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米プロスポーツ界に迫る「時短」の動き

今年に入り、MLBではロブ・マンフレッド新コミッショナーが指揮を執っています。年末に、「MLB新コミッショナーの驚きの初仕事」で、BAMのCEOをMLBのビジネス全体統括に据える人事が業界を驚愕させた点をお伝えしました。これと併せて、コミッショナー肝いりのプロジェクトが、試合時間の短縮です。

「試合時間の短縮がコミッショナーの肝入り??」と思った方もいるかもしれませんが、実は試合時間は製品の質を決定づける1つの重要な要素ですから、軽視できません。エンターテイメントは客商売です。特に、エンタメの選択肢が増え、ソーシャルメディアやスマホの登場で、エンターテイメントの消費のされ方自体が大きく変わってきています(特に若い世代では)。

今の若者は1つのエンターテイメントに腰を据えて2時間も3時間もじっとしている消費形態はとりません。「ながら消費」が基本になります。そういう新しい常識から今のスポーツ観戦を捉えなおすと、まず試合時間が長すぎるのです。NYTによれば、昨シーズンの米国4大スポーツの平均試合時間は以下の通りです(延長戦は含まず)。

NFL: 3時間9分
MLB: 3時間2分(ちなみに、日本のプロ野球は3時間17分)
NHL: 2時間28分
NBA: 2時間15分

やはり、3時間を超えるMLBやNFLは、僕でも見ていて「長いなー」って思いますもん。競っている試合ならまだしも、点差がついたら飽きます(ちなみに、NYTの記事にも書いてあるように、4大スポーツで試合時間が最も短いNBAですら時短に向けて試行錯誤しています)。

MLBは昨年の秋季リーグで実験的に「ピッチ・クロック」を導入して、時短の効果を実証実験していました。具体的には、投手は走者がない場面では12秒以内、走者ありで20秒以内に投球を行わなければならない、打者は常に片足はバッターボックス内に入れておかねばならない、といったものでした。その結果、試合時間が約10分短縮されたそうです。これを受け、MLBでも今季から時短に向けた以下のような新規則が盛り込まれることになりました。

・投球練習は30秒以内(何球投げてもよい)
・打者は紹介ミュージックが消えてから20秒以内にバッターボックスに入ること
・打者がボックスに入ったら投手はすぐに投球を開始すること
・攻守交代は2分25秒以内(全国放送の場合は2分45秒以内)

しかし、10分や20分の短縮では、試合の質を大きく変えるには至らないでしょう。将来的に、9イニング制を止めるなどのドラスティックな改革案がMLBから挙がってきても僕は驚きません。それくらい危機感を持って取り組んでいるように見えます。

また、時短に向けたルール作り(ソフト)と並んで重要なのが、スタジアム(ハード)の設計です。

一世代前のスタジアムは、基本的にその競技のことが好きなコアファンを想定して施設を設計していました。そうした施設は、「試合観戦」が唯一最大の価値として設計されているため、観客席以外のアメニティが皆無で、スポーツ自体それほど好きでない女性や、30分で飽きてしまう子供たちにとって快適な施設ではありませんでした。

しかし今や、ハードが「試合観戦」しか前提にしていないと、「ながら消費」の若い世代には受け入れられません。

以前、「日米のスポーツ施設設計の大きな違い」「日本のスポーツ界にはもう少し女性的な感性が必要」などでも書きましたが、米国でこの古い価値観を転換したのは、女性の柔軟な発想でした。結果的に顧客を広く定義し、快適性の高いスタジアムがたくさん誕生して行くことになります。今では、スタジアム内にレストランやラウンジ、小さな子供用野球場、打撃練習ゲージ、喫茶店、散髪屋などがあり、ゲームセンターが設置されている球場もあります。

「野球場に来て野球のテレビゲームをするなど邪道」と切って捨てるのは簡単ですが(こう考えるのは40歳代以上の層でしょう。僕もここです)、これは若者の新しい観戦形態に配慮した結果なのです。経営者としては、今収益を産み出しているコアファン層を相手にするのは優先度の高い仕事ですが、将来の収益を生み出す若い顧客を増やすのは重要度の高い仕事です。

この優先度と重要度のバランスを考え、「守る」部分と「壊す」部分を上手くブレンドして行くのが肝要でしょう。僕もいろいろな球団に行って経営者と話をする機会がありますが、このバランスは球団がフランチャイズを置く市場の特性や競合状況、ファンの特質などによって変わってくるもので、正解はありません。ただ、1つ言えることは、「壊す」勇気を持たないと、ファン基盤が少しずつ縮小して行くということです。

ソフトとハードの両面から、若い世代に魅力的と捉えてもらえる製品を創り上げて行く、その努力の一面が「時短」なのです。

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