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10周年

明けましておめでとうございます。

お蔭様で、ちょうど本日2016年1月1日をもってトランスインサイト株式会社も10周年を迎えることができました。今日から11年目がスタートします。

会社を作った時はまさか10周年を迎える日が来るとは思っていませんでした。そんな余裕なかったですから。まあ、今もそんなに余裕があるかと言えば、常に全力で突っ走っていないと安心できないんですけどね(笑)。

ここまで来ることができたのは、弊社の仕事に価値を認めて下さるお客様、仕事をサポートして下さるパートナー企業の皆様、離れていても志を共にできる仲間、会社のスタッフ、インターン、そして、仕事ばかりしている自分を支えてくれる奥さんのお蔭です。

この場を借りて心より御礼申し上げます。

10年一区切りとも言いますが、特に11年目から何か変わったことをしようとも思っていません。これまで通り、お客様の期待を常に上回るアウトプットを出し続けることを目指し、その結果として日本のスポーツビジネス界が健全に発展していくことに貢献できたらと思っています。

とはいえ、10年以上もこの仕事をしていると、どうしても発想が固まってきたり、過去の実績に胡坐をかいて新しい挑戦を避けてしまったりしがちになると思います。特に独立してやっていると、そんなことを指摘してくれる人もなかなかいないので、この点は肝に銘じたいと思います。

また、ネットメディアの発達で情報の取得はしやすくなりましたが、それをインプットして深く考える時間が逆に取れなくなってきたように思います。特に2020年の東京オリンピックに向けて日本のスポーツ界はバブルの様相を見せており、玉石混交の情報が更に増えていくものと思います。

これまでの反省として、短期的な情報の取得と拡散に時間を使い過ぎていたように思います。今年は、もう少し長期的な視野から深く考える時間を増やしていこうと思います。

最後に、昨年は縁あってSBAという教育プラットフォームを立ち上げる機会を頂きました。設立してまだ3か月程しか経っていませんが、様々な領域から優秀な方々にご支援頂き、今後とても大きな広がり・可能性を感じることができています。

2020年に向け、人材育成もスポーツ界の大きな課題だと感じていますので、2016年はSBAを通じて様々な挑戦を行っていく予定です。こちらもご期待下さい。

ということで、2016年もどうぞよろしくお願いします。
今年もまだ見ぬ同志との出会いを楽しみにしています。

Trans Insight Corporation
President
鈴木友也

2015年の日米スポーツ界を振り返って

日本は新年を迎えましたが、日本より14時間遅いニューヨーク(米国東部標準時)はまだ大晦日の夕方です。例年12月は比較的静かな月なのですが、今年は年明け早々にリサーチの締切があったり日本からの来客があり、その準備などで珍しく大晦日までバタバタしています。

さて、大晦日ということで、今年1年を振り返ってみることにします。

■米国スポーツ界3大ニュース
業界秩序へのインパクトの大きさという視点から、以下の3つを選んでみました。

‖膤悒好檗璽弔吠兌舛涼し
ノースウエスタン大学フットボール部員による労働組合結成の動きはNLRBにより却下され(ただし、学生選手の労働者性そのものについての判断はしていない)、オバンノン訴訟の控訴審により第一審の判決内容が一部取り消さりしましたが、基本的にNCAAがその規約において「プレーの対価として報酬の受け取りを禁止する」こと(いわゆる「アマチュア規定」)は明確に違法(反トラスト法違反)であるという点は司法審査により確認されたのではないかと思います。

これにより、NCAAが「学生の本分は勉強」との建前を取りつつ金儲けにまい進している欺瞞が指摘された形になりました。今後は、NCAAが稼いだ富を学生との間でいかに分配して行くかという「How」の部分の詳細が議論されていくことになると思います。

これにより、大学スポーツビジネスのコスト構造や、大学スポーツの位置づけそのものが多かれ少なかれ変容することは避けられないのではないかと思います。

DFSの隆盛と司法審査
これは最近日経ビジネスでも書きました。今年になり一気に存在感を高め、事業的にも大きく売り上げを伸ばしてきたDFSでしたが、まさに「これから離陸」という時に、例のスキャンダルによってニューヨーク州により提訴され、司法審査を受けることになりました。

MLBやNBAが今年頭からスポーツ賭博合法化に舵を切っていることもあり、最終的にDFSも競馬などと同様に政府・自治体による「公認ギャンブル」として公的機関やスポーツ組織と共存共栄して行く形になるのではないかと思います。

しかし、DFS事業者はちょっと脇が甘かったですね。また、スキャンダルに乗じて一気に司法審査にまで持っていかれてしまったのは、裏で「DFSの合法賭博化」のシナリオを描いていた人が相当いたのではないかと穿って考えてしまいます(笑)。

インナーマーケットのストリーミング開放
ここはちょっと分かりにくいかもしれませんが、RSN(ローカルスポーツ専門局)による試合中継が基礎になっている米国スポーツ界では、動画配信(テレビ+ネット)を「インナー・マーケット」(Inner Market)と「アウター・マーケット」(Outer Market)に分けて行っています。

例えば、MLBを例に挙げると、NYヤンキースとボストン・レッドソックスの試合がローカルでテレビ中継される場合、ヤンキースを放映権を持つYESとレッドソックスのNESNの放送が中継されるエリアを「インナー・マーケット」、それ以外の地域を「アウター・マーケット」と呼びます。

MLBでは、年間2430試合がテレビ中継されますが、うち全国放送が中継するのは約140試合に過ぎません。9割以上の試合はRSNによりオンエアされるのです。つまり、MLBのメディア露出を支えてくれているRSNはMLBにとって最も大切にしなければならないクライアントであり、この権利を守るために複雑な権利処理を行っているのです。

歴史的に、テレビのインナー市場からメディア露出は始まり、1990年代になるとExtra Inningsのようなテレビのアウター・マーケットパッケージが生まれ、2000年代にMLB.TVのようなネット中継のアウター・マーケットパッケージが生まれるという経緯で権利処理が行われてきています。

RSNの権利を守るため、インナーのネット配信は長らく開放されていなかったのですが、4大スポーツでは昨年からNBAがこれを「TV Everywhere権」としてRSNに開放し、来年からMLBも開放して行く方針を先日発表したばかりです。

日本だとまだ地上波テレビ局が良くも悪くも動画配信市場を独占してしまっているので、未だに「カニバライズ」の議論から前に進めないようですが、OTT事業者との競争が激しい米国では、既にカニバライズを議論するフェーズは終わり、OTT事業者への対抗上、TVE権を活用して包括的にユーザを囲い込む方向に来ています。

■日本スポーツ界3大ニュース
日々仕事をする中で感じていることを踏まえ、以下の3つを選んでみました。

.リンピックバブル
僕のところもここ1〜2年でオリンピック関係の案件が急に増えてきましたが、スポーツ界に事業的に参加してくるプレーヤーの顔ぶれも大きく変わってきたように感じます。言い方は悪いかもしれませんが、今まではスポーツ界に見向きもしなかった優秀な個人・組織にスポーツ界へ関心を持ってもらえるようになりました。

今のところ、この地殻変動を牽引しているのは公式スポンサー企業の存在です。少なくとも2020年までのあと5年間に数十億以上の投資を行っていくわけですから、このスポンサーマネーを見込んだ多くの事業者が参戦してきています。ちょっとしたバブルの様相ですね。

逆に、ちょっと気になるのは、こうした祭りへの盛り上がりを見せているのは、アウトサイダー側に多く、スポーツのインサイダーが少し冷めている(乗り遅れている?)と感じる点です。むしろ今までの業界経験がない新規参入アウトサイダーの方が、客観的に日本スポーツ界のオポチュニティを見ることができるのかもしれません。

球団と球場の一体経営の常識化
最近もベイスターズが横浜スタジアムにTOBかけたりするなど、球団と球場は一体経営であるべきという点が日本でも常識になってきました。見方を変えると、収益を追い求めて経営努力している球団とそうでない球団の差がここ5〜10年で大きく開いてきてしまったようにも見えます。

日本のスポーツ界では、経営体力的に一番余裕のあるプロ野球球団がこの動きを牽引していますが、これがJリーグやBリーグなどにも広がっていくとよいと思います。

その中でネックになるのが多くの球場を保有する自治体のスタンスでしょう。日本の公的スポーツ施設は「体力増強」のために建設されているという建前上、エンターテイメントとしての利用を想定していません。こうした中では、ガンバ大阪のように球団自身が球場を作ってしまうような発想力や行動力が必要になってくると思います。

B.LEAGUE設立
すったもんだあった日本のバスケ界がようやくまとまり、新リーグが立ち上がったのは皆さんご存知の通りです。

日本だと、野球とサッカーが事実上の2大プロスポーツリーグということになります。2nd Tier以下には、競技により実業団やアマチュアリーグなどが存在しているわけですが、Jリーグの成功があったからか、そうした競技の関係者と話していると「うちもプロ化できればうまく行くはず」という、盲目的な思い込みを感じてしまうケースがあります。

ただ、いままで実業団あるいはアマチュアだったのをプロ化するということは、サラリーマンが会社を辞めて起業することに等しいわけですから、そんなに生易しい話ではありません。むしろ、実業団という形ででも競技が存続していること自体を有難いを思うべきなのかもしれません。

そんな中、Bリーグには確固とした戦略が描かれています。B2Cにおける競技者DBとの連携や、B2Bにおける日本代表チームとのマーケティング活動の統合などは、プロ野球やJリーグでも未着手の領域です。事務局の人間に知人が多いということもあり、是非今までの日本スポーツ界になかったような斬新な取り組みを期待したいです。

ということで、勝手ながら日米スポーツ界の2015年3大スポーツニュースでした。
皆さん良いお年を!

米国スポーツビジネス界のマネジメントはこう見る

毎年この時期になるとSportsBusiness Journals誌が読者アンケートを行います。SBJは、主に米国でスポーツ関連組織の経営層が読んでいる専門誌なので、これをみると米国スポーツ界のマネジメント層がどのような見方をしているのかが分かります。

SBJの読者アンケートについては、以前「最も価値のないスポンサーシップ資産は看板広告」「米国スポーツビジネスにとって最大の脅威とは?」などでも少し触れましたね。

SBJの最新号で今年の読者アンケートの結果が掲載されていたので、その中で個人的に興味深かった点を拾ってみることにします。

■イケてる(hottest)スポーツリーグを3つ挙げよ
1. NFL(70%)
2. NBA(43%)
3. NCAA(31%)

⇒やっぱりNFL人気は不動ですね。これは予想通りでしたが、学生アスリートへの報酬問題など、何かとネガティブなニュースが多かったNCAAが3位につけているのは興味深いです。まあ、それだけビジネスとして上手く行っているという評価なのでしょう。

■大学フットボールで一番問題なのは?
1. 選手の搾取(32%)
2. 学校間の収益格差(23%)
3. 怪我・脳震とう(16%)
4. 商業化(12%)
5. 観客動員数の現象(11%)

⇒「選手の搾取」と「商業化」は表裏一体の問題ですね。とはいえ、今更商業化を止めるわけにも行きませんから、方向性としては選手に適正な対価を支払う方に向かうのだと思います。問題は「どの程度」それを行うかでしょう。

■賛成?反対?
・学生選手への報酬の支払: 賛成(44%)反対(56%)
・試合中の選手へのマイク着用: 賛成(64%)反対(36%)
・ユニフォームへの広告掲出: 賛成(53%)反対(47%)

⇒まだ学生に報酬を支払うことに対してはアレルギーを感じる人が多いようです。

■次の労使協定更改時に労働争議が起こりそうなリーグは?
1. NBA(39%)
2. NFL(29%)
3. NHL(17%)
4. MLS(9%)
5. MLB(6%)

⇒かつては「世界最強の労働組合=MLBPA」を擁し、労働争議の模範のように言われていたMLBが近年の労使協調路線からMLSを下回っているのに驚きました。NBA、NFL、NHLともに現行の労使協定は10〜11年間の長さで、最も早く更新時期を迎えるNFLでも2020年ですから、まだ少し先の話になりますかね。

■今年スポーツビジネス界で最も大きなニュースだったのは?
1. FIFAのスキャンダル(41%)
2. ファンタジー・スポーツの隆盛(38%)
3. トム・ブレイディとNFLの戦い(37%)
4. カレッジ・フットボールへのプレーオフ制導入(21%)
5. 女子サッカー代表のWC優勝(19%)

⇒アメリカ人がFIFAに関心を払うなんて珍しいですが、フェアであることを金科玉条とするアメリカ人は不正が大嫌いですから、「やっと捕まったか」って感じでしょうか?やぱりフットボールネタが多いですね。

■北米スポーツビジネスの最大の脅威は?
1. チケット価格の高騰(33%)
2. ユーススポーツ競技者数の現象(17%)
2. コードカッティング(有料テレビの解約)(17%)
4. 不正行為(ドーピング、ルール違反など)(12%)

⇒チケット価格の高騰は2年前の調査よりも10ポイント以上増えてますね。例えば、今年のMLBのFCI(4人家族での平均的な観戦支出)は212ドル。これでも4大スポーツの中では最も安い値です。逆説的ですが、米国のマネジメント層にチケット価格が高いという自覚があることを知れて良かったです(笑)。

■スポーツリーグで今後の収益的なのびしろがある領域は?
1. OTT・ストリーミング権(33%)
2. 新たなスポンサーシップカテゴリ・資産(29%)
3. 海外への球団拡張(20%)
4. 周辺イベント(17%)

⇒やっぱりデジタルですよね。テレビ放映権は日米でメディア環境が異なるのですが、デジタルの部分はアメリカの取り組みが大いに参考になると思います。

■最も指導力のあるコミッショナーは?
1. Adam Silver(NBA)(57%)
2. Rob Manfred(MLB)(11%)

⇒NBAは前任のDevid Sternの後光がまだあるからでしょうか。ここ10年くらいはほとんどNBAのコミッショナーがトップです。日本にいるとあまり実感ないと思いますが、「最も革新的な経営を行っているリーグ」と言えばNBAです。「MLB新コミッショナーの驚きの初仕事」で衝撃の仕事始めに触れたマンフレッドさんは、意外に評価が低いです。

■ユーススポーツの最大の脅威は?
1. 1競技への特化傾向(30%)
2. 盛り上がりすぎる両親(24%)
3. 若年層での運動時間の現象(22%)
4. 時間的コミットメントの多さ(11%)
5. 費用(10%)

⇒「専門化が進み、日本化する米国のユーススポーツ」でも書きましたが、研究者の間では複数スポーツを同時並行で経験するより、1つのスポーツに専念する方が選手の肉体的成長が阻害され、バーンアウトのリスクも高まるため、選手として大成しづらいことは周知の事実になっています。しかし、これとは裏腹に、ビジネス化するユースビジネスに親が巻き込まれ、専門化が進んでいる実態がありました。マネジメントレベルでは、この点に既に気づいているのですね。へー、って感じでした。

■どの会社のDFS(デイリー・ファンタジー・スポーツ)をやっているか?
1. DFSはやらない(80%)
2. DraftKings(11%)
3. FanDuel(6%)
4. Yahoo Sports(2%)

⇒これ分かるなぁ。DFSはデイリーと言えども時間取られるから忙しい経営者としては「そんなのやってる暇ない」ってのが本音でしょう(笑)。

とまあ、こんな感じです。アンケート結果を全て見てみたい方はSBJを購読して下さいね(笑)。

米サッカー協会によるヘディング禁止措置の衝撃

今週月曜日、米サッカー協会(USSF)が10歳以下の選手のヘディング禁止などを含む、脳震とうに対する安全策を発表しました。これは、昨年起こされた訴訟に端を発したものです。

訴訟では、協会が脳震とうの危険性を知りながらも適切な対応と取らなかったとしてその責任を問うものですが、米国ではこうした脳震とう訴訟はサッカーに限らず、たくさん起こっています。

特に脳震とうの危険性を早くから指摘されていたのがフットボールで、既にNFLはOB選手らにより起こされた訴訟に和解しており(2013年に公判開始、2015年に和解成立)、その和解金額は7億6000万ドル(約912億円)を超えます。NCAAなどでも同様の訴訟が起こっており、これがアイスホッケーなどにも広がりを見せています。

米国では、こうした脳震とう訴訟がフットボールから他競技に、トップ(プロ)から大学、高校などのアマチュアボトム層に急拡大しています。脳震とうが米国のスポーツ界を変えつつある状況については、過去にYahoo!や日経ビジネスにも寄稿しています。
アメリカの試合から迫力が消える?〜けが防止に走る米スポーツ界の裏事情(日経ビジネス)

これまでスポーツにおける脳震とうの危険性については、医学データもなく検証されずにいたのですが、Yahoo!のコラムにも書きましたが、UCLAによる最近の調査では、脳震とう直後の選手の脳は植物人間の脳と同じ状態ということです。そして、最初の脳震とうが完治する前に再度脳震とうが起こると脳に致命的なダメージを与える「セカンドインパクト症候群」も分かって来ています。

こうした中で、各スポーツ統括組織や学校管理団体などが脳震とうの予防や起こった際の対処(サポート体制の充実や復帰手順の明確化など)について積極的に対応を行うようになってきたのです。米国の場合、危険性を知りつつ対処を怠ると、即訴えられるので、訴訟リスクが大きな原動力になっています。

で、話をUSSFに戻すと、詳細な安全対策は今月末に発表されるようですが、10歳以下の子供はヘディングを禁止とし、11歳から13歳の子供は練習中のヘディングの回数に制限をかけるとのことです。この安全指針は、USSFの傘下にあるアンダーの代表やアカデミー、MLSのユースチームに適用され、傘下にない場合は推奨と言う形になるようです。

米国でのサッカーの競技人口は世界一ですが、その大きな理由の1つは「サッカーは安全」という安全神話が親の間にあったためでした。しかし、データで検証してみると、実はイメージ程安全ではなく、脳震とうは特にヘディングで起きやすく、また男子サッカーより女子サッカーの方が脳震とうリスクが高いことなども分かって来ています

サッカーは協会傘下に全ての関連組織がまとまっているという事情もあったのだと思いますが(USSFが訴えられれば、結果的に米サッカー界全体が変わらなければならなくなる)、米サッカー界は非常に素早い対応を取ったと思います。こうした訴訟が他のスポーツにも広がって行けば、ユースではフットボールでタックルなしになったり、野球でスライディングが禁止されるということも、将来的には大いに有り得るのではないかと思います。

日本のスポーツの潜在力をグローバル視点から検証する

僕がアメリカに拠点を置きながら日本のスポーツ界の成長のために日本のクライアントの皆様にアドバイスをするという、ちょっと変な仕事の仕方を始めて15年が経ちます。
 
僕が「アウトサイダーとしての視点」にこだわっているのは、生活習慣や文化の異なる米国のスポーツビジネスと日本を比較すると、多くの違いがあり、その違いを具体的に知ると、新たな発想が沸きやすくなるからです。

弊社の会社理念のところにも書いていますが、僕はアメリカの取り組みが「正解」で、それを日本にそのまま導入しようとは思っていません。絶対的な「正解」などないですし、あるとしても、それはその国なり地域でスポーツと実際に触れている人が決めるべき話だと思うからです。地域により人は違いますから、自ずと求めるべき打ち手は違ってきます。

違うものを見ることで刺激を受け、今までになかった発想が生まれることは良くあることです。僕が15年もこのような仕事を続けてくることができたのは、そこに価値を見出してくれたお客様がいたからです。

日本を出て初めて分かったのは、想像以上に日本には言語的な断絶があることです。英語ができれば手に入れられる有益な情報は世の中に溢れていますが、日本ではなかなかそれが手に入れにくい。

世界的なトレンドと日本の動きが違っている局面というのは、スポーツビジネスに限らず少なからずあると思いますが、言語的な断絶により、なかなかそれに気づくことができない(気付くのが遅れる)というのは、事実だと思います。今やネット上の情報の約55%が英語ですが、日本語は5%に過ぎません。

別に「海外と日本に違いがある」=「日本は遅れている」とは思いません。違いを知った上で自覚的に歩みを選択していれば良いと思います。しかし、実際は違いを知らずに無自覚に選択しているケースも少なくありません。

ただ、逆に言えば、世界的な趨勢と日本との違いを丁寧に比較・整理すれば、今まで気づかなかった潜在力を発揮できる領域をまだまだ発掘できると思うんですよね。僕はそういう信念で仕事を続けてきました。

そして、ちょっと気の早い話ではあるのですが、こうした「世界の中での日本のスポーツ」という視点で日本のスポーツビジネスを俯瞰的に語れる専門家をゲストに招き、来年の2月にセミナーを開催することにしました。

国際スポーツの現場から見えるスポーツの潜在力とビジネストレンド
 〜日本を出て初めて見えてきた、CSR・アクティベーション時代のスポーツビジネス〜

今回は、ゲストとしてField-R法律事務所の山崎卓也弁護士と、FIFAコンサルタントの杉原海太さんをお迎えします。僕もモデレーターとして対談に参加するので3人でしゃべる感じになります。

このセミナーは個人的にとても楽しみにしているんですよね。山崎さんにお会いしたのはもうかれこれ12〜13年程前になるでしょうか。当時は日本プロ野球選手会の顧問弁護士として活躍されており、今はその活動の幅を更に海外にも広げ、FIFA紛争解決室(DRC)仲裁人や国際プロサッカー選手会(FIFPro)アジア支部副代表として世界中を飛び回っています。

杉原さんは、その山崎さんにご紹介頂いた仲です。世界で10人ほどしかいないFIFAコンサルタント(日本人としては杉原さんだけ)として、世界各国のサッカー協会・リーグ・クラブのガバナンス改善、戦略立案、業務改革のサポートをされています。文字通り世界を股にかけて活躍されています。

僕の知る限り、お二人は日本人で最もグローバルに活躍されているスポーツビジネスパーソンではないかと思います。「世界の中での日本のスポーツ」を語るのには打ってつけのお二人です。

二人とも半分くらいは日本にいないのではないかという位忙しく海外を飛び回っているのですが、意外に日本で3人で良く飲むんです(笑)。で、ふたりとも国境、競技、業界インサイダー/アウトサイダーという枠を超えて様々な知見をお持ちで、3〜4時間くらいあっという間に経ってしまうのですね。しかも、それが無茶苦茶勉強になるのです。

そして、お二人と話すたびに日本のスポーツ界にはまだまだ可能性があるんじゃないかなーという思いを強くするわけです。というわけで、皆様にも同じような視点からスポーツの潜在的価値を知って欲しいと思ったのが、このセミナー開催の趣旨というか、きっかけということになるでしょうか。

以下が、このセミナーに参加する上での思考の補助線になるかもしれません。
 
・勝利がスポーツビジネスの最高の商品ではなくなっている? 〜勝てばいい時代の終焉〜
・一見、スポーツビジネスと関係なさそうなCSRが重要性を増しつつある理由
・巨大スポンサーが国際競技団体にかけるプレッシャー 〜アクティベーション時代のスポンサーシップ〜
・五輪ほかメガスポーツイベントにおける「サステナビリティ・ビジネス」
・グッドガバナンスとスポーツ賭博・インテグリティをめぐる、国家と国際競技団体の世界的攻防
・欧米至上主義からのシフトの可能性 〜多様性の尊重は、アジア人の武器となりうるか?〜
・「自分の頭で考える」時代のスポーツビジネス 〜「体育」を「スポーツ」にするために

僕もモデレーターとして参加しますが、自分にとっても気づきの多いセミナーになるだろうなと今からワクワクしています。

戦力均衡の重要性(その2)

先日、「戦力均衡の重要性」で定期的にファンに「優勝するかもしれない!」という期待感を抱かせることが重要であることに触れました。あれから、メッツはあれよあれよと言う間にワールドシリーズまで上り詰めてしまいました。

今、マンハッタンではスポーツバーやレストランは「メッツ、メッツ」で大騒ぎで、開幕したNBAやNHLの陰が薄く感じるくらいです。もうこの余韻でメッツファンはあと10年位は楽しめるかもしれません(笑)。

ところで、あのポストをきっかけに知人と意見交換したりする中で、戦力均衡に対して少し考える機会ができました。そして、結果的にはスポーツリーグ経営における戦力均衡の重要性は相対的に低下しているのではないか、と思うに至りました。

理由は2つあります。

第1の理由は、近年の米国スポーツビジネスにおいて、「売り物(商品)」の定義が変わってきたためです。従来まで、スポーツビジネスの商品といえば「試合(観戦)」でした。しかし、テレビの大型化・高精細化・低価格化により、テレビ視聴でも十分に迫力ある観戦ができるようになってきたことや、若年層のエンタメ消費形態が変化し、1つの娯楽をじっくり楽しむより、複数の娯楽を並行してゆるく楽しむようになったきた結果、試合に足を運んでくれるコアファンにとって、テレビ視聴と差別化し、若者のニーズにフィットするために試合観戦以外の要素がより重要になってきています。

そのため、もちろん観戦機会の提供は本質的で中心的な提供価値なのですが、2〜3時間の滞在時間中のファン体験を総合的に捉え、ファン体験を構成するあらゆる側面(駐車、入場、観戦、回遊、飲食物・グッズ購入、トイレなど)でのエンタメ性を上げて行く方向に施設のコンセプト設計やサービス提供がシフトしてきています。

これにより、試合観戦がファン体験に占める相対的な比率が下がってきているのですね。極端に言えば、試合に負けても楽しめる(顧客満足度が下がらない)のが究極的なファン体験ということになります。

第2の理由は、ビジネスの国際化の進展です。国内のファンは基本的にフランチャイズを軸にした「地域的な絆」を持つファンが大多数です。そして、そのファンにとっては継続的に応援する上で勝ち負けが大きな要素となります。

しかし、海外のファンは「地域的な絆」を持たないため、応援軸としては最高のパフォーマンスを提供する「最強チーム」を応援したいという動機が主になるのではないかと推測します。そのため、ヤンキースやマンU、バルサといったメガブランドの一人勝ちの状況が生まれやすいわけです。

つまり、海外市場では戦力均衡により各チームの戦力を拮抗させるよりは、むしろその逆に圧倒的に強いチームを作る方がファンを得やすいのではないかと思うわけです。

ところで、先日、SBAのセミナーでNPBEの荒木さんと対談した際(お蔭様で満員御礼でした!)、荒木さんが面白いことを言っていて「なるほどなぁ」と思いました。荒木さん曰く、世界のスポーツは「ドメスティック・スポーツ」「インターナショナル・スポーツ」「グローバル・スポーツ」の3つに大別できると。

「ドメスティック・スポーツ」は国内のみを主な市場としているスポーツで、日本のプロ野球やJリーグがここに該当します。「インターナショナル・スポーツ」とは、海外市場も事業対象になるものの、基本的に国内での売り物を海外でも横展開しているスポーツです。基本的に、米国4大スポーツはここに入ると思います。最後に「グローバル・スポーツ」ですが、これは海外市場もビジネスになり、かつ海外では売り物が発展的に展開されるスポーツです。ワールドカップなどがこれに該当しますね。

で、それぞれのモデルで戦力均衡の重要度を考えると、ドメスティックに近い方が相対的に重要なんだろうなと思います。戦力均衡とは、事業の外部環境に結構左右されるコンセプトなのかもしれません。

とはいえ、国際化が進展しようと事業の核になるのは国内ビジネスですし、商品価値を構成する要素が多様化しても、その本質的で中心的な価値は勝敗であることに変わりはないですから、戦力均衡が不要になるということは、少なくとも米国の閉鎖型スポーツに限って言えばないだろうなとは思います。

プロスポーツ選手のメンタルヘルス

ワイルドカードPOで負けてしまったヤンキース。ご存知の通り、マー君が先発し、好投したものの打線の援護なく0-3で敗れてしまいました。

実はこの試合の前日、ヤンキースの左のエースのCCサバシア投手が自分がアルコール依存症であり、リハビリ施設への入院が必要なことを告白しました。前代未聞のことです。このため、プレーオフはもちろん全休となる予定でした(残念ながらWCで負けてしまいましたが)。

メディアの知人から聞いたのですが、ヤンキースの番記者ですら寝耳に水だったそうです。

しかし、数字で天国と地獄が決まるプロスポーツ選手は、普通の人には考えられないプレッシャーの中で戦っており、またアメリカなら遠征や時差の関係で多くの選手が睡眠障害に悩まされていると聞きます。こうした過酷な環境の中でサバイブを求められるプロスポーツ選手には、アル中やうつ病などを抱えている選手が少なくないであろうことは想像がつく話ではあります。

MLBにもこの手の逸話はたくさんあります。例えば、最近ならレンジャーズのジョッシュ・ハミルトン(2010年のアメリカン・リーグMVP)はアルコールと薬物の依存症だったことを告白していますし、98年に完全試合を達成したヤンキースのデビッド・ウェルズは自伝の中で登板時は酔っていたことを暴露しています。古くは、MLBで唯一ワールドシリーズで完全試合を達成したドン・ラーセン(こちらもヤンキース)も登板当日の朝まで酒を飲んでいたとか。

ただ、プロスポーツが夢を売る仕事だけに、こうした内情が明るみになることはあまりありませんでした。

しかし、今月に入り衝撃的な調査結果がFIFPro(国際プロサッカー選手会)から報告されました。11か国の約800名の現役・元選手を対象に行ったリサーチにより、以下の事実が明らかになったのです。

・3割を超える選手に、過去1か月間にうつ病の症候や不安があった
・2割を超える選手が睡眠障害を訴えた
・重症とうつ病の相関関係が認められた
・3回以上重症を負った選手は通常の2〜4倍のメンタルヘルス上の問題を報告する
・アルコールの乱用は引退すると急増する(9→25%)

これに呼応して、ニュージーランドのサッカー界で画期的な出来事がありました。サッカー協会と選手会との間に結ばれた新労使協定に、選手のメンタルヘルスに関する条項が盛り込まれたのです。これにより、代表選手が国際マッチに召集される際にはチームドクターが個別面談を行い、メンタルヘルス悪化の兆候があればカウンセリングが提供されるようになるそうです。

超人の様に見えるプロスポーツ選手も一人の人間です。メンタルヘルスを病んでしまった選手が適切な処置を受けられる環境が今後より一層求められることになるでしょう。

戦力均衡の重要性

日米ともに、プロ野球、MLBのプレーオフ進出チームが決まりつつありますね。

日本では東京ヤクルトスワローズが14年ぶりにペナントを制しました。スワローズ関係者の皆さん、おめでとうございます!パ・リーグはホークスが圧倒的ですね。

NYでもメッツがまさかの地区優勝で(失礼)9年ぶりにPO進出を決め、ヤンキースもワイルドカードの1日POに滑り込みました(明日はマー君が先発しますね。凄いです。この1日POは文字通り背水の陣ですから、無茶苦茶盛り上がります)。

メッツは毎年夏過ぎには終戦になるのが恒例でしたし、ヤンキースもここ数年低迷していたので、秋になると早々にNYのスポーツファンの興味はフットボールやバスケットボールに移って行くのが常でした。僕は別に熱心なメッツファンでもヤンキースファンでもありませんが、でも地元のチームがPOに出るというのはいいもんですね。

言うまでもないことかもしれませんが、全てのスポーツファンが(毎年とは言いませんが、定期的に)こうした気分を味わうべきです。さすがに10年、15年POから遠ざかっていると、希望が持てなくなり、ライトファンは離脱して行ってしまいます。その意味で、本当に戦力均衡は必要だなあということを体験として痛感しました。

で、戦力均衡の定義ですが、「定期的に優勝」する必要は必ずしもありません。POは短距離走ですから、戦力均衡の制度的なコントロールが効きづらい舞台です。なので、最低でも「市場が小さくて経営が厳しい球団でも10年に1回くらいはPOに進出できる」くらいが戦力均衡の目指すべき落としどころだと思います。「あ、もしかしたら優勝できるかも!」という期待を定期的に醸成するのが戦力均衡の肝です。

ちなみに、MLBで最も長くPO進出を果たしていないのがマリナーズで14年間、次いでマーリンズが12年間です。10年を超えるのはこの2球団だけです。5年以上、10年未満の球団も4球団だけですから(合計6チーム)、15年ほど前は戦力不均衡の好例とも言われていたMLBも、かなり戦力均衡が進んで来ているのでしょう。

で、調べてみたら、実はMLBはNFLより上手くやっているんですね!

NFLの場合、10年以上PO進出していないのはビルズ(14年)、レイダーズ(12年)、ブラウンズ(12年)、ラムズ(10年)の4チームで、5年以上10年未満の球団も4チームあります(合計8チーム)。

日本(プロ野球)はどうかというと、こんな感じです(2015年10月5日時点)。

■セ・リーグ
ヤクルトスワローズ:0年
読売ジャイアンツ:0年
阪神タイガース:1年
広島カープ:1年
中日ドラゴンズ:3年
DeNAベイスターズ:17年

■パ・リーグ
ソフトバンクホークス:0年
日本ハムファイターズ:0年
千葉ロッテマリーンズ:0年
西武ライオンズ:2年
オリックスバファローズ:1年
楽天イーグルス:2年

日本は球団数が少ないので、2007年にCSが出来て状況は劇的に改善されてきているようです。ベイスターズファンはちょっと可哀相ですね。。。

SBA(スポーツビジネスアカデミー)開講にあたり

FBやツイッターなどでもお知らせしましたが、今週月曜日にスポーツビジネスに特化した教育プラットフォーム「Sports Business Academy」(スポーツビジネスアカデミー)を開講致しました!


僕は、以下に説明する2つの懸念、危機意識を日本のスポーツビジネス界に対して常々抱いていたのですが、SPOLABo代表でNPBE執行役員の荒木さんも似たような危機感を抱いており、いろいろな事業的な巡りあわせもあって、この度、荒木さんとともに一般社団法人スポーツビジネスアカデミーを設立する機会を頂き、SBA開講に至った次第です。

1つ目の懸念。これは、かれこれ10年くらい持っているものです。

僕がアメリカに留学した15年前は、「スポーツビジネスに就職する」という発想そのものがまだ一般的でなかった時代でした。スポーツで生活するといえば、プロスポーツ選手になることくらいしかイメージがなく、当然僕が就職活動をしていた20年前に選択肢としてスポーツビジネスが上がることはありませんでした。

しかし、今や海外にスポーツ経営を学びに留学することは珍しくなくなり、日本国内にも多くの大学がスポーツ関連の学科を立ち上げるようになっています。これにより、就職の選択肢の1つとしてスポーツビジネスが学生にも目に見えるようになりました。

良く言えば、これはスポーツビジネスの担い手が増えるようにも見えますが、悪く言えば「スポーツビジネス」という椅子取りゲームの参加者が増えただけで、椅子の数は増えていない状況です。

誤解を恐れずに言えば、スポーツビジネス(特にプロスポーツ)は経営的な余裕のあまりない中小企業ですから、ビジネスパーソンとしての武器を持たずに丸腰で就職しても、なかなか武器ができづらい産業です。充実した研修制度などはあまり期待できませんから。だから、僕は大学生から進路相談を受けた時は、必ず「最初はスポーツ以外の産業で自分の武器を確立してから入ってきた方がいいよ」「入ることだけを考えるのではなく、入ってからどう活躍するかを考えた方がいいよ」とアドバイスしています(もちろん、ケースバイケースですから、絶対最初に入ってはダメというわけではありませんが)。

スポーツビジネスの採用は、「兵隊採用」か「士官採用」に分けれます。兵隊採用からたたき上げで士官になる人もいますが、長いこと兵隊のままだったり、士官になる前に燃え尽きて辞めてしまう人も少なくありません。「入ること」しか考えていない人は、だいたいこのパターンが多いでしょうか。

椅子取りゲームの椅子の数を増やすために、産業を大きくできる「士官」がまだ足りない、というのが僕の1つ目の懸念です。スポーツ界は平均給与も低い業界です(タダでも働きたいという人がたくさんいますから)。それが、優秀な人材を呼び込むのを難しくしている側面もあります。どんどん優秀な人材にスポーツビジネスに入ってきてもらい、リーダーになって欲しいのです。

2つ目の懸念。これはちょうどここ2年くらいで見えてきたものです。

2013年9月、東京が2020年のオリンピック開催都市に決定しました。この日を境に、日本のスポーツ界への注目度が急速に高まり、多くのお金が流れ込んで来ています。私のところでも、オリンピック関連の案件が常時走っているような状況になりました。

お金が流れ込むところにはいろいろな人や会社が集まります。でも、その中にはぶっちゃけ「スポーツが金儲けに利用できればいいや」という考えだけのように見える人や会社もいます。ビジネスですから、ルールを守ればそれはそれでアリだと思います。産業が大きくなるのはそういうことだと思いますから。

今や、ほとんどバブルのような勢いなのですが、この勢いが“宴の後”も続くとは到底思えません。「オリンピックは盛り上がったけど、結局高いお金をつぎ込んだ割には、あんまり成果がなかったよな」と言われるのは、絶対に避けなければいけません。

これは、以前「2020東京は1984ロスになれるか?」などでも書きましたが、米国は1984年のロス五輪をきっけかにスポーツが産業として確立・発展していきました。これから10年先、20年先、あるいは半世紀先の日本のスポーツビジネス界の発展を考えると、これから東京オリンピックまでの5年が勝負どころだと思うのです。ここで上手くスポーツ産業を持続的に発展させることのできる人材を手当てしないと、日本スポーツビジネス界は長い冬の時代に入ってしまうかもしれない、これが僕の2つ目の危機感です。

15年、20年前に比べれば、日本のスポーツビジネス界は長足の進歩を遂げていると思います。多額のお金と優秀な人材が集まりつつある今、最大限の努力を振り絞って更にレベルアップし、日本スポーツビジネス界を1つの産業として確立することができたらと思っています。多分、この5年がその最大のチャンスと言える時期ではないかと思います。

自分なりのコンステレーションを探そう

今年も夏のツアーが終了しました。日本各地から集まった30名超の大学生と約1週間をNYで共に過ごしました。
 

インターネットの普及により世界が狭くなったと言われます。今や、ネット上の情報の55%が英語であることに象徴されるように(ちなみに日本語は5%)、好むと好まざるとに関わらず、英語ができないだけで世界から取り残されてしまうことになります。

ネットが発達したお蔭で、情報の取得は格段に便利になりましたが、それで世界を知った気になってしまうのは恐いし、もったいないと思います。「情報として知っている」ことと「体験として身を持って知っている」ことには大きな差があるからです。
 
ツアーではスポーツビジネスを題材にしているものの、僕が学生の皆さんに分かって欲しいことは、逆説的ですが、スポーツビジネスのことではありません。世界は広く、日本の「常識」は一面的な真実に過ぎず、必ずしも世界の「当たり前」ではないことに気づいて欲しいのです。

ぶっちゃけ、スポーツビジネスの知識なんて30歳になってから学んでも遅くありません。ビジネスパーソンとしての基礎ができていれば、あっという間に体得できてしまうでしょう。むしろ、学生のうちに必要なのは、知識やスキルではなく、それを乗せる器を大きくすることだというのが、僕の持論です。器を大きくするには、常識を疑い、異質なものを取り込んでいく努力が不可欠です。

日本の教育は平均点的には高いレベルにあると思いますが、いまだに「正解がある」ことを前提に、「正解を探す」教育を行っています。大学受験など、その最たるものかもしれません。でも、大学を卒業して社会に出れば、「正解」のない世界に突入します。

大袈裟かもしれませんが、正解のない世界をサバイブする上で必要なのは、哲学なのかもしれません。特に、特定の宗教を持たない人が多く、空前の経済発展を遂げたがゆえに、幸福を体感することが難しくなってしまった今の日本には、人生を生きて行くことに対する自分なりの哲学、流儀、つまり、自分なりの幸福の尺度の確立が必要なんだと強く思います。

他人との比較で幸福を定義する生き方は、今の時代には合いません。もう正解を探し求める人生はやめませんか?

とまあ、こんなメッセージを散りばめながら学生と1週間過ごすわけです。面白いのは、1週間で学生の顔つきがみるみる変わって来るんですね。最初は観光気分から抜けきらなかった学生も、最終日の「成果共有会」では、大人も唸らせる名言を吐くようになります(笑)。

  • 「発想は情報からではなく、体験から生まれるんだということが分かりました」
  • 「夢はアメリカにあるのではなく、自分の中にあるんだということが分かりました。僕は日本で夢を実現するために、アメリカという国を使ってやろうと思います」
  • 「成功と失敗を分けるのは能力ではなく、気合いなんですね。一歩踏み出す勇気が、状況を変えることを学びました」
  • 「このツアーの成否は、今後の自分の行動次第だと思います。刺激を受けたことだけで満足してはいけないと思いました」

人生とは、自分なりのコンステレーション(Constellation)を探す作業だと思います。Constellationとは、「星座」を意味する英語ですが、ユング心理学ではこの言葉を「自分の人生の出来事がつながって、全体として意味あるストーリーが星座のように見えること」といったような象徴的な意味で用いるそうです。

僕もこうした考え方が好きです。スティーブ・ジョブスもスタンフォード大での有名なスピーチで同じような事を言ってますよね。

日本では“北斗七星”とか“オリオン座”とか有名な星座になることだけが是であり、成功とされる風潮がいまだに強くあると感じます。でも、星は夜空に無数にあります。晴れていても、曇っていても、雲の向こうで人知れず輝き続けています。

誰かが名付けた有名な星座をなぞっても、幸せにはなれるとは限りません。人生は、東大理IIIに入れば成功する、という単純なものではありません。

誰も気づかなかった星を探し、自分なりのコンステレーションを作ってもいいではないですか。誰も知らない自分なりの星座を胸に秘め、ひっそりと、でも確かに踏みしめながら生きて行く人生も、それはそれで幸せだと思います。

ニューヨークスポーツビジネス視察ツアー2015 from Trans Insight on Vimeo.

P.S. このツアーハイライトは、酒と剣をこよなく愛す“トランスインサイトの女侍”ことM嬢の力作です。Mさん、お疲れ!

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