍び寄る「合理の原則」が崩壊する危機

今、米国4大メジャースポーツリーグのガバナンスに大きな影響を与える可能性のある訴訟が進んでいます。

プロスポーツリーグ経営では、リーグ全体の共存共栄を考える視点と、チーム単独の発展を考える視点がぶつかり合って、お互いの利害を調整しながら前に進んでいきます。この舵取り役がコミッショナーの役割となるわけですが、リーグ機構の視点とチームの視点は時として対立するため、それが訴訟に発展することもあります。最近お伝えしているNHLフェニックス・コヨーテスの件などがその好例でしょう。

もちろん、リーグが選手や他の第3者から反トラスト法訴訟を受けることも少なくありません。

日経ビジネスのコラムでも解説しましたが、反トラスト法(日本で言う独占禁止法)訴訟になった場合、その判断基準に「合理の原則」(Rule of Reason)が適用されます。合理の原則とは、問題となった制度の「競争抑制的側面」と「競争促進的側面」を比較して、前者が後者より大きい場合は違法とする考え方です。つまり、ケース・バイ・ケースで考えましょうということです。

例えば、既に司法審査を経ているドラフト制度には「職業選択の自由を侵害する」という競争抑制的側面と、「チーム間の戦力均衡に寄与する」という競争促進的側面があり、合理の原則から必要最低限の形(Lease Restrictive Form)に限ってその導入が認められています。例外的に、MLBが50ラウンドという数のドラフト指名を実施できるのは、MLBが反トラスト法適用を免除されているからです。

ところが、反トラスト法訴訟においてスタンダードとなっていたこの「合理の原則」という判断基準を覆してしまう恐れのある訴訟が密かに進行しているのです。

NFLはリーボック社と2001年よりアパレルの独占契約を結んでいるのですが、それ以前までNFLとアパレルのライセンス契約を結んでいた(2001年に契約解除された)アメリカン・ニードルという会社が、「NFLとリーボックの独占契約は反トラスト法違反だ」として2004年にNFLを訴えたのです。ライセンス契約を切られた後に訴えるという流れは、CDM訴訟にそっくりなのですが(笑)、CDM訴訟と違い、こちらの訴訟は第1審、控訴審とも原告(アメリカン・ニードル社)敗訴の判決が下されています。

ここで注目すべきは、NFLが抗弁として「シングル・エンティティ」というロジックを用いていて勝訴した点です。ちょっと専門的なのですが、反トラスト法で訴える前提として、「複数の組織体が共謀して独占市場を作り出している」ということを原告は証明しないといけません。スポーツリーグが訴えられる場合、「リーグ機構と全チームが共謀して・・」というように、リーグ機構とチームを別々の組織として捉え、独占を立証するわけです。

これに対して、「シングル・エンティティ」抗弁とは、「リーグ機構とチームは実質的に1つの組織(シングル・エンティティ)として機能しており、リーグが経営管理部、チームが各部署を担当するようなものである」というものです。シングル・エンティティが認められれば、反トラスト法訴訟の前提(複数組織による共謀)が満たされなくなるため、訴えは認められません。

今まで、反トラスト法の対象外となっているMLB以外のメジャースポーツリーグ(NFL、NBA、NHL)は、反トラスト法の訴訟において、幾度となくこの「シングル・エンティティ」抗弁を使ってきたのですが、実は一度も認められたことはありませんでした。それが、今回のアメリカン・ニードル訴訟で初めて認められたわけです。

NFLは、この“千載一遇のチャンス”を逃すまいと、控訴審の判決を最高裁で確認する手続きを進めていたのですが、それが先日受理されました。もし最高裁で同じく「シングル・エンティティ」が認められれば、このインパクトは小さくありません。

まず、反トラスト法でリーグを訴えて勝訴する可能性が低くなり、リーグによる独占が進む可能性があります。

また、見逃せないのは、労使関係への影響です。現在、選手協会がリーグを反トラスト法違反で訴える際は、選手組合を一旦解散(Decertify)しないといけないことになっています。労働法で認められている組合活動は、厳密に考えると反トラスト法に違反するため(組合は、労働者個人としてではなく、労働者の集団と交渉することを経営側に求めるが、これが取引制限に当たる)、組合活動は反トラスト法の訴追対象外として規定されています(Statutory Exemption)。つまり、組合活動は反トラスト法の対象外という恩恵を受けているのだから、組合が反トラスト法訴訟を起こすことも許されない(起こしたいなら組合を一旦解散してから起こせ)というわけです。

しかし、組合を一旦解散させた場合、リーグ機構との団体交渉を行うプラットフォームを放棄するわけですから、その間にオーナー側に選手に不利な制度改変を一方的に行われてしまうというリスクがあるわけです。そのリスクを負ってまで組合を解散させて反トラスト法訴訟を起こしても、今回シングル・エンティティが認められれば、勝訴する可能性はぐっと低くなるでしょう。

最高裁の判断が注目されます。

【関連情報】
NFL wants U.S. Supreme Court to take on antitrust case(USA Today)

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comments

「シングル・エンティティー」という言葉について、
「リーグを“会社”に、チームを“部門”に例えて、
1つの組織として機能させること」により、
「リーグ全体の価値(利益)の最大化を目的としたもの」で
あると理解していましたが、この場面で使ってくるというの
は意外でした。

反トラスト法訴訟で今まで認められてこなかったことは、
“労使のバランスへの影響”の観点から言って、妥当な判決
だったと思いますが(「リーグとチームは実質的に1つの組
織(シングル・エンティティー)である」というロジックも
少し強引な印象を受けていますし)、もし、最高裁で
“リーグ側勝訴”の判決が出た場合、後々、労使のバランス
が大きく崩れてしまい、リーグマネジメントの観点で影響が
出てくるのではないかと危惧しています。

もちろん労使両者には利害関係があり、言葉で言う程、
バランスを取ることは簡単ではないことは理解できます。
が、比較的バランスの取れた労使関係を今まで維持し、
アメリカ4大リーグのみならず、世界のプロリーグのリーグ
マネジメントでも、一歩先を進んできた印象の強いNFLだけ
に、両者にとってWin−Winの判断が下されることを望んで
やみません(今まで積み上げてきた“財産”を簡単に
放棄するようなことはして欲しくないと思っております)。

  • Baseball all of my life
  • 2009/07/09 7:27 PM
   

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